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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
119/137

第113話 善意と悪意

 

「エマさんは戦いに加わるのですか?」


 黒髪の青年は食器を片しながら何気なしに聞いた。


「参加するわ。パンドラも、魔神も、結局は私とアレクサンダーが協力しなければ勝てないから」

「そうですね。魔剣士と賢者は必要不可欠だと父さんも言ってました」

「……」


 エマは俯き、何かを考え始めた。


「なんで聞かないの?」

「何をですか?」

「とぼけないで。私程の力があればカプセルからも抜け出せるし、パンドラの追手からも逃げられる。なのになんでそうしなかったのか。気になってるんでしょ?」

「ま、まぁ…」


 アレクサンダーは頭をかきながら答えた。


「はぁ…あなたのそういう所も大好きよ。でも、すぐ顔に出るんだから気になるんだったらとりあえず聞いて」

「すみません…聞いても良いですか?」


 すると、エマはポツポツと話し始めた。


「レディア襲撃事件は知ってるわね?」

「はい、突如カオスフォレストのモンスターが街を襲った事件ですよね。それで、レディアの街は滅んだと。俺が産まれる20年以上前の事件ですね」

「その事件の首謀者は私よ」

「は…?」


 思わぬ言葉にアレクサンダーの思考が止まる。


「当時11歳ほどだったかしら。マイズの司令でレディアを襲うことが決められたの。私の故郷よ、反対したわ。でもね、お父さんとお母さん、両親の友人であるローガンさんとミーヤさんは助けてくれるって条件付きで渋々引き受けたわ。

 ブエイムが操っているモンスター達を率いてレディアに攻め入った。まず目の前に立ちはだかったのは、騎士団であるローガンさんとミーヤさんだったわ…」


 エマは身体を震わし、苦しそうに話を続ける。


「当然よね…?街を守る騎士なんだもの…。でも、2人は最後まで逃げずに応戦し続けたわ。そして、カースリッチに為す術なく殺された。モンスター達が街を蹂躙し尽くして、レディアは滅んだ。

 目の前でローガンさんとミーヤさんが殺されるのを見て、急に怖くなったわ。直ぐにお父さんとお母さんの顔を見たくなった。だから、すぐに家に向かったの」


 エマの瞳から涙が零れ始める。喘ぐ声を押し殺しながら話を続けた。


「家は…酷く荒らされてた…。家の中に居たのは1体のリザードマン。リザードマンの手には鮮血が残ってた…。地面に横たわるのはお父さんとお母さんの死体…。マイズは初めから約束を守る気なんてなかった…!!私を再起不能にさせるか、完全に従順にさせるのを目的としてたの…!!

 その瞬間を境に私の心は完全に壊れたわ…。もう何も考えられない、自分で動けない。ただの生きた屍。廃人よ。そんな私をマイズはカプセルに押し込み、自身の魔力源としたわ…。これが、私が囚われていた真実よ…」


 あまりに辛い話にアレクサンダーは言葉を失っていた。


「ねぇ、アレクサンダー…」


 エマは大粒の涙を流しながら俺の顔を見上げた。


「あなたにはもっと早く産まれてきて欲しかった…」


 アレクサンダーはかける言葉を見つけることができず、涙を流すエマをただ抱きしめることしかできなかった。




 ◆◆◆◆◆




「ねぇ、アレク。こっち見て」

「……」

「こっち見てー」


 俺は今尋問にかけられている。理由は明白、限界を超えた力を使ったことだ。ソフィアがうっかり口を滑らし、エマに知られてしまった。


「暴走も龍化もしなかったんだからいいだろ」

「良くない!万が一って言葉知らないの?」

「まぁまぁ…エマさん。己の限界を知るってのも悪くはないと思いますよ?」

「ソフィアはアレクに甘いんだよ。でも、ソフィアが言うことも一理あるね」


 ソフィアも破滅的な方法は好まないが、今回の戦いを見て俺がある程度制御できていたのがわかったのだろう。今回は俺を擁護してくれるみたいだ。


「そういや、ジークがいたぞ」

「露骨に話しそらさないでよ」


 終わってなかったのかよ。


「はぁ…ジークがいるのは知ってるよ。最強決定戦の時に顔合わせたから」

「へー、なんで教えてくれなかったんだ?」

「え?知ってると思って」


 普通は最近決定戦の出場メンバーくらい見るもんな。知らなかったのは俺くらいか。


「私はクエストで疲れたから寝るね」

「自分の部屋で寝ろよ」

「やだ、ここで寝る」


 そう言ってエマは俺のベットを占領した。

 エマはついさっき帰ってきたばっかりだ。帰りの途中で西の森を見て、俺の魔力の残穢で何があったか聞いてきたのだ。ソフィアが口を滑らすのも仕方ない。いや、わざと言ったのか?


「カルマはもう帰ってきてるのか?」

「はい、今はファナさんとお買い物中です」

「仲がいいこと」

「私達も仲良しではありませんか」


 ソフィアは俺の腕に抱きついてきた。最近は照れることなく積極的になってきた。良い事だ。

 今日はこのまま3人で寝ちゃおっかなーなんて思っていたが、しばらくして2人とも自分の部屋に戻って行った。


 ◇◇◇


 俺達4人は今、魔龍連山でクエストをしている。簡単なクエストだ。でっかい虎を50体ほど狩るだけ。それだけでなんと5万Gも貰えてしまうのだ。


「冒険者って稼げるよな」

「しかし、常に危険と隣り合わせです」

「割にあった仕事ってことだね!」

「腹減った」


 カルマは今日寝坊してきた。朝飯も食べてないらしい。どうせ夜遅くまでファナとやることやってたんだろ。こりゃ、最初に子供ができるのはカルマだな。


「そう言えば、シリウスから龍の力には奥義があるって聞いたぞ」


 さっきまで項垂れていたカルマが藪から棒に聞いてきた。


「それなー、俺達も詳しく知らないんだ」

「龍の力を貰ったのにか?」

「うん、アルはその時のお楽しみだー!って」

「そうなのか」

「どうしたんだ?」

「いや、どんなのか気になっただけだ。ただでさえ強い龍の力の奥義となれば威力は計り知れんからな」


 確かにそうだな。だが20%ほどで根を上げている俺達じゃ奥義はまだまだ先だろう。


『うわぁぁあああ!!!!誰か助けてぇ!!!』


 少し近くで少年の悲鳴が聞こえた。


「いくぞ」


 俺達4人は声の発生源に向かって走っていった。


 ◇◇◇


「うわぁぁあ!!!」

「大丈夫か?」

「ぼ、冒険者!?」


 駆けつけた所には濃いオレンジの髪の色をした少年が腰を抜かしていた。

 目の前には少年の3倍ほどはあるモンスター、ワータイガーが今にも少年を襲おうとしている。


「討ち漏らしか?」

「いや、ちゃんと50体数えた、別のやつだろう」

「そうか、カルマ任せるそ」

「おう」


 カルマはワータイガーの方に歩いていった。


「んで、お前はこんな所でなにしてんだ?」

「え、あ、えっと…僕も冒険者です…」


 少年は胸ポケットから冒険者カードを出した。


「D級?ここは中層だぞ。D級は表層だけだろ」

「すみません…。道に迷っちゃって…」

「名前はアーグか。1人で帰れるか?」

「か、帰り道がわからなくて…」

「送っていくか」


 カルマは一瞬でワータイガーを倒し、俺達の元に戻ってきた。


「はぁ…まぁ、危ないし仕方ないな」

「ありがとうございます…」


 このままここに放置しておく訳にも行かない。放っておいたらさらに奥に行ってしまうかもしれないからな。

 アーグを魔龍連山の麓まで送り届けることにした。


「なんのクエストしてたんだ?」

「えっと、カオスウルフの討伐です」

「え?カオスウルフって魔龍連山に居たっけ?」

「え?あ、そうでしたっけ…」


 怪しすぎるな。冒険者カードもあるが、どうやら偽装っぽいな。魔力の痕跡が残っている。もっと上手く出来ないものか…。


「……」

「あの、なんですか?」

「…いや、なんでもない」


 なるほどな、そういう事か。

 俺はチラッと3人を見る。エマは少し険しい顔、ソフィアは額に薄ら汗をかいている。カルマは相変わらずの無表情だが、すぐに刀を抜けるような体制で歩いている。

 どうやら3人も気付いたようだ。


(((デーモンだ…!!)))


 しかも、これはかなり上位のデーモンだ。いや、上位なんてものじゃない。おそらく、七つの大罪…。

 この距離なら4人で一斉にかかれば何とかなるか?しかし、妙だ…。デーモン独特の悪意や殺意を全く感じない。

 3人は俺に視線を送り合図を待つ。だが…


(((!?)))


 俺は首を横に振った。俺の判断に3人は大きく目を見開き驚いていた。

 相手は天滅級だ。簡単に倒せる相手じゃない。それに、こいつは他と違う気がする。根拠はない、ただの俺の直感だ。


「ここまででいいか?」

「はい!ありがとうございます!」

「どういたしまして、困ったことがあれば言えよ」


 アーグは手を振りながら走り去って行った。俺は手を振り返し見えなくなるまで見送った。それを3人は怪訝な顔で見ていた。


「ねぇ、なんで見逃したの?わかってたよね?」

「お前が気付かないはずかない」

「アレクさん…?」

「………」


 返す言葉が見つからない。


「絶好の機会だったかもしれないのに」

「…絶好の機会はアーグもそうだったんじゃないか?」


 天滅級ならあれだけの近距離、一撃で蹂躙することも可能だろう。


「それでも!あいつは私達の敵でしょ!?」

「あいつから敵意や悪意を感じなかった」

「隠してただけかもしれないじゃん!」

「デーモンってのは隠しても隠しきれない悪意ってのがあるんだよ」

「それでも見逃すのはおかしいでしょ」

「見逃した訳じゃない、定期的に監視はする」


 どうやらエマは相当お怒りのようだ。エマはデーモンを異常に敵視している。それも当然か、俺達はデーモンに良いようにやられてきた。

 俺もデーモンは大嫌いだ、だが、あいつは何か違う気がする。


「監視するって言って、もし暴れたらどうにかなるの?」

「難しいな」

「だったら今攻撃した方がよかったじゃん!」

「敵意のない相手に攻撃はできない」

「でもデーモンでしょ!?なんで完全に敵意が無いって言いきれるの!?」

「勘だ」


 勘という俺の言葉にエマは怒りを露にした。


「ふざけないで!!!」


 エマの怒声と同時に黄金の魔力が場を圧迫する。


「ふざけてねぇよ」

「じゃあなんで勘なんて適当なこと言うの!!」

「悪意や敵意の無い相手を殺す趣味はない」

「そういう問題じゃないでしょ!!」


 俺とエマは睨み合う。とてつもない圧迫感がそこら中を満たす。


「いいか?デーモンだからと無意味に殺したりするような殺人鬼にはならない」

「デーモンは悪でしょ!!」

「悪だと限るのは偏見だ。お前、悪魔界を見たことがあるのか?行ったことがあるのか?デーモンが全て悪とは限らないだろ」


 実際、王立図書館には人間に味方したデーモンの文献も残っている。


「アーグからは途方もない力を感じた。だが、それだけだ。本当にそれだけなんだ。善意も悪意も感じない。ただの無だ」

「だからなんなの。七つの大罪かもしれない以上私達の敵に変わりはない」

「はぁ…話聞いてないのか…?わからず屋」

「は?どっちがわからず屋なの?もしかして、今の一瞬でデーモンにあやつられてるんじゃないの…?」

「は?なわけ…なっ…!!」


 エマは俺の両肩を掴み聖の魔力を流し込んできた。


「や…めろ…!!エマ…!」

「なんでデーモンを庇うの!?」

「庇ってる訳じゃない…って…!!監視をするって言ってるだろ!!」


 俺は思わず雷魔術を発動した。聖の魔力は浄化の力ならなんにも影響はないが、大量に送られ続ければ魔力過多で悪影響を及ぼす。今、そのキャパがギリギリ超えそうだった。


「痛っ…!いい加減にしてよアレク!!」

「いい加減にするのはお前だ!!」


 雷と聖がぶつかり合う。幸い今の時間に他の冒険者はいなかった。魔龍連山の入口では俺とエマの魔力のぶつかり合いで凄まじい威圧が充満している。


「ふ、2人とも!!やめてください!!」

「やめろ…!!」


 カルマとソフィアが止めに入ろうとする。


「なんで、わかってくれないんだ!!」

「わかんないよ!!」


「うっ…」

「くっ…」


 カルマとソフィアは魔力の応酬によって弾き飛ばされる。

 俺とエマの瞳孔は縦に割れる。龍の力を解放した。本気の大喧嘩だ。


「こ、こんなの…。誰が止めるんですか…?」

「俺達じゃ、無理だ…」


 カルマとソフィアが諦めかけたその時だった。


『なにしてんだ馬鹿』

「痛っ」


 誰かが俺に強烈なゲンコツを食らわした。


「挨拶回りから帰ってきてみれば、なにしてんだお前ら」

「シリウス…」


 シリウスだった。


「エマも殺気を抑えろ。魔力もな」


 エマは落ち着きを取り戻し、殺気と魔力を抑えた。


「だって、アレクが…」


 口篭り、エマは俯いた。

 エマの気持ちも十分わかる。だが、俺にはアーグがどうしても敵だとは思えなかった。


 俺は知っている気がする。

 善意も悪意もない、ただ言われたことをやるだけだった人、灰色の髪の少し耳のとがった緑色の瞳の女性。その人の儚げな表情とアーグの表情が重なって見えてしまった。


第113話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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