第58話 学生最強の称号
〜イグナシア闘技場〜
今日は閉会式がある。
俺が死んでしまったことで、どうやら1日持ち越しになったらしい。生きているが。
俺とエマのぶつかり合いで粉々に吹っ飛んだ武舞台も1日で元通り、岩魔術のスペシャリストがいるようだ。
今大会の参加者全員、武舞台の上にいる。
閉会式だけだって言うのに、観客席は満員だ。
まさか、エキシビションマッチがあるとか言わないよな…
俺は一抹の不安を抱え、辺りを見回した。
そう言えば、モルディオのサンズってやつがみあたらないな。
振られたショックで帰ったか?
「なぁエマ、モルディオのサンズってやつが見当たらない…」
「やめて」
「え?」
エマが食い気味に否定してきた。その顔からは怒りが見える。
なにか悪いことをしたのだろうか。
「あいつは死んだよ」
「死んだ?ああ…なるほどね」
エマの手が震えている。昨日のことを思い出したのだろう。
呪術を使用した本人は例外なく死ぬ。
つまり、俺に呪術を使ったのはサンズってことになるな。
しかし、剣士であるサンズがどうして闇魔術の1種である呪術を使えたのか…なぞだ。
すると、武舞台にホグマンが上がった。
『只今より閉会式を行う』
ホグマンが拡声魔術で言った。
会場からは拍手が上がる。
『皆、死力を尽くしよく戦ってくれた。若き力は確実に育ってきていると言えよう。そんな中から勝ち上がり、力を示した者達を表彰しよう』
ホグマンがそう言うと、後ろの出入口から国王ヨハネス・イグナシアが出てきた。
観客席からは歓声があがる。
さすが人望厚き王だな。
『入賞者への表彰は、国王陛下自ら行いたいと仰せつかった。光栄な事であることを自覚し、名を呼ばれた者は前へ出よ』
入賞者?優勝者だけが賞品を貰えるわけじゃないのか?
開会式の話を何も聞いてなかったからわからん。
「何位まで呼ばれるんだ?」
エマにコソッと聞いた。
「開会式聞いてなかったの…?準決勝まで残った人が呼ばれるよ。私達4人だけど」
「賞金は?」
「準優勝の私と、優勝のアレクだけ」
「そうか…ってそれじゃ飯奢らなくていいだろ」
「べー」
エマは舌を出してきた。
なんだよ、それなら美味い飯奢らなくていいじゃん。
騙された…
『まずは、同率第3位。カルマ、ソフィア・イグナシア。前へ』
国王の手から銅メダルが2人の首に掛けられる。
「よく頑張ったね!ハイレベルな試合を見せてもらったよ!もし、2人が違う時代に生まれていたら、優勝は君達だっただろう。これからも励むように!」
「「はい!」」
2人は国王から言葉が贈られていた。
違う時代に生まれていたらか。
確かに、今年のレベルは異常だと常々言われている。
この2人がいるから俺も頑張れるんだけどな。
カルマとソフィアは1歩後ろに下がる。
『準優勝、エマ。前へ』
エマが前に出ると大きな歓声が上がる。
「エマ君は相変わらず大人気だね!君の秘めたるその力はいつか必ずこの国を、そして、アレクサンダー君を救うだろう。……これからもソフィアと良き親友でいてくれ」
「はい!もちろんです!」
国王の手で銀メダルが掛けられる。
ソフィアのことはボソッと言ってたな。
ソフィアにも聞こえていたようで国王を睨んでいる。
エマは1歩後ろに下がった。
『今回の学生最強決定戦。学生最強の称号を手にした優勝者、アレクサンダー。前へ』
割れんばかりの大歓声が上がる。
俺は前に出て、国王の前に行く。
「さすがだ。アレクサンダー君!個人的な事を言わせてもらうと、君が優勝することは目に見えていたよ。君のその強さは、きっと何かを守るためのものなんだろうね。」
そう言って国王はチラッとエマを見た。
「何かを守る、守りたいという想いは人をどこまでも成長させる。いいかい?大いなる力には大いなる責任が宿る。君のその力は、この先ずっと何かを守るためであってくれ」
「はい、誓って」
「あ、あと…ソフィアを嫁に…」
「お父様!」
それより先の言葉はソフィアが遮った。
「は、ははっ…じょ、冗談だよ…いや、君とソフィアの関係性はしっかり聞いてるよ。これからは良き親友であってくれ」
「は、はい」
この国王の顔はワンチャンない?って感じの顔だな。
「それじゃ!気を取り直して、おめでとう!」
「ありがとうございます」
国王の手で金メダルが掛けられる。
『賞金と賞品の授与を行う、エマ、前へ』
俺の横にエマが並んだ。
国王の後ろには金貨が入った麻袋1つと1枚の紙を持った騎士が1人と金貨が入った麻袋1つを持った騎士が並んでいた。
「準決勝のエマ君には5万Gだ!」
国王は後ろの騎士から麻袋を1つ手に取り、エマに渡した。
「好きな物に使っても良し!結婚資金に当てても良しだ!」
「け、結婚資金!?は、はい!」
国王の言葉にエマが顔を真っ赤にしてキョドっている。
国王もエマをからかうのが楽しいようだ。
その気持ちはよくわかる。
「優勝のアレクサンダー君には10万Gだ!」
そう言って騎士からもう1つの麻袋を手に取り、俺に渡した。
「何に使うんだい?」
「そうですね…エマとの結婚資金にしましょう」
「ははっ!さすがアレクサンダー君だ!!」
「もう…」
国王は上機嫌に笑った。
俺の返しが気に入ってくれたようだ。愉快な人だな。
「それと、君にはもう1つ」
後ろの騎士から1枚の紙を手に取り、俺に渡した。
「ここには、所有可能な土地が記されている。好きな場所を選ぶといいよ!土地も割とすぐ売れてしまうから、気に入った場所があれば直ぐにホグマンに報せてくれ」
「はい、エマとゆっくり相談します」
「それがいいね!」
国王は満面の笑みで下がっていった。
『最後に、準決勝に残った上位4名、ソフィア、カルマ、エマ、アレクサンダーをA級中位へ昇格となる。彼らは凄まじい力を示してくれた、当然の昇格だろう。異論がある者は?』
会場からは大歓声が上がる。
武舞台に居る選手達も拍手してくれている。
十分力を見せれたようだ。
俺達はA級中位になった。
『これにて、学生最強決定戦の全日程を終了する』
会場の拍手に包まれ俺達は武舞台を降りた。
「A級中位だって!」
「この間A級上がったばっかだろ」
「早く上がるに越したことはないな」
「そうですね!」
A級中位か、あと2つ上がればS級だ。
確か、A級からS級に上がる時には昇格試験があるんだっけか。
そんなことを話しながら闘技場を後にしようとした。
「アレクサンダー君」
ホグマンが俺を呼び止めた。
「ホグマン会長、どうされました?」
何の用だろうか、まさか、エキシビションマッチ…?
「君に来客だ」
「来客?どなたでしょう?」
「モルディオ帝国現皇帝リオン・モルディオ皇帝陛下だ」
もっとめんどくさいことが待っていた…。
「あの…俺だけですか…?」
「呼ばれたのは君だけだが、パーティーメンバーを連れて来てもいいと仰っていたぞ」
「そ、そうですか。エマ、カルマ、ソフィア…行くよな?」
俺は引き攣った笑顔を向けて半ば強制的に言った。
「「「う、うん…いくよ…」」」
みんなついてきてくれるようだ。良い仲間を持ったな。
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