第32話 世界は謎ばかり
1週間後、俺たちは魔龍連山:中層の調査を始めた。
「ガァァァァァア!!!」
「そっち行ったよー」
「了解です!」
エマとソフィアはオーガキングを相手にしている。
「ねーアレクも手伝ってよぉ」
「疲れたからヤダ」
「えー」
「オーガキングくらい余裕だろ?」
俺とカルマは休憩がてら2人の戦闘を見学している。
2人の後ろには10を超えるBランクモンスターの死骸があった。
「さすが中層、Bランクがうようよしてるな」
「深層に行けば今度はAランクばかりになるんだろうな」
そんな呑気な会話を俺とカルマはしているとエマとソフィアも倒し終わったようだ。
「このオーガキングちょっと強くなかった!?」
「気のせいだろ」
「ほら!体も大きい!」
「気のせいじゃないか?」
「えぇんソフィアぁ…アレクはともかくカルマも冷たいよぉ…」
「つ、冷たくした訳じゃ…」
エマはソフィアに泣きつきカルマはアタフタしている。俺も冷たくしたわけじゃないんだが。
「アレクさん!カルマさん!ちゃんとエマさんの言うことも真剣に聞いてあげてください!」
「す、すまん」
「とりあえず、ある程度調査は完了だな。標的の俺とエマがうろうろしてても出てこないってことは特に大事な用ではないんだろ」
「そうだねー、瘴気の気配もなかったし。アレク!ご飯食べいこ!」
そういえばあの時のキメラは瘴気を放っていたな、ということはキメラはパンドラに操られていたのか?
そうなるとパンドラにはモンスターを操る特性を持ったやつがいるってことか。厄介だな。
「アレク?どうしたの?」
エマが心配そうに覗き込んできた。
「なんでもないよ、会長に報告したらみんなで飯食い行くか」
「やったー!!」
「私おすすめのお店があるんです!そこに行きませんか?」
「ソフィアのおすすめは高そうだな」
俺たちは魔龍連山の中層を後にした。
◇◇◇
ホグマンへの報告を終え、ソフィアおすすめの店に夕飯を食べに来た。
「なに食べよっかなぁ!」
「ワイバーンの肉はないのか?」
「さ、さすがにワイバーンは無いんじゃないですかね…」
「…」
モンスターを操る特性。あのキメラですら操れるとしたら相当な実力者だ。
夢で見たマイズも今思えば、確実に実力者だと言える風格を放っていた。
特性…。生まれた時に所持する先天的な特殊能力。考え出したらきりがないな。そもそも、モンスターを操る特性があるのかどうか。
「アレク?どうしたの?さっきからボーっとして」
「大丈夫ですか?お疲れですか?」
「ワイバーンの肉うまいぞ」
「…。すまんが、ちょっと用事を思い出した。ここの代金は俺の奢りでいいぞ」
俺は大量の金貨を机に置いて席を立った。
「アレク?私も一緒に行くよ!」
「いや、俺だけで大丈夫。みんなと飯食ってていいよ」
「でも…」
「危険なことする訳じゃない、王立図書館に用があるだけだ」
「わかった…」
エマも渋々了承してくれた。別に一緒に行ってもいいが、エマは図書館に行っても寝るだけだ。1人と大して変わらない。
俺はそのまま、王立図書館へ向かった。
〜王立図書館〜
王立図書館、ここは一般的な書物から国宝級の文献など様々な書物が閲覧できる場所だ。
貴重な文献は特別な許可を貰う必要があるが、事前にイグナスから貰っている。俺は2つの書物を求めてきた。
「これか…」
【特性図鑑〜世界に存在したあらゆる特性〜】
1つは世界に存在した特性がまとめてある特性図鑑。
そしてもう1つ
【勇者自伝〜勇者ギムレットの一生〜】
初代勇者ギムレットがその一生を書いた自叙伝。
現在国宝級の書物として扱われており、禁書庫に保管されている。
まずは、特性図鑑からだ
「どれどれ………あった…」
モンスターを使役する特性。
自身の魔力をモンスターに流し、使役することが出来る。使役するにはモンスターを瀕死にさせる必要がある。
「やっぱり存在していたか。だとすると、パンドラの危険性はもっと上がるな…」
「特性図鑑?そんなの読んでるの?」
「うわっ!!エマ!?」
急に後ろからエマが話しかけてきた。飯食ってたんじゃ…。
「ついてきちゃった!」
「カルマとソフィアはどうした…」
「2人が行ってきなって言ってくれたんだー」
「そ、そうか」
「こそこそしてるから他の女の子と会ってるのかと思ったー」
「そんな訳ないだろ…俺にはエマがいる」
俺がそういうとエマは顔を赤くして逸らした。
「そ、それで?なんで特性図鑑なんか見てるの?自分の特性でも見つかった?」
「ん?いや、俺の見た光景に関しては特性じゃないと思う、勘だけど。俺が探してたのはこれだ」
「モンスターを使役する特性?」
エマに俺の考えを伝えた。パンドラの構成員にその特性を所持する者がいる可能性。
「そっか、確かにあのキメラの瘴気は異常だったね…」
「そういう事だ、これが本当ならパンドラは危険すぎる」
「そうだね…で、この勇者の自伝は?」
「これは、今から読む」
初代勇者ギムレット
500年前魔神の侵攻から世界を救った英雄。その名は世界中に知れ渡った。ギムレットについては多くは語られていない。御伽噺のように、その有志のみ語り継がれている。
「「こ、これは…」」
「よ、読めない…」
「字が汚すぎる…」
なぜ、初代勇者について多く語られなかった理由がわかった。誰も読めなかったんだ。
「期待はずれだったな」
「これは、どうしようもないね…」
エマは苦笑いしている。ベリウルの言っていた『まるで初代勇者』という言葉。なにか、戦いのヒントになればとおもったんだが。
「さて、用も済んだし帰るか」
「うん!」
「飯食い行くか?さっきは食ってないんだろ」
「行く!」
俺はエマと2人で夕飯を食べに出かけた。
◇◇◇
俺とエマは近所のレストランに夕飯を食べに来た。
「初代勇者ってどんな風に語り継がれてるの?」
肉を頬張るエマが聞いてきた。エマは基本的に歴史とかそういう物には興味がなく、その興味は魔術のみに向かってる。ドが付くほどの魔術馬鹿だ。
「その剣の一振は山を両断し、海を裂く。その剣の光は魔を滅っし、人々の心に希望を与える。魔神に相対するは勇者と3人の仲間。彼らは死闘を繰り広げ世界が光で包まれた時、魔神は消滅した。英雄達は凱旋し、勇者はその後、姿を消した」
「なんか胡散臭いね〜、でも、本当の話なんだよね?」
「ああ、勇者の仲間の1人が今も生きているらしい」
「え!?勇者パーティーってみんな人族じゃなかったの!?」
世間一般的に勇者一行は人族だとされている。だが、その真偽は明らかじゃない。勇者の末裔であるイグナスは限りなく人族であるが、イグナス曰く他種族の血が入っている可能性があるらしい。
勇者の自伝を読めれば全てわかることだが、この文字ではどうしようもない。それに、勇者の仲間も多くを語ろうとしない。
なにか、あるのかもな。
「その勇者の仲間はSS級冒険者として活動しているらしいぞ」
「それ誰から聞いたの…?」
「イグナス先生に高い酒奢ったら喜んで話してたよ」
「えぇ…」
「そろそろ帰るか」
俺たちはレストランを後にして帰路につく。
「アレクの記憶もだけど、この世界って謎ばかりだね」
「そうだな。人々の心を健康な状態で保つために、歴史は嘘をつくこともある。そうやってねじ曲がった歴史もあるかもな」
「ねぇ、アレク」
「ん?」
「もし、記憶が全部戻っても、私の傍にいてね?」
「当たり前だ。俺達にはアリアの予言もついてるからな」
傍にいてね?そう言うエマの姿が、あの日見た、女性の姿と重なった。名前を思い出した時に見たあの女性と。
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