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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第四章 冒険者学校 その2
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第44話 黒刀:夜桜

 

 テオからの依頼を終わらしてから、3ヶ月が経った。


 俺が無理をしないためのイグナスの監視の目を伺いながら、適度にクエストをこなしていた。


 A級下位からランクは上がっていない。


 中層のクエストを終わらすついでにSランクモンスターを狩ったりしている。討伐賞金は貰えないが、良い鍛錬になる。

 そんなことをしていると、A級なのにSランクを狩る変態みたいな目で見られるようになってしまった。


 〜冒険者学校〜


「なにボーッとしてるの?」


 唐突に話しかけてきたのはエマだ。


「暇だなーって鍛練しようにも先生の目があるし」

「でも、そのお陰で最近体が軽いんでしょ?」

「まぁね、適度に息抜きは必要ってわかったよ」


 体の調子も良いから多少無理をしても良い気がするけどな


「多少無理しても良いとか思ってるでしょ」

「…俺って顔に出やすい?」

「すごく」

「そうか」


 今日も協会に行ってクエストを受けよう。そう思い立ち上がると教室の扉が空いた。


「おー、アレクサンダー、ホグマン会長がパーティーを呼んでるぞー」

「はーい」


 ホグマンからの呼び出し。これは面倒事の前触れだ。どうしたものか…


「エマ、行こう」

「うん!」


 俺とエマは訓練場にいるカルマとソフィアを呼び、ホグマンの元に向かった。


 〜冒険者協会〜


「君達に指名クエストだ」


 やっぱり、まぁ、大体ホグマンからの呼び出しは指名クエストなんだが。

 どうやら俺達はコスパがいいらしい。A級下位を雇うのは安く済み、不測の事態があっても対処可能のS級並の力をもった冒険者。それが俺達だ。


「今回はなんですか?」


 さて、どんな面倒事だ。


「兼ねてより君達が希望していた、タカハシ村でのクエストだ」

「タカハシ村ってことは」

「ああ、俺の故郷だな」


 カルマの故郷

 クエストついでにカルマの剣を新調する為に、タカハシ村のクエストを探していた。

 俺とカルマの剣は特殊で刀という武器を模して造られたものらしい。その製造方法を知るのは、カルマの故郷にいる鍛冶師だけなのだ。


「クエスト内容は?」

「【特異エリア:タナカ迷宮で大量発生したモンスターの討伐】だ」


 特異エリア、タナカ迷宮か。迷宮は初めて行くな。


「大量発生ですか…それは俺達の手に負えますか?緊急クエストにしたほうが…」

「大量発生っと言ったが、通常2〜3体ほどしか居ないAランクモンスターが10体ほどまで増えただけだ、それなら君達だけでも対処可能だろう」


 Aランク10体て。いや、できるけども。このおっさんは俺達の事をなんだと思っているんだろうか。

 まぁ、タカハシ村に行きたいと言った手前断ることはできないな。


「分かりました。そのクエストお受けします」

「このクエストに期限はない、自分達のペースでこなしてくれ。よろしく頼むぞ」


 ホグマンから一通り説明を聞き、冒険者協会を後にした。


「久々の帰郷だな、カルマ」

「ああ、楽しみだ」

「私はカルマさんの恋人さんに会うのが楽しみですよ」

「私も!たぶん人見知りしちゃうけど…」


 エマが人に会うのが楽しみって言うのは珍しいな。タカハシ村に行けば黒剣について聞ける。

 そうすれば、俺の記憶が戻るヒントになるかもしれない。



 〜翌日〜


 午前の授業を終わらせ、街門で馬車を待つ。


「おまえらってあんま学校にいないよなー」

「仕方ないだろ、長期の依頼が来るんだから」


 イグナスが見送りに来ている。レディアに行ってたのは3ヶ月前か、そんなに休んでないはずだが。


「イグナス先生は私達がいなくてさみしいんだよ」

「なるほどな、寂しいのか」

「寂しくねーよ!さっさと行ってこい!」


 ツンデレイグナスだな。


「アレクサンダー」

「ん?」

「無理はするなよ、お前の体はお前だけの物じゃない。無事を祈ってる人もいるんだ、逃げることは恥じゃない。いいな?」

「ああ、わかってる」


 真面目な話をする時のイグナスは説得力がある。まるで、自分も経験してきたような、そんな感じだ。

 いつもこうならいいのに。


 逃げることは恥じゃないか…。逃げることが許されない場面もあるんだ、そうはいかない。


 俺達は馬車に乗り込み、タカハシ村に向かった。


 ◇◇◇


「タカハシ村までどんくらいなんだ?」

「2日あればつくぞ」

「結構近いんだな」

「レディアが遠いだけだと思うが」


 2日あればつくのか。今回の旅はあっという間だな。


 2日後俺達はタカハシ村に着いた。


 ◇◇◇


 〜タカハシ村〜


 着いた時間は夕方ぐらいだった。


「ここがタカハシ村か、普通の村だな」

「そりゃ普通だろ、なんだと思ってたんだ」

「カルマが育った所だから、仙人みたいな人ばかりかと思ってた!」

「どんなイメージだよ…」


 俺達はタカハシ村に到着した。長閑な村だ。

 レディアやスアレのような石造りの建物ではなく、木を中心とした建物が多い。見た感じ人口は少なく、村の規模は小さい。


「カルマ、先に鍛冶屋で剣の製造を頼もう。早い方が良いだろ?」

「そうだな、まずは鍛冶屋に行くか」


 確か、カルマの恋人ファナの実家だったよな。俺達は鍛冶屋に向かった。


「ここだ」


 そう言い中に入っていった。


「ガツさん、カルマです」

「おお!カルマ!帰ってきたか!ファナならお前の家にいるぞ!」


 元気なじいさんだな。作業服を着たてっぺんハゲの老人。ガツって言ってたな。


「いえ、剣の製造を依頼したくて。この刀と同じ物をミスリルで作れますか?」

「ミスリルを手に入れてきたか!問題ないぞ!丸一日かかるがいいか?」

「はい、問題ありません」


 ガツは後ろの俺達を見た。


「お前さん達がカルマの仲間か!口下手なやつだがこれからも仲良くしてやってくれ!」

「もちろんです。いつも頼りにしてます」

「そうか!それじゃ!俺は早速、製造に当たるぞ!また明日こい!」


 そう言って奥へ行ってしまった。嵐のような人だ。刀のことを聞く時間もなかった。


「忙しくてすまない」

「いいさ、はやくカルマの家に行こう」

「ああ、案内するよ、小さいが我慢してくれ」


 そう言うとカルマは村の奥に向かって歩き出した。村を歩いていると村人達がカルマに声をかけている。


「帰ってきたのか!おかえり!」

「ファナがまってるぞー!」


 村ではカルマは期待の星らしい。冒険者として名を馳せるのをみんな心待ちにしているようだ。

 しばらく歩くとカルマの家に着いた。大きさ的にはエマの実家とそう変わらない。

 カルマが扉をノックした。


「はーい」


 中からは女性の声が聞こえる。


「どちら…あらカルマじゃない!帰ってきたの?」


 出てきたのはカルマによく似た茶髪の女性、瞳は黄色だ。

 なるほど、この人が魔族なのか。見た目は本当に人間と変わらないな。


「おかえり!クエストで帰ってきたの?後ろは話してたお友達かな?」


 カルマの母はこちらに目を向けた。


「初めまして、アレクサンダーです。パーティーリーダーをやってます」

「エ、エマです…」

「ソフィア・イグナシアです!」

「あなた達がカルマが言っていた子達ね!」

「家上がって大丈夫か?」

「いいよ!居間まで案内してあげて!」


 エマはしっかり人見知りしているな。カルマの家系は代々剣士なのだろうか、壁には剣が飾ってある。


 俺達は居間にある椅子に腰をかけた。すると、奥からドタドタ足音が聞こえる。


「カルマ!!帰ってきたの!?おかえり!」


 そう叫びながらカルマに抱きついた。


 肩口まで伸びた髪は赤みがかった茶髪だ。優しそうな目をしている女性は紅色の魔力石が付いたペンダントを首にかけている。


「ただいま、ファナ」


 カルマの恋人だ。あのペンダントは前に俺が一緒に選んだ物だ。大事にしているようでなにより。


「ファナ、友達が来てるんだ。お茶を出してくれないか」

「え!?あ、ごめんなさい!」


 そう言って慌ててキッチンに向かった。


「騒がしくて悪いな」

「あの子がファナか、いい子そうだな」

「ああ、俺の自慢の彼女だ」

「来てそうそう惚気られました…」

「…」


 ソフィアはカルマとファナのラブラブ加減に若干引き気味だ。エマは初めての友達の家でガッチガチに緊張している。


「いらっしゃい、カルマがいつもお世話になってるね。私はパメラ。カルマの母よ、よろしくね」


 カルマの母パメラが居間に入ってきて、椅子に腰をかけた。若いな、確か魔族もエルフ並の寿命って言ってたな。


「あなたがアレクサンダー君ね!カルマがよく話してた、剣術も魔術もできるすごいやつだって」

「そんなこと話さなくていい」

「ふふっ、照れちゃって。…あら?黄色い瞳」


 そう言ってパメラは俺の目を覗き込んできた。


「魔族…?いや、あなたもカルマと同じハーフみたいね」

「わかるんですか?」

「ええ、なんとなくだけど。でも、黒髪なんて珍しいわね…魔族でも黒髪はいないわ」

「そうなんですか、俺の黒髪は人族譲りか…」

「人族でも、黒髪は見たことありませんよ?」


 ソフィアが顎に手を当てながら言ってきた。人族でも見たことない…俺の黒髪は一体なんなのだろうか。すると、キッチンからファナがお茶を持ってきた。


「おまたせ〜」


 人数分のお茶を机に置き、カルマの隣に座った。


「初めまして!ファナです!」


 元気の良い女の子だ。俺達は順番に自己紹介した。


「うわぁ…美男美女パーティーなんだね。すごいや」

「そうか?俺は違うだろ」

「確かにアレクサンダー君の方がカッコイイね」

「そうだな…」


 ファナは正直な人なんだろうな、恋人であろうが正直な感想を言ってる…。カルマは目に見えて肩を落としてしまった。

 だが、なぜかファナはさっきからうずうずしている。カルマとイチャイチャしたいのだろうか。


「ね、ねぇ、カルマ…いいかな?」

「ん?ああ、色々話聞くといいよ、大丈夫か?アレク」

「え?俺?…ああ、そうだな、これが見たいんだろ?」


 そう言って俺は腰から黒剣を抜いて机の上に置いた。


「おぉ…!これが…カルマから聞いた黒剣…!」

「カルマ、晩ご飯の準備するから部屋でお話できる?」

「わかった。部屋に案内するよ」


 俺達はカルマの部屋に向かった。


 ファナは俺の黒剣を我が物のように抱えてまじまじと見ている。


「これ…使ってる金属ってなんだろ…アレクサンダー君の魔力の残穢があってわからないや…」

「見るだけで使ってる金属がわかるのか?あと、アレクでいいよ」

「うん!家では色んな鉱石を見てきてるから、塗装したぐらいだと見極めれるよ!」


 鍛冶師として申し分ない能力だな。


「この漆黒は、塗装じゃなて魔力が染み込んだ色みたい…金属の色が変わるほど今まで魔力を込めてきたんだね」


 俺が記憶を失う前から黒かったってことは、誰かが使ってたのを貰い受けたのかな?


「それに…なんで…?」

「どうした?」


 困惑しているファナをカルマが心配していた。


「この刀の打ち方…私の打ち方にそっくり…」

「ファナの打ち方に?」

「うん…正確に言えば、私の完全な上位互換って感じ…」


 ファナの完全な上位互換…


「ガツさんとかじゃないのか?」

「ううん、おじいちゃんの打ち方と私の打ち方は違うの。私は魔剣を作るための打ち方だから…。この黒剣は私が目指す完成系そのものだよ」


 ファナが目指す完成系そのものか。謎は深まるばかりだ。


「未来の私が打ったものだったりして!」


 ファナは笑いながらそんな冗談を言った。未来のファナか


「そんな訳…な…い。そんな…わけ…!?ぐっ…!」


 急に激しい頭痛が襲ってきた。


「え?アレク?ど、どうしよう、カルマ…なにかしちゃったかな…?」

「アレク!!どうした!しっかりしろ!」


 焦るファナの声とカルマの声が聞こえる。冷や汗が大量に流れる。頭痛は痛みを増す。


「ぐぅぅ…頭が…割れる…」

「アレク!これって…キメラの時の…!しっかりして!」

「アレクさん!」


 エマとソフィアの声も段々遠くなってくる。


 頭痛の痛みは増し、俺の目の前には知らない光景が浮かんだ。


 ◆◆◆


『アレク!この剣使いな!私の最高傑作だ!』


 この女の人は誰だ…。


『おい、___。まだアレクには早い』


 この男の人は誰だ…。この光景、俺はまだ子供だ…3歳ほどだろうか…。

 ここは、どこかタカハシ村に似ている。だが、タカハシ村より発展しているみたいだ…


『いいじゃないか!大きくなったら使ってくれ!』

『はぁ…アレク、大事にするんだぞ』


 そう言い男が俺の頭を撫でる。この人から貰ったのか…。この人は誰だ…。


『いいかいアレク!この剣の名前は『黒刀:夜桜』。この剣はアレクの魔術を吸収して強くなるぞ!最高の剣を作ってくれ!』

『そんなこと言ったって、アレクにはわかんねーよ』


 黒刀夜桜…黒剣の…本当の名前……。


 ◆◆◆


「……ク…ァレク…アレク!」


 エマの声が頭に響く。


「エマ…」

「アレク…大丈夫…?」

「ああ…うぅ…」


 まだ頭がガンガンする。前見た時は精神負荷に耐えられず、気絶したが。今回は大丈夫そうだ。


「だ、大丈夫…?私なにかしたかな…」

「いや…ファナのせいじゃない…」


 ファナも心配そうに見ていた。隣にいたカルマが口を開く。


「一体どうしたんだ?あんなアレクは初めて見た」

「私もです…」


 確か、キメラと遭遇した時になったっけな。隠しても仕方ない。説明したほうがいいな。


 俺はキメラに遭遇した時の事を話した。


「なるほど、激しい頭痛と共に、見たことない情景が浮かんだと」

「未来が見えるってこと?」

「今回は何が見えたんだ?」


 今回見た光景を思い浮かべながら、ゆっくり話した。


「今回は未来じゃないと思う。俺は子供だった…齢3歳位か」

「3歳…アレクが記憶を失ったのは6歳だから、記憶が少し戻ったのかな…」

「どうだろうな、戻ったって言うには曖昧な所が多すぎる。」


 全てにモヤがかかったような光景だった。


「そこに居たのは、鍛冶師の女性と知らない男性。子供の俺に鍛冶師の女性は贈物だと、この剣を渡したんだ。男性は俺にはまだ早いって言ってたが、女性が説得して、貰ったんだ。男性は大事にするんだぞって俺の頭を撫でていた…」

「その口ぶりからすると…アレクさんのお父様でしょうか…」


 誰なのかわからない、ただ暖かい感情とよくわからない寂しさがそこにはあった。


「父親…なのか?わからないんだ…顔も…思い出も…」

「アレク…」


 俺の背中をエマはさすってくれている。


「鍛冶師の女性が言っていた。この剣は魔力を吸収して強くなるって」

「魔力を吸収…たぶん、魔力の残穢のことだね。それを吸収して、この剣は漆黒になったんだ」

「おそらくな…」


 わかったことはもうひとつあった。


「この黒剣の本当の名前がわかった」

「本当の名前?」


「ああ、『黒刀:夜桜』これがこの黒刀の名前だ」


第44話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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