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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第五章 学生最強決定戦
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第55話 アレクの死

 

 場は混乱していた。なにが起こったのかわからない。そういう状況だ。


「ねぇ!アレク!しっかりして!」


 エマはアレクの体を揺する。返事はない。


「ねぇ…どうしたの…?そうだ…治癒魔術…」

『エクストラ・ヒール』


 エマはアレクに治癒魔術をかけた。しかし、何も起こらない。


「どうして!なんで…」


 カルマとソフィアは目の前の出来事についていけず、慌てている。


「これは…呪術…!」


 イグナスはアレクに手渡された針を見て言った。


「呪術…?」

「ああ、闇魔術の一種で禁術とされている。効果は強大で、呪った相手に絶大なダメージを与える。そして、使用した本人も死ぬ」

「ダメージ…アレクはどうなるの…?」


 エマが泣きそうな目でイグナスを見る。


「状態が悪すぎる…このままじゃ…解呪師を呼ばなければ…」

「解呪師は…?」

「イグナシアには…いない」


 イグナスのその言葉は、アレクの死を意味していた。


「嫌だ!嫌だ嫌だ!!解呪の仕方を教えて!私ならできるかもしれないから!」

「解呪の仕方は…明かされていない…」

「なんで…嫌だよ…お願いアレク…目を覚まして…」


 エマは泣き崩れ、鼓動が弱まり続けるアレクの身体に被さった。


「誰がこんなことを…」


 イグナスがそう呟くと後ろから声が聞こえた。


「ブホ…ブホホ…!そやつは死にましたかな!?」


 モルディオ帝国のサンズだった。


「サンズ!?どうしておまえが!」


 イグナスがサンズを問いただす。


「どうして!?それはですね!ブホ!パンドラという組織のマイズ殿がある提案をしてきまして!」

「パンドラ…提案だと…?」

「私の血を滲ませたその針をそやつに刺すと、なんと!洗脳の魔術を教えてくださるという話です!ブホ…ブホホ…」


 その言葉を聞きその場の全員が顔を顰める。


「洗脳…?」

「そうです!私はソフィアさんのお美しいお顔とお体が他の男にまさぐられると考えると強い憤りを感じます!なので!!私はソフィアさんを洗脳し、我が物とすべく…ブホホ…ブヘ…ブホ…」


 ソフィアは強い怒りに心を支配された。今まで生きてきて、ここまで人を殺したいと思ったことはないほどに。


「そうでした!マイズ殿から伝言です!『こんな公の場で力を使いきるのは不用心じゃないですか?』だそうです!ブホホ!まぁ、もう死んでますがね!ブホホホ!!」


「おまえがぁぁ!!!」


 エマがサンズに飛びかかろうとした。


「やめろ!エマ!」


 それをイグナスが止めた。


「どうして!こいつはアレクを!」

「大丈夫だ。ほっといても死ぬ」


 呪術を使った代償は使用者の命だ。


「ブベェ…!グッ…ぐるじい…だずげで…」


 サンズは急に悶え苦しみ出した。


「どうして…マイズ殿…」


 サンズはその場に倒れ、死んだ。それを横目にエマはアレクの元に戻った。


「アレク…」


 エマはアレクに寄り添い、抱きかかえた。血で濡れた顔を袖で拭った。


「お願いアレク…目を覚まして…アレクがいなきゃ…私…」


 エマはアレクの胸に手を置いた。心臓はもう、停まっていた。


「うぅ…ぅぁ…アレク…アレク…ダメ…」

「アレク…さん…」

「…」


 ソフィアは両手を顔に当て泣き崩れた。カルマは現状を理解することができず、ただ立ち尽くしている。

 エマはまだ暖かいアレクの体を抱きかかえ、泣き続けた。


 ◇◇◇


 〜???〜


 俺は真っ白な空間に立っていた。

 見覚えがある。マイズと初めて会った所に似ているが…ここはなんだか暖かく気持ちがいい。


「アレク」


 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。

 知っている声だ…もう一度その声を聞きたいと何度も思った声。


「ア…リア…?」

「そうだよ!久しぶりね!」

「アリア!!!」


 俺は後ろにいたアリアに駆け寄り抱きついた。


「わわっ…アレク、積極的だね…」

「アリア…」

「どうしたの?そんなに会いたかった?」

「会いたいに決まってるだろ!会いたいに…決まって…!」


 俺はアリアを抱き、号泣していた。


「うん…私も会いたかったよ…」


 アリアは俺が落ち着くように背中をさすってくれた。

 次第に落ち着き、現状を冷静に考える。なんでアリアが…


「そうか…俺は死んだのか…」


 アリアが目の前にいるのが何よりの証拠だ。


「え?まだ死んでないよ?」

「え?」


 アリアはあっけらかんとした感じで俺に言ってきた。まだ死んでない?


「正確に言うと死につつはあるけど、死なないよ。大丈夫」

「死につつあるんじゃないか…じゃ、なんでアリアが居るんだよ」

「せっかちだなぁ、ま、そういう所も大好きなんだけどね」


 そう言ってアリアは俺の頬にキスをした。


「お、おい…」

「嫌?」

「嫌じゃないけど」

「そうだよねぇ、エマ以外で愛せるのは私だけなんでしょ?」


 アリアはニヤニヤしながら言ってきた。


「全部聞いてるのかよ…」

「ふふっ、まぁ、話を聞いてよ」


 そう言って真剣な顔でアリアは話し出した。


「ここは、アレクの精神世界だよ。私はアレクの中にある私の魔力の、意識の残穢ってとこかな」

「アリアの魔力?」

「うん!私、死ぬ前にアレクとエマに私の魔力を忍ばせて置いたの。魔力が消滅しないように保護してね。その魔力に宿る意識の残穢が私。まぁ、私であることは変わりはないよ?」


 なんだか頭がこんがらがってきたな…。


「私が魔力を忍ばせた理由、それは、蘇生魔術を発動させるため」


 蘇生魔術…そんなものがあるのか。


「蘇生魔術は私のオリジナルだよ。一生に1回しか使えない魔術。蘇生魔術を作る素材は、"予言"と"莫大な魔力"」

「予言…だからアリアしか使えないのか」

「そゆこと。私はアレクとエマの死ぬ瞬間を予言して、死んだタイミングで蘇生が発動するようにしたの」


 それが今なのか。


「発動条件は蘇生魔術を受けた2人が半径2m以内に居ること。いつもベタベタしてる2人なら問題ないよねぇー」


 アリアは頬を膨らましながら言った。


「重要なのはここから。よく聞いて?予言ではこの後すぐにエマが死ぬ」


 今、なんて…?エマが…


「エマが…?」

「うん…アレクの死でその場にいる全員が傷心している。叔父様も含めて。そこに漬け込んで、マイズはアレクと同じ呪術をエマにかけるわ」

「呪術…確か闇魔術の一種で禁術…でも使用した本人も死ぬんじゃなかったか?」

「うん、マイズは実行を指示するだけ。実際、手を下すのは下位デーモン」


 なるほど、自分にリスクは無いのか。


「エマが死んでも俺みたいに蘇生するじゃないのか?」


 アリアは俺とエマにかけたと言っていた。しかし、アリアは首を横に振った。


「蘇生魔術は2人で1つの大魔術なの…どちらかが死に蘇生が発動したら、その蘇生の効力は2人とも失う…」

「じゃあ、どうすれば!」

「精神世界での時間は現実の時間に作用しない。今現実世界は停まっている状況なの。アレクが蘇生するまでね。蘇生魔術は理から外れた魔術…予言をひっくり返すことが出来るの、アレクの蘇生がいい例ね」


 俺が蘇生したら動き出し、マイズの魔の手が伸びるということか。


「だから、この状況を知るアレクが助けるの」

「俺はもうボロボロだぞ…動くかどうかもわからない…」

「大丈夫!私がついてるわ!」

「アリアが?」


 精神的なことか?


「そう!蘇生に使う魔力の余分があるの、それを使って!」

「なるほど、それで体を強化して動かせる」

「だから、お願いね。エマを守って…?」


 泣きそうな顔でアリアがこちらを見る。


「当たり前だ」

「うん!」


 すると、アリアの体が淡い光で包まれだした。


「アリア!?」

「言ったじゃん、私は意識の残穢…蘇生の魔力を使い終わったら私も消えるわ…」

「…」

「ふふっ、そんな顔しないでよぉ。笑って?」

「ああ…必ずエマを助ける」

「意識が戻ったばかりは記憶が混濁して、ここの事を一時的に思い出せないかもしれない。でも、アレクなら大丈夫、きっとできる」


 そう言うとアリアは美しい笑顔を魅せた。


「ねぇ…アレク…」

「どうした?」

「最後にワガママ言っていい…?」

「いいぞ」

「キスして…唇に…」


 俺はシザスに言った言葉を思い出した。エマ以外に愛せるとしたら…。


「ダメ…?」


 アリアが潤んだ目でこちらを見る。


「ダメじゃないよ」


 俺はアリアにキスをした。


「ふふっ、キスっていい物ね!ありがと、アレク!」


 顔を赤くしたアリアが言ってきた。


「俺もありがとうアリア。いつも救われてばかりだ」

「気にしないで、エマによろしく言っといてね?」

「おう」


 俺の体が消え始める。


「時間だね!頼むよ!」

「任せとけ」


 アリアとの別れは寂しいな。


「大丈夫…もうすぐ会えるよ…」

「え?」


 アリアが何か言ったが聞き取れなかった。俺の意識は現実へと戻った。


「はぁ…私もアリアのままでアレクと恋をしたかったなぁ…」


 残されたアリアは呟く。


「アレクの中にいて、全てを知ったわ。あなたが忘れてしまった記憶も全部…。あなたが何者なのかもわかった…。どこから来て、何をしていたのかも…でもね、アレクの全てを知っても、私はあなたを心から愛してる…」


 アリアは寂しそうな顔ででアレクを想う。


「アレクとエマが出会ったのはやっぱり運命だったんだね…」


 アリアは目を瞑り、アレクの記憶の1部を思い出す。


『また、私を見つけてね…?アレクサンダー…』


「アレク…あなたには厳しい困難が何度も立ち塞がってくる…でも、忘れないでね…"今の"あなたにはたくさんの仲間がいるから…」


 そう言い残し、アリアは光になって消えた。


 ◇◇◇


 アレクの上でエマは泣き続けている。


「アレク…」


 アレクの体をエマは揺する。瞬間、アレクとエマの体から聖属性の光が溢れ始めた。


「な、なに…?これ…」


 エマは困惑するが、その魔力の正体に気付いた。


「アリア…?」


 アレクとエマを眩い光が包み込み、収まった。


「え?なんだったの…?」


 エマは困惑する。

 俺の意思が現実に戻る。しかし、まだ覚醒できない。

 俺は何をすべきだったのか…夢の中でアリアが何を言っていた…思い出せ…思い出せ…。自分のすべき事を…思い出せ…!


『エマを守って…』


 アリアの言葉が俺の頭に響く。そうだ、エマは殺させない…!


 俺の体に力が漲る。アリアの魔力が俺を強化する。

 影で何かがニヤリと笑った。


「エマ…下がって…」

「え…?」


 困惑するエマを押しのけ、飛んできた針を夜桜で叩き斬った。


「アレ…ク…?生きて…?」

「ああ、話は後だ」


 そう言って俺は針が飛んで来た方向へ走った。


「なぜ、生きて…」


 影に隠れていた下位デーモンを一刀両断した。


「下位デーモン!?…くそ…気配に気付かなかった…放心していたのか…」


 イグナスが悔しそうにしている。他の3人は唖然としている。そりゃそうか、ついさっき死んだ男が急に生き返ったんだから。


「アレク…?生きてるの…?」


 エマが恐る恐る近付く。


「ああ、生きてるよ…」

「さっき、アリアの魔力がね…」

「知ってる、アリアに助けられたんだ」


 エマは俺に抱きつき大号泣だ。


「アレクが…!死んじゃって…!嫌だよ…お願い…死なないで…」

「大丈夫、俺は生きてるから…」

「うん…」


 エマを抱きしめる。

 しかし、俺の体を限界がきている。


「ぐっ…もう…限界だ…」

「アレク…?」


 俺はそのままエマにもたれ掛かるように気を失った。


「どうしよう…アレクが…」


 エマは俺の胸に耳を当てる。元気な心臓の音を聞き、安心したようだ。


 ありがとう…アリア。


 下位デーモンが現れたことで、大会の閉会式は後日に持ち越された。


第55話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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