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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
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第121話 難関依頼

 

 あとはジークか…。


 俺はそのまま2年生の教室がある5階へ向かった。

 到着すると案の定、悲鳴にも似た黄色い声援に包まれた。

 2年生は4年生以上に関わりがないため、生で俺を見たことがある人は少ないみたいだ。中には腰を抜かす人まで現れる始末。

 誰だよ。忘却ファンクラブとか訳のわかんねぇ組織作ったやつは。


 ◇◇◇


「へくちっ!!」


「風邪ですか?エイダさん」


「ううん、大丈夫。2人の時はエイダって呼んでよ」


「はい!」


 ◇◇◇


 廊下を進むと見覚えのある背中が見えた。


「ジーク」


「兄さん!!」


 ジークは一直線に走ってきて俺に抱きついた。


「調子はどうだ?」


「絶好調ですよ!兄さんも動けるようになったんですね!」


「ああ、魔術は使えないがな」


「そうですか…」


 ジークの表情が少し暗くなった。


「エマ姉さんから話は聞きました。天滅級2体を相手取り撃退したと…。兄さんはやっぱり凄いです。背中が見えたと思ったら、すぐに霞んで消えてしまう。僕じゃまだまだです」


「お前も頑張ってるだろ」


「はい、でも、いつか兄さんや姉さんの隣に並び立ち共に戦うのが僕の夢です」


 ジークなら、近い将来その夢を叶えることができるかもな。


「兄さん…。兄さんがとんでもなく強い事は重々承知してます…。でも、あまり無理をしないで下さい…。僕だけじゃなく、モルディオに居るシャル姉様、リラ姉様、お父様、お母様、ラングも僕と同じくらい兄さんを心配しています。どうか、無理は…」


 ジークは泣きそうな顔で俺の袖を掴んでいる。その手は小刻みに震えていた。

 俺は強敵と戦う度に傷付き、生死をさまよっている。俺と関わりが少ない人は英雄だと言って美談にするが、身内や俺と関わりが深い人からしたら心配で仕方がないのだろう。


「無理はする」


「兄さん…」


「だが、俺は死なないから安心しろ。いずれジークの力を頼る時が来るだろう。その時は頼りにしてるから、しっかり鍛錬するんだぞ」


「はい…はい…!!」


 俺はジークの頭を撫で、その場を後にした。


 ◇◇◇


 他に挨拶しとく人はいないな。ルイーダは卒業してからもお世話になるだろうし、イグナスは嫌でも顔を合わせる。


「寮に戻って寝るか」


 まだ昼過ぎだがやることが無い。午後の冒険者活動については病み上がりということで免除してもらってる。


「最近はぐーたらしてたからなぁ、その癖がついちまったかも」


 そんな事を言いながら冒険者学校を出た。


「アレクサンダー殿とお見受けする」


「そうですけど」


 急に全身に甲冑を身にまとった騎士5名ほどに囲まれた。

 まぁ、いるの分かってたし、敵意もないから戦うなんてことはないが。


「国王陛下がお呼びです。ご同行願います」


「はい」


 ヨハネスからの呼び出しか。面倒事じゃないと良いけど。


 ◇◇◇


 王城に到着し、案内されたのは謁見の間ではなく応接室だった。


「やぁ、アレク。楽にしてくれ」


「失礼します」


 俺はヨハネスの正面に座った。

 俺とソフィアの関係を知ってからヨハネスは俺をアレクと呼ぶようになった。認めてくれているのだろう。


「さっそくだが、君に依頼が届いている」


「俺に依頼…?」


 冒険者協会ではなく、わざわざ国王を通しての依頼。

 という事は…。


「これは国家を揺るがす、いや、この大陸を揺るがしかねないクエストだ」


 大陸を…か。


「天滅級モンスターが出現した」


 やっぱり天滅級モンスターか。


「七つの大罪は、天滅級だが魔神復活と言う大義を持って動いている。しかし、今回出現した天滅級モンスターは大義もなにもない、ただ暴れたいだけの厄災だ。正に世界の危機と言えるだろう」


「なぜ俺なんですか?俺はS級中位ですよ?」


 俺がそう言うと横の部屋からホグマンが出てきた。


「ホグマン会長…?」


「アレクサンダー君。今を持って君をS級上位へ昇格とする」


「は?え、ちょっと」


「先の戦いで君は天滅級モンスターを2体撃退した。それは1階級昇進じゃ少ないと言う意見が出てな。だから、今回は例外として2階級昇進だ」


 例外…?あのホグマンが?


「だったら、エマやソフィア、カルマを待ってからでも」


「ダメだ。今回は君1人で戦ってもらう」


 は?俺1人で天滅級を…?


「どうしてですか!?」


「これは、君がSS級へと昇格する為の試験でもある」


「なっ…」


 SS級への昇格条件。


【天滅級モンスターを単独で撃破すること】


「どうして今なんですか…?」


 SS級へ上がるのは別に急ぐことじゃない。それに七つの大罪とはいずれ戦うことになる、それで条件は満たせるはずだ。それを知っているはずなのに。


「これはアレク自身を守るためでもある」


「俺自身?」


 ヨハネスはゆっくり話し始めた。


「パンドラは頑なにSS級冒険者を相手にしようとしない。スアレが強襲された時もイグナスは遠くへ飛ばし、シリウスが駆けつけた時は露骨に嫌な顔をしたと聞いている。それもそうだろうね、SS級冒険者は天滅級を単独で撃破できる力がある。彼らが集い本気を出せばパンドラなんてあっという間に消される」


 そりゃ誰でもSS級冒険者なんか相手にしたくないだろ。


「今アレクは3人のSS級冒険者とパイプがある。この現状の時点でパンドラはアレクに手が出しにくい状況と言える。だが、隙はどうしてもできる、アレクが1人のときを狙われたらどうしようもない」


「だから、俺自身がSS級冒険者になれと?」


「端的に言えばそうだね」


「お言葉ですが、七つの大罪はただの天滅級とは訳が違います。俺がSS級冒険者になった所でまだ敵う相手では…」


「アレクは東の平原での戦いで七つの大罪の2体を撃退したよね」


「あれは俺がやった訳じゃ…」


「わかってる。話はシリウスから詳しく聞いているよ。だけど、パンドラはもう1人のアレクの存在を知らないよね?」


 そうか。パンドラからしたら今の俺も七つの大罪を撃退した俺も同じなんだ。迂闊には手を出せない存在。

 これで追い討ちをかけるように俺がSS級冒険者になれば七つの大罪を出さないと手の出しようが無くなるのか…。


「理解してくれたかい?」


「理解は…しました…」


「君がSS級冒険者になる事で、その周囲にいる人達も守護しやすくなる」


「俺の周囲…」


 俺がSS級になればエマやソフィア、カルマは4人のSS級冒険者と関係ができる。それに本人達もSS級に近い実力を持っている。必然とエマ達を守ることに繋がるのか…。


 覚悟を決めるしかないのか。


「わか…


「ダメ!!!」


 扉を勢いよく開けそう叫んだのはアレイナだった。


「やめろ!アレイナ!」


「なんでシリウスは納得してるの!?明らかにおかしいじゃん!!」


 アレイナを止めるようにシリウスも部屋に入ってきた。どうやらこの2人にも話しているらしい。


「陛下!私は賛成できません!アレクは1ヶ月前に目を覚ましたばかりなんですよ!?目覚めてからもリハビリを繰り返して今日やっと学校に通えるようになったのに!!また死の淵を歩けと言うのですか!?」


「アレイナ…落ち着け…」


「シリウスには聞いてない!!この馬鹿みたいな計画を誰が立てたのか聞いてるの!!」


「あー、その馬鹿みたいな計画を立てたのは俺だ」


 そう言い気だるそうに応接室に入ってきたのはイグナスだ。


「イグナス…!!」


 アレイナは今にも飛びかかりそうな殺気を放ちイグナスを睨みつける。


「説明してくれる…?」


「はぁ…今パンドラはアレクを過大評価している。そりゃラースとマイズを瀕死に追いやり、エンビーに撤退を決意させた規格外の化け物だからな。俺やシリウスより強い」


「だったら今のままでいいじゃん!勝手に勘違いしてくれてるんだから」


「だが、あいつらも違和感を覚えているのも確かだ。纏う空気、話し方、話す内容のズレ、今のアレクとはまるで違う。あいつらがアレクを勘違いしているうちに相応の立場を与えておかないと、強硬手段に出かねないんだよ」


「それってアレクが相応の立場を得ても七つの大罪が動けば関係の無い話だよね…?」


「それは…」


 イグナスは俯き言い返す言葉を探していた。


「ほら、適当な建前や理屈ばっかり並べて、本心を隠してるじゃない!アレクが子供だからって…そんなやり方…!500年前となにも変わってないじゃん!!」


「おい!アレイナ!!」


「本心は自国の戦力増強なんじゃないの!?そうやって口達者に騙してシリウス達から聖剣を…


「やめろ!!!!」


 シリウスの怒声でアレイナの言葉が遮られる。


「アレイナ、過去のことを持ち出すな。過ぎたことだ」


「…ごめんなさい。でも、私は納得してない」


 その様子を静観していたヨハネスが口を開いた。


「そうだね、こんなやり方は好ましくない。だから、ハッキリ言うよ」


 ヨハネスはジッと俺の瞳を見た。


「アレクには早急に力をつけて欲しい。無理をしてでもね」


「それはなんのために」


 これで自分の国のためにって言ったら断ろう。


「無論、魔神を討伐するためだよ」


「魔神討伐はまだ10年以上先では?」


「シリウスはもう1人のアレクから忠告を受けていてね。それが『ギムレットと魔神を融合させるな』らしい。彼は魔神に負けたと言っていた、七つの大罪を圧倒した彼でもギムレットと融合した魔神には手も足も出なかったんだ」


「そうですか…」


 もう1人の俺でも負けてしまうほど魔神は強いのか…。まだ守護者の石版にはギムレットの名前があった。まだ融合してないという事だ。


「魔神がいつ融合するかもわからない。10年後かも知れないし、明日かもしれない」


「…だから、早急に力をつける必要があると。無理をしても」


「そういう事だね」


 無理をしてでもか…。

 前にシリウスが平和に暮らすか戦うかって選択肢を与えてきたっけな。あの時戦うを選択した時点で俺の道は修羅になったんだ。後悔はない。俺がやるしかないのだから。


「わかりました。やります」


「そうか…よかった…」


 ヨハネスからしても苦渋の決断だったんだろうな。


「ただ、魔力回路が修復するのに最低でも1ヶ月かかります。その後でも良いですか?」


「もちろん!万全で挑んでくれ」


 要件はそれだけらしく。俺は応接室を後にした。


 ◇◇◇


 アレクが去った後の応接室は静けさに包まれていた。空気がピリついている。その原因は言うまでもなくアレイナだ。


「アレイナ…やめろ…」


 怒気を含んだ瞳でイグナスとヨハネスを睨みつける。


「アレクが受け入れたから私はもう何も言わない。反対もしない」


 その言葉に安心した様にヨハネスはホッと胸を撫で下ろす。


「ただ、これだけは覚えておいて」


 アレイナの殺気と威圧が段々増してくる。


「もし、この戦いでアレクが死んだら。私はあなた達を許さない」


 普段のアレイナからは想像も出来ないほどの圧倒的な威圧にイグナスは思わず冷や汗をかいた。


「この国ごと滅ぼすから」


 アレイナの殺気と威圧が最高潮に達した。ヨハネスは耐えきれず呼吸困難になる。


「アレイナ、その辺にしとけ」


 シリウスの言葉にスッと殺気と威圧が収まった。そのまま何も言わずアレイナは部屋を出ていった。


「はぁ…母は強しとは正にこの事だ…」


 シリウスはブツブツ何かを言いながらアレイナの後を追って行った。


「問題発言ですが、どう対処しますか?」


「それは嫌味かい?イグナス」


 イグナスはニヤニヤしながらヨハネスに聞いた。


「アレイナを罰せるはずがないだろう。常識的に考えて正しいのはアレイナだ」


「まぁー、魔剣士を常識の範疇で考えるなんて無理なこったな」


「はぁ…アレクには負担を掛けてしまう…。心苦しいよ…。彼は義理の息子となる子なのに…」


「気に病むことはねえよ。その道を歩くと決めたのは、アレク本人だ」


 心労が絶えないヨハネスだった。


 ◇◇◇


「アレイナ!待てって!」


 スタスタと歩いていくアレイナの腕をシリウスが掴んだ。


「もうちょっと言い方があるだろ!イグナシアに喧嘩売ってどうすんだ!」


「わかってる…。ごめんなさい…」


「え、お、おう…」


 予想と反したしおらしい態度にシリウスは戸惑ってしまった。


「ねぇ…シリウス…。なんでアレクばっかり辛い目に合うのかな…」


「アレイナ…」


 アレイナの瞳からはポロポロと涙が零れる。


「アレク自身が選んだ道だ…」


「でも、まだ14歳なんだよ…?」


「もう14歳だ。時間が無い…。早く魔神を討伐するだけの力を付けないと」


「わかってる!わかってるけど…。あの子は私達の子供なんだよ…」


 その言葉にシリウスも辛そうな顔になる。


「俺ももちろん心配だ。でもな、アレクならできるって期待もあるんだ。親バカだろ?」


「ふふっ…そうだね。私も信じるよ…」


 2人は心配ながらもアレクに期待を寄せ、自宅に戻って行った。


第121話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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