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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
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第125話 神域の一撃

 

「口ほどにもない。その程度で我を殺すなどよく言えたものだ」


 そこには血だらけのアレクが倒れていた。

 対するリヴァイアサンも傷は負っているものの、まだ余裕があるようだ。


「ぐっ…」


「まだ立ち上がるか。その頑丈さは誉めてやろう」


「ぜぇ…ぜぇ…ふっ…」


「何がおかしい」


「いやぁ…そうだよな…リスクなしに勝てる訳ねぇんだわ…ハハッ…」


「気でも触れたか?」


 リヴァイアサンの強烈な尾ヒレの薙ぎ払いが来る。


 〔ガンッ!!!〕


「はぁ…はぁ…。重ぇ…な!!」


「む…まだそんな余力が」


 尾ヒレを夜桜で受け止め、受け流す。


「相手は天滅級だ…。どうせ負けたら死ぬ。なら、俺の全てを絞りだせ…!!」


 アレクの周囲を迸る赤い稲妻はその勢いを増し、空気が震えるほどの出力を解き放つ。

 50%はリスクを負わない為の限界値だ。なら、リスクを負ってでも限界を超える必要がある。


「はぁぁぁぁあ!!!!」


「なに…?」

(こいつのどこにそんな余力が…?いや、それよりも我の本能が告げている…!!この童はここで殺すべきだと!!)


 リヴァイアサンはアレクに肉薄し、大きく口を開け、その牙をアレクに向けた。


 〔バチッ!!!〕


 一瞬の出来事だった。

 リヴァイアサンは完全にアレクを噛み殺したと思っていた。しかし、牙が到達する寸前、赤い雷がリヴァイアサンの牙を躱しその牙を切り落としたのだ。


「ぜぇ…ぜぇ…80%だ…!!」


 100%はさすがにまずい。力を抑えられず龍化してしまう…。


「やるな。だが、だいぶ辛そうだぞ?」


「うる…せぇ…!!」


 俺はリヴァイアサンに肉薄し、夜桜を振り抜く。


「我流『龍牙一閃」


 赤雷を纏った横薙ぎの一閃はリヴァイアサンの顔面を捉える。


「くっ…」


 斬撃は頬を掠めるが強化された一撃で頬に深い切り傷を負った。


「はぁ…まだだ…!!」


「我流『龍流ノ舞』」


 流れるような太刀筋はリヴァイアサンの長い全身を流れるように切り刻んでいく。


「ぐあぁ…!!小癪な…!」


「ぐっ…!?」


 リヴァイアサンは堪らず尾ヒレで俺を薙ぎ払った。勢いそのままに俺は島の外に弾き出され、そのまま海に落下した。


 〔ボチャン!!〕


「……んぐ!?」


 島の下部からリヴァイアサンが凄い勢いで俺に迫ってきている。

 あの湖と海は繋がってたのか…!まずい、海じゃ思うように動けない…。

 リヴァイアサンはとぐろを巻くように俺に巻き付き、締め上げた。


「人間は不便だな。海の中では我の独壇場であろう。このまま溺死させてやる」


 〔ゴボッ…〕


 息が…。だが、俺には雷がある。水と雷の相性は最高だからな。


 〔バリバリッ!!〕


 俺は高出力の雷を四方八方に放出した。雷は水の中で拡散し、リヴァイアサンに感電した。


「ぐああああ!!!!」


(バーカ)


 俺は心の中でそう呟き、海面に出た。


「ぶはぁ!!やばかった…」


 氷魔術で海面を凍らし、その場に立つ。


「凍てつけ」


「氷魔術『絶対零度』」


 氷魔術の中でも最高の攻撃魔術だ。発動した絶対零度により、海面はおろか海中までカチコチに凍る。そして、それは半径5kmに及ぶ海を全て凍らせた。


「はぁ…はぁ…」


 リヴァイアサン諸共凍ったはずだ…だが…。


 〔ゴゴゴゴゴッ…〕


 地響きが鳴り響く。まぁ、そう簡単にはいかないよな。


「グガァァァァァアアア!!!!」


「なっ…!?」


 リヴァイアサンは氷から飛び出すと、勢いそのままに俺に突進してきた。


「ぐっ…!!があぁっ!!」


 そして、そのまま突き飛ばされ港町シャニまで飛ばされた。


「くそ…めちゃくちゃしやがって…」


 瓦礫を退け、立ち上がろうとするが力が入らない。


「めちゃくちゃしているのは貴様であろう…」


 リヴァイアサンは氷の上を滑るように俺の元に向かってきた。


「まだ立ち上がるのか?」


「当たり前だ…。俺は死ぬまで立ち上がり続けるぞ…」


 フラフラになった足を殴り、自分を鼓舞する。


「なぜそこまでする」


「さっきも言っただろ。守るべきものを守るためだ」


「そうか」


 リヴァイアサンは俺の目の前に立ちはだかった。


「貴様のその執念と根性は賞賛に値する」


「嬉しかねぇよ」


「ふっ、そう言うな。貴様は命を賭して我と戦っている。ならば、我も本気を出さないと失礼に値するだろう」


 まだなんかあるのかよ…。

 すると、リヴァイアサンの体は輝き始め、蛇型の巨躯は人型に形を変え俺と同じ大きさまで小さくなった。


「龍の加護 奥義『龍人化』」


「これが、龍の力の奥義か…」


 アルが教えてくれなかったやつだ。


「童、名は」


「アレクサンダー」


 両腕に龍鱗を纏った青髪の青年は拳を握り、俺に向けて構えた。


「アレクサンダー。我の全力をもって貴様を葬る」


「やれるもんならやってみろ。リヴァイアサン」


 両者は激しく激突する。

 ここまで来たならやれるだけやってやる。赤雷の出力を90%まで上げた。身体が悲鳴をあげている。龍の力が暴れ狂い、俺を侵食しようとしてくる。だが、まだ耐えれる。


「さっきよりも数段速いな」


「速いだけじゃねぇよ」


 夜桜を振り下ろす。リヴァイアサンはそれを両腕で受け止める。しかし、リヴァイアサンの腕が段々と押されていった。


「おらっ!!」


「ぐっ…!」


 振り下ろすのをやめ、リヴァイアサンの脇腹を蹴り飛ばした。

 龍人化したのに、リヴァイアサンの動きが鈍い。どうやら、さっきの感電と氷漬けは十分効いていたようだ。


 そして、幾度となく衝突を繰り返す。衝突の余波は周辺の木々を揺らし、瓦礫を吹き飛ばしていく。


 リヴァイアサンの猛攻を夜桜で受け流していく。

 手数が多い…。素早い拳は残像を残し、また次の拳が現れる。そうして、目の前に広がるのは10を超える拳の嵐。これを受け流せている自分にもビックリだ。


 〔ピリッ〕


「くそっ…」


 コントロールが乱れた…。

 その隙をリヴァイアサンが見逃すはずがない。


 〔バキッ〕


「があぁっ…!!」


 リヴァイアサンの拳が俺の脇腹を捉えた。肋何本か折れた…。


『エクストラ・ヒー…


「やらせん」


「ぐあっ…」


 強烈な正拳突きが俺の鳩尾に炸裂した。思わず膝を着き、嘔吐する。


「ぐうっ…!!」


 リヴァイアサンは膝を着いた俺に強烈な蹴りを放った。蹴り飛ばされた俺は後方の壁に激突する。

 きついな…。

 俺は魔導袋からスクロールを取りだす。そして、それに魔力を通すと俺の傷はたちまち癒えた。


「治癒のスクロールか」


「そういう事…だ!!」


 俺は再度リヴァイアサンに肉薄し、技を放つ。


「我流『昇り龍』」


 立ち昇る赤雷の太刀筋はリヴァイアサンの胴体に深い切り傷をつける。


「まだそんな動きが…」


「負けられねぇんだよ…絶対に…!!」


 俺はリヴァイアサンに猛攻を仕掛ける。体で感じる。俺が確実に成長していく感覚が。

 リヴァイアサンが放った連打を真似て俺は無数の斬撃を繰り出した。リヴァイアサンは難なく全てを弾く。


「チッ…」


「甘いな」


 リヴァイアサンの拳が俺の顔を捉える。しかし、それは幻影、煙のようにゆらりと消えた。俺は既にリヴァイアサンの背後を取っていた。


「幻…」


「甘いんだよ」


「我流『龍迅:伍ノ太刀』」


「ぐあぁ!!」


 目にも止まらぬ5つの斬撃がリヴァイアサンの背を切り刻む。

 これでもまだ致命傷ではない…。もっと、もっと強力な一撃を…!


「ぐっ…くそ…加護が…」


「貴様の限界が先に来そうだな…」


 龍の力が乱れ始めた。身体が限界を迎えた証拠だ。

 互いに満身創痍といった状況だが、やはりリヴァイアサンの方が余裕がある。


「安心しろ。一撃で葬ってやる」


 リヴァイアサンは俺の顔面目掛けて強力な正拳突きを放つ。

 避ける気力が…避けきれない…。


「があぁっ!!!!」


 咄嗟に身体を逸らしたが間に合わなかった。リヴァイアサンの拳は左目に直撃し、俺の左目は潰れた。


「ぐっ…」


「足掻くな。無駄に苦しむだけだ」


 左の視界が奪われた…。部位の欠損は超越級でしか治せない。もちろん、そんな余裕も魔力もない…。


「はぁ…『エクストラ・ヒール』…」


 左目の出血を抑え、再度リヴァイアサンと向かい合う。


「まだ…死んでねぇ…」


「視界が奪われた状態で今まで通り我と渡り合えるとでも?」


「視界が全てじゃねぇんだよ!!」


 猛攻を仕掛ける。リヴァイアサンは難なく躱す、そして、俺の死角から攻撃を仕掛けてきた。


 〔ガンッ!!〕


「ほう。防ぐか」


「視界だけに頼ってちゃお前の動きにはついていけないからな」


 そう言い互いに衝突する。

 感覚を研ぎ澄ませ、空気の流れ、魔力の流れ、敵の息遣い。敵の1歩先を…!!


「ぐっ…!!なぜ我が押される…。なんだ貴様のその力は…!」


「ど根性だよ」


「ふざけた事を」


 アレクとリヴァイアサンは幾度となく衝突を繰り返す。激戦に晒されているシャニの街は衝突の余波で既に更地になってしまった。

 アレクはそんな事気にする余裕もない。ただ、目の前の敵を殺すことだけに神経を集中させた。

 繰り返される衝突、研ぎ澄まされた感覚はアレクに新たな極地を魅せる。


「まだだ…もっと先へ…!!研ぎ澄ませ…感覚を…!!」


 加速する戦闘、アレクの攻撃速度は次第にリヴァイアサンを上回っていく。


(この男に限界は無いのか…!?左目を失い、骨も所々折れているはずだ。弱る所か…更に強く…!)


「我流『龍牙一閃』」


 そして、リヴァイアサンの両腕を切り落とした。


「おらぁあ!!!」


「くそっ…!!」


 リヴァイアサンは大きく飛び退き、腕の再生に集中した。しかし、アレクは間髪入れずに肉薄する。

 再生は間に合い、両腕が復活する。しかし、リヴァイアサンは完全に後手に回った。


 激しい戦闘と幾度となく繰り返す衝突。力の乱れが死を意味する極限の戦い。最高峰の命のやり取りを前に、この2人は笑っていた。


「何笑ってんだよ」


「それは貴様もであろう」


 限界を超えた戦い、自身の成長を感じ取り、互いに感情が昂っていた。


『覇龍赤雷』


 扇状に赤雷が放たれた。威力は1ヶ月前と比べるまでもなく強力だ。赤雷は凍りついた海を砕き、その斬撃は海を割る。リヴァイアサンの身体には大きな切り傷が出来ていた。

 だが、まだ足りない。


『水神龍拳』


 リヴァイアサンは無数に分身した。それは水の幻影。しかし、それらは自我を持つようにアレクを殴り続ける。四方八方からの連打にアレクは大きく殴り飛ばされる。


「ぐっ…はぁ…はぁ…」


 力が抜けていく。目が霞む。足が震える。もう既に痛みも感じない…。


「これで、貴様も終わりのようだ…」


 そう言い、リヴァイアサンは構え、右手にとてつもない量の魔力を集中させた。


「ああ…これで…終わりだ…」


 アレクは夜桜を鞘に収め、腰を落とし、柄に手を乗せた。抜刀の構えだ。


 アレクとリヴァイアサンの極限まで高まった魔力が激しくぶつかり合う。戦場には雷雨が吹き荒れ、瓦礫は宙を舞う。


 後に、その光景を目の当たりにした、隣町の住民は口を揃えてこう言った。


『天変地異が起こった』と。


 互いの魔力が限界まで達した時。両者は同時に飛び出した。


「うぉおおおおおおおお!!!!!!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


 両者が肉薄し、渾身の技を放つ。


「『水龍破獄拳』!!!!」


 絞りだせ。あの一撃を。至れ、"神域の一撃"


「我流 "奥義"」


龍神無想閃(りゅうじんむそうのひらめき)


 技の衝突は辺り一帯を吹き飛ばした。地面は大きく抉れシャニだった街には巨大なクレーターができていた。

 土煙が晴れ、2人の姿が見える。


 アレクの眼前にはリヴァイアサンの拳が止まっている。その拳は力なく倒れた。

 アレクが放った我流の奥義はリヴァイアサンの身体を真っ二つに両断していた。それだけではなく、その先にあるリルトキア島の大きな山をも真っ二つに両断していた。


「か、勝ったぁ…」


 アレクサンダーの放った一撃はまさしく"神域の一撃"だった。


第125話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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