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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
132/137

第126話 転生

 

「「……!?」」


 〔ガタッ!!〕


「うわぁ!ビックリした!イグナス?シリウス?どうしたの?」


 家で待機をしていたイグナスとシリウスは"なにか"を感じ取り、同時に椅子から立ち上がった。アレイナはそんな2人を見て驚いている。


「シリウス…これは…」


「ああ…この感覚…何十年ぶりだ」


 2人は苦笑いしながらそんな事を話す。


「え、な、なに?」


「「新たな神域到達者が現れた」」


 神域に到達した者同士、シンパシーのようなものを感じる。それを感じ取るのは神域到達者が死んだ時、そして、神域到達者が現れた時のみ。

 このタイミングでの神域到達者の出現。2人は思わずにはいられなかった、それがアレクサンダーだと。


 ◇◇◇


 ~アルテナ島~


 アルテナは守護者の石版の前にいた。

 石版は薄く光を放ち、そこにとある名が刻まれていた。


「アレクサンダー…。13人目の守護者…?」


 唐突に現れたアレクサンダーの名前を見て、深く考え込む。


「そう言えば、ノーグは『本当は13人名前が載るはずだったのに』と言って頭を抱えておったのう。失敗だなんだと騒いでおったから印象に残っておったが…」


 そして、クスりと笑った。


「ノーグよ、どうやら失敗では無かったようじゃぞ?13個目の席はアレクの為にあったようじゃ」


 アルテナは目を閉じ、ノーグが1000年前話していた事を思い出す。


 ◆


『俺が神域に到達した時、変な夢を見たんだ』


『変な夢?』


『うん、デカい扉があって、中に入ると、デカい円卓があったんだ』


『ほう、円卓とな』


『席は13個あって、俺以外まだ誰も居なかった…。でも、自然とその席の1つが俺の物だって理解できたんだ』


『ふむ。神域に到達すると変な夢を見るんじゃな。なんせ神域到達者はノーグが初めてじゃ、わからんことも多い』


『そっか…。神域到達者…。あの席に座るのは選ばれた13人なんだろうね』


 ◆


「よくやった、アレク。じゃが、力を使いすぎたようじゃな…」


 アルテナはアレクとの力の繋がりが薄れていくのを感じる。


「どうか…無事でいてくれ…」


 アレクの無事を願い、アルテナは日常へと戻っていった。


 ◇◇◇


「勝ったぁ…」


 リヴァイアサンに勝った。天滅級に。俺がやったんだ。誰にも頼らず、俺だけの力で。

 だが…まぁ、そうなるよな…。


「ぐうっ…!!!」


 俺の体内で龍の力が暴れ狂っている。抑え込んでいた龍の力は解き放たれたように俺の体を全て侵食していく。


「はぁ…はァ…ハァ…」


 そして、龍化が始まる。


「グッ…ゥゥア…グルル…」


 ダメだ。抑え込めない。意識が遠のく…。

 折角天滅級倒したってのに…次は俺が天滅級になるのかよ…くそっ…。エ…マ…。


 アレクは意識を失った。


「龍化が始まったか…」


 リヴァイアサンはポツリと呟いた。体は真っ二つにされたが、まだ意識はあるようだ。だが、心臓もしっかり真っ二つにされている為、時期に死ぬ。


「惜しいな…。この様な男を失うのは、人類の損失であろう…」


 白目になり悶え苦しむアレク。皮膚は硬化し龍のような模様が浮かぶ、口からは牙が伸び、爪は鉤爪のように変形する。

 そんな、アレクの傍に音もなく誰かが舞い降りた。


「ッ!?貴方様は!!」


 その人を見てリヴァイアサンは目を見開いた。銀髪に銀色の瞳、見た目は青年だ。


「やぁ、久しぶりだね。リヴィ」


「神龍バルティア様…」


 神龍バルティア…始祖の龍の1体で、無属性を司る。始祖の龍の中でも一番最初に生み出された龍で龍の頂点とも言える存在。他の始祖の龍はそれを認めようとしないが、実際バルティアに敵う龍はいないと言われている。


「そんな他人行儀な。バルって呼んでくれって」


「いや…それは、さすがに…。我も時期死にますし…」


「そうだね。君はリルの言いつけを守らず道を違えた。当然の末路さ」


「はい…。それよりも、その男、アレクサンダーを…」


「わかってるよ。その為に来たんだ」


 バルティアは龍化しつつあるアレクの方を向き、頭に触れた。


「君が今代の魔剣士か…。へー…なるほど…。ふむ…。そういう事か…」


 ブツブツと何かを言い始め、頭から手を離した。


「バルティア様…?」


「彼の剣術を見て、色々予想はしていたが、どうやら思ったより複雑な事情があるみたいだね。彼の精神に宿る2つの人格…。なるほどね…」


 バルティアは再びアレクの頭に触れた。


「素晴らしい戦いを見せてくれたお礼だよ。アレクサンダー君。新たなる神域到達者に祝福を…」


 すると、アレクの身体が光始めた。硬化した皮膚は通常に戻り、伸びた爪と牙は元に戻った。


「さて、アレクサンダー君には色々聞きたいことがあるんだけど…。まだ、いいかな」


「聞きたいことですか?」


「うん、彼の扱う剣術について気になってね。なぜ、龍神剣術が扱えるのか…」


 バルティアは腰に挿してあるロングソードを撫でながらそう言った。

 始祖の龍で唯一剣術を扱う龍、それが神龍バルティアだ。


「まぁいいや、機会があれば聞くとするよ。龍化も止めたし、時期目を覚ますはず!」


「あの、バルティア様…お願いがございます…」


「……君のお願いはなんとなく察するよ」


「では…」


「だが、断る!!!」


「え!?」


 リヴァイアサンは血反吐を吐きながら盛大に驚いた。


「そういう事は自分の口で言いな」


 そう言うとバルティアはリヴァイアサンに魔力を送った。


「時間は5分。これで伝えられるかい?」


「はい、十分です。ありがとうございます」


 魔力を送り、死までの猶予を与えたのだ。


「あー、それと、俺がここに来た事は彼には内緒にしてて!」


「え?あ、はい」


「それじゃ!!」


 バルティアは背から翼を生やし、とてつもないスピードで飛び去って行った。


「う…うぅん…」


「おい、童」


「あと5分…」


「起きよ戯け!!5分待ったら我が先に死ぬわ!!」


「うわぁ!!え!?あれ!?龍化は!?」


 あれ…?俺は龍化したはずじゃ…?


「な、なぜか、その…あれだ…えっと…次第に収まっていったぞ…」


 リヴァイアサンの目が泳いでいる。誰かが手助けしてくれたのか?しかし、気配も魔力の残穢も感じない。気のせいか…?


「まぁ、いいや」


 起き上がると身体中に激痛が走った。


「いぃ!!!……ッくそ…我慢して動くしかないな…」


 痛みを我慢しながらリヴァイアサンの元に行った。


「まだ生きてんのな」


「ああ、生命力はすごいからな」


 リヴァイアサンはジッと俺の目を見た。


「お前に、頼みがある」


「頼み?」


「ここまでの事をしておいて、図々しいのは100も承知。だが、信用できるのはお前だけだ」


「いいから言ってみろよ」


「始祖の龍は死しても再び生まれるのだ、もう時期卵からリルトキア様が産まれるだろう」


 まじかよ。始祖の龍の仕組みってどうなってんだ。


「また産まれるならなんでお前はこんなことをしたんだ?」


「人間が愚かな生き物だと気付いた時に、この様な生物を新しく生まれるリルトキア様に会わせてはならないと思ったからだ」


 それで、人類皆殺しって。極端というか、なんというか…。


「新しく生まれるリルトキア様は生前の記憶を持たないのだ」


「始祖の龍であることも忘れるのか?」


「ああ、だが、それは齢15までだ。生まれてから15年経った時に己が何者であり、どんな経験をしてきたか、それら全てを思い出すのだ」


「15…丁度成人か…」


「お前に頼みたいのは15になるまでリルトキア様を守ってほしい。リルトキア様はギルナンドに狙われていた、守るものがいなければどうなるか…」


 そうだ、ギルナンド。あいつは何がしたいんだ?再び生まれるなら殺した所で意味は無いはずなのに…。


「どうか…頼む…本来であれば加護を受けた我がリルトキア様を守らなければならないが、この通り、暴走し、道を違えた…。戦いを通してお前の人柄や性格は十分に信用できる…。引き受けてはくれないか…」


 引き受ければ、ギルナンドに狙われる可能性が出てくる…。だが…放ってはおけない。


「わかった。リルトキアは俺が保護する。安心しろ」


「あぁ…そうか…よかった…」


 リヴァイアサンは瞳を閉じて、息を大きく吸い込み、ゆっくり吐いた。


「では、我は逝くとしよう…」


「ああ、良い戦いだった」


「アレクサンダー。強き戦士よ…。お主に、最大の敬意と賞賛を…。リルトキア様をよろしく頼む…」


 そして、リヴァイアサンは静かに息を引き取った。


 ◆


『あなたの名前はー、そうだなぁ、リヴァイアサン!!』


 リヴァイアサンの脳内に無邪気な女性の笑い声が響く。


『リヴァイアサンだから、リヴィって呼ぶね!』


 青髪で青い美しい瞳をした女性は、リヴァイアサンに笑いかける。


『リヴィ!!』


「リルトキア様…」


 リルトキアと過ごした日々がフラッシュバックする。


『リルトキア様は他に加護を与えないのですか?』


『えー、私にはリヴィがいるからいいよぉ』


 場面が移り変わっていく。そして、


『ギルナンド!!なぜあなたが!!』


『気にするな。俺は貴様の龍核にようがあるだけだ』


 激戦が始まり、リルトキアは重症を負いながらもギルナンドを撃退まで追い込んだ。


『くっ…。まさか貴様がここまで強かったとは…だが…』


 ギルナンドはニヤリと笑う。


『貴様の大切なものは奪っていくとしよう!!』


 巨大な闇の魔力がリヴァイアサンに向かって飛んでいく。


『リヴィ!!!!!』


 リルトキアはリヴァイアサンの盾となり、その攻撃を一身に受けた。


『あぁ…リルトキア様…我など捨ておけば…』


『ダメだよ…リヴィは私の大切な家族だから…』


『早く治療を!!』


『リヴィ…聞いて…』


『リルトキア様…?』


 リルトキアはリヴァイアサンに抱かれながら、笑った。


『私が生まれ変わっても…傍に居てね…?』


『うぅ…すぐに…すぐに治療をできる者を呼んできます…!!』


 その後、連れてきた冒険者の裏切りにより、リルトキアは死んだ。


「傍に居てね…。そうか…我は…」


 自らの行いに、リヴァイアサンは後悔した。しかし、最後に信頼できる男に会えたと安堵した。


「申し訳ございません…リルトキア様…。我は先に逝きます…」


 リヴァイアサンの意識は完全に消失した。


 ◆


「泣いてんじゃねぇよ…」


 リヴァイアサンの閉じた瞳から溢れる涙を拭った。

 すると、リヴァイアサンの体は青色に輝き、胸の前に手のひらサイズの宝石が生成された。


 アルから聞いた事がある。加護持ち死ぬとその者に与えた龍の加護は分離し、"龍石"と呼ばれる宝石になるらしい。本来は、与えた始祖の龍が回収するが、この場合は俺が預かっておこう。


 龍石を受け取ると、龍人化していたリヴァイアサンの体は元のモンスターに戻り始めた。

 "天滅級のリヴァイアサン" ではなく、"SSランクのシーサーペント"に戻った。龍の力が消失したから、進化前のモンスターの姿に戻るのだ。


「さて、リルトキアを迎えに行くか」


 左目が無いのは意外と不便だ。視界が狭くなると横幅の感覚もわかりずらくなる。

 痛む体を引きずりながら、リヴァイアサンの龍石を握りしめ、湖の奥の洞窟に向かった。


 ◇◇◇


「すげぇ…」


 洞窟の中はあちこちが水晶で輝いていた。


「しかし、危なかったなぁ…もう少し下だったらこの洞窟ごと真っ二つにしてたな」


 俺が真っ二つにしたのは丁度この洞窟の真上辺りだ。


「ここか…」


 拓けた場所に出た。泉があり、その中央の陸地には柔らかそうな草の上に60cm程の大きな卵が乗っていた。


「うわっ!」


 手に持つ龍石が輝き始めた。そして、それに応えるように、卵にヒビが入る。


「卵が孵る…」


 泉を渡り、中央の陸地で孵る様子を見守る。ピキピキと卵のヒビは広がっていき、そして、卵が孵った。


 〔キュー!キュー!〕


 姿を現したのは鮮やかな青色の子龍。自分が世界に誕生したと知らしめるように一生懸命鳴いている。


「子龍か、可愛いな」


 〔キュ?〕


 子龍は首を傾げる。

 俺は子龍に手を伸ばし、その頬に触れた。


「うおっ…眩し…」


 すると、突如子龍は光始めた。次第に光は収まり、目の前の子龍はいなくなっていた。

 その代わりに、3歳ほどだろうか、アイリスと同い年くらいの幼女が指をくわえて俺をじっと見ていた。青髪に綺麗な青色の瞳だ。


「擬態か。丁度いい、どうせ龍の姿じゃ色々面倒だ」


 抱き上げていいかな。噛みつかれる?嫌がられるかな?

 俺は恐る恐る両手を伸ばし、抱き上げた。驚く程に大人しい。泣きもせず、抱かれるのが当然のように抱っこされている。


「…お前の名はリルだ。いいな?」


 言葉はわかるのだろうか。生まれたばかりだけど、見た目は3歳ほどだ。

 すると、こくりと頷いた。


「よし」


「……パパ?」


 パ、パパ……。これが刷り込みってやつか…?最初に見た人を親だと思い込むあれだ。


「せめて、お兄ちゃんって呼んでくれ」


「…うん…にぃに…」


「ま、まぁ、それでいいか…」


 リルを抱っこしたまま、リルトキア島を出た。


 戦いは終わった。一時はどうなるかと思ったが、なんとかなったようだ。

 あとは、帰るだけ。さぁ、家に帰ろう。


 ボロボロの体にムチを打ち、帰路に着くのだった。


第126話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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