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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第二章 冒険者学校 その1
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第21話 カルマの恋人

 

「ア、アレク…ちょっといいか…?」


 俺を呼ぶのは深紅の髪で俺と同じ黄色の瞳をした男、カルマだ。頬を赤らめ、俺を呼ぶ。何事だ。


「どうした?」

「お、おまえに相談があるんだ…部屋に入っていいか…?」

「あ、ああ…」


 俺の部屋にカルマを迎え入れる。カルマはずっとモジモジしている。


「んで、相談て?」

「それは…その…」


 なんだ?こんな歯切れの悪いカルマは初めてだ。


「はっきり言えよ、どんな話でも聞いてやるから」

「ア、アレク…」


 涙目で俺を見てくる、小便でも漏らしたか?


「どうした?」

「その…女性への贈り物を一緒に選んで欲しいんだ…」

「は?」


 俺の聞き間違いか?カルマが贈り物?女性へ?


「だから、女性へ贈り物をだな…」

「その女性って誰?まさか、ソフィア!?いつの間にそんな関係に!?」

「ちがう!ちがう!ソフィアじゃない!」


 ソフィアじゃない…?

 ほぼ毎日カルマと一緒にいるが、カルマが女性と一緒にいる所なんてエマとソフィアぐらいしか……。


「カルマ、場合によってはお前を殺さなければならなくなる…心して答えろ」

「ちょっ…ちがう!エマでもない!」

「そ、そうかならいいんだ」


 エマでもない、全く心当たりがないな。


「アレクは知らない人だ」

「おまえ、そんなに異性に飢えてたのか…?」

「妄想じゃない!いい加減にしてくれ!」

「すまん、からかいすぎたな」


 怒らせてしまった。


「俺の故郷に、恋人がいるんだ」

「おっと、好きな幼馴染とかじゃなくて、もう既に恋人か」


 なんだこのなんとも言えない敗北感は…。


「名前はファナ。俺と同い年で、鷹剣流の剣術を習っているんだ。俺が故郷を出る時に、ファナに告白されて恋人になった」

「剣術を習っているのか?」

「ああ、正直、才能はない…でも、一生懸命頑張る彼女を見ていると、こっちも頑張ろうと思えるんだ」


 その気持ちはわかる、魔術を覚えようと必死に努力するエマを見て俺も元気をもらっていた。


「惚気か?」

「みたいなもんだ、正直、アレクとエマを見ていると羨ましい。いつも一緒でお互いを助け合っている」

「俺は家で帰りを待ってくれてるってのも良いけどなぁ」

「それもいいな」


 ファナの話をしている時のカルマの表情は優しい。カルマの表情は気分が高ぶった時によく出る。

 今はファナを思い出して懐かしんでいるのだろう。


「それで?ファナに贈り物か?」

「ああ、アレクとエマがミアレスに行く時、俺も2週間ほど休みを貰ったんだ。ファナは村から出たことなくて、王都に行きたいってよく言ってた。だから、せっかく故郷に戻るから、なにかお土産をって思ったんだ。」


 確か、カルマの村は辺境で王都を往復するのに、危険が多いらしい。


「なるほどな、でもなんで俺なんだ?ソフィアとエマにも協力してもらえばいいだろ」

「アレクなら的確な物を一緒に探してくれそうだと思ってな」


 なんだその俺に対する絶対的信頼。俺はエマが欲しいって言ったものしか買ってないから女性が欲しいものなんてわからん。


「アレクはモテるからな、女性心をわかってそうだ」

「俺がモテる?何言ってんだ、エマ以外で俺を想ってくれるやつなんていないだろ」

「本気で言っているのか…?」

「本気も何も事実だろ」

  (エマの気持ちにはちゃんと気付いてるのにな…ソフィアは苦労しそうだ…)


「ま、まぁ、アレクもエマになにか贈るって考えて買い物付き合ってくれないか?」

「まぁ、役に立たんと思うが、いいぞ付き合うよ」

「明日の朝寮のロビーで待っていてくれ」


 そう言うとカルマは部屋から出ていった。カルマには俺がモテてるように見えるのか。

 意外とモテてるのか?いや、話しかけられないもんなぁ。カルマには恋人かぁ…なんかテンション下がってきた。


 〜翌朝〜


 私服に着替えロビーに行くとカルマはもう来ていた。


「よーカルマ、早速行こうぜ」

「おう、よろしく頼む」


 俺達は街へ繰り出した。せっかくだからなにかエマへプレゼントするか。


「なぁカルマ、ファナってどんな子なんだ?」

「どんな子か…そうだな、剣が好きだな」

「剣が好き?戦うのが好きなのか?」

「いや、見るのが好きなんだ。剣が出来上がる過程も剣を振った時に見える太刀筋も」

「出来上がる過程?」

「ああ、ファナの家は鍛冶屋なんだ。ファナは鍛冶師になることを夢見てる」


 なるほど、剣で戦うのが好きなんじゃなくて、剣そのものが好きなのか、変わってるな。


「ん?鷹剣流を習ってるって言わなかったか?」

「習ってる。ファナ曰く「剣を知るには、剣士になるしかない」らしい」

「なんだそれ」

「まぁ、変わってるんだ。だから、剣士って訳じゃない」


 ふむ、普通の女の子ではないと。夢は鍛冶師で剣を知るために剣術を習っていると、そして剣士の才能はないと。


「俺のこの剣は、ファナの祖父が打った物だ。過去最高の出来だったらしい。超級になった時に貰い受けた。そう言えば、アレクの剣とよく似ている」

「そう言えばそうだな。俺のは真っ黒だが。よく似ている」

「これはファナの祖父が『刀』と言う剣を模して作ったらしいんだ。歴史に刀なんて武器は存在していなかった、想像で作ったのか、どこからか伝え聞いたのか定かじゃない。こんな偶然があるのか?」

「かたな?聞いたことないな。この剣については俺が記憶を失う前から持っていた物なんだ、詳しくは俺もわからん」


 まさか、この剣がカルマと色々繋がっているとは思わなかったな。カルマの故郷、一度行ってみたいな。


「まーなんにせよ、剣が大好きってことだろ?剣が好きな人に魔術本とか贈らなければ大丈夫だろ」

「それが…ファナには魔術の才能があるんだ」

「なんだそれ、本人は気付いてるのか?」

「ああ、魔術の才能があると伝えたら、大喜びだ。『魔剣を創れる』ってな」


 魔剣か…魔力を帯びた剣、現存するものは世界に10本程だとか。


「ファナの言う魔剣はちょっと違うんだ。魔力を帯びた剣じゃなくて、魔力を内包できる剣なんだ」

「へぇ、俺の剣みたいだな」

「確かに、アレクの剣はファナの思う剣に1番近いだろうな」


 そう言うとカルマの顔がハッとした。


「この剣はあげないぞ!?」

「いらないよ!その黒剣の事をファナに話しても大丈夫か?」

「なにも問題ないけど」

「ありがとう!良い土産話ができた!」


 おいおい、まさか土産話だけで終わらすつもりか?


「よし!これで土産はできた!」

「おい!ちゃんとした物のお土産も買って帰れ、ファナを喜ばしたいならな」

「そ、そうか…」


 カルマってどこか抜けてるんだよなぁ。


「ここにしよう」


 そう言って立ち止まったのは宝石店。あらゆる石を売っている店だ。店に入ると煌びやかな宝石が並んでいる。


「ア、アレク…ファナは鍛冶の邪魔になるっていってあまりアクセサリーは身につけないんだ」

「ちげーよ、ただのアクセサリーを見に来たんじゃない、あれ見ろ」


 俺が指さした所には魔力石が置かれている。

 魔力石とは読んで字のごとく、魔力を含んだ石のことだ。多くは魔導袋のような魔導具を作るのに使われる。

 魔力石の魔力は魔術師が感じ取ることができ、相性が良ければ魔力を強化する効果を発揮するものもある。


「魔力石…」

「カルマには特に必要ないものだろうが、ファナには魔力があるんだろ?なら、なにかしら使い道があるだろ」

「やっぱり、アレクに相談して正解だったよ!」


 カルマは正解を得たような顔をし、微笑んだ。良い顔だ。


「カルマは魔力を感じないだろ?俺が変わりに選んでやるよ。魔力石の相性は性格に依存する。ファナがどんな女性か教えてくれ」

「ああ、本当にありがとう。アレク」


 カルマは礼を言うとファナについて語り始めた。幼い頃の思い出、印象に残っている出来事、彼女の好きなところ…。

 カルマがどれだけファナを愛しているかよくわかった。


「これだな」

「紅の魔力石…」

「ファナは一切アクセサリーを付けていないのか?」

「いや、俺が昔、行商人から譲り受けたペンダントを常に身につけてる」

「なら、ペンダントだな。これをあの店員に持っていってペンダントに加工してもらえ」

「ああ!」


 カルマは店員の所へ走っていった。


「…これかな」


 俺は1つの魔力石を手に取り店員に持っていった。


 ◇◇◇


「アレク、今日は本当にありがとう。おまえがいなかったらこんな贈り物は思いつかなかった」

「良いってことよ、これはカルマへの日頃の恩返しだ。黒剣の事はいくらでも話していいぞ、俺の無くした記憶にも繋がるかもしれない」

「ああ…!いつか、アレクを村に招待するよ!その時はファナに紹介させてくれ。俺の最高の親友だって」

「照れるじゃねーか、やめてくれ」


 2人で笑いながら、帰路についた。


 〜その晩〜


「エマ、ちょっといいか? 」


 寮の共有スペースで寛ぐエマを見つけた俺はエマを呼び出した。


「なに?そう言えば今日は訓練場いなかったね!」

「ああ、カルマの野暮用に付き合っててな」

「そうなんだ!それで、どうしたの?」


 俺はポケットから小さな箱を出し、その箱から指輪を取り出した。そして、エマの右手の中指に嵌めた。

 小さな翠色の魔力石が嵌められた細い指輪。


「うわぁ…!綺麗…」

「翠色の魔力石が嵌められてる。エマに合うと思った魔力石。どう?」

「うん…魔力石から力が流れてくるよ…風魔術強化の効果があるね!」

「よかった、ちゃんと相性が良かったみたいだ」

「うん!アレクには魔力石を選ぶセンスがあるみたい!」


 素直に嬉しい言葉だ。


「カルマが恋人にお土産を買うのを付き合ったんだ。カルマの恋人は魔術の才能があるらしいから、魔力石がいいんじゃないかって思ってな。」

「カルマ恋人いるの!?」

「ああ、すごく愛してるみたいだ。カルマは魔力を感じれないから、俺が代わりに選んだんだ。カルマのファナへの想いを聞きながら」

「ファナって言うんだ…いつか会ってみたいね!」


 エマはそう言い微笑んだ。

 贈り物も喜んで貰えたみたいでよかった。カルマも上手くいくといいな。


 〜1週間後、タカハシ村〜


「すごい!魔力が流れてくる…これは、物体の熱を調整する効果…?私にピッタリ!ありがとう、カルマ!大好き!」

「どういたしまして、ファナ」

「あれ?でも、カルマって魔力感じれないんじゃなかった?」

「ああ、だから友人に選んでもらったんだ。俺のファナへの想いを聞きながらまるで自分の事のように思い選んでくれた。やっぱり自分で選んだ方がよかったか?」

「ううん、選んだのは彼でも、この石にはカルマの気持ちが沢山詰まってる。良い友人を持ったんだね。いつか紹介してね?」


「うん、いつか紹介するよ!俺の最高の親友を!」


第21話ご閲覧いただきありがとうございます!


気に入って頂けたらブックマーク登録よろしくお願いします!


次話から新章です!お楽しみに!

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