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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
124/137

第118話 アレクの両親

投稿少し遅れて申し訳ありません!

 

 東の平原は変わり果てていた。

 草の生い茂る、緑豊かな平原は雷や激戦によって焼け焦げ、土肌が露出している。

 地面は所々ボコボコになっており、その戦いの激しさを思わせる。


 平原の中心、大樹の根元には3人がぐったりしている。そして、激戦だったであろう戦場の中心では1人の男が立ち尽くしていた。


「「アレク!!!」」


 東の平原に到着したシリウスとアレイナはその場に立ち尽くす男、アレクサンダーに声を掛けた。


「と…さん…か…さん…」


 アレクは瞳に涙を溜め、2人の元に駆け寄り、抱きついた。


「うおっ…どうした?」


「アレク?」


 急に抱きつき、泣きじゃくるアレクを見てシリウスとアレイナは困惑している。


「会いたかった!!会いたかったよ…。父さん…母さん…」


「「え!?」」


 アレクの衝撃的な発言に2人は固まってしまった。


 ◇◇◇


 しばらくアレクの背中を摩っていると落ち着いたようだ。


「この世界では初めましてだったね」


「この世界では?てことはお前が話に聞く平行世界のアレクってやつか」


「平行世界…。うーん。少し解釈違いがある気がする」


 アレクは難しい顔をして考えている。


「んー、この俺もあの俺も結局は繋がった俺なんだよ」


「余計訳わかんねぇよ」


 シリウスは頭にハテナを浮かべているが、アレイナは冷静に言葉の意味を考えている。


「ねぇあなたってもしかして、記憶を失う前のアレクなんじゃないの?」


 アレイナの言葉に驚いたようにシリウスは固まる。


「だが、あいつが記憶を失ったのは6歳だぞ?」


「でも、アレクは元々熟達した精神だったって聞いてる。それに魔術の知識も、剣術の知識も備わっていた。これって、そういう事なんじゃないの?」


 アレクはアレイナの推理を黙って聞いていた。


「アレクが記憶を失ったのは何かしら大魔術の後遺症…なぜアレクが子供なのに熟達した精神を持っていたのか、それは、大魔術の副作用で"時間"を犠牲にしたから…」


「てことは、つまりアレクは…」


 2人が確信に近づこうとしたとき、アレクは2人の口を塞いだ。


「答え合わせは、魔神を倒してからでいいよね」


「そうか…」


「2人の推理は合ってるよ。この世界に来る時、"過去の俺"と"今の俺"で人格が分離したんだ。『今の記憶のみを持つ今の俺』『過去の記憶のみを持つ過去の俺』ってとこだね」


「じゃあ、さっき父さん、母さんっていたのは本当に…」


「そう、俺は正真正銘2人の子供だよ」


「だから、私達に子供ができなかったんだ…。だってもうこの世界にアレクはいるから。お医者さんも異常はないって言ってたし。納得だよ」


「存在は重複しないってことか」


 黒髪に、黄色の瞳、シリウスとアレイナを足して2で割ったような顔立ち。疑う余地はなかった。

 アレクは少し寂しそうに、嬉しそうにそう言った。


「アレクが記憶を取り戻したらお前はどうなるんだ?」


「消えるよ。俺は所詮魔術の代償でできた副産物にすぎないから、今の俺が思い出せば人格は上書きされる」


「そうか」


「それに、俺が出てくるのもこれで最後だから。最後に2人に会えてよかった」


「ど、どうして…?」


 アレイナは戸惑っているが、シリウスはアレクの目を見て何かを悟ったようだ。


「なるほど、お前じゃ魔神には勝てなかったのか」


「さすが父さん、そういう勘はいいね。そう…。俺じゃ勝てなかったんだ…。俺だけじゃ…」


 魔神との戦いを思い出しているのか、アレクの体が震えている。


「アレクだけじゃ…か。お前もギムと同じように、仲間に頼るのをやめたんだな」


「うん…。だから、今の俺には少し安心してる。エマさん…カルマ君やソフィアさん、父さん、母さんもいる。ただ、もし今の俺が道を踏み外しそうになったら道を正してあげてほしい」


「ああ、任せとけ」

「うん!!」


 アレクは少し安心したように笑った。


「あと、この事は誰にも言わないでね」


「まぁ、あんまほいほいとは言えないよな」


「エマさんのご両親はまだ生きてるんだっけ、その2人には言っていいよ」


「その2人はいいのか?」


「うん、育ての親みたいだし、俺とエマさんが結婚すれば実の親である父さんと母さんも無関係じゃないからね」


「ま、まぁ、あまり実感はないが…」

「なんか変な感じだよね」


「保護者的立ち位置も2人の方が何かと都合がいいかもよ?このままエマさんの両親が保護者だと身内婚と思われるかもしれないしね」


「そうだな…。その事は相談してみる」


 すると、アレクの鼻から血が流れる。


「おっと、もう体が限界みたいだ」


「いくのか?」


「うん、最後に元気な2人に会えてよかった。過去の俺は消えるけど、今の俺のことは気にかけてあげて欲しい。意外と親の愛ってのに飢えてるからさ」


「ああ、わかった」

「親の愛ねぇ、大人びてるようで意外と可愛いとこあるね」


 アレイナはクスクスと笑い、アレクの頭を撫でる。


「あと、最後に忠告。ギムレットと魔神を融合させたらダメだよ。本当に手がつけられなくなる」


「え?それならもう遅いだろ。ギムが死んで、新しい魔剣士がいるんだか…ら…。いや、待てよ…。お前まさか…自分が生まれるよりも前の時代に…?」


「そういう事。今この世界に魔剣士は2人存在するんだ。まだ手遅れじゃない。ギムレットと魔神が融合するまであと20年ほどはあるから、慌てずにね」


「そうか…。まだギムは生きているのか…」


 シリウスはギムレットの無事を知り安堵した。


「それじゃ、俺はいくよ」


「ああ、じゃあな、アレク」

「ありがとうね」


 シリウスとアレイナはアレクを強く抱きしめた。


「暖かいな…本当、羨ましいよ…。今の俺が…」


 ポロリと一筋の涙を落とし、アレクは脱力し、2人にもたれ掛かるように倒れた。

 シリウスは眠るように倒れたアレクを抱え、ぐったりしているエマ、カルマ、ソフィアの元に歩いていく。


「ふふっ、私達の子供だって思うと、なんだか可愛いね。これが母性ってやつかな?」


「まぁ、特別な感情が湧かない訳では無いな」


「シリウス照れてるの?シリウスも可愛いよー、シリウスのそういう所がアレクにも似たんだろうね」


 こうしてVSマイズ戦、東の平原での戦いは幕を閉じた。

 七つの大罪の一角である怠惰を味方に取り込むことに成功したことで、パンドラの戦力を大幅に削ることができた。しかし、残るは6体の天滅級モンスター。

 東の平原での戦いは、この先起こる激闘の序章に過ぎなかった。


 ◆◆◆


「マイズ逃がした」


「なにやってんだよ…」


「まぁ、後は自分でなんとかしろ」


「言われなくてもやる」


 アレクの精神世界では2人のアレクが会話をしている。現実での出来事を精神世界では知ることができない。こいつの口ぶり的には上手くいったみたいだ。


「ほら、早く行けよ。お前の事を待ってるやつはたくさんいる」


「ああ、ありがとうな」


「もう負けるなよ」


「二度と負けねぇよ」


 俺は背を向け俺に手を振り光射す方へ歩いていく。


「全てを終わらせた時、お前は全てを思い出す」


「前も聞いたな、それ」


「覚えてたか。まぁ、そういう事だ。お前の記憶と魔神を倒すことは直結している。精々頑張れ」


「ああ」


 俺からの激励を受け、俺の意識は段々と精神世界から離れていった。


「…………はぁ…」


 精神世界に1人取り残されたもう1人のアレクは深い溜息をついた。


「あいつが記憶を取り戻すまでここでじっとしておくのか…退屈だ…。あいつが精神的危機に陥らないとこっちからは現実に干渉できないしなぁ…」


 現実での出来事を思い出す。


「大丈夫…。まだ父さんと母さんの温もりが残ってる」


『シリウスさんとアレイナさんだけでいいの?』


 アレクの背後から聞き覚えのある声が聞こえる。懐かしい、ずっと聞きたかった声だ。


「エマさん…?」


「なにぼけーっとしてるの?アレクサンダー」


「え、だって、ここは俺達の精神世界…」


「あのね、私の命も代償にしてるんだから、私が居たっておかしくないでしょ?なに?居ちゃまずかった?」


「そ、そんなわけないでしょ…嬉しいですよ。エマさん…会いたかった…」


 アレクはエマに抱きつこうとするが、エマはそれを手で制した。


「え…?」


「ねぇ、あのおっぱい大きいソフィアって子に鼻の下伸ばしてたよね」


「え!?い、いやぁ…?ていうか、なぜ現実世界の事を…?」


「あなたが現実に出ている間はその様子を見ることができたのよ。この世界のアレクサンダーが出てる時は見えないけどね」


「な、なるほど…」


「ねぇ、鼻の下伸ばしてたよね?チラチラおっぱいも見てたし、羨ましいとか言ってなかった?」


「え…?あ、いや…。そのぉ…」


 みるみるうちにエマの顔には怒りが浮かび上がってくる。


「この世界の私は許してるみたいだけど、私はあなたが鼻の下を伸ばすことは許してないんだけど?私が嫉妬深いってしってるよね?」


「はい…それはもう、重々と…」


「私が見てないって思ってやったんだ。それはもう浮気だね。このまま消えようかな」


「え!?ちょ、ちょっと!!」


 アレクは慌てたようにエマの腕を掴んだ。


「あ、あの時はテンションが上がっちゃって…。久々に戦えたし、生きてるエマさんの顔も見れたからつい…ごめんなさい…」


 怒られた子犬のようにシュンとするアレクを見て、エマは恍惚な表情を浮かべじゅるりと舌なめずりをした。


「ま、まぁ、いいわ…。どうせ暇でしょ?消えるまで一緒にいてあげる」


「ほんとに!?よかったぁ…エマさん大好きです!!」


「わっ…ちょっと…」


 アレクは思わずエマに抱きついた。エマの表情は更に恍惚となり、目がグルグルと回っている。


「も、もう我慢できない!!」


「エマさ…んぐっ!?」


 エマは強引にキスをする。そして、そのままアレクを押し倒し、おもむろに服を脱ぎ始める。


「エ、エマさん…?」


「はぁ…はぁ…ほら、どうせ何もする事ないでしょ…?なら、ナニしたっていいじゃん…はぁ…はぁ…」


「あっ…ははっ…。お、お手柔らかに…アッ…」


 それから何が行われたかは言う必要はないだろう。どうやら、どの世界のエマも共通して性欲は強いらしい。


「アレクサンダー…大好きよ…」


「はい…俺も大好きです…エマさん…」


 ◇◇◇


 東の平原での戦いが終わり、激戦を生き残った4人はシリウス達によって冒険者学校の医務室に運ばれた。

 もう1人のアレクの治癒魔術のおかげで、エマ、ソフィア、カルマは軽傷だった。魔力枯渇、生体エネルギーの枯渇程度で済んだ。


 1番重症だったのはアレクだった。

 目立った外傷はなく、魔力もある程度回復している。しかし、一向に目覚めない。


「これは…酷い…。魔力回路がめちゃくちゃだわ…。新元素の雷魔術を扱うってだけで相当な負担だったのに。これはまるで、全く別人が全く別の強力な魔術を使ったような壊れ方をしてる」


「アレク…死なないよね…?」


 一足先に回復したエマがアレクの手を握る。


「魔力回路の修復は精神的苦痛と肉体的苦痛を伴うの…。アレクの精神が持たなかったら…最悪、死ぬわ」


「そんな…」


 エマの頭に浮かぶのは精神が保たれず、暴走気味になっていた、東の平原での戦い。こうなる前からアレクの精神は壊れかけていた。

 最悪が頭をよぎる。


「諦めたらダメよ。こうやって、手を握ってあげて。それだけで支えになるから…」


「うん…」


 エマはアレクの手を強く握る。


「早く起きてね…アレク…」


 切に願うエマだったが、戦いから3ヶ月、アレクが目を覚ますことは無かった。


第118話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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