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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第五章 学生最強決定戦
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第59話 問題行動


爵位を与えるという条件も断った。

皇帝の娘達を妻に貰うという条件も断った。

もう手は無いはずだ。

モルディオ帝国が俺にとってエマ以上のものを出せるなんてありえない話だ。


リオン皇帝が冷や汗をかいて焦っている。

そこまで、俺がモルディオに住むことに意味があるのか?

おそらく、爵位を用意すれば来てくれると思っていたのだろう。浅はかと言わざるを得ないな。


「き、き、き、貴様ァァァ!!!皇帝陛下に対してなんたる侮辱!!!皇帝陛下はご息女を大変愛しておられるのだぞ!!それを貴様に娶らせると言っているのだ!!私の息子は断られたのだぞ!!!それを!!」

「やめろ!リューク!」


もうリオン皇帝の声は校長に届いていないな。


「皇帝陛下がどれだけご息女を愛していようが、私にとってはエマに代わるものはないのです。どうかご理解を。それに、校長の息子さんが断られたのは当人に問題があるのでは?」

「貴様ァァァ!!!」


挑発したのがまずかったか。

あろうことかリュークは腰に挿していたロングソードを抜き、俺に肉薄してきた。


「リューク貴様!なにを!」


リュークのロングソードが俺の首を捉える。

しかし、


〔バキンッ!!〕


ロングソードは俺の首に当たり砕け散った。


「な…私の剣が…」

「はぁ…私の強化魔術は上級以上の剣士であれば、傷付けることが可能です。リューク校長、貴方はどうやら中級以下の剣士らしい」


そう言うと、リュークは顔を真っ赤にさせた。


「貴様!!今この私を侮辱したな!!」

「もうやめろ!!リューク!!いい加減にしろ!!」

「いいえ!やめません!!この童は、皇帝陛下の頼みも聞き入れず、私を侮辱しました!!」

「私の頼みを聞き入れないのも仕方がないだろう!それほど、エマ君を愛しているということだ!」


息を荒くしながらリオン皇帝がリュークを落ち着かせた。

リュークは少し落ち着きを取り戻し、こちらを見てニヤリと笑った。


「で、あれば、そこのエマという女を殺してしまえば、この小僧もモルディオに来るでしょう。そうすれば魔剣士計画も…」

「リューク貴様…なんてことを…!」


このデブ、今なんて言った…?

俺の中で何かがプツンと切れた。


「アレクサンダー君!!」


俺の殺気を察したヨハネスが俺を止めようと声をかけたが、もうそこに俺はいない。


〔ドガンッ!!〕

「ブヘェッ!!」


俺の動きに気付いたのはこの中でイグナスだけだった。


俺は一瞬でリュークに肉薄し、そのまま後ろの壁に叩き付けた。


〔ガンッ!〕

「ひぃ…!」


リュークの首の横に夜桜を突き刺した。


「誰を殺す…?もう一度言ってみろ…」


俺の全力の殺気がその場を満たす。

そこにいるイグナス以外の全員が顔を顰めた。


「ほら…言ってみろよ…その太ぇ首とばしてやるから」

「ひ、ひぃ…申し訳ございません…どうか命は…」


何言ってんだこいつ、エマを殺そうと考えた癖に、自分の命は助けろ…?


「アレクサンダー君!!やめたまえ!!イグナス!どうして止めなかった!!」


ヨハネスが叫び、イグナスを見た。


「えー、俺も反応できませんでしたー」


イグナスは両手を上げ、棒読みでそう言った。


俺の手に力が入り、夜桜の刃がリュークの首に少し触れる。


「ひ、ひぃ…!!どうか、お助けを…!」


俺は殺気をまだ抑えない。

エマを殺すと言ったこいつを許せるはずがない。


「アレクサンダー、それはモルディオ帝国に対する宣戦布告か?」


リオン皇帝がドスの効いた声で言ってきた。

俺は振り向き、皇帝を見て言った。


「宣戦布告…?それを言うなら先にしたのはそちらでしょう…国王もいる公の場で剣を抜き、刃を俺の首に当てた、そして、俺の命より大事な人を殺すと言った。これ以上の宣戦布告がありますか?皇帝」

「これは…1本取られたな」


リオン皇帝は頭を掻き、俯いた。


「ヒヒッ!!ばぁぁか!!!!」


リュークは立ち上がり俺の後ろからナイフを投げた。

しかし、それは俺に向いていない。


「どこ狙って…!?」


ナイフが横を通り過ぎる瞬間、その妖しい光を放つ刃に恐怖を感じた。この刃を俺は知っている。

ナイフはエマに向かって放たれた。

しかし、


〔キンッ!〕

「物騒な物を投げるな」

「なにっ…!?」


カルマが剣でナイフを弾き落とした。


俺の怒りは限界を超えた。

手に持つ夜桜をリュークの首めがけて振った。


〔ガキンッ!!〕


その間に入ったのはイグナスだった。


「馬鹿か!これ以上はやめろ!」

「どけ!」

「ミアレスでも言っただろ!お前はエマのことになると途端に短気だ!己を律せ!」

「俺はすこぶる冷静だ…!イグナス…あのナイフを見ろ!見覚えがあるだろ…!」


イグナスはナイフを注視する。


「これは…呪術!?」

「呪術は強化魔術を貫く。こいつは、本気でエマを殺す気だった…!モルディオの人間に殺されかけたのはこれで2度目だ!我慢できない…!」


イグナスと俺の鍔迫り合いになる。


「それでもダメだ!戦争する気か!?」

「戦争…?向こうがその気なら…望むと…!?」

〔バチンッ!!〕


俺の頬に強烈なビンタが炸裂する。

ソフィアだった。


「今なんて言おうとしましたか…!」

「ソフィア…」

「今なんて…!望むところ…?馬鹿な事を言わないでください!!」


ソフィアはポロポロと涙を流した。


「国と国の戦争は…多くの犠牲者が出ます…あなたの一時的な感情で、多くの人の命を奪う気ですか…!?その責任をあなたは取れますか!?」


大きな戦争となると、俺だけの問題ではなくなる。

それに参加する騎士や招集された兵士からは多くの犠牲者が出る…

ソフィアの言う通りだ。俺は馬鹿な事を言おうとした。


「アレクサンダー君、少し頭を冷やしなさい。」


真剣な顔でヨハネス国王に言われた。


「はい…申し訳ございませんでした。ソフィアもごめん…冷静じゃなかった…ありがとう」

「はい…」


俺の殺気は収まり、押し潰されるような空気は軽くなった。


「はっ!馬鹿が!!世の中を知らない小童が!!お前は皇帝陛下によって裁かれろ!!私を侮辱した罪は重いぞ!!」


このデブはまだ何か言っている。

事の発端は自分だということに気付いていないのか?

すると、リオン皇帝は立ち上がりリュークの元に行った。


「へ、陛下!どうかあやつを死刑に!許されざる罪です」

「……。許されざる者は貴様だ。リューク。」

「へ…?」

「私の目の前から消え失せろ。不愉快だ。」

「し、しかし!私は皇帝陛下の為を思って!」


そう言ってリュークは皇帝の足にしがみつく。

それを皇帝は蹴りではらった。


「貴様が想っているのは、己の利益と、私の娘達であろうが、たわけ」

「な、なぜ…!?」

「裏の話も全て、ラングから聞いている。貴様は娘を我が物にする為に裏で色々画策していたようだな。誘拐、奴隷堕とし、強姦未遂。私が気付かぬとでも思ったか?」


なるほど、皇帝もリュークの真っ黒な所に気付いていたのか、それを裁く機会を伺っていた。

だから、積極的に俺の行動を止めようとしなかったのか。

1本取られたな。


「シャルロッテが相談してきたぞ?冒険者学校で眠り薬を盛られ、貴様に襲われかけたとな。すぐに貴様を裁いても良かったが、貴様も校長の地位がある。しばらく泳がしておいたが…もう潮時だ。」


えげつないな、眠り薬を盛って襲うって…。


「ヨハネス、俺達が帰るまでこいつを地下牢に入れても良いか?」

「構わないよ、好きに使ってくれ」


2人がそう言うと、部屋に騎士が入ってきた。

そのままリュークを捕え、地下牢に連れて行った。


部屋には沈黙が訪れる。


「皇帝陛下、数々の無礼、申し訳ございませんでした。私の短気でこのような自体になってしまいました。どのような罰も受け入れます。」

「アレク…」


エマが泣きそうな顔でこっちを見ている。俺に言葉を掛けようとしたが、ソフィアに止められていた。


「罰など、あるはずがないだろう。今回のことは全てこちらに責任がある。リュークの所業は全て承知していた。裁く機会を伺っていたのだが、結果的にエマ君の命を危険に晒してしまった。申し訳ない」


そう言ってリオン皇帝は頭を下げた。

どうやら罰を受けなくて済むようだ。


「アレクサンダー君、君はなぜエマ君のことになるとそこまで気が短くなるんだい?普段の君は温厚な少年だ。あそこまで鬼気迫る姿は初めてみたよ」


なぜエマのことになると短気になるのか…

なぜ…わからない…

心から愛している、失いたくない。

それ以外になにかあった気がする。


「がっはっは!無粋なことを聞くな、ヨハネスよ!愛していれば短気になることもあろう!俺も妻に色目を使ったやつを何人あの世に送ったか!」

「そ、そうか…」


国王は苦笑いした。

どうやら皇帝は怒ってないみたいだ。

よかった。

すると、国王はこっちを見て言った。


「アレクサンダー君、君の今回の行動は問題だ。リオンの配慮が無ければ最悪戦争だ。それに、君は感情に任せ戦争を受け入れる発言をしようとした。ソフィアも言ったように、君にその覚悟があるのかい?」

「軽率でした、申し訳ありません。」

「冷静に物事を判断しなさい。君には期待しているんだ、常に最善と最悪を想定して立ち回りなさい」

「はい」


叱られてしまった…

大人の本気の説教は泣きたくなるな。

俺もまだまだ子供か。


「まぁ、君の問題は不問にしておくよ。その代わり二度とこういうことがないように。いいね?」

「はい、ありがとうございます」


俺達はソファに座り直した。


「ふぅ…さて、アレクサンダーはモルディオに来ないのか?」


その話に戻るんかい



第59話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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