第49話 学生最強決定戦
「それでは、お世話になりました」
「また来てね!カルマのことよろしくね」
パメラと軽く挨拶を交わし、馬車に乗り込んだ。
「それじゃ、また帰ってくるよ、ファナ」
「うん…私も王都に会いに行くから…」
「無理はするなよ」
カルマとファナも別れを済ましたようだ。
「ファナ!!また会いに来るから!!元気でね!」
「お元気で!!」
エマとソフィアも挨拶を済まして馬車に乗り込む。タカハシ村では久々にのんびりすることがらできた。
こういう日があっても悪くないな。
俺達はタカハシ村を後にした。
◇◇◇
2日後、俺達は険しい山道を超え、王都へと帰還した。早朝に到着したため、そのまま学校に登校した。
「おー?おかえりーおつかれー、帰ってきたのかー」
教室に居たのはイグナスだった。
一番最初にイグナスがいるのは珍しいな。
「ただいま、イグナス先生がこんな早くいるって珍しいな」
「あー、色々あるんだよ。みんな揃ったら説明してやるよー」
そう言って手元にある資料をトントンと整えた。
「んで、タナカ迷宮の異常ってなんだったんだー?」
「下らないことだったよ」
そう言ってタナカ迷宮でのことを説明した。
「へー、ホントくだらねーな」
「そういや、タカハシ村周辺にザンゲって山賊が居たから壊滅さしといたぞ」
「まじかよ、Sランク指定の山賊じゃねーか」
ザンゲがS?そんな強くなかったが。
「ザンゲ自体は大したことないが、その組織その物がSランクってとこだー。あいつらは仲間を犠牲に逃げてはまた組織を作りの繰り返しだったんだよ。全員倒したのか?」
「ああ、1人残らず」
「そうかー、さすがだなー」
そんな厄介なやつらだったのか。トカゲの尻尾切りみたいな感じか。
そんな話をしているとクラス全員登校してきた。
「はーい、全員揃ったってことで、皆さんにお知らせでーす」
イグナスが教師っぽく言っている。お知らせ?
「今年もあれが開催されまーす」
「あれ?」
「題して『チキチキ!最強を決めろ!学生最強決定戦!!』いぇーい」
「「「「学生最強決定戦??」」」」
今年も?俺達は去年そんなのやってないが。
「この大会はなぁ、冒険者協会が選んだ学生冒険者だけが出場する大会だー」
「なるほど、去年は選ばれてなかったのか」
「入学して3ヶ月じゃ、実績もクソもないだろ」
俺の言葉にイグナスが突っ込んだ。
「まーあれだ、今年はこのクラスにも出場資格がある者がいるからなぁー。発表するぞー」
イグナスはこのクラスの出場者を発表し始めた。
「まずはー、
【ソフィア・イグナシア】A級下位、剣士
虎剣流、超級、(超越級の壁)
【カルマ】A級下位、剣士
鷹剣流、超級、(超越級の壁)
【エマ】A級下位、魔術師
風魔術と聖魔術が超越級、その他属性超級
【アレクサンダー】A級下位、魔剣士
火魔術と聖魔術が超越級、その他属性超級
4流派全て超級
ってとこだなー」
「え!?アレクサンダーとエマ超越級なの!?」
エイダが聞いてきた。
「ん?ああ、なんか使えるようになってたな」
「なんか使えるって…」
エイダが肩を落としてしまった。エイダは現在、岩魔術を超級まで上げているらしい。十分すごいと思うが。
「ん?この大会はこの学校だけなのか?」
学生王者だったよな、冒険者学校があるのはイグナシアだけじゃないはずだ。
「もちろんイグナシア周辺の2ヶ国が参加するぞー」
「周辺の2ヶ国?」
「おー、ミアレスとモルディオだなー」
モルディオ帝国か。
特に剣士の育成に力を入れている国だ。魔剣士の育成をしているなんて噂を聞いたことがあるが、世に出てないということは、まぁ上手くいってないんだろ。
イグナスが俺を見て魔剣士を初めて見たって言うぐらいだからな。
「この学校の他の参加者は?」
「1年はもちろん0、2年はおまえら4人、3年は0人、4年は1人、5年は2人だ」
「先輩方は少ないんだな」
俺達は4人もいるのに、3年に至っては0だ。
「あのなぁ、異常なのはおまえらだ。2年でA級以上にあがるなんざお前らが初めてだ」
「この学校で1番冒険者ランクが高いのは?」
「5年のキリルでA級中位だ。ちなみに、5年の2人と4年の1人はA級だ」
なるほど、1番上でもA級中位なのか。この学校で総勢7人か中々に多いな。
「じゃー、色々説明するぞー」
【学生最強決定戦】
イグナシア、ミアレス、モルディオの3ヶ国の学生冒険者から、学生の中の最強を決める大会だ。参加条件は冒険者協会から選ばれた者のみ。
トーナメントを行い王者を決める。場所はイグナシア王国。
「総勢何人になるんだ?」
「あー、確かミアレスからは4人、モルディオからは5人だな」
「少ないんだな」
「あのなぁ、本来この大会は4か5年生から選ばれることが殆どだ、それが2年生から4人も選ばれるなんざ前代未聞だ」
確かにA級以上の実力者は大体4年生以上だ。冒険者協会からの選出ってことはホグマンが選んだんだろう。
「その大会はいつからあるんだ?」
「ん?4日後だ」
「4日後…」
俺達がクエストから帰ってなかったらどうしてたんだ…
「もう各国の代表選手は王都に来てるぞぉ、開催前日には前夜祭があるから正装で参加しろよぉー」
大事なことをいきなり、適当すぎるだろ。
「はーい、話は終わりー。代表者は期間中授業免除だぞ。好きにしろよー」
授業免除はありがたい。さっそく、鍛錬だな。
「イグナス先生、他の参加者の情報ってわからないのか?」
「他の選手の情報は開示できないぞー、残念だったなー」
「えー!それじゃ私達ミアレスの人達には知られてるじゃん!」
それもそうだ。ミアレスでは英雄扱い、俺は魔剣士でエマは強力な魔術師というのがバレている。
「それはあちこちで有名になった自分を恨むんだなー、自分の力で現状を打破してみせろ。それだけの力がお前らにはある」
「はーい」
気のない返事をして、俺達は訓練場に向かった。
「イグナス先生っていつもいきなりだよねー」
「あの人はそーゆー人だろ」
俺とエマは互いに魔術を撃ち合いながら鍛錬をしている。互いの防御魔術を高めていく鍛錬だ。
「どんな強い人がいるんだろうね!」
「ああ、楽しみだ」
まだ見ぬ強敵に思いを馳せ、3日が経った。
◇◇◇
今日は前夜祭だ。
イグナスには正装で来るようにと言われたのでしっかりスーツを着て来ている。
上下黒のスーツに白の手袋だ。念の為、腰には夜桜を挿している。
人生で初めての正装だ、基本的にはいつもの冒険者の格好だからな。
ソフィアとカルマは現地で落ち合う予定だ。俺とエマは寮から一緒に前夜祭会場に向かう。
「おまたせー、えへへ…どうかな…?こういうの初めて着る…」
「あ…」
言葉が出ない。美しすぎるからだ。
灰色の髪はウェーブを掛け、チラリと見える尖った耳が可愛らしさを魅せる。その整った顔をより一層引き立てる。
エマは黒色のドレスに身を包んでいる。
少し開いた胸元から見える谷間がぐっとくる。これは誰にも見せられないな。
黒のチョイスは俺の髪の色をイメージしたらしい。そこに居るのは、正に天使。いや女神だ。
「な、なにか言ってよ…」
「いや…綺麗すぎて…見とれてしまった」
「もう…早く行こ!」
エマは俺の腕に手を回し、2人で前夜祭会場に向かう。
寮から会場まで少し離れている為街を歩くことになる。
街ゆく人が俺達を目で追う。なんとも言えない気恥しさだ…
時間も中々迫っているため、少し足を早めた。
◇◇◇
俺達は前夜祭会場に着いた。どうやら俺達が最後のようだ。会場がザワつく。
「おい…あいつらが…」
「忘却の魔剣士と暴嵐の魔術師…」
ジロジロと見られる。腕を組んでるから目立つな。どうやらカップルは俺とエマだけなようだ。
「すごい見られるね…」
「気にするな」
俺達は適当な場所を取り、開催を待った。
しばらくして、舞台にホグマンが立った。
「ミアレスの方々、モルディオの方々。遥々お越しいただき感謝する。ささやかな宴の機会を設けた、是非とも楽しんでくれ」
ホグマンの適当な挨拶が終わり、前夜祭が始まった。いわゆる、ビュッフェ形式の立食パーティーってやつだ。
特にすることもないから、俺とエマは部屋の端で取ってきた料理を食べていた。
「人が多いと疲れるね…」
「そうだな、飯が上手いのが救いだな」
「アレク、エマ、目立ってるな」
俺とエマが話していると、カルマがやってきた。
「目立ってる?」
「ああ、美男美女が腕組んで会場に入れば目立つな。それに、パーティー始まってからもずっとくっついてるからな」
「そんなことでか?」
「それもあるが、やっぱり忘却の魔剣士の名前は周辺国家では有名なようだぞ」
確かに、俺を見る目線は戦意がこもったものが多い。みんなやる気満々だ。
中には殺意を感じる。俺を殺したくなるほど憎んでるやつがいるってことか。
「目立ってるなら、ちょうどいい機会だ」
そう言って俺はエマの頬にキスをして、見ている人達にドヤ顔を向けた。場がドヨッとなる。
「ア、アレク…?なにしてるの?」
「みんなが見てるんだ、この女は俺のだぞって警告しただけだよ」
「さすがアレクだな」
「恥ずかしい…」
カルマは胸を張り、エマは顔を赤くして俯いた。
「そう言えばソフィアは?」
「あ、ああ…ソフィアは、向こうにいる」
そう言ってカルマが指をさした。その方向は男達の人だかりができていた。
「な、なんだあれは…」
「みんなソフィアにアピールしているんだと」
「なるほどな…まぁ、あの美貌で彼氏無しだからな」
「ソフィアモテモテだね…」
どうやらあの男共はソフィアを彼女にしたいらしい。イグナシアの第3王女、超級剣士、容姿端麗。
正にパーフェクトだ。そんな事を思っていると、ソフィアが俺の目線に気付いた。
「ア、アレクさん!あの!どうにかできませんか!」
「お、おい…俺に言うなよ…」
すると、ソフィアを囲っていた男達の目線が一斉にこっちを見た。
「あ、あの野郎…まさか、暴嵐の魔術師だけじゃなく、ソフィアさんも…?くそっ…うらや…いや、節操の無いやつだ」
「なんて、うらや…けしからんやつだ」
殺意と羨望が入り交じった目を向けられる。ソフィアとはそんな関係じゃないのに。
すると、ソフィアがなんとか包囲網を脱し、俺の横に来た。
「あ、ありがとうございます…」
「いい迷惑だ」
「すみません…」
しかし、この男共はそのくらいじゃ諦めなかった。ゾロゾロと俺達の前に来た。
「ソフィアさん!その男にはもう女がおります!どうか私とお考えを!」
「ソフィアさん!私もです!」
「ソフィアさん!」
うわぁ…凄いなこいつら。必死だ。おそらく成人前で、焦っているのだろう。可哀想なやつらだ。
「で、では!こうしましょう!」
そう言いソフィアは前を見た。
「私は恋人を作る気はありません!それでも、引き下がることが出来ないというのならば!明日の大会で私に勝利した方と関係をお考えします!私は私より弱い方とお付き合いする気はございません!」
ソフィアはそう言い放った。そして、男達の目にはメラメラと炎が宿る。
やる気満々だ。
各々の野望を胸に、学生最強決定戦が始まる。
第49話ご閲覧いただきありがとうございます!
次話をお楽しみに!




