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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第四章 冒険者学校 その2
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第43話 アルカナムからの依頼

 

 夕方になり、俺達はアルカナム武具店に来ている。俺とエマは篭手を受け取りに、カルマとソフィアは暇だからついてきたようだ。


「お待たせしました」


 テオの姉、テナが2つの箱を持ってきた。箱にはアルカナム武具店のロゴが入っている。


「1度ご試着してみて、なにか不具合があるようでしたら、お申し付けください」


 俺とエマは箱から篭手を取り出した。見た目によらず軽い。さすがミスリルだ。分厚すぎず、薄すぎない、黒色に塗装された篭手だ。

 エマの篭手の甲には翠の魔力石が、俺の篭手の甲には紅の魔力石が嵌めてある。

 俺とエマはその篭手を両手に嵌めてみた。


「おお、すごいな」

「魔力の質が上がったのがわかるね」


 これなら、魔術のサポートは完璧にできるな。


「バッチリです。ありがとうございました」

「またのご利用お待ちしております」


 俺は篭手を魔導袋にしまった。エマは嬉しいようでしばらく付けておくらしい。


「あの…皆さんは今から時間は大丈夫でしょうか…」


 テナが聞いてきた。深刻な顔だ、なにかあったのだろうか。


「テオが、皆さんが店に来たら応接室に通してくれと言っていまして…」

「大丈夫ですよ、俺達は暇なので」

「それはよかったです!どうぞ奥へ!」


 店の端の扉から、応接室に向かった。


「テオを呼んできますね。少々お待ちください」


 そう言ってテナは部屋から出ていった。テオからの呼び出しってのは初めてだな。よっぽどの事だろうか。

 俺達はソファに腰をかけて待っていた。しばらくすると、


「みんな、急に申し訳ない」


 青髪の高身長な青年、テオが入ってきた。


「問題ないよ、イグナスから謹慎くらってるからな」

「ははっ、今日だけだろ?」

「1日でも退屈なんだ」


 そうかと言い俺達の前に座った。


「それで、どうしたんだ?テオのお姉さんが深刻そうな顔してたが」

「ああ、アレクサンダーのパーティーにクエストを依頼をしたいんだ」

「俺達に?」

「このクエストは極秘でな、親父から最も信頼出来るパーティーを連れてきてくれって言われてるんだ」


 極秘のクエストか。表立っては言えないこと…


「俺達は暗殺は請け負ってないぞ!?」

「ち、ちがうよ…」

「アレク、真面目に聞いて」

「ごめんなさい」


 俺の渾身のギャグが通用しなかった。テオはクエストの詳しい内容を話し始めた。


「スアレの周辺にはアルカナムが所有する鉱山があるんだ」

「有名な話だ。場所も知ってるぞ」

「ああ、それは知られても良い鉱山だからだ。だが、絶対に知られたくない鉱山に高ランクのモンスターが出現したんだ。アレクサンダー達にはそいつの討伐をお願いしたい。」


 誰にも知られたくない鉱山か。盗掘を防ぐための処置だろう。そこまでしているってことは余程貴重な鉱石が取れるんだろうな。


「テオのパーティーじゃダメなのか?」


 テオのパーティーは現在C級だ、ある程度のモンスターであれば討伐できる。


「モンスターはSランクだ。それに、ルーカスとセオドアはちょっと口が軽い…」

「は、ははっ…確かにそんな感じだな」

「俺が心の底から信頼でき、それでいて強いパーティーはお前達くらいなんだ」


 テオはそんなに俺達のことを信用してくれているのか。嬉しい話だ。


「俺達がうっかり喋るかもよ?」

「ははっ、そんなことはないだろう。お前達の活躍を見ていれば信用に足るかどうかなんてすぐにわかる。良い人間には人がよく集まる。お前達はそんな人間だ」


 やっぱりテオはよく人を見ているな、ルーカス達には勿体ないくらいだ。

 俺は横にいる3人を見た。3人とも頷いている。


「そのクエスト引き受ける。急を要する案件だろう、明日の授業が終わってすぐに出発しよう」

「ありがとう」


 テオと握手を交わした。


「出現したモンスターを聞いていいか?」

「オーアタートルだ」


 鉱山所有者からしたら天敵だな。俺達は準備をする為に各自寮に戻った。


 ◇◇◇


 〜翌日〜


 俺は教室の机で突っ伏していた。


 今日はしっかり起きられた。午前の授業は寝ていれば終わる。オーアタートルの攻略でも考えるか。


 オーアタートル:Sランク

 名の通り甲羅の表面を鉱石で覆った亀型のモンスターで、体長は4m程ある大きなモンスターだ。

 鉱山によく出現するモンスターで、鉱山の鉱石を餌に生きている。鉱山を所有する者達からしたら天敵とも言えるモンスターだ。


「どうしたものか……zZ」

「アレクサンダー!寝てんじゃねぇ!」


 イグナスの怒号が飛んできた。気付いたら午前の授業は終わっていた。


「さぁ、行くぞ」


 テオを含めた5人は鉱山へ出発した。


 ◇◇◇


「わかっているとは思うが、この鉱脈のことは他言無用だ」

「ああ、大丈夫だ。安心してくれ」


 テオに念を押され、その鉱脈に着いた。


「うわぁ!色んな鉱石!綺麗!」


 目の前には色とりどりの鉱石の小山があった。エマは嬉しそうにその小山に近づいた。


「エマ、それがオーアタートルだ」

「え!?うわっ!」


 鉱石の小山が動き出した。ゴゴゴという音を立てながら、地面からは亀の体が姿を現した。


「デカイな」

「この鉱石って使えるのでしょうか?」


 カルマとソフィアに焦りはない。Sランクに初めて対峙するテオは身構えている。


「テオ、案内ありがとう。あとは任せてくれ」

「あ、ああ…俺が居たらかえって邪魔だな」


 そう言いながらテオは後方へ下がって行った。


「この亀には魔術は効きにくい、物理でゴリ押すのが1番楽だ」

「じゃ、これだね」


 そう言ってエマは強化魔術を施した。格闘魔術だ。新品の篭手に力が集中する。


「硬い甲羅の部分は俺達で削る、カルマとソフィアは比較的柔らかい足と顔を攻撃してくれ」

「「了解」」


 オーアタートルの甲羅は全身を硬くする魔術がかかっている。甲羅を砕かなければ、柔らかい部分でも攻撃が通りずらくなる。


 俺も強化魔術を施し、エマと飛び出した。俺達は跳躍し、甲羅の側面の位置に来た。

 足場が無いため、降りる度に跳躍しなければいけないのは中々面倒だ。


「「せーーの!!!」」


「おらぁ!!」「えい!!」

 〔バコーン!!!!〕


 とてつもない衝撃がオーアタートルの甲羅に直撃した。甲羅の表面の鉱石が砕け散る。


「「えぇ…」」


 ソフィアとカルマがドン引きしていた。正直俺もエマもドン引きだ。


「篭手をつけるだけで、こんなに」

「すごいね!でも、慣れないと上手く戦えない」


 思わぬ出力に困惑しながら、上手く調整していく。しかし、


「…!!離れろ!!」


 俺の掛け声で全員離れた。オーアタートルは激しくスピンし、鉱石の破片が飛んでくる。


「痛っ…強化魔術を貫いた…Sランクは厄介だな」

「うぅ…痛い…」


 甲羅に近かった俺とエマの体には無数の破片が刺さった。だが、中級治癒魔術で十分間に合う。


「再生してるな…」


 厄介なことに甲羅の鉱石は少しづつ再生している。一気に砕かないとダメだな。


「エマ!一気に砕くぞ!

「うん!思いっきりだね!」


 俺達はもう一度跳躍し、甲羅の側面にきた。


「「せーの!!」」


 〔ドガーン!!!〕


 一撃目よりも更に強い衝撃が甲羅を襲う。


『グギァァァア!!!』


 オーアタートルが吠えた。

 甲羅は砕け散って、魔力が漏れている。


「カルマ!ソフィア!首を落とせ!」


「鷹剣流『鷹登剣嵐』」

「虎剣流『虎頭断頭』」


「ぐっ…硬ぇ…」

「斬り落としきれない…」


 左右から同時に斬った2人の刃はオーアタートルの首の3分の1の場所で止まり、落としきれなかった。


 オーアタートルは足をばたつかせ、地面に潜り始める。地面に逃げる気だ。


「逃がさないよ!!」


 エマが地面を思いっきり殴った。地面は大きくヒビ割れ、オーアタートルは堪らず地上に出てきた。


「「もう一度!!」」


「鷹剣流『鷹登剣嵐』!」

「虎剣流『虎頭断頭』!」


 硬化の魔術が解かれた首は、一撃目よりも柔らかくなっていた。

 2人の斬撃はオーアタートルの首を斬り落とした。


「ふぅ…中々に強かったな」

「剣が折れてしまうかと思いました」


 カルマとソフィアは一息つき、剣を鞘に戻した。


「お疲れ」

「お疲れ様!」


 俺とエマはハイタッチして、自分の篭手を見る。


「この篭手すごいね!自分が思ってるより威力が上がってる!」

「ああ、それに魔力を圧縮するスピードも上がってる、魔術武器はこの篭手が一番しっくりくるよ」

「私も!」


 予想以上の効果を発揮した篭手に満足していたら、テオがおっさんを連れて帰ってきた。


「あれ!?もう終わったのか?」

「ああ、今終わったとこだ、その人は?」

「あ、ああ…この人は俺の親父だ」


 青髪に無精髭で作業服を来た中年はテオの親父さんか、てことは。


「ジオ・アルカナムだ。アルカナム武具店の4代目代表だ。今回は本当にありがとう!助かったよ!」


 おっと、アルカナム武具店のボスだったようだ。俺達も自己紹介を済ませた。


「おお!その篭手!俺が作ったんだよ!使い勝手はどうだ?魔剣士用に作るなんざ初めてだからよ、色々試行錯誤したんだ」

「これ以上無いくらい最高でした。素晴らしい装備をありがとうございます」

「ははっ!嬉しいこと言ってくれるなぁ!」


 この篭手は代表自ら作った物だったのか、通りで出来が良すぎる訳だ。慌ててエマも感謝を伝えていた。


「場所が場所だけに冒険者協会には依頼を出せなくてなぁ。本当に助かった!礼をしたい!ウチの店に来てくれ!」


 協会からの正式なクエストではないから、報酬も個人による。俺は正直この篭手の性能を確かめたかっただけだから、お礼は考えていなかったな。


「なに貰えるんだろ…!」

「なんだろうな」


 エマは目をキラキラさせながら、アルカナム武具店に向かった。


 ◇◇◇


 〜アルカナム武具店〜


 俺達は応接室に案内された。


「ちょっと待っててくれ!すぐ持ってくる!」


 そう言ってテオの父親、ジオが部屋から出ていった。


「もうインゴットは要らないなぁ、ミスリル貰ったばかりだし」

「なんだろうね!ワイバーンのお肉なら嬉しい!」


 エマはヨダレを垂らしながら言ってきた。食いしん坊なエマも可愛いが、もっとほかの物に興味を持って欲しいな。


「私はミスリルで剣を作ってほしいです。オーダーメイドを近々頼もうかと思っていましたので」

「俺はなんでもいいな」


 ワイバーンの肉はないだろうが、ソフィアの願いなら叶えてくれそうだな。


 しばらくすると、ジオが戻ってきた。


「よっこらせ!これを使ってくれ!」


 机に置かれたのはマントだった。

 今俺達が使っているマントと見た目は変わらないが、材質が違う。


「このマントは今ウチで仕入れられる最高級の素材を使った物だ!そんじょそこらの魔術や斬撃には耐えれるぐらい頑丈な代物だ!」


 すごいな、アルカナムの最高級マントってことか。おいくら万Gなんだろうか…。


「見た感じ、お前達のマントが買い替えが近いように見えてな!見た目は今身につけている物と同じやつを持ってきた!ぜひ使ってくれ!」

「ありがとうございます!」

「礼を言いたいのはこっちだ!なにか俺に出来ることがあったら言ってくれ!」


 ジオがそう言うとソフィアが剣をオーダーメイドする依頼を出していた。なんと半額で受けてくれるらしい。俺も篭手半額がよかったな…。


 お礼の品を受け取り、アルカナム武具店を出る。


「テオと仲良くしてやってくれ!」

「ちょ、やめろよ…親父…」

「装備で困ったらうちに来いよ!」


 テオとジオが見送ってくれた。オーアタートルはそこそこ強かったが、こんな素晴らしい物を貰えたんだ。

 俺達は満足して寮に戻った。


第43話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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