第33話 帰郷
あれから、4ヶ月が経った。
「ここに来て、もう1年かぁ」
「はやいねぇ」
俺たちは適当なクエストを終わらして、冒険者協会へ向かっていた。
「やっぱりB級から上がるのは大変だね」
まだA級へ上がれていないが、大した問題じゃない。1年でB級、大躍進だ。
「今年は大々的に試験はしないんだな」
「去年は創立20周年記念でしたから、今年は粛々と行われるそうですよ?」
「あんな異常な記録を出された翌年にやろうとは思わないだろう」
スアレに来るまでは、俺たちのレベルは普通だと思っていた。師匠であるミーヤとローガンも相当に強かったから。
同年代で同じレベルなのはカルマとソフィアくらいだろう。
「はい!【"怪力"オーガキングの討伐】討伐完了、受諾しました!」
「いつもありがとう、お姉さん」
俺が微笑むと受付嬢は頬を赤らめた。熱でもあるのかな?
「アレクは1年で女たらしになったよね」
「たらし?エマ以外たらしてなんになるんだ」
エマがジト目で見てくる。
「ホ、ホグマン会長があなた達を呼んでいます。会長室へどうぞ!」
ホグマンからの呼び出しだ。正直あの人からの呼び出しは嫌な予感しかしない。俺たちは会長室へ入った。
「よく来た4人とも、まぁ座ってくれ。」
言われるがままソファに腰をかけた。
「予想はついているだろうが。君たちに指名クエストだ。」
「まぁ、そうだとは思ってましたけど。内容は?」
「【カオスフォレストの調査】だ」
「カオスフォレスト…」
「そう、アレクサンダー君とエマ君の故郷だ」
まさか冒険者として、帰郷できるとは思わなかったな。
「アレクさんとエマさんの故郷!どんなとこでしょう!」
「楽しみだな」
カオスフォレストか良い思い出がないな。
「なんでカオスフォレストなんですか?」
「カオスフォレストの表層にAランクモンスターが出現したからだ」
「俺たちはB級です、Aランクは討伐できませんよ?」
いくら指名クエストでもそのルールを破ることは出来ないだろう。
「ああ、だから君たちをA級下位に昇格させた」
「それは嬉しいですが、他のA級に任せても」
「実はこの様な事態が起きてるのはカオスフォレストだけではない。魔龍連山もそうだが、各特異エリアで発生している。A級以上を派遣しているが、人手が足りない。そこで、君たちだ」
「俺たち?」
「君たちは実力実績ともに十分すぎるほど持ち合わせている。それに、王都の冒険者達は早く君たちがA級に上がることを望んでいる」
さすがお人好し冒険者達だ。みんな俺達に良くしてくれる。
「状況はわかりました。すぐに出発の準備を」
「よろしく頼む。久々の帰郷だ、ゆっくりしてくるといい。」
「はい、ありがとうございます」
「お土産何にしよっかなー!」
こうして俺達は俺とエマの故郷、レディアに向かうことになった。
◇◇◇
〜翌日〜
俺達は馬車に乗り込みレディアを目指している。
「アレクさんやエマさんはやっぱり親元を離れるのは寂しかったですか?」
ソフィアが聞いてきた。
「そうだなぁ、俺は確かに寂しかったけど、エマがついてくるとは思ってなかったから、ついてくるってわかってからは寂しさは紛れたよ」
「え?エマさんは冒険者になる予定だったのでは?」
「本人はそのつもりだったみたいだけど、俺やエマの両親には知らせてなかったんだ」
そう話しながら俺の膝で気持ち良さそうに寝る、エマの頬をツンツンした。プニプニで気持ちいい。
「ご両親と仲が悪かった訳ではないですよね?エマさんはよくご両親のお話をしています」
「ああ、色々あってな。俺が出発する直前まで黙ってたんだ。俺が出発しようとしたら、大量の荷物を持ったエマが「私も行くー!!」って馬車に乗ってきたんだ」
懐かしいな。あれがもう1年前か。エマの頭を撫でながら微笑む。
「ふふっ、エマさんもアレクさんと離れたくなかったのでしょうね」
「そうだといいな」
そんな話をしながら馬車はレディアへ向かっていった。カルマは乗り物酔いでダウンだ。意外な弱点だな。
◇◇◇
4日後レディア近郊についた。
「ん?この気配…ソフィア2km先に3m程のモンスターの気配だ」
「了解しました。カルマさんとエマさんは起こしますか?」
「いや、俺たちだけだ十分だろう」
中々に強い気配だ。A級か?
「馭者さん。少し馬車を停めてください。前方にモンスターがいます」
「りょ、了解しました!よろしくお願いします!」
馬車は急停車した。膝で寝ているエマを降ろし、馬車の外にでた。
「このモンスターは…」
ソフィアが息を飲む。
梟頭に熊のような体、アウルベアだ。
「アウルベアだな、A級のモンスターがなんでこんな所に」
「これもカオスフォレストの異常でしょうか」
「かもな、こいつは危険だ。一気に片をつけるぞ」
「はい!」
俺とソフィアはアウルベアに突っ込んでいった。アウルベアは俺達に気づき吠えた。
「「虎剣流『岩斬』」」
「ガァァァ!!」
アウルベアの両腕を切り落とした。
「ソフィア、トドメ頼む」
「はい!」
「虎剣流『猛虎』」
ソフィアは華麗な太刀筋でアウルベアをぶった斬った。
「さすがソフィアだ。太刀筋にキレが増してる」
「いえ、アレクさんに合わせて貰っているようじゃまだまだです!」
「謙虚だな」
アウルベアの討伐を終わり馬車に戻った。
「2人で何してたのー」
寝起きのエマが頬を膨らまして聞いてきた。
「こいつだよ」
アウルベアの討伐証明をエマに見せた。
「アウルベア!?こんなとこに?」
「ああ、幸い被害はどこにもないようだ」
「カオスフォレストから来たのでしょうか」
「考えうる限りはな。ここらへんはローウルフの類しかでないはずだ」
「やっぱり、異常だね」
そう言い馬車に座った。
「馭者さん、もう出して大丈夫ですよ。ご迷惑お掛けしました」
「いやいや!とんでもない!しかし凄いなぁ、あんな化け物をあっという間に…」
「んあ…?停まってる…?着いたのか…?うぷっ…」
着いたと勘違いしたカルマが起きたが、再び動き出した馬車に再び酔ってしまったみたいだ。弱すぎだろ…。
しばらくして、レディアの街に着いた。
〜レディアの街〜
「まずは、領主に挨拶だっけ?」
「はい、指名クエストを受けた場合、自分たちがその人であると領主様に報せる必要があります」
「めんどくせ」
「そういうことを言ってはダメです!リーダーなんですから!」
はいはいとソフィアを受け流し、領主の屋敷に向かった。ハネス・レディア伯爵。エイダの父親か。
ハネス・レディア伯爵は国王同様、人格者として有名だ。良き主の元には良き家臣が集まり良き街ができる。正にその通りだ。
レディア伯爵には国王も絶大な信頼を置いているとか。
「相変わらずデカイな…」
「さすが伯爵家のお屋敷だよね」
「お2人はレディア伯爵と面識は?」
「「ないよ」」
「早く…終わらして…どこかに落ち着こう…」
カルマはまだ気分が優れないようだ。ごめんな、治癒魔術じゃ酔いは軽減できないんだ。
「何者だ!!」
屋敷の衛兵が話しかけてきたってより警戒して槍を向けてきた。なんだ?いきなり喧嘩腰かよ。
「カオスフォレストの調査依頼を受けてきた、A級下位冒険者だ。ハネス・レディア伯爵に到着のご報告をしたいんだが」
「は?貴様らのような子供がA級下位だ?もっとまともな嘘を付け」
「嘘じゃないが…」
「エイダ様でもまだC級に上がったばかりだぞ。それを同年代の子供がA級下位など。笑止だ」
「なんだこいつ、領主でも無いのに偉そうだな。身分も確認しないで勝手に決定する怠慢さ、呆れたな」
俺は衛兵を挑発した。
これは兵の教育を怠っている、教育者の責任だ。衛兵は顔を真っ赤にして怒っている。
「貴様!!大人に向かってその様な態度!領主様への虚偽を申告しようとした罪!今すぐ捕らえる!!」
「やれるもんならやってみろよ」
「なっ……!?」
俺は衛兵を睨み、全力で威圧した。衛兵の身体は震え、腰を抜かした。
「き、きききき奇襲だ!!!全員出撃!!!」
「お、おい。それはないだろ」
「本当に呆れましたね。これについては伯爵に詳しくお聞きしなければなりませんね」
出撃の合図を聞いた衛兵が俺達を取り囲んだ。
「なんだ、子供ではないか…しかし、この尋常ならざる空気。なるほど、あなた達が…領主様の元へ案内しよう。私は騎士隊長、ディアナ。部下の非礼を詫びよう」
甲冑を身にまとった凛々しい女性ディアナが案内してくれるようだ。
「な、なぜですか!その様な子供を!」
「黙れ!!貴様、冒険者カードを確認したのか?」
「い、いえ、ですが確認するまでもないでしょう!」
「その怠慢さ、相手の力量も分からぬ未熟さ。貴様の処遇はおって下す。下がれ」
一応俺達は衛兵に冒険者カードを見せて立ち去った。衛兵が唖然としていたのは言うまでもない。
「失礼します。ディアナです。A級下位冒険者達が到着のご報告をしたいとのことです」
「わかった。入れてくれ」
「失礼します」
俺達は伯爵の部屋に入った。
「お初にお目にかかります。アレクサンダーです。後ろにおりますのが、右からエマ、ソフィア、カルマ。私のパーティーメンバーです」
「おお!君達の噂は聞いているよ。僅か1年でA級下位まで上がったと!エイダから自慢のように手紙に書いてあるよ!」
「ありがとうございます」
「堅苦しいのはいらない!気楽に行こう!まぁ、座ってくれ!」
良い人だな。俺達がこういう場に慣れてないのを察しての気遣いだろう。
俺達は肩の力を抜きソファに腰をかけた。
「アレクサンダー君にエマ君、君達の様な凄まじい逸材がこのレディアに居たとは、知らなかったよ。エマ君の事は"郊外の天使"なんて噂で知っていたがね」
「こ、郊外の天使ですか!?そんな噂が…」
「噂に違わぬ美貌だ。アレクサンダー君は果報者だね」
「ま、まだそういう関係では…」
エマは相変わらず顔を赤くして俯いて言った。確かに、まだそんな関係にはなってないな。毎日ベッタリだが。
「そんな関係じゃないのかい?なら、アレクサンダー君!ウチのエイダなんてどうだい?顔は妻に似て美しい方だ。それにエイダの手紙はもっぱら君のことばかりだし」
「すみません、私には心に決めた女性がいるので」
「そうかい、そりゃ残念だが、第二夫人でも構わないぞ?」
「か、考えておきます…」
エマが頬を膨らましている。考えておきますってのがダメだったか?ソフィアもなんだかモジモジしている。
カオスフォレストよりもカオスな空間が出来てしまった。カルマはまだ体調が優れないようで上の空だった。
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