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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第三章 ミアレス聖国
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第23話 アレクの暴走

 

 修練の間にギャラリーが揃う。


「準備はよろしいかな?灰色の魔術師どの?」


 エルハム枢機卿がニヤニヤしながらエマに聞いた。


「気持ち悪いから話しかけないで」

「なっ…クソガキがっ」


 エマが死んだ目でエルハムを見る。こ、怖い。エマってあんな目できたんだ。

 普段はホワホワしてる癒し系担当なのに…相当キレてるな。


「その態度がいつまで続くかな?さぁ!私が選出した戦士"たち"です!」


 たち?

 エルハムの言葉を聞き、3人の戦士が前に出た。魔術師2人に剣士1人だ。


「エルハム枢機卿!それは卑怯では!」


 3対1の状況に神子が言った。


「私は選出すると言っただけです。1人だけとは言ってませんが。今更なしなんてないですよ?」


 エルハムはニヤリと笑っていた。屁理屈だな。神子は心配そうにエマを見る。


「エマなら大丈夫ですよ。心配しないで」

「そ、そうですか…?」


 俺は神子に耳打ちした。逆に3対1でエマに勝てると思っているのかあのデブ。


「エマ様もよろしいですか…?」

「かまいません」

「で、では、防御魔術を張ってください」


 神子付きの魔術師が5人がかりで強力な防御魔術を張った。


「神子様に負けず劣らずの美貌ですな!あの自称魔剣士には勿体ない女性だ!どうだね灰色の魔術師!この試合が終われば私の屋敷の侍女にならんかね?」


 エマにエルハムがそう言った。

 エルハムは好色で有名らしい。侍女にすら手を出すとか。下卑た笑みがその性格を滲み出している。

 俺の目にはその笑みがランガンの顔と重なった。ドス黒い感情が溢れてくる。


「お断りします。気持ち悪いので。早く始めましょう」


 エマはエルハムを見ることもせず勝負の開始を催促した。


「殺しはしてはなりません!それでは、はじめ!!」


 神子の掛け声と共に、剣士が飛び出した。


「少し痛いぞ!我慢しろよ!」


 そう言い剣士は剣を振り下ろした。エマは動かない。


「なんだこれは!」


 剣はエマを捉えた様に見えた。しかし、エマは蒸気となって消えた。


「上級水魔術『ミラージュ』」


 水魔術で自分の分身を作る魔術だ。剣士の周囲には無数のエマの分身がいる。


「本物以外は動くことができない!そこでじっとしてろ!」『ホーリー・レイ』!」


 そう言って後方にいた魔術師は聖魔術の光線でエマの分身を全て壊した。


「どこにもいない!?」


 剣士の周囲にエマはいなかった。


「後ろだ!!」


 剣士は魔術師に警告する。しかし、時すでに遅し。


「上級岩魔術『ロック・ロック』」

「ぐわぁっ…!!」


 エマは岩魔術で1人の魔術師を拘束し、戦闘不能にした。残るは2人。


「くそっ!『ホーリー・レイ』」

「『ウォーター・ウォール』」


 光の光線に対してエマは水の壁を張った。光は水の中で屈折し、エマには当たらない。敵の魔術師は火魔術を使い水の壁を蒸発させた。


「今だ!」

「鷹剣流『疾風』!」


 水の壁を魔術師が壊し、剣士が一気に肉薄した。


「もらった!!」


「エマ様!!」

「大丈夫ですよ。遅すぎる」


 心配する神子に俺は大丈夫だと伝えた。

 俺達はもっと速い男を知っている。


「ぐへぇ!?」

「カルマの方が数倍速いね」


 蒸気が晴れると、そこにはエマの強化された拳が剣士の鳩尾にめり込んでいた。しかも、風魔術を纏わして。あれは効いたな。


「うぅ…」

「おい!」


 剣士はそのまま倒れた。

 残るは1人。魔術師のみ。


「貴様!調子に乗るなよ!上級火魔術『ヘル・フレア』!!」


 おいおい、ヘルフレアは簡単に人を殺せるぞ。まぁ、普通の人だったらな。


「私は怒ってるんだ。アレクの努力も知らないで、今までどんな思いで戦ってきたか知らないで。今回も貴方達の為に危険を承知で来たのに。アレクがどんな思いで来たか…。それがこの仕打ち…。許さない」

「なぜ!?」


 エマは全身に暴風を纏わせ火の中から出てきた。傷1つ付いていない。目には怒りが見える。


「超級風魔術『ヘル・ストーム』」

「エマ!?殺す気か!!」


 イグナスは叫んだ。

 エマは超級風魔術を放った。確実に相手は死ぬ威力だ。しかし、エマが放った風魔術は魔術師の寸前で消失した。


「殺そうと思ったけど、それじゃ反則になっちゃうからね。この位でやめてあげるよ」


 緻密な魔力操作。発動させた魔術をギリギリで消すなんて、俺でもできない。


 超級の魔術で死を覚悟していた魔術師はそのまま泡を吹いて倒れ気を失っていた。


「しょ、勝者!灰色の魔術師エマ!!」


 修練の間が静まり返る。聖騎士の精鋭3人を相手にして、無傷で勝利してしまった。


 エマはキメラとの戦闘でその力は大幅にアップしていた。魔力量もすでに俺と並んでいる。魔力操作の技術は俺より上だ。


「さすがだな、余裕だったな」

「余裕だったね。聖騎士もあの程度だよ」


 俺達はエルハムに聞こえる様に話した。

 エルハムの顔は次第に真っ赤になっていった。爆発寸前だな。


「ははっ…灰色の魔術師はどうやら本物の様ですね…。ですが、自称魔剣士の化けの皮は剥ぎましょう」


 エルハムが何か言っているが俺は気にせず、前に出た。


「さぁ行きなさい!精鋭たちよ!」


 そう言って前に出てきたのは聖騎士8人。さすがにやり過ぎだろ。

 剣士5人に魔術師3人だ。


「余裕だね」

「ああ」


 俺達の周りに防御魔術が張られる。


「死んでも文句言うなよ?」


 全力の殺気を目の前の聖騎士達に放った。


「ひっ…なんだ…こいつ」


 聖騎士たちは萎縮した。


 俺の中でふつふつと怒りが湧き上がる。ただでさえ今日はイラついていた。

 先生に騙され半ば無理矢理デーモン討伐に参加させられて、謁見の間では嘲笑の対象にされ、デブ司祭の下卑た笑みで嫌な記憶を思い出した。

 俺の中でドス黒い感情が体を支配する。


「それでは!はじめ!!」

「先手必勝だ!!!」


 神子の合図とともに剣士達は全員動き出した。


属性付与(エンチャント):火』

「我流『龍牙一閃』」


 拡張した燃え上がる横薙ぎの一閃が、迫ってきた聖騎士を全員斬り伏せる。


「な、なにが!?魔剣!?」

「違う、あれはアレクサンダーが自身の剣に属性を付与したんだ。魔力を帯びている魔剣とはちがう」


 困惑するギャラリーにイグナスが説明した。初めて魔術と剣術を扱う人間を見て、ギャラリーは固まっていた。


「あとは魔術師だけか…」

「や、やれ!!」


 魔術師が各々の魔術を放ってきた。

 それら全てが俺に直撃する。


「よし!ざまぁみろ!」


 爆炎が立ち昇る。しかし、それは敵の魔術師の物ではない。

 エマがした事と同じことだ。俺は全身に火を纏わせ、無傷で凌いだ。

 そして俺は、凄まじい量の魔力を解放した。防御魔術内は俺の魔力で満たされ。敵の魔術師を圧迫した。


「すぐ終わらせるよ」

 〔パチンッ〕


 そう言って俺は、指を鳴らした。2人の魔術師の顔の前に、爆裂魔術が発動した。

 魔術師はまるで殴られたように吹き飛び、防御魔術に激突した。


 残る1人を睨む。


「ひぃ…」

「…」


 俺は真顔で魔術を発動した。


「超級火魔術『バーン・フレア・バースト』」


 防御魔術内を満たしていた魔力が全て火魔術に変わり、巨大な火柱が立ち上がった。敵の魔術師はすでに気絶している。


「こ、これは…!神子様離れてください!!防御魔術が持ちません!!」

「え?」


 防御魔術は破られ修練の間に爆煙が舞う。ギャラリーは後方へ吹き飛ばされる。


「みなさん!大丈夫ですか!?」


 〔ガキンッ!!!!〕


 金属が強くぶつかり合う音が響き渡った。

 爆煙が晴れると、俺は剣を振り抜こうとしたが、イグナスに止められていた。剣の先にはエルハム。


 俺は防御魔術が破れたのを確認して、エルハムに斬りかかった。こいつはダメだ。

 ランガンの下卑た笑みとエルハムの顔が重なる。こいつを殺さなければエマに何をするかわからない。


「退けよ、イグナス」

「とうとう呼び捨てかよ…!」

「退けって」

「やめろ!アレクサンダー!おまえはエマの事になると異常な程に短気すぎる!そこをデーモンにつけ込まれるぞ!!己を律せ!!」


 デーモンに付け込まれる。その言葉を聞き次第に落ち着きを取り戻していった。


「ふぅ…すまない、イグナス先生」

「落ち着いてよかった」


 俺は剣を鞘に納めた。


「勝者!忘却の魔剣士アレクサンダー!」


 神子が勝利を宣言した。


「こ、この不敬なガキを捕らえろ!私は殺されかけたのだ!」


 エルハムは叫び狂っている。


「捕えられるのは貴方ですよ。エルハム枢機卿。今回ばかりは容認できません。卑怯な手で相手を負かそうとしたにも関わらず、お2人に手も足もでないとは。この者を捕え牢屋に入れておきなさい」

「「はっ!!」」


 神子お付の騎士がエルハムを捕え連れていった。

 連れていかれる間もエルハムは叫び狂っていた。


「アレク…大丈夫…?」

「ああ、大丈夫。もう落ち着いたよ」

「そう…」


 別にエマに対してなにかした訳じゃなかった、でも、抑えきれなかった…負の感情が溢れる。


「イグナス先生、ありがとう。先生がいなければ俺はエルハムを殺していた…」

「おー?気にすんな、生徒の暴走を止めるのも先生の役目だ」

「おう…」


 イグナスは神子の元へ行った。俺はエマとさっきの戦いの反省をしていた。


「ミラージュ便利だな」

「まぁ、分身は動かないから囮程度にしかならないけどね。超級火魔術はやりすぎだよ!」

「エマも超級使っただろ。俺も当てる気はなかった」

「ほんとにー?」


「アレクサンダー、ちょっと来い」


 他愛もない話しをしているとイグナスに呼ばれた。


「なに?」

「神子が話があるってよ」

「そうか…なっ…!?」


 そう言い神子の目の前に立つと足元に魔法陣が展開された。


「アレク!?先生!なにしてるの!?」

「見てろ」


 展開された魔法陣は聖属性、魔を払う効果がある。


「ガァッ!?」


 俺の体から瘴気が溢れ出した。いつの間に瘴気が…。今回感情が抑えきれなかったのは瘴気のせいか。


 溢れ出した瘴気は聖属性の光によって消滅した。


「はぁ、はぁ、はぁ…瘴気…」

「やっぱりな、さっきの戦闘明らかにお前の様子がおかしかった。これは聖属性の強化を急ぐ必要がありそうだ」


 聖属性を強化すれば精神が汚されることを防ぐことができる。いつの間に瘴気に当てられたんだ…?


「アレク…!もう大丈夫?なんともない?」

「あ、ああ…意外と自分じゃ気付かないみたいだな」


 エマが心配そうに俺の顔を覗いてくる。この顔を見ていると落ち着くな。


「先生…俺の邪心ってなんだと思う…?」

「強すぎる殺意だ、普通の殺意なら瘴気に当てられることは無い。おまえはエマに対して過保護すぎる。何かあってもエマだったら対処できるだろ」

「過保護すぎる…のか…」

「私は…それでアレクがあんな目をしてしまうなら、嫌だな…だから、もっと私を信じても大丈夫だよ?」


 信じるか。俺はエマを信じてる。背中を預けられる存在だ。でも、俺のこれはおそらく戦闘においての信用じゃないだろう…。


「信じてるよ。もう大丈夫だ」

「うん!」

「アレクサンダー、おまえは瘴気に当てられてしまった。これからは常に気を強くもて。隙を見せるな」

「はい」

「お、敬語使ったなー」

「もう辞めた」

「あっそ」


 俺達は修練の間を後し、光の神子と談話室へ向かった。


第23話ご閲覧ありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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