第24話 不治の病
〜談話室〜
「アレクサンダー様は、忘れっぽいのですか?」
唐突に神子が聞いてきた。
「アレクサンダー様はやめてください。神子様。俺の事はアレクとお呼びください。忘れっぽいとは、どうして?」
「そ、そうですか?ではアレクも私の事はアリアとお呼びくださいね!エマ様も!」
「え!?私だけ様付け!?私もエマでいいですよー。あと、敬語もいらないかな?」
アリアは俺達の2つ上、同世代に敬語や様付けされるのはなんだかむず痒い。
「あ、忘れっぽいって言うのは、アレクは忘却の魔剣士って」
「あー、俺は6歳より前の記憶がないんだ。だから忘却なんじゃないか?」
「そうなんだ、だから忘却の魔剣士…。エマは見たまんまだね。灰色の魔術師」
「ねーその2つ名どうにかならないの?なんかちょっと安直すぎない?」
それなら俺はみんなに忘れっぽい魔剣士って思われ続ける訳だが。俺は出されている紅茶を飲み、本題を切り出す。
「アリア、デーモンの侵攻はいつなんだ?」
「それは…まだわからない。予言のことは聞いてるよね?予言では黒き月が登る頃ってしか」
「そうか」
黒き月が登る頃、抽象的すぎてさっぱりだな。
「聖属性の強化ってどんなことするの?」
「ただひたすら滝に打たれてただひたすら精神統一するの」
「「え?」」
「そうしたら、心が清くなって、自然と聖属性も強化されるってことかな?」
「ま、まじかよ…俺もう帰ろうかな…」
「私も…」
なんだよそれ…本当に効果あるのか…?
「それで、アリアは聖属性の魔術師なのか?」
「やっぱりわかるのね。そう!使えるのは聖属性だけだけどね」
「やっぱりー、アリアは私達の力見抜いてた感じあったよな」
「等級は?」
光の神子って言われるくらいだから、超級くらいかな。
「……滅級」
「「えぇ!?」」
今世界にいる5人の滅級の1人が、アリア?衝撃だ。
「5年ほど前にね、ミアレスに魔物の侵攻があったの、あまりに数が多すぎて、聖騎士だけじゃ抑えきれなくて、そこで滅級を使ったの。聖属性の滅級魔術は建物とか物体には影響はない。だから、地形を変えることはなかったわ」
「7歳で滅級を使えたのか?その知識はどこで」
「光の神子になる時に、聖属性魔術の知識を覚えるの、その時に滅級もね」
なるほど、聖属性に関する知識は全てある訳だ。それにしても、7歳にして滅級を使える魔力量は凄まじいな。
「ゴホッゴホッ!!」
「アリア!大丈夫?」
「う、うん。今日は色々ありすぎたわ。あなた達とおしゃべり出来てよかった!部屋に戻るね!」
「うん、また明日ね」
アリアは侍女に手を引かれ部屋を出ていった。
「エマ、気づいたか?」
「うん…」
「アリアの魔力が減り続けている…」
「これって病気なの…?」
「ああ、魔力欠落症。不治の病だ」
◇◇◇
俺達は国賓扱いだ。用意された部屋もすごい。寮の部屋よりも広く設備が充実している。だが、
「なんで、エマと一緒の部屋なんだ…」
「何か言った?」
「いや、なにも」
とりあえず一緒のベットは色々まずい。
「お、俺はソファで寝るから。エマがベット使いな」
「えー?せっかく大きいベットなのに?」
「大きくてもだ」
人の気も知らないで…
「人の気も知らないで…」
「なんか言ったか?」
「なんでもない!」
エマは布団に潜り込んでしまった。
「そういや、アリアには人見知りしなかったな」
「そういえばそうだね、どうしてだろ」
エマは大体の人には人見知りするのに、アリアだけにはしなかった。エマが成長したのかな?それだといいけど。
「じゃ、俺はもう寝るぞ」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
灯りを消してソファに寝転がった。
「ねぇアレク」
「ん?」
「アリアの病気、治せないかな…」
「難しいだろうな」
「そっか…おやすみ」
「おう、おやすみ」
俺達は眠りについた。
◇◇◇
〜翌朝〜
俺達は今、巨大な滝の前にいる。どうやら、アリアが昨日言っていた訓練方法はどうやら本当だったらしい。
俺は上半身裸で、エマは薄着になっている。
「はぁ…本当に滝に打たれるのか…」
「寒い…」
今の季節は冬だ。デーモンと戦う前に力尽きてしまう。
「おー、俺が見てるから倒れても安心しろー」
「アレク!エマ!頑張って!」
俺達の訓練には基本的にイグナスがついてくる。今日はアリアも着いてきたみたいだ。
「ああ…アレクの肉体美…はぁ…はぁ…良い…」
「ちょっとアリア!アレクをそんな目で見ないで!」
「は、はははっ…」
アリアが興奮している。昨日の凛とした感じはどこへやら。
「イグナス先生、どんくらい滝に打たれたらいいんだ?」
「3時間、ちなみに魔術は使うなよー」
「「えぇ…」」
こんな訓練に意味があるのかな…。
「じゃーはじめろー」
「アレク!倒れたら介抱してあげるね…」
「ちょっとアリア!」
「は、ははっ…」
俺達は滝の下に入り、打たれる。
「うぅぅぅ…死んじゃう…」
「エマ…気をしっかり持って…」
「うん…」
2時間後…
「ほう…やっぱりこいつらは異常だ」
「イグナス…これは…」
「ああ、こいつら2時間で感覚を掴みやがった」
俺達は滝に打たれている。だが、不思議な感覚だ。へその下辺りから暖かさを感じ、それが身体全身を駆け巡る…。
全身は暖かさを取り戻し、体に膜が覆われたような感覚になる。
「すごい…」
アリアは思わず感嘆の声を漏らした。
1時間後…
「しゅーりょー、上がってこーい」
イグナスの声が聞こえた。滝行は終わりか。
「あれ?もう終わり?意外と3時間って短いんだね!」
「そうだな、最初の1時間くらいは苦しかったけど、それ以降は悪くなかっ…た…」
「アレク?」
エマの薄着は水に濡れピッタリ体にくっついていた。その山の先から少し見える突起がなんとも。これは…美しい体だ…。
「アレク…沈めるよ?」
「ごめんなさい」
悪いことをしたら謝る、人とした当然のことだ。命の危機を感じたら尚更だ。
「うおっ!」
「ア、アレク…美しい体…はぁ…」
「…アリア…くすぐったい…」
「ちょ、ちょっとアリア!はーなーれーてー!」
アリアが俺の腹筋にそっと触れてきた。どうやら俺より変態がここにいたらしい。エマが引き剥がしてくれた。
「ごめんね、綺麗な肉体を見るとどうしても…」
「アリアは変態だったんだね」
「エマ!変態とは失礼な!…ゴホッゴホッ…今日は調子がいいと思ったんですが…」
アリアが咳き込み吐血した。
「魔力欠落症か…」
「バレてたかぁ…うん、私が生まれた時から患っている不治の病」
「その病気があるのに、滅級魔術を使ったのか?」
「そうするしか、なかったから。あの時は叔父様も居なかったし」
「叔父?誰のことだ?」
すると、隣にいたイグナスが気まずそうに口を開いた。
「あー、アリアは俺の姪っ子だ」
「なるほどな、だからミアレスの事になったらそんなに真剣なのか」
「失礼だなー、俺はいつでも真剣だ」
姪っ子か、それなら俺達を騙してまで連れてきたのも頷ける。
「話が逸れたが、魔力欠落症は生まれた時に人生分の魔力を持ち、時間が経つに連れて魔力が減っていくと聞いた。アリアの場合はどのくらいの魔力があったんだ?話したくなかったらいいけど」
「話しても大丈夫。生まれた時は80年分の魔力があったの、でも滅級の代償で60年分使っちゃった…だから、あと8年かな…」
8年…短すぎる。
「そんな顔しないで!数字では8年だけど、魔力を回復するポーションで、なんとか進行は遅らしてるの。高額なものだし、数は少ないから、長くは持たないけど、残された時間であなた達ともっと仲良くなりたい」
「うん!もう友達だもんね!」
「友達…ありがとう!エマ!アレク!」
「おう!」
そんな話をしている時のイグナスの悲しげな顔が頭から離れなかった。
瞑想の訓練も終え、俺達は部屋へ戻った。
「アレクサンダー、エマ、ちょっといいかー?」
「いいよー」
扉の外からイグナスの声が聞こえ、エマが答えた。
「おーう、すまんなー」
「どうしたんだ?」
「いや、ちょっとなー、アリアについてだ。」
まぁ、そんな気はしたが。
「アリアは俺の姉の子供だ。俺の生まれはミアレスで、すぐにイグナシアへ移ったが、姉は先代の光の神子に選ばれた。予言の特性を得たから。名前はアマンダ・ミアレス。まぁ、アリアが1歳の時に死んだが。そんで、予言の特性をアリアが継いだから、今はアリアが光の神子なんだ」
「先代はイグナス先生のお姉さんだったんだね」
光の神子は、予言の特性を持つ者がなるのか。
「まぁ、別にアリアがどーこーって話じゃないんだが。あいつは同年代の友達がいない。まぁなんだ、アリアとずっと友達で居てやってくれ…」
「当たり前だろ?変態だが、良い奴だ。ずっと友達でいるさ」
「うん!いつか一緒にイグナシアに行きたいなぁ」
「ありがとう…」
姪っ子が心配なんだろうか。いつものイグナスらしくないな。
礼を言うとイグナスは部屋から出ていった。
「先生なんか寂しそうだったね」
「姪に先立たれるのもキツいだろ…」
「そうだよね…ミアレスにいる間はアリアと沢山遊ぼう!」
「そうだな」
◆◆◆
「ふむふむ、私を召喚したのは。貴方ですか?」
「ふはっ!成功したぞ!デーモンの召喚!おいデーモン俺の言う事を聞け!復讐した……」
デーモンは召喚者の首をもぎ取った。
「偉そうな人間ですね。私達デーモンを従えたくば受肉させてはダメでしょう…精神体で召喚するのが基本なのですがぁ…この人は馬鹿だったみたいですね」
デーモンは部屋の外に出て、空を見上げた。
「クックック…忌まわしき光の神子…貴方に復讐する機会が回ってきたようだ…!あの時はアマンダの命と引き換えに受肉体を消滅させられ、悪魔界に撤退を余儀なくされましたが、今度こそ上手くやりましょう…クックック…あぁ…楽しみだ…」
そう言い両手を挙げた。
「まずは、同胞達を受肉させましょう。近くの集落を襲い、人間の肉を使うのが良いでしょうか」
不気味な影はゆっくりとミアレスに近づいていた。
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