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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
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第120話 リハビリ

 

 〔カンッ!!カンッ!!〕


 シリウス邸の訓練場…シリウス曰く道場では木剣のぶつかり合う音が響いている。


「まだ本調子じゃないのか?動きが遅いぞ」


「煽ってんのか…?もう体は充分動く」


「おー、そうか。そりゃ悪いこと言ったな」


 俺はシリウスと木剣で模擬戦をしている。俺が目覚めてから約1ヶ月、順調に体は回復し今ではすっかり元通りだ。

 体は、だが。


「魔術はまだ使えないか」


「ああ、さすがに魔力回路の修復は時間がかかるみたいだ」


「そうか」


 魔術はまだ使えないが、体には幾つか変化がある。


「体が軽いな。とても病み上がりとは思えない」


「もう1人のアレクが体を使う時に無理やり強化したんだろ。それの名残じゃないか?よかったな、手っ取り早く強くなって」


「冗談じゃねぇよ。あんな地獄味わうくらいなら地道に特訓するわ」


「まぁ、魔力回路の方も強化されるだろうな」


「なんでだ?」


「筋繊維も酷使すれば擦り切れて筋肉痛になり、次は今よりも頑丈な筋繊維を生み出すだろ?それと同じ原理だ。魔力回路も酷使すればボロボロになり、次は今より頑丈な魔力回路を作り上げる」


「へー、そうなのか」


 さすが伊達に500年生きてないな、シリウスは博識だ。自分は剣士なのに魔力回路の事もわかるなんて。


「アレクの場合、魔力回路が完全に崩壊する1歩手前まで来ていた。あと少し力を使っていれば取り返しのつかない事になっていただろう」


「だが、魔力回路が完全に回復すれば以前よりも頑丈な魔力回路ができるんだろ」


「結果オーライってやつだ。調子に乗るなよ?」


「痛っ」


 シリウスの木剣が俺の頭にコツンと当たった。


「なんか俺、瀕死になる度に強くなってる気がする」


「瀕死になる度って、どこの戦闘民族だよ…」


「え?」


「いや、なんでもない。明日からは学校行けよ。ただ、魔術は使うな。しばらくは剣術に絞れ」


「はーい」


 アルテナ島にいる時は魔術のみに絞ってたっけ。今度は剣術のみか、早く治んないかな。

 一応、気配探知系の魔術の使用は出ている。大して魔力を使わないから魔力回路にもさほど影響はない。


「なぁ、ずっと気になってたんだが、あそこに飾ってあるのって刀なのか?」


 俺が指さした方向には上下に2本横向きに飾られている刀のような武器だった。

 下に飾ってあるのはやけに短いな。子供用か?


「ああ、刀だ」


「俺やカルマの刀と見た目が違うな」


 1番の違いは鍔だ。俺達のは刀身に合わせて平たく横開きになっているが、この刀の鍔は金属の輪っかのようなものでできている。


「アレク達が持っている刀はこの世界の人間がより扱いやすくする為に改良された刀だ。本来、刀はこういう形をしてるんだよ。『日本刀』って言うんだ」


「へー、日本刀…」


「持ってみるか?」


「いいのか?持ちたい!」


「ふっ…ああ、いいぞ」


 シリウスは少し笑って俺に日本刀を渡してきた。


「やっぱ、俺の血引いてるな…」


「なんか言ったか?」


「なんでもねぇよ。かっこいいだろ。俺も好きなんだ、日本刀」


「かっこいいなぁ、意外とずっしりしてんだな」


 刀身はなんの金属使ってるんだろう。プラチナやミスリルでもない。結構重いし、これは中々に扱いずらいな。


「その刀身に使ってる金属はこの世界にある物じゃないからな」


「そうなのか!?じゃ、これは異世界の金属…」


「玉鋼って言うんだ。この世界に来た時いくつか玉鋼を持っていたから、鍛造方法を教えて作ってもらった」


「へー、シリウスは刀鍛冶かなんかだったのか?」


「いや、ただの趣味だ。日本はこの世界みたいにモンスターもいないし、武器を使っての殺し合いも滅多にない。俺は刀マニアの一般人だ」


「なるほどなー、この世界に刀の鍛造方法を教えたのはシリウスだったのか」


「まあな、結局玉鋼に近い金属はなかったからこの世界に合わせた刀になっちまったが」


 見た目は日本刀の方が好きだなぁ。


「玉鋼もこの世界の物じゃないから魔力に耐性がない。魔術を受け流そうとしたら一撃で砕け散る」


「だから飾ってるのか」


「そういう事だ」


 俺は日本刀を鞘に収め、元の位置に戻した。シリウスとのリハビリも終えた為、道場を後にする。


「シリウスは刀で戦わないのか?」


 俺がそう聞くとシリウスは難しそうな顔をした。


「昔は使ってたな。だが、予備として使っていたこのバスタードソードか魔剣として覚醒したんだ。まぁ、せっかくの魔剣だし使わざるを得ないよな」


 予備の剣が魔剣に…。やっぱり魔剣になる条件とかは物によって違うんだな。


「ほら、湯浴みしてこい。飯作っておくから」


「はーい」


 汗だくでリビングに入るとアレイナが怒るからな。

 ここに来て1ヶ月、だいぶこの家での生活も慣れた。しかも、シリウス邸は俺達が家を建てる土地の近所だ。狙ったのか偶然か、時々2人が怖くなる。


 明日から学校復帰、学校生活ももう残り2ヶ月か…。


 ◇◇◇


 翌日。


「アレク!!起きて!!学校だよ!!」


 アレクが間借りしている部屋にアレイナの声が響く。


「あと5分…」


「そうやって起きた試しないでしょ!!」


「いいじゃん…あと少し寝かせてよ…"母さん"…」


「うぇ!?か、母さん…。も、もー、仕方ないなぁ、アレクったら可愛いんだから…」


 俺は布団の中でニヤリと笑った。アレイナはなぜか俺に母さんと呼ばれると上機嫌になるのだ。この手を有効活用しなければ…。


「バカ言ってんじゃねぇ、起きろ」


「ぐえっ…」


 俺の鳩尾にシリウスの鉄拳がめり込んだ。

 仕方なく起き上がり、朝食をとることにした。


「殴るこたないだろ、あと5分だけって言ったのに」


「あのな、お前今までそう言って何回午後のリハビリに遅れたんだ?あんまりぐーたらしてるとエマとソフィアに愛想つかされるぞ」


「はいはい」


 俺はシリウスが作った朝食を早々に食べ終え、身支度を済ませた。


「部屋に置いてあるものは学校が終わったら取りに来るよ」


「そっか、寮に戻らなきゃだもんね…」


 アレイナが寂しそうな顔をしている。1番楽しそうにしてたもんな。


「寮を出ることになったら世話になるかもしれないが、構わないか?」


「ああ、部屋なら余ってるからな構わないぞ」


「ありがとう、それじゃ、行ってきます」


「「いってらっしゃい」」


 2人に見送られ、俺は4ヶ月ぶりに冒険者学校へ向かった。


 ◇◇◇


「おっす」


「あ!アレクだ!!」


 教室に入るとわらわらと俺の周囲にクラスメイトが集まってきた。


「体はもういいのか?魔力が微弱だ…。無理をしてるんじゃないか?」


「大丈夫だよ、テオ。魔術は使えないが普通に体は動かせる」


「ねぇねぇ!!天滅級2体を撃退したってホント!?」


 テオが心配しているのを他所にそう聞いてきたのはジェイだ。相変わらず元気がいいな。


「あー、まぁ、そうだな」


「えー!!すっごい!!」


 なんて言うか、あれは俺であって俺ではないんだが、それを説明しても理解できないだろうからまぁいいか。


「おー?アレク復帰かー?」


 気だるそうにイグナスが入ってきた。


「あれ、ミアレスに居るんじゃなかったのか?」


「いつの話してんだよ…。それ1ヶ月前の話だぞ。さすがに卒業前のこの時期に仕事は入れられねぇよ」


「おぉ、意外としっかりしてんだな」


「うるせー」


 そう言いながらイグナスは教卓に立った。


「ん?エマ達は?」


「あー?聞いてるだろ。昨日から3人で指名クエストだ」


 そんなこと言ってたっけ…?言ってたような…。昨日の朝3人が来てたような…?朝弱いからあんま覚えてないんだよなぁ。


「そうか」


「じゃ、授業始めるぞー」


 イグナスの授業という名の雑談が始まった。

 エマもソフィアもカルマもいないのか。なんか寂しいな、午後からとやることないな。

 どうしたものか。


 ◇◇◇


 退屈な授業が終わった。もっとマシな授業は出来ないんだろうか。本当にただ喋りたいこと喋ってるだけなんだよなぁ。

 まだシリウスの方が良い授業ができそうだ。


 それよりも俺には気になることがある。


「なぁ、なんでお前らそんなギスギスしてんだ?」


 そう、教室の空気感だ。いつも通りに感じるが何かが違う。それは男女で話をしてない所だ。確か、エイダとセオドア以外は付き合ってたんだよな?


「ま、まぁ、それには色々あるんだよ…」


「あー…まぁ、なんとなく察したよ」


 汗をかきながらポリポリとこめかみをかきながらルーカスが言ってきた。

 色々ねぇ…。


「色々って何?自分が悪いんでしょ?」


「あ、いや…」


「ねぇ、反省してないの?ちょっと強くなったからって調子に乗って」


 ルーカスの言い草にジェイが反応した。こりゃ相当怒ってるな。何やったんだルーカス…。


「このクズ、浮気したんだよ」


「ク、クズって言うなよ…」


 浮気かぁ…。一夫多妻が許されてない限り、他の女性と関係を持つのはしっかり浮気だからなぁ。

 俺の場合、ヨハネス陛下が「第2夫人にソフィアを」なんて言ってくるからほぼ確定で一夫多妻を許されるし、エマもそれを許してる。


「しかも、その浮気相手にも振られて「やっぱりジェイが好きだー」なんて言ってくるんだよ?反吐が出る」


「………」


 ルーカスが泣きそうだ。ルーカスが100%悪いがもうやめてやってくれ。


「ま、まぁ、ジェイとルーカスはわかったが、テオとノアはどうしたんだ?仲良さそうに見えたんだが」


 すると、ノアが立ち上がって俺の目の前に来た。ジッと俺の瞳を見る。


「私は、アレクサンダーが好き」


 おっと、とんでもない発言が飛び出してしまった。聞くんじゃなかった。

 ノアもエマやソフィアに負けず劣らずの美少女だ。独特な空気感で表情もあまり変わらない、正直何を考えているのかわからないが…。


「その想いには応えられないぞ?」


「知ってる。もう卒業だから。伝えたかっただけ」


「そ、そうか」


 やっばり何を考えているのかわからない。すると、テオが俺に耳打ちしてきた。


「ノアはそんな気持ちで俺と付き合うのが申し訳ないって別れたんだ」


「なるほどな」


「俺はまだノアの事が好きだ。時期を見て、また告白してみるよ」


「応援してるぞ」


「ありがとう!」


 この2人はなんだかんだお似合いだと思うな。ルーカスとジェイみたいなドロドロなお別れじゃなくて良かった。素直に応援できる。


「エイダはどうなんだ?」


「え!?わ、私!?」


「エイダはお前しか居ないだろ…」


 俺がそう聞くと周囲がニヤニヤし始めた。それに気付いたエイダは頬を赤くしている。


「今お熱いのはエイダだもんねぇー」


「や、やめてよ…ジェイ…」


 ジェイが肘でつんつんとエイダをつついた。


「4年のザザ君とお付き合いしてるんだよー」


 もじもじして何も言わないエイダに見かねてジェイが代わりに言った。


「へー、ザザか。いい男じゃないか」


「へへっ…」


 照れてるみたいだな。こんなエイダを見るのは初めてだ。可愛らしい所もあるんだな。

 元々ザザと仲がいいってのは知ってたからな、いつかこうなるだろうとは思っていた。


 ザザとサラトガか…。あいつらもお見舞いに来てくれたって言ってたっけ。復帰報告に挨拶回りでも行くか、どうせ暇だし、もう少しで卒業だしな。


 ◇◇◇


 まずは、ザザとサラトガだ。


「えっと、4年は3階か…」


 教室や訓練場とかは各学年ごとに用意してある為、他学年と顔を合わすことはほとんど無い。自分から教室に出向くってのもなんか変な感じがするな。


「お、おい…あの人って…」

「ああ、忘却の魔剣士アレクサンダーさんだ…」

「なんで4年の所にいるの…?」

「相変わらずイケメン…」


 廊下を歩いているとヒソヒソと周りが話している。場違い感が凄い。まぁ、あまり気にする事でもないか。


「ねぇ、お嬢さん」


「ひゃ、ひゃい!!」


 特待生の教室がわからないので、俺をボーッと見ていた女学生に聞いてみることにした。


「特待生の教室ってどこかな?」


「あ、え、お、お、奥から2番目の教室ででです!!」


 テンパリすぎだろ…。


「ありがと」


「ひゃい…」


「おっと」


 ニッコリ笑って礼を言うと女学生は目をグルグルさせ、鼻血を出して倒れた。すんでの所で抱える事が出来たが、この子どうしようか…。


「すまないが、この子医務室に連れて行ってあげてくれ」


「「は、はい!」」


 その様子を見ていた男の学生に押し付けておいた。

 周りでは一連の流れを見ていた女学生がなにやら羨ましそうに見ていたが、俺の知ったこっちゃない。


 奥から2番目の教室…。


「ここか」


 ガラガラと勢いよく扉を開けた。

 ワイワイ賑やかだった教室は静まり返り、視線は俺に集中した。


「アレクサンダーさ…


 《ギャァァァァァアア!!!!!!》


「うおっ…うるせ…」


 俺に気づいたサラトガがこっちに来ようとしたら、悲鳴とも言える黄色い声援が教室に響き渡った。


「なななんでアレクサンダー様が…?まさか私に会いに?」

「なわけないでしょ!どどどどどうしよ…もっとしっかりメイクしてくれば…」

「はぁぁぁ、どうしよ、眼福…。もう死んでもいい…」

「オーラが違うわ…。このクラスの男子にも見習ってほしいわ…」


 なんだなんだ?悲鳴を上げたと思ったらギャーギャーなにか言い出したぞ。


「ア、アレクサンダーさん!どうかしたんですか?」


「おー、サラトガ。ザザとお前に用があったんだが、後ろの女子達は大丈夫か?」


「あぁ…大丈夫ですよ…。彼女達はみんな『忘却ファンクラブ』の一員なので…」


「なんだそれ…」


 忘却ファンクラブって…まさか俺のファンクラブか…?まぁ、忘却だから俺しか居ないよな。


「ちょっと!!サラトガ邪魔よ!!アレクサンダー様が見えないじゃない!!」


「うるせぇ!!アレクサンダーさんは俺に用があってきたんだよ!!」


 サラトガはそう言うと俺に向き直った。


「用はなんでしょうか!」


「あ、ああ…。いや、大したことじゃないんだ。俺が死にかけている時にお見舞いに来てくれたらしいな。ありがとう」


「そんな、お礼を言われることじゃありませんよ!僕やザザだけじゃなく、あなたを知ってるみんなが心配していましたから」


「そうか、あと少しで俺は卒業するが、怠慢せずに励めよ」


「はい!!」


「それで、ザザは?」


「ザザならエイダさんとクエストに行くって張り切って出ていきました。また伝えときますね!」


「ああ、頼む」


 サラトガと固く握手を交わし、教室を後にした。

 教室からは俺と握手したことでサラトガの手を切断とかヤバそうな事が聞こえたが、聞かなかったことにしよう。


 あとは、ジークか…。


第120話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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