第56話 初めての夜
良い匂いがする…
〔グゥー〕
お腹が鳴った。
俺は薄ら目を開ける。
そこは、寮の自分の部屋だった。
部屋には料理の良い匂いが充満している。
顔を少し傾けるとキッチンでエマが料理していた。
なんだこのデジャブ…
確か、キメラと出会って倒れた時もこんな感じだったっけ。
「エマ?」
「あ、起きた?」
エマは料理をしながら俺と話している。
「良い匂い、腹減ったよ」
「すごいお腹鳴ってたね〜」
「聞こえてたのかよ…」
体は…動かないな。
アリアの魔力を使って動かない体を無理やり動かしたんだ、当然か。
「どれくらい寝てた?」
「倒れたのが昼前だから、8時間くらいかな」
「そうか」
気付いたら1週間後なんてことはなくて良かった。
「料理してたらお腹空かせて起きるかもって思ってたら案の定だね」
「そりゃ、何も食ってないから」
「そうだね、できたよ!」
エマが料理を運んできた。
俺は自力で起き上がれないので、エマに支えてもらった。
まだ、介護されるには早い…
「はい、お粥。お母さんのスープを改良してみたんだー、失った血も戻るよ」
「ありがと」
腕も動かない、自然とあーんになる。
しかし、俺の口からお粥が零れ落ちる。
「まだ、しっかり飲み込めないみたいだね。だからお粥にしたんだけどなぁ」
どうやら呪術の後遺症で飲み込む力が衰退しているようだ。
「なんか、ごめんな」
「謝らないで」
そう言ってエマは俺の上に乗る形で向かい合ってきた。
「エ、エマ…?」
「これなら、食べれるでしょ…」
エマはお粥を口に含み、何回か噛んだ後、俺の口にそのまま移した。
口移しってやつだ…
自然と大人なキスの形になる。
「ど、どう…?」
「ああ…すごく美味しいよ」
もう、正直味はわからない。間接的に大人なキスをしたことが頭の中を支配する。
すると、エマはもう一口、口に含んだ。
「ん」
「あ、ああ…」
もう一口食べた。
それを何度か繰り返す。
まだお粥は残っているのに、エマは机に皿を置いた。
そして、エマは俺を押し倒した。
「エ、エマ…ダメだぞ?」
「わかってる」
そう言いながらをエマは俺の服を脱がし始めた。
「おい…」
「大丈夫…この前みたいに暴走してる訳じゃないよ」
そう言い俺の上着を全て脱がした。
エマは立ち上がり、自分の服を全て脱いだ。
一糸まとわぬ姿に、思わず見とれた。
引き締まったウエストに、少し大きめの胸。
神がかったスタイルを維持している。
俺の好みどストライクだ…
「み、見すぎ…」
「ごめん…!」
俺は思わず顔を逸らした。
エマは俺の上に馬乗りになり、俺のズボンを掴んだ。
「エマ…!ミシアさんとの約束は…?」
「…こんなにして説得力ないよ?」
「うっ…」
俺の息子はやる気満々だった。
どうやらエマは本気のようだ。
「どうせアレクは動けないんだから…」
そう言ってエマは俺の服を全て脱がした。
「エマ…」
「大丈夫…エルフの血筋は子供できずらいから…」
「でも…」
エマは目を瞑り、深呼吸した。
「いいの…私が襲った…アレクは悪くないよ」
「…わかった…」
俺はその言葉に甘え、エマを受け入れた。
ミシアとの約束は破ってしまったが。
エマの様子を見ていればわかる。
俺は今日1度死んだ…エマの目の前で…
エマの顔に出ている、不安だと…繋がりがほしいと…
これでエマの不安が取り除けるのであれば…
ミシアには悪いが、今回だけ、許して欲しい。
今日、俺はエマと、初めての夜を過ごした。
◇◇◇
〜翌朝〜
ちょっと体がだる重い…
横を見ると裸のエマが寝ている。
俺も、もちろん裸だ。
「やってしまった…」
やってしまったが、嫌な気分な訳がない。
その時は甘美な一時で幸せに満ち溢れていた。
ただ…お互いタガが外れた様に求め合いまくった。
我慢していた分が爆発したのだ。
まぁ、大体エマに俺の体を蹂躙されたんだが…
エマは見た目によらず中々に性欲が強いようだ。
わかっていたけど。
「ん…アレク…?」
「おはよ、エマ」
エマはお互いの格好を見て顔を赤くした。
「体、大丈夫か?昨日は激しめだったが」
「は、激しめ!?あ…うん、腰が少し痛いけど、大丈夫だよ」
「そうか、よかった」
「アレクは体は大丈夫?動けるようになった?」
「ああ、もうすっかり治ったよ」
「よかった…」
エマは安堵し、上体を起こす。
布団で隠してはいるがチラリと見えてしまった。
昨日散々見たが、それでも、俺の息子は元気になってしまう。
「ア、アレクは…朝から元気だね…」
エマにもバレてしまった。
「仕方ないだろ、それだけエマが魅力的ってことだ」
「もう…」
そう言うとエマは俺にキスをしてきた。
我慢の限界だ…
「エマ…昨日は、エマの好きなだけやってたな…俺が動けないのをいい事に…」
「アレク…?」
「俺は今すこぶる元気だ…覚悟しろよ…?」
「え?…きゃっ…」
俺はエマを押し倒した。
その後、俺がエマの体を蹂躙したのは言うまでもない。
◇◇◇
「もう…アレク、今回きりだからね」
「わかってるよ」
「本当に?私まだ冒険者辞めたくないよ」
「わかってるって」
「もう成人までしないよ?」
「わかってるって!!」
どれだけ念押してくるんだ。
「自分が先に襲ってきた癖に…」
俺がボソッと言うとエマは一気に顔を赤くした。
「それを言わないで…」
エマは真っ赤な顔に両手を当てて項垂れている。
自分から襲ったのが思い出したら恥ずかしいのだろう。
俺達はいつもの格好に着替え、部屋を出る。
「今日は閉会式か?」
「うん、下位デーモンの出現は一部の人しか知らないよ。観客の人達には武舞台の修理のためって言ってある」
「そうか、なんか迷惑かけたな」
「仕方ないよ、悪いのは全部パンドラだから」
エマの目には怒りが見える。
「俺達はなんで狙われるんだろうな」
「わかんないよ、でも、もう死なせないから」
「ああ、俺もエマを守るよ」
俺達は改めて心に誓った。
「聞きそびれたけど、アレクが蘇生した時のアリアの魔力はなんだったの?」
そう言えばまだ説明してなかったか。
俺は1から事の顛末を伝えた。
「そうなんだ…アリアが蘇生魔術を…私達の死を予言して」
「ああ、蘇生魔術は俺が使ったから、エマは俺が守るしかなかったんだ」
「だから、あの時飛んでくる針がわかったんだね」
「そゆこと」
しばらくエマが考えた後、ジト目でこっちを見てきた。
「な、なんだよ…」
「その精神世界ではアリアと2人っきりだったんでしょ?イチャイチャしたんだ」
「え!?い、いや…別に…」
アリアとのキスが頭をよぎる。
「顔に出てるよー、なにしたの?」
ジト目で見てくるが怒っている訳じゃ無さそうだ。
どうせ俺は隠し事をできない…
「キ、キス…した…」
怒られる…
「まぁ、そんぐらいしてるだろうね」
「怒らないのか?」
「なんで?アリアはアレクのこと大好きだし」
「ソフィアが怒るんじゃないか…?簡単に譲るなって…」
エマとソフィアの戦いの会話を思い出す。
「あれはそう言う意味じゃないよ。アレクはソフィアを愛せないでしょ?でも、アリアのことは愛せるって自分で言ってたじゃん」
そういうことだったのか。
「エマはいいのか?」
「少し嫉妬するけど、アリアが心から愛しているし、アレクも愛しているなら、いいんじゃない?純愛だと思うよ」
「そ、そうか…」
判断基準がよくわからんな。
「アリアはもういない…俺が愛せるのはエマだけだ、他の女にうつつを抜かしたりしないよ」
「ありがと!」
エマは嬉しそうに俺の腕に手を回してきた。
そう言えば、精神世界でのアリアは少し寂しげな顔をしていたな。
それに、最後言っていた言葉が聞き取れなかったのが悔やまれる。
「アレク!体は大丈夫なのか?」
「アレクさん…大丈夫ですか…?」
向かう途中、ソフィアとカルマが合流した。
「ああ、もう何ともないよ。心配かけたな」
「よかったです…」
「色々あったが優勝おめでとう、アレク」
そう言えばそうだったな。
俺は学生王者決定戦で優勝したんだった。
「うぅ、思い出したら悔しくなってきた…」
「正直危なかったよ、俺の剣術が完全に封じられてた」
「でも、あんな属性武装があるって聞いてないよ!」
凪のことか。
「まぁ、気が向いたら教えるよ」
「気が向かなくても教えてよ!」
「エマに殴られまくったからなぁ…「まだまだ!」とか言ってノリノリだったし」
「なんでそんな意地悪言うの…」
エマが頬を膨らまし拗ねてしまった。
「ごめんって、今日の賞金で美味いご飯奢るから」
「ほんと!?やったー!」
相変わらずちょろいな。
他愛もない会話をしながら、俺達は闘技場に向かった。
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