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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第十章 新婚編 エマver
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第130話 始まりの場所で

 

 今日は成人の式典だ。

 人生の一大イベントであるはずの成人の式典だが、みんないつもと変わらない。俺はそういうイベントには疎い為、何をするか分からないが成人の式典って言うぐらいだからみんな気合いが入ってるっておもでたんだが、そうでもないようだ。


「式典と言っても、お父様から言葉を貰い、記念品を頂くだけですから。中には参加しない方もいらっしゃいます」


 と、ソフィアは教えてくれた。参加しなくていいなら俺もと思ったが、成人代表で記念品を受け取らないといけないらしい。


「成人の式典が終わったら直ぐに籍を入れるのですか?」


 ソフィアがソワソワしながら聞いてきた。


「いや、直ぐではないな。然るべき手順を踏んでから籍を入れるよ」


「然るべき手順?」


「そう、来年はソフィアにもする事だ」


 俺が何を言いたいのか察したのか、ソフィアは顔を赤くして笑った。


「楽しみにしてます!」


「おう」


 一夫多妻が許されたとしても、一度に2人娶ることは禁止されている。つまり、婚約者が2人居たとしても、1年は間を空けないといけない。ソフィアには1年待つことで了承してもらっている。


「お待たせー!!」


 ドレスに身を包んだエマが自分の部屋から出てきた。相変わらず綺麗だ。


「すまない、少し遅れた」

「ごめーん!準備に手間取っちゃって!」


 準備を終えたカルマとファナも合流した。ちなみにこの2人は成人の式典の後直ぐに籍を入れに行くらしい。相変わらず仲のよろしいことで。


「それじゃ、行くか」


 俺達は会場へ向かった。

 成人の式典は滞りなく進んだ。途中、立派になったソフィアの姿を見て、ヨハネス国王が号泣するというハプニングはあったが、無事成人の式典を終え、俺達は大人になった。


 ◇◇◇


 さて、ソフィアに話した然るべき手順だが、結婚する為には何が必要か。そう、プロポーズだ。

 シリウスのように強引に入籍すれば後でどんな歪みが生まれるかわからない。しっかり想いを伝え、相手の了承を得て、結婚へと踏み入るのだ。


 という訳で俺とエマはレディアに居る。


「急にレディアに行きたいなんてどうしたの?」


「ラルトさん達も近々引っ越すし、最後にあの家を見ときたいだろ?」


「そうだね!」


 と言うのは表向きだ。もちろんプロポーズの計画を立てている。


 家に着くと、玄関の前でアイリスがソワソワしていた。なにかあったのだろうか。

 すると、アイリスは俺達に気付いた。


「あ!!ほら!!エマお姉ちゃんとアレクお兄ちゃん!!」


 どうやら予言で俺達が来るのを知っていたらしい。


「おかえりなさい、エマ、アレク」


「ただいま」


 玄関を開けるとミシアが笑顔で迎え入れてくれた。


「また急に帰ってきたね、どうしたんだい?」


 リビングでくつろいでいるラルトが話しかけてきた。猟師の仕事はもう辞めているらしくしばらく暇なようだ。


「ラルトさん達が引っ越す前にこの家に寄っておきたくて」


「なるほどねぇ、しばらく居るのかい?」


「うん!1週間ほどね!」


 冒険者活動はレディアでもできるし、しばらくスアレを空けていても問題はない。イグナスもシリウスもいるしな。


「もう籍は入れたの?」


 ミシアがド直球に聞いてきた。心臓に悪い…。


「まだだよー、私は早く入れよって言ったんだけど、アレクがまだやることがあるってー」


「あ…なるほどね…」


 ミシアとラルトは察したようだ。


「ほ、ほら!久々のレディアでしょ?少し外歩いてきたら?」


「えー、この家に居たいのにー」


「引き篭る気なの?たまにはいいじゃない」


「エマ、行こう」


「わかったー」


 エマは乗り気ではないが、ミシアは俺にウィンクした。ナイスアシストだが、1週間あるから急いでいるわけじゃないんだけど…。


「まずは、レディアの街を散策するか」


「そうだね!お腹空いた!」


 エマは食べることばっかだな…。

 俺達はレディアの街を散策する。すると、見慣れた顔が見えた。あれは…。


「エイダ!」


「あれ?アレクとエマじゃん、どうしたの?」


「それはこっちのセリフだ。しばらくはスアレにいるんじゃなかったのか?」


 確か、ザザを待つために1年はスアレに居るって言ってたよな。


「ザザが2週間ほどの長期クエストに行くから、ちょっと故郷に顔を出そうかなって」


「なるほどなー」


「お2人は?」


 俺は事情をエイダに話した。


「へー、一家総出で引っ越しなんて思い切ったね」


「お父さんも色々やる気みたいだし」


「ふーん、もう籍は入れたの?」


 なんでみんな同じこと聞くんだよ…。そんなに気になるか?


「まだ」


「えー!!早くしないとエマに逃げられるよ!?」


「うるせぇ、こっちのペースがあるんだよ」


「え、まさか…」


 エイダは俺の耳元まで近づいた。


「プロポーズしてないの…?」


「その為にレディアに来たんだよ…」


「なるほどね…」


 俺の本当の目的を理解してくれたようだ。


「ねー、私だけ除け者にしないでよー」


「あー、はは…ごめんね。じゃ、私、お父様の所に行かなきゃ!またね!」


 エイダはそのまま屋敷へと向かっていった。


「お父様だってよ。あれでも伯爵家の令嬢だもんな」


「そうだね。ねぇ、さっきエイダと何話してたの?」


 エマが頬を膨らましながら聞いてきた。こればかりは言えないな、


「世間話だよ」


「うそだ!なにか隠してる」


「よし、騎士団の所に行こう」


「ちょっと!!」


 騒ぐエマを他所に俺は騎士団へ向かった。


 ◇◇◇


「ここも相変わらずだな」


「変わんないね、師匠が爆裂魔術使っても元通りだもん」


 俺達は屋敷の門の前に立つ。


「ごめんくださーーい!!!」


 俺が大声で叫ぶと、屋敷の奥から人影が見えた。

 スキンヘッドで筋骨隆々とした見た目、この騎士団の隊長、ローガンだ。


「お?アレクにエマじゃないか、しばらくぶりだな」


「お久しぶりですローガンさん」

「久しぶり!!」


 ローガンとミーヤはエノリス群島から帰ってきて、挨拶したとき以来だな。

 案内されるがまま屋敷に上がった。休憩室に案内されるとミーヤがお茶を啜っていた。


「おや?知った魔力を感知したと思えば、やっぱり2人でしたか」


「久しぶり!師匠!」


「久しぶりです、エマ。随分腕を上げたようで」


 エマの魔力を感じ取ってか、冷や汗をかきかながらミーヤは言った。

 そう言うミーヤも中々に強くなってるみたいだ。纏う空気が変わっている。


「今日はどうしてここへ?結婚報告ですか?」


「みんな似たようなこと言うんだね…」


 事情を説明した。


「引っ越しの話でしたらラルトさんから聞いていますよ。寂しくなります。アイリスちゃんにも魔術の才能がありそうなのでワクワクしていたのですが…」


「俺達もちょくちょくスアレに行くから、その時は顔を出す。仲良くやれよ?」


「はい」


 すると、ミーヤがニヤリと笑い、俺の耳元まで近づいた。


「プロポーズ頑張って下さいね…」


「き、気づいてたんですか…」


 やはり、この人侮れない…。今の僅かな会話で俺の真の目的を当てた。

 さっきと似たような状況にエマが頬を膨らます。


「それでは、また顔を出します」


「おう!いつでも遊びに来いよ!」


「また会いましょう」


「バイバイ!!」


 俺達はローガンとミーヤに見送られ、騎士団を後にする。

 そろそろ頃合かな…。


「どこに行くの?」


「そうだなぁ、裏の森でも行ってみるか」


「森?どうして?」


「なんとなく」


 俺とエマは裏の森へと歩みを進めた。


 ◇◇◇


 この森は、俺にとってなによりも思い出深い場所だ。記憶を失くし目覚め、右も左もわからない状況でただひたすら歩き続けた。その果てに力尽き、死を覚悟した時、エマに出会ったんだ。

 ここが、俺とエマの始まりの場所。


「ここ、アレクが倒れてたとこだね」


「ああ、あの時は本当に死ぬと思ったよ」


「ビックリしたよ!子供がこんなとこでボロボロで倒れてるんだもん!」


 あの時はすぐ意識を失ったけど、その時のエマの声色はハッキリと覚えている。


「俺とエマはここで出会ったんだ」


「そうだね」


 懐かしむように頬を緩ます。俺はそんなエマの瞳を真っ直ぐ見る。


「エマ、俺の事好き?」


「当たり前じゃん、どうしたの?」


 エマは当然のように言い、首を傾げた。


「俺もエマが好きだよ。大好きだ」


「う、うん。なんか照れくさいな…」


 顔を赤くし、モジモジしている。そんなちょっとした仕草も愛おしくて堪らない。

 俺はその場で片膝を着き、エマの手を握った。


「あの日、エマは俺を見つけてくれた。暗闇だった俺の視界は、エマのおかげで照らされたんだ。だからさ、もしエマが暗闇に囚われてどうしようもなくなっても、必ず俺がエマを見つけに行くよ。"何度でも"」


 あれ…?この言葉…どこかで…。

 考えてた言葉じゃない。自然と口から出た言葉だ。


「エマ、俺と結婚してください」


 エマは驚いたように目を見開き、その瞳から一筋の涙を零す。


「はい…よろしくお願いします…」


 エマは涙を流しながら美しい笑顔を向ける。

 懐から出した、箱から指輪を取り出す。エマの右手の中指には昔贈った翠色の魔力石の指輪が嵌められている。

 今回は魔力石じゃない。翠色の控えめの宝石をあしらった細い指輪、それを左手の薬指に嵌める。

 嵌め終えると、エマが俺に抱きついてきた。


「アレク…大好き…」


「ああ、俺も…。ずっと一緒に居ような」


「うん…」


 俺の瞳からも涙が零れる。なんだろうか、この心の奥底から、無くした記憶から溢れるような涙。俺はずっと、ずっと、この時を待ちわびていた。


 そんな気がした。


 こうして、俺とエマは結婚した。


第130話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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