第25話 人間と魔族のハーフ
俺達がミアレスに来てもうすぐ1ヶ月が経つ。
今だデーモンの情報はないが、聖属性の強化は順調に進んでいる。アリアともほぼ毎日一緒にいる。
〜アリアの部屋〜
「ねぇねぇエマ!アレクとは幼馴染なんでしょ?昔のアレクってどんなだったの?」
「なんでそんなにアレクが気になるのかなぁ?」
エムはアリアの部屋でアリアと遊んでいる。アリアの質問にジト目でエマがアリアを見た。
「別に深い意味はないよ!ただ2人の昔を聞いてみたくて!」
「そーだなぁ、アレクが記憶喪失ってのは言ったよね?アレクが記憶喪失になって、最初に出会ったのが私達家族なの。森で倒れててね、それを私が見つけてお母さん達に保護してもらったの」
それからエマはアレクとの思い出を語った。
「へぇ…ふふっ」
「なにがおかしいの?」
「エマはアレクの事が大好きなんだねぇ」
アリアはニヤニヤしながらエマを見た。エマは顔を赤くし頷いた。
「見た感じ、アレクもエマのことが大好きみたいだけど、恋人にはならないの?」
「アレクが私の事を好きでいてくれてることは知ってるよ。でも恋人かぁ…将来は恋人になって、結婚してっていつも考えたりするけど…今はまだかな…」
「どうして?早くしないと私が貰っちゃうよ?それにアレクモテるでしょ!強いしカッコイイし。」
エマは一瞬慌てたが、少しして俯いた。
「アレクはね、記憶を取り戻す為に冒険者になったの。私もアレクに記憶を取り戻してほしい…。もし、私達が恋人になって、アレクの目的の足枷になってしまったらって考えると、怖くて…」
「うーん、2人のことだから、あまり言えないけど。エマもアレクも少し考えすぎじゃないかな?もっと気楽になってもいいと思うけどなぁ」
「そうかなぁ…」
アリアは2人の進展のなさに溜息をつき苦笑いした。
「エマ、人はいつだって悔いを残して死ぬの。だから、最後の時に悔いを少なくする為に色々行動する。あなたもアレクも何時どうなるかわからないでしょ?だから、たまには気持ちに素直になってもバチは当たらないとおもうよ?」
「アリア…」
アリアの言葉は、誰の言葉よりも重かった。自身の死を悟りながらも、親友のために言葉を残す。
「そういえば、アレクの本当の親って分かってないよね?」
「うん、そうだけど」
「いい物があるの!明日の予定は?」
「明日は私は1日外にいるから、暇はないかなぁ…。アレクは1日暇って言ってたよ?」
アリアがドヤ顔でエマを見下ろした。
「なら、明日はアレクとデートね。」
「ちょっ、アリア!変なことしないでよ!」
「えー、どーかなぁ?」
2人の楽しそうな笑い声はしばらく続いた。
◇◇◇
〜翌日〜
俺はアリアに呼び出され、女神の塔の入口に立っていた。
「おまたせー!」
アリアが小走りで俺の元に来た。
「あんまり無理して走るなよ。身体に障る」
「もう!病人扱いしないでよ!」
「病人だろ…んで?今日の予定は?」
いい物があるとかなんとか言っていたな。
「それは最後のお楽しみ!まずはデートしよ!」
「はいはい、エスコートしますよお嬢様」
「適当に受け流してる」
アリアはブーブー行っていたが街へ繰り出した。ショッピングしたり、普段入らない店に入ってみたり。ただ、普通に遊んだ。
それだけでも、アリアは楽しそうだった。しばらくして、人気のない公園のような所に来た。
「いい物見せてあげるよ!」
「やっとか、だいぶ勿体ぶったなぁ」
「楽しみは最後にって言うでしょ!」
そう言って向かったのは1つの俺の膝ほどの丸い小岩。表面には文字が書いてある。
『血脈の岩』
「血脈の岩?」
「うん、この岩はね、自分の血筋を見ることができるの。親の名前とかそういうのは分からないけど、自分の親について少しは知れると思うの」
そうか、俺の記憶がないから、何かヒントになるかもしれないってことか。
「ありがとう、アリア。いいヒントになるかもな」
「どういたしまして!」
「これはどうやって使う……アリア!!」
「アレク!?」
茂みの奥からアリアを狙った矢が飛んできた。俺はアリアを抱き寄せ、左手で矢を防いだが、腕に矢が突き刺さる。血が血脈の岩にかかった。
「ぐっ!?強化魔術を貫いた…?」
「アレク!大変…」
「アリアはここに居てくれ、すぐ戻る。一応防御魔術を張っておく!」
「うん!……血脈の岩が…これは…」
俺は矢が飛んできた所に向かって走ったが。もうそこには何もいなかった。
「アレク!」
「なんで来た!待っててくれって!」
「アレクと一緒にいた方が安心だと思って…」
「ああ、それもそうだな、とりあえず今日は帰ろう。また狙われたら危ない。血脈の岩はまた来るよ」
「う、うん…」
俺は治癒魔術で腕を治し、部屋へ戻った。
◇◇◇
〜宿泊中の部屋〜
部屋に戻ってからアリアの顔が暗い。命を狙われて怖かったのかな。
「アリア、どうした?」
「いえ…」
「なにかあるだろ、悩みがあるなら相談してくれ」
「でも、これは…」
「言えないことか?」
そんな深刻な顔をされると余計気になってしまう。
「実は…血脈の岩にアレクの血がかかってね。アレクの血筋についてわかったことがあるの…」
なんだって?俺の記憶に関わることだ。
だが、なんでそんな暗い顔を…。
「アレク…あなたは人間と魔族のハーフよ」
「え…?人間と、魔族…?」
俺はそもそも人間族ですらなかったのか…魔族。
俺は今まで魔族を蔑んだり嫌ったりしている人を見たことがある。
ある人は残虐な殺人集団と。ある人は魔神を崇拝するイカれた集団と。ある人は生きることすら許さないと。負の感情が溢れてくる。
「俺が…魔族…?そんな、忌み嫌われる…」
「え?違うわ!今は優しい魔族がいるって事も知られてきてるわ!」
(どうして…?アレクの中に瘴気が…?聖属性でしっかり守っていたはずなのに…!)
「お願いアレク!落ち着いて!私の言葉を聞いて!」
「俺が…はぁ…はぁ…皆に、嫌われる…」
「瘴気の膨らみ方が異常だわ…アレクは決して心の弱い人じゃない…!まさか、デーモン…」
魔族。世界を混乱に陥れた最悪の魔神は魔族だったと聞く…500年経った今でも魔族に対する偏見は残っている。半魔族と言うだけで迫害を受けているところをこの目で見たことがある。
ドス黒い感情が溢れる、止まらない。
「俺が…半分魔族か…みんなが知ったら…」
頭に思い浮かぶのは、俺を追い出そうとする周囲の光景
「嫌だ…」
俺に剣を向け、罵倒するカルマとソフィアの姿
「嫌だ…!」
勇者の末裔であるイグナスは魔族に敵対しているのだろうか
「嫌だ…!!」
半魔族と聞き俺を拒絶するエマの姿
「嫌だ!!!!」
嫌われたくない拒絶しないでほしい。最悪な想像が頭の中をグルグル回る。止まらない。涙が溢れる。
「い、嫌だ…やめてくれ…」
俺の中で負の感情が溢れかえる。ドス黒い感情が体を支配する。
そして、どこかの影でニヤリと何かが笑った。
「嫌だ!!!やめてくれ…!そんな目で見ないでくれ…!エマ…!」
「アレク!!ダメ!!」
アリアの声は届かない。
〜イグナスの部屋〜
「…!?これはアレクサンダーの…!どうして…!」
〜宿泊中の部屋〜
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!!!!」
「アレク!?…これは、瘴気!?どうして…」
エマが駆けつけてきた。部屋はアレクサンダーから漏れる瘴気で溢れている。
「アレク!!どうしたの!なんでこんな!」
「エマ…そんな目で見ないでくれ…!嫌わないでくれ…!」
「何言ってるの!?わかんないよ!」
「うぁぁぁ…!!」
エマの声は届かない。
「アレクサンダー!!」
「イグナス先生!帰ってきたらアレクの様子が」
「これは…あの時の比じゃない量の瘴気だ…」
イグナスが駆けつけてきた。
「あァァっ…やめてくれ…!」
「アレクサンダー!しっかりしろ!呑まれるな!」
「先生…?半魔族の俺を殺しに来たのか…?」
「半魔族…?何言ってるんだ!」
「やめてくれ…そんな目で見ないでくれ…!」
アレクサンダーの目にはイグナスもエマも自分を拒絶しているように見えていた。
「アレ…ク…」
「私のせいだ…私がもっと配慮していれば…」
アリアは顔を抑え泣き始めた。
「アリア!なにがあったの!?」
「エマ…!アレクの親について、少しわかったの…でも…それが彼にはショックを与えてしまったみたいなの…ごめんなさい…お願い…アレクを助けてあげて…!」
「アレクの親…わかった、詳しいことは後で聞くね…」
エマは立ち上がりアレクの傍へ向かう。
「アレク!落ち着いて!私はアレクが何であっても嫌ったりしない!」
「やめてくれ…!嫌だ…!」
「アレク!こっちを見て!」
「嫌だ…やめてくれ…」
次第に瘴気が強まってくる。強すぎる瘴気にエマは押され、顔を顰める。
エマはアレクの隣についた。
「アレク…アレク…!お願い戻ってきて…お願い…」
エマはアレクに抱きついた。
「一緒にいてくれるんでしょ?守ってくれるんでしょ?私も、アレクを守るから…」
そう言いエマはアレクにキスをした。
一瞬、アレクの瘴気が弱まった。
その瞬間、エマの魔力がアレクサンダーの体内に流れ込む。魔力はアレクサンダーの体内で聖属性へと変化し、瘴気を消滅せていく。
次第にアレクサンダーの瘴気は静まり消滅した。
「エマ…ありがとう…」
「私はずっとアレクの隣にいるよ…」
「ああ、もう、大丈夫…」
俺はエマを抱きしめた。
◇◇◇
瘴気が完全に消滅したことを確認し、冷静に状況を考えた。
「なんで、アレクはあんなに取り乱したの?」
「それは…」
「アレク、何があっても離れないから。言って?」
このことを話して、嫌われるかもという不安はまだ、残ってる。でも、
「俺は…人間と魔族のハーフらしい…」
「それだけ?」
「え?」
「魔族の血が入ってても、アレクはアレクでしょ?なにも変わらないじゃん」
エマの言葉にホッとした。
「アレクサンダー、アリアから血について聞くまでに、なにか変わったことはなかったか?」
「…アリアと血脈の岩に居た時、アリアに矢が飛んできた。それを俺は腕で止めたが、強化魔術を施しても貫かれた。その矢はこれだ…」
俺は魔導袋から1本の矢を出した。イグナスはそれを受け取った。
「これは…破魔矢…?それに、瘴気の残穢が」
「破魔矢?」
「そのまんまだ、魔術を破壊する力がある。おそらくこの矢が刺さったことで、聖属性で守っていた心に綻びができ、少量の瘴気がアレクサンダーの心に留まった。時間が経てば消滅するはずが、そのタイミングで自分の血筋について聞いてしまった。一瞬の動揺で隙が生じ、生まれた小さな邪心が拡大した…ってとこだな。」
魔族とハーフってのは衝撃だったが…ここまで取り乱すとは思えない。
「私の配慮が足りなかった…ごめんなさい…」
「アリアが謝ることじゃないよ、俺の心が弱かったんだ、恥ずかしいところを見られた…穴があったら入りたい…」
「でも、なんでこんなにアレクが狙われるのかな?」
「アレクは1度瘴気にあてられている。1度あてられると隙が生まれやすくなる、だから気を張っとけって言ったんだ。デーモンは瘴気を糧に強くなる。」
「それじゃ、今回の瘴気は…デーモンに…」
まずい…
『御明答、彼の瘴気は極上ですね』
窓の外から腹の底に響くような声が聞こえた。
「デーモン!」
アリアが窓の外を見て叫ぶ。
「これはこれは、現代の光の神子。お初にお目にかかる。私は、上位デーモン、名をベリウル。お見知り置きを」
「どうして…おまえが…!」
イグナスはベリウルを見て困惑する。
「おまえはあの時姉さんが消滅させたはずだ!」
「姉さん?ああ、あなたは勇者の末裔ですか。あの時は受肉体が消滅しただけで、魂は悪魔界に退避させて頂きました。」
「今度は魂まで消滅させてやる…!」
イグナスはベリウルに向かって剣を振り下ろした。
「おっと、あなたへの対策は済ませてありますよ」
イグナスの剣はベリウルへ届く前に弾かれた。
「これは…!」
イグナスの周りには見えない壁が生成されていた。
「あなたはこのミアレスで最も危険です。そこで大人しくしていてください」
「ミアレスで最も危険…?おまえは俺の生徒をなめすぎだ…!」
「「聖属性上級魔術『ホーリー・オーバーレイ』」」
俺とエマの光の巨大な光線がベリウルを襲う。
しかし、
「ふむ、これは中々ですね。しかし、君たちじゃ役不足です」
ベリウルの右手から放射される闇の光線に俺とエマは吹き飛ばされた。
「アレク!エマ!」
アリアが叫ぶ。
「では、私は女神の琥珀を手に入れる為に地下へと向かいます。それでは」
そう言いベリウルはイグナスの目の前から消えた。
「女神の琥珀…!封印を解く気か…!」
イグナスは剣に力を込める。
「アリア!あの2人と一緒にいろ!」
「叔父様は…?」
「こんな障壁で足止めなんかされない」
「はい!2人を追います!」
アリアが追ったのを確認し、イグナスは剣を振る。
「おらぁ!!!」
イグナスを囲んでいた透明の障壁は破られた。
「さて、ベリウルを追うか」
窓枠に足をかけ飛び出そうとする。
「これは…」
外を見ると、デーモンの軍勢が街の外に見えた。
その中には黒き月に巨大な目玉の旗印が掲げられていた。
「黒き月が登る時…か。この数はあいつらじゃ無理か…くそっ…ベリウルはあいつらに任せよう」
イグナスは急いで街の外へ向かった。
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