第52話 ソフィアの本音
「ソフィアってアレクのこと好きだよね」
ソフィアの部屋に遊びに来ていたエマが唐突にそう言った。
「え、え!?いや、どうしたんですか急に…」
ソフィアは目を泳がせ、アタフタしている。
「正直に言って」
いつにないエマの真剣な表情にソフィアは態度を改めた。
「そうですね。好きです」
「やっぱりね」
「ですが、私はアレクさんと恋仲になろうとは思っていませんよ?」
「え?どうして?」
ソフィアの思わぬ返答にエマが驚く。
「アレクさんにはもう既にエマさんが居ますから。私の立ち入る隙はありません」
「そんなことないよ。アレクにちゃんと好きって伝えれば、鈍感なアレクでもちゃんと見てくれるはず…」
イグナシアでは認められた者にのみ一夫多妻制が許されている。
未成年であるアレク達はまだ認められてはいないが、アレクは確実に認められる程、有用な人物であった、
「エマさん、アレクさんも言っていたではありませんか。エマさん以外に愛せるのはアリアさんだけだと」
「それは…そうだけど…」
ソフィアは淡々と自分の考えを述べる。
「私のアレクさんへの想いはどうやら、憧れの方が強いみたいです」
「どうして?」
「レディアで、お2人が恋人になったと聞いた時、心の底から喜んでしまいました。おめでたいと。嫉妬するでもなく、悔しがるでもなく。ただ2人が結ばれて嬉しかった」
自分の想いを語るソフィアの顔は嘘をついているような、エマに遠慮しているような顔ではなく、本心を語っている顔だった。
「アリアさんはお2人が仲良くしている所を見て嫉妬していたって言ってましたよね?おそらくそういう所でしょう」
「そっか…ソフィアは平気なの?」
「平気ですよ?お2人が仲睦まじくしている所を見るとこちらまで暖かい気持ちになります」
ソフィアは自分の気持ちを語り、エマを見る。
「エマさん、無理しないで下さい。エマさんもアレクさんと一緒で顔に出やすいですよ?」
そう言いソフィアはクスッと笑った。
「アレクさんを独り占めしたいって顔に書いてますよ?」
「うぇ!?もう!ソフィアの事を思って言ったのに!」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、それは気にしなくて大丈夫ですよ」
そう言いソフィアはエマの手を握った。
「明日の試合、お互いの気持ちをさらけ出しましょう!そうすればスッキリするはずです」
「うん、わかった…」
エマは自室に戻った。
「はぁ、エマさんに変な気を使わせてしまったみたいですね。私も顔に出やすいのでしょうか…」
そんな事を考えながら、明日の試合に備えた。
◇◇◇
~翌日、イグナシア闘技場~
『さぁやって参りました!!学生最強決定戦!!準決勝!!!!』
会場は沸き立っている。
『今回の準決勝に残った4名は!?ソフィア選手!エマ選手!カルマ選手!アレクサンダー選手の4名です!!!なんとなんと、この4人は!!アレクサンダー選手がリーダーのパーティーのメンバーです!!』
会場がどよめきたつ。
『圧倒的力を持つこのパーティーで!そして、この3ヶ国の学生で!!最強は誰なのでしょうか!!それでは!!準決勝!第1試合!ソフィア選手VSエマ選手!!準備お願いします!!!』
実況者の合図を聞き、エマとソフィアが武舞台へ向かう。
「どっちも頑張れよ」
「見ものだな」
俺とカルマは声援を送り、2人は武舞台に上がった。
「エマさん、昨日の話は覚えてますね?」
「うん!大丈夫だよ…!」
エマとソフィアは互いに戦闘態勢に入る。
『それでは!!はじめ!!!』
戦いの合図が響き渡った。
2人は一斉に飛び出し、肉薄した。
「私はアレクさんに一目惚れでした!こんなかっこよくて強い人がいるんだって!」
「私はもっと昔からアレクが凄い人だって知ってたもん!」
エマの篭手はソフィアの剣を受け止め、硬直状態になる。
「アピールしようとしたんです!でも!常にエマさんが隣にいました!」
「し、仕方ないじゃん!アレクの隣に居るために冒険者になったんだから!」
2人は一旦下がり、体勢を立て直す。
「上級火魔術『ヘル・フレア』」
エマの魔術がソフィアを襲う。
しかし、ソフィアは難なく躱し、エマに再度肉薄する。
「アレクさんもアレクさんです!人目もはばからずイチャイチャして!」
「そ、それはアレクに言ってよ!」
エマはソフィアの足元に爆裂魔術を放った。
「ぐっ…」
ソフィアに爆裂魔術が当たり、後退する。その隙をエマは逃さない。
「上級風魔術『エア・バースト』」
「ぐあぁっ…!」
風魔術がソフィアに直撃する。ダメージは相当だ、しかし、ソフィアは立ち上がる。
「私は、アレクさんを愛しています…でも…アレクさんの目に私は異性として映らない…そこにあるのは…友情だけなんです…」
「ソフィア…」
「彼が愛せるのはエマさんとアリアさんだけ…その言葉に私は強い意志を感じました…だから!!」
ソフィアは一気にエマに肉薄する。エマもその気迫と力強さに押されている。
「私は!!戦友として!!彼の隣で戦うことを決めたんです!!だから!!あの人に愛してもらえる貴女が!!あの人の意志を蔑ろにしないで!!!」
「虎剣流『猛虎』!!」
「ぐあっ…!!」
ソフィアの斬撃はエマを捉えた。
エマの体から血が流れる。
「私はソフィアの為を思って!!」
「それが余計なお世話だと言ってるの!!嫉妬する癖に!!苦しそうな顔する癖に!!」
エマとソフィアは同時に走り出し、肉薄した。ソフィアのその目には薄ら涙が見える。
「私は!!親友である貴女に!!辛い思いをさせてまで!あの人と一緒にいたい訳じゃない!!貴女がすべきことはなに!?」
「アレクをずっと…愛し続けること…!!」
「そう!そして、ずっと自分を愛し続けてほしいなら!!苦しい思いをしてまで!人に譲るような事をしないで!!」
「虎剣流『虎頭断頭』!!」
ソフィアの会心の一撃がエマを襲う。
しかし、
「わかった…私が間違ってた…アレクは誰にも渡さない…!!」
エマはソフィアの一撃を受け止め、弾き返した。
ソフィアは弾き飛ばされ、後退する。
「超級聖魔術『ホーリー・オーバーレイ』」
エマの超級魔術がソフィアに直撃した。
「はぁ…はぁ…」
ソフィアは動くことが出来なかった。
『勝者!!エマ選手!!!!』
超高レベルな戦いを目の当たりにし、会場は大歓声で湧き上がる。
エマは倒れたソフィアの元に寄った。
「エマさん…もし、貴女がアレクさんを不幸にするような事があれば…私は、アレクさんを奪いに行きますからね…」
「うん…!そんなことは絶対にないから…!」
武舞台の治癒魔法陣が発動しる。2人の怪我は治り、ソフィアは立ち上がった。
「さぁ…戻りましょう!」
「うん!」
お互い本音をぶつけ合い、憑き物が取れたように笑顔で武舞台を降りた。
◇◇◇
「すごい試合だったな」
「そ、そうだな…」
「アレク、ソフィアの気持ち、分かってやれよ」
「ああ、わかってる」
カルマが俺に言ってきた。2人の会話は出入口で見ていた俺達には丸聞こえだ。
「ただいま!」
「おかえり…」
エマは俺に抱きついてきた。
「怪我は大丈夫か?」
「うん!あの魔法陣すごいね!すぐ治っちゃった!」
エマは良い笑顔をしている。
「あの、アレクさん…。聞こえてましたよね…」
「あ、ああ…」
気まずい空気が流れる。
「ソフィア」
「は、はい…」
「これからもよろしく頼む、戦友として。俺達の隣で戦ってくれ」
「はい!!」
ソフィアも良い笑顔をしている。これでよかったのかな。その答えは今のソフィアとエマの顔に出ている。
これからも上手くやっていけそうだ。
「アレク、女たらしは程々にね?」
「そうですね。自重してください」
「え!?俺のせい!?」
「天然たらしってやつだな」
「カルマまで…」
俺は別にたらしてなんかないのに。酷いなぁ…この先上手くやっていけるのか?
「アレク、俺達も全力を尽くそう。」
「当たり前だ」
次の試合は、俺対カルマだ。正直、勝てるかどうか怪しいな。全力を尽くす、ただそれだけだ。
俺とカルマは武舞台に向かった。
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