第22話 ミアレス聖国
〜ミアレス聖国へ出発の日〜
「おー、おまえら集まったなー」
「先生が1番最後だ」
俺達はミアレス聖国に行くため、街の門にいた。今は馬車を待っている。
「ミアレス聖国ってどんくらいで着く?」
「えっとー、3日かなー?」
「マジかよ、レディアより近いじゃん」
「レディアってそんな田舎なんだね…」
エマが少しショックを受けている。すると、後ろから声が聞こえた。
「今日から寂しくなります…」
「楽しんでこいよ!」
ソフィアとカルマが見送りに来てくれた。
カルマはしばらく故郷へ帰るそうだが、ソフィアは学校に通いながら、フリークエストをこなすらしい。
「おー、馬車が来たなー」
「んじゃ!いってくるよ!」
「いってきまーす!ソフィア!カルマ!またね!」
俺とエマはカルマとソフィアに手を振る。
「お体に気をつけて!」
「強くなってこいよー!」
カルマとソフィアは馬車が見えなくなるまで見送ってくれた。
◇◇◇
「イグナス先生はミアレスは結構行くの?」
エマが眠そうなイグナスに話しかけた。
「あー、月に3回くらいはいくな」
「そんなに行くの?」
「俺のこの聖剣はなー、なんか聖属性のスゲー力があるみたいでな?ミアレスで俺はイグナシアよりも丁重にもてなされるんだよ。すげーだろ」
「それ凄いの剣じゃないの?」
エマの的確なツッコミにイグナスが落ち込む。
「エマ、聖剣を扱うには勇者の末裔ってだけじゃダメなんだ。それなりに強くないと扱えない」
「それなりにってなんだよ」
「だって、イグナス先生の剣の腕しらないし」
「それもそうだなー」
他愛もない会話をしながら道を行く。
「こないだの出張も、ミアレスに行ってたんだー」
「へぇー」
「興味無さすぎだろ、冷たいなぁ」
おっさんの旅行話なんて聞いても面白くない。
「アレクサンダー、エマ。この話は真面目な話だ。」
いつもの気だるそうな雰囲気ではなくなった。マジメなときだ。
「俺がこないだミアレスに行ったときに光の神子から、ある予言を受けた」
「光の神子?予言?」
「ミアレスには光の神子と呼ばれる人物がいる。その人は立場的に国王に近い。この国に王はおらず、崇める女神ミアレスが国を治めるってことになってる。」
「予言ってのは?」
「予言は光の神子に与えられる天啓。と言うのが表向きだが、その実、光の神子の特性だ。」
光の神子ってのは予言者だったのか。
だったら、俺が見た光景についてもわかるかもしれない。
「イグナス先生が聞いた予言は?」
「『黒き月が登る頃、ミアレスに危機が訪れる。イグナシアに現れし忘却の魔剣士と灰色の魔術師がミアレスを救う』だ」
「…まんまだな」
「忘却の魔剣士?アレクの記憶喪失が忘却ってことかな?灰色の魔術師は私の髪色のこと?」
「そうだ、魔剣士なんて俺が知る中でアレクサンダーしかいない。忘却ってのも一致する。それにいつも一緒にいるエマは灰色の髪で、魔術師だ。」
俺達がミアレス聖国を救う?
「先生は特訓って名目で俺達を借り出したわけだ」
「そう言うな、特訓ってのも嘘じゃない。ミアレスは聖属性の強化を重視している。特有の訓練方法があるから、それをすればお前たちも強化できるだろう」
「なるほど」
特訓自体は嘘じゃなかったのか。
なにかが腑に落ちない。
黒き月…
「先生、黒き月ってのはなんだ」
「かつて、魔神が世界を混乱に陥れたとき、その配下であるデーモンはある紋様の旗を掲げた。黒き月に巨大な目玉。黒き月とはおそらくデーモンのことだ。」
「帰るぞ、エマ」
「え!?」
おかしい、デーモンに対抗する力を身に付ける為にミアレス聖国に行くのに、なんで逆にデーモンの元へ向かうんだ。
「ダメだ!」
「なぜ!?俺だけなら良い!エマは置いていく!」
「エマも連れて行く!予言は灰色の魔術師も必要だと言っているんだ!」
「…光の神子の予言の的中率は?」
「100%だ」
100%…俺がなにをしようとミアレスに行くのか…
「はぁ…わかった。どちらにしろ聖属性は強化しないといけないんだ…」
「アレク…私は大丈夫だよ?頑張ろうね」
「騙すような真似をして悪かった…お前達は俺の命に賭けても守る」
「やめてくれ、イグナス先生らしくもない」
でも、なんでイグナスはここまでミアレスに必死になるんだろうか。
いつものイグナスなら生徒の信頼を裏切るようなことはしないはずだ。
3日後俺達はミアレス聖国に着いた。
〜ミアレス聖国:とある一室〜
「忘却の魔剣士と灰色の魔術師がもうすぐ到着します」
そう言うのは桜色の髪に桜色の瞳、齢12歳の女性。名はアリア・ミアレス。現代の光の神子である。
「お迎えの準備を、私も出迎えます…ゴホッゴホッ…」
「無理はいけません!神子様…どうかお休みになってください。」
「なりません…お2人はこの国の救世主です…」
光の神子、アリア・ミアレスは侍女に支えられ、部屋を出た。
〜ミアレス聖国:中央都市アルガン〜
「ここが中央都市アルガンか」
中央都市アルガン、ミアレス聖国の中心にして、光の神子が住まう都市である。
自然と一体化したように都市が創られ、中央には一際目立つ塔がそびえ立っている。
「あの塔が女神の塔?イグナシア城より高いね」
エマは塔を見て感心している。俺はすこぶる不機嫌だ。イグナスに騙され、デーモンとの決戦があるかもしれない所に半ば無理矢理連れてこられた。
「アレクサンダー、いい加減機嫌直してくれよー」
「…」
「アレク…」
「俺は、デーモンの怖さを知っている。実際に会った訳じゃないがあの禍々しさは今の俺達じゃ歯が立たない。イグナスからしたらどうって事ない相手でもな」
「だからお前たちの予言を神子様に聞く権利を与えただろー」
俺達がこの仕事を受ける代わりにイグナスから光の神子とやらに予言してもらえる権利を貰った。この街に入るのもほぼ国賓のような扱いだ。息が詰まりそうだ。
「エマ、どこか行きたいとこあるか?」
「お腹空いた!」
「とゆーわけだ、先生すまないが俺達はアルガンを適当に散策して息抜きするよ」
「おー、謁見の時間までには戻ってこいよー」
俺とエマは街でレストランを探しに出かけた。
「ミアレスの料理はおいしいらしいよ!」
「その情報どこて仕入れたんだよ」
「あのレストラン行ってみよ!」
エマに引っ張られるがままアルガンの街を楽しんだ。
この後は光の神子と謁見なんていう堅苦しいものがある。今楽しんでおいておかないとな。
その後、エマは5件のレストランをハシゴした。
〜女神の塔:謁見の間入口〜
「うぅ…気持ち悪いよぉ…」
「食い過ぎだ」
気持ち悪いと言うエマの背中を摩りながら、入室の許可を待つ。
イグナスの姿はない。どうやら先に謁見の間にいるようだ。
「アレクサンダー様、エマ様、どうぞお入り下さい。」
メイドの格好をした女性が扉を開けた。
俺達は謁見の間に入る。
レッドカーペットが敷かれ、少し離れた両端には騎士たちが立っている。
レッドカーペットのその先、3段上の大きな玉座に座るのは、桜色の髪に桜色の瞳、歳は俺達とあまり変わらない美しい女性が座っていた。
俺達はレッドカーペットを進み、神子の目の前に着くと膝をついて、頭を下げた。
「お初にお目にかかります。光の神子様、忘却の魔剣士アレクサンダーでございます。」
「お初にお目にかかります。灰色の魔術師エマでございます。」
これはイグナスに言えと言われた口上だ。これが礼儀であり、自ら忘却の魔剣士と名乗ることで、予言のその人であると主張する為だそうだ。
自分で忘却の魔剣士って…小っ恥ずかしいことありゃしない。
エマも顔を赤くしている、恥ずかしいのだろう。
「「おぉ…」」
周りからは感嘆の声が漏れる。予言通りの人物が来たと思っているんだろう。
「顔を上げてください。よくぞおいでくださいました。私は、アリア・ミアレス。現代の光の神子です」
ミアレスは家名ではなく女神の使徒であることを表す称号のようなものらしい。
「今回、黒き月…つまりデーモンの侵攻があると天啓を与えられました。そして、忘却の魔剣士と灰色の魔術師が救うとも…。どうかお力添えをお願いします」
心地の良い声だ。それにこの美貌、民衆から好かれるというのも頷ける。
「神子様の願いとあらばなんなり…」
「少しお待ちいただきたい!!!」
俺が形式上の了承をしようとしたところ、横に並んでいる重鎮らしき人が声を上げた。
「神子様、お言葉でございますでしょうが、なんですかこの子供2人は。おい小僧たち、齢を述べよ」
なんだこの偉そうなおっさんは。こういう奴が1番嫌いだ。無理矢理連れてこられたことを思い出し、俺はイライラし始めた。
「共に10ですが…」
「10!?神子様よりも年下ではないか!こんなものが予言の者であるはずがありません。それに、魔術剣術を扱う魔剣士など夢物語ですよ。女神様の天啓も宛が外れてしまいましたな」
おいコイツ今、女神を貶したぞ。ミアレスを崇めているんじゃなかったか?
「エ、エルハム枢機卿!口を慎みたまえ!」
神子の横に居た中年の男が注意した。立場的に神子の父親ってとこか。なるほど、このデブ司祭はエルハム枢機卿と言うのか。
「はぁ、この様なガキにこの国が救われると…。自称魔剣士wwに灰色の魔術師とは名ばかりのただのハーフエルフ…冗談も程々にしてほしい。」
「あ?なんだおまえ」
「アレク!やめて!」
「その目はなんだ?嘘しかつけぬ愚かな小僧」
周りにいる偉そうな人たちがクスクスと笑う。俺の中で怒りと苛立ちがふつふつと湧き出す。こいつはいったい何が言いたいんだ。
神子の目の前でその言葉を否定し、隣国から招かれた客を蔑む。エルハム枢機卿とか言ったか?枢機卿なら神子の補佐的立ち位置だろ。
「エルハム枢機卿おやめなさい!」
神子の顔には焦りが見える。どうやら、エルハムは普段から問題があるようだ。そして、神子は俺達が予言の者と確信しているようだ。
相手の力量を見極める能力。神子はおそらく魔術師だな。
「お言葉ですが神子様。このような下賎なガキ共に任せずとも、私が顧問を務める聖騎士団であればデーモンの侵攻など止められましょう」
なるほどな、こいつは手柄を立てたいのか。手柄を立てるチャンスである、デーモンの侵攻。
他国から来た子供に手柄を横取りされてたまるか!そう顔に書いてある。
「口が過ぎるようだ。エルハム枢機卿」
玉座の後ろから姿を現したのはイグナスだった。いつものだらしない格好ではなくピシッと整っている。ちゃんとしてたらただのカッコイイおっさんなのに。
「おお、これはこれはイグナス様。無気の剣聖と呼ばれる貴方が今日はいつになく気力に溢れておられる」
「その2人は俺の生徒だ。十分力はある。貴方の騎士団を出さなくても問題ない」
イグナスはミアレス聖国では絶大な発言力を持っているらしい。ミアレス聖国からしたら聖剣は国宝級の物、その聖剣に選ばれたイグナス自身が人間国宝のようなものになっている。
「イグナス様の生徒なら尚更信用なりませんなぁ?貴方がデーモン討伐に手を貸し、生徒に手柄を譲る。なんてことになりませんからな」
「手柄を譲る…?手柄しか考えられない貴方と同じにしないで頂きたい」
イグナスも譲る気はないようだ。
てか、神子の予言が出ているならその通りになるだろうが。まぁ、表向きは天啓だったな。
「や、やめて…」
(ど、どうして…エルハム枢機卿は2人の強さがわからないの…?これでまだ発展途上だなんて…特に忘却の魔剣士様はもっと…)
上司が部下の暴走を止めれないのは問題だな。
「埒があきませんなぁ…イグナス様は余程自分の生徒に自信を持っておられようだ。ここは1つ戦わせて見ますか?」
「何を言っている」
「そのままの意味ですよ。こちらの部隊から代表者を選別しますので、自信があるのであれば戦ってみればその差は浮き彫りになるでしょう。どうですか?」
エルハムはニヤニヤしながらイグナスに提案している。よほどの自信だ、誘っているのだろう。
チラッとイグナスが俺を見てきた。
「いいですよ」
「はっはっは!勇敢と無謀は違うと教えよう!宜しいですよね!神子様?」
神子が俺を見る。
心配している。俺たちではなく、戦うことになる騎士を。俺は頷いた。
「わかりました。女神ミアレスの天啓に納得できないと言うのなら、思う存分戦いなさい。ただし、エルハム枢機卿。貴方の部隊が無様にも敗北した際は、それ相応の報いを受けていただきます」
「結構。我々が勝てばこの小僧共には帰っていただきます」
めんどくさいことに決闘が始まってしまうようだ。
◇◇◇
〜女神の塔:修練の間〜
「広いな…」
「真っ白だね…」
修練の間に入ったがそこはすごく広くて真っ白い空間だった。
「ここは女神の塔の太さ分の面積があります。」
後ろから話しかけてきたのは光の神子アリア・ミアレスだ。
「先程の謁見の間でのエルハムの所業、誠に申し訳ありませんでした…このようなことになってしまい貴方達には迷惑を…」
「気にしないで下さい、神子様。子供ということで舐められたり、魔剣士と名乗って笑われることには慣れていますので。」
「あそこまで敵意剥き出しにしなくていいのにねー、子供扱いされるのはまだ良いけど、アレクのこと皆で馬鹿にしたのは許せない」
珍しくエマがご立腹だ。
確かに、エルハムの発言で俺は嘲笑の対象になったな。周りからはクスクス笑われていた、自称魔剣士、その目で見ないと信じれないんだろ。
修練の間に続々と人が集まってきた。最後に、エルハム枢機卿の聖騎士団が入り扉が閉じた。
「どういう風に戦うんだ?」
俺はイグナスに聞いた。
「アレクサンダーとエマは1人でエルハム枢機卿が選出した聖騎士と戦う。騎士と言えど中には魔術師もいるぞ。最初はエマ、その後にアレクサンダーだ。エルハム枢機卿は口だけではない。油断するな」
聖騎士の実力も伊達じゃないってか。
お互いの準備が整った。
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次話をお楽しみに!




