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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
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第111話 カルマの特性

 

 最強決定戦から約1ヶ月が経った。俺とエマの帰還報告は関係者全員に行き渡り、落ち着いたところだ。

 俺達は平和な日常を送っている。


「見て見て!アレク!」

「ん?」

「じゃーん!!」


 午前の授業は終わり、俺達4人が適当なお店で昼食を取っていると、エマが嬉々として1枚のチケットを見せてきた。


「なんだこれ、「1年間飲食無料券」?」

「そ!!昨日届いたの!」

「なんでそんなものもってんだ?」

「最強決定戦の優勝賞品だよ!」


 そうか、そいやそんなんあったな。それで土地貰ったんだっけ。


「よかったな。エマにピッタリの賞品だ」

「でしょ!これで王都の美味しい物食べ放題だぁ」


 エマはヨダレを垂らしながらチケットを大事そうに抱えている。

 これは、1年後にエマの暴食のせいで店を畳む人が増えそうだ。


「ソフィアとカルマは何を貰ったんだ?」


 2人も俺とエマがいない間の優勝者だから何かしらもらってるはずだ。


「俺は「龍皮」だ」

「私は「3年間アルカナム武具店からの無償提供」です」

「へー」


 なんかしょぼくないか?いや、しょぼくはないんだ。龍皮は貴重な素材だ。おそらく、シリウスらが討伐した龍の皮だろう。

 アルカナム武具店からの無償提供も凄いが3年間という期間付き。エマのお食事券も1年間限定だ。

 永続的に得をできるのは俺だけだ。


「スアレの襲撃に加え、アレクさんとエマさんの捜索で国の予算を結構な額消費したようで、どうしても優勝賞品のグレードは落ちてしまうんですよ」

「あ、そう。顔に出てた?」

「すごくな」


 顔に出やすい癖どうにかしないとな。


「アレクとエマのそのコートとマントは龍皮だろ?俺が貰った物より遥かに質がいいが、まさか始祖の龍の皮とか言わないよな」

「そうだが」

「そうだよ?」

「マジかよ…」


 ソフィアは口に手を当て絶句、カルマは頭に手を当て項垂れている。


「始祖の龍の素材なんかどんな値がつくだろうか…。いや、値はつかず国宝になるだろうな…」

「確かに快適だぞ。あ、やべ」

 〔ベチョ〕

「おい!!!」


 コートにミートソースを零してしまった。頑固な油汚れとして定評のあるミートソースだ。困ったな。

 だが大丈夫。


「ほれ、綺麗さっぱり」

「す、すごいな…」


 布巾でサッと拭き取ればあら不思議、頑固な油汚れも綺麗さっぱり。見ての通り汚れることが無いため洗濯の必要もありません。


「さて、腹も膨れたし冒険者協会いくか」

「そうだな」

「行きましょう!」


 俺達は冒険者協会に向かった。

 エマがドヤ顔でお食事券を出したが、その店は対象外だったようで、渋々金を出していた。


 ◇◇◇


 〜冒険者協会〜


「ホグマン会長、例の件は大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」


 例の件…別に怪しいことじゃない。バタバタして話が進んでなかったS級への昇格試験の話だ。


「昇格試験の内容は単純だ。個人でSランクを討伐、パーティーでの申請はパーティーでSSランクを討伐してもらう」

「手段は?」

「問わない。どんな方法を使って討伐しても構わない。ただ、他人からの助力はダメだ。しっかり自分達で討伐すること」

「なるほど」


 楽勝だな。俺とエマは既に2人でSSランクを討伐している。ソフィアとカルマも心配はいらないだろう。


「君達はS級上位に匹敵する戦闘力がある。だが、飛び級はできない。すまないがしっかり手順を踏んでくれ。私達もできるだけ君達を妥当に評価する」

「お気遣いありがとうございます。まぁ、卒業するまでにはS級上位に上がりますよ」

「そうだな、楽しみにしている」


 飛び級はできないか。ホグマンの例外を作らないスタイルは相変わらず徹底されてるな。これも冒険者達を思ってだろう。いい会長だ。イグナシアの冒険者の質がいいのも納得だ。


「試験の見届け人としてSS級冒険者を同行させる。いつも通りならイグナスなんだが、今のイグナシアには3人のSS級冒険者がいる。という訳で、こいつに来てもらった」

「こいつって失礼じゃないか、ホグマン」

「なんだ、シリウスか」

「俺で悪かったな」


 俺達の後ろからヌッとシリウスが出てきた。

 てか、イグナシアには3人のSS級冒険者がいるのか。パワーバランスぶっ壊れてるけど大丈夫なのか?


「ほら、早く行くぞ」

「SSランクのモンスターに心当たりあるのか?」

「ああ、あるぞ。魔龍連山の最深部だ」


 魔龍連山の最深部…。初めて行くな。最深部といえば特異点がある一帯のエリアだよな。カオスフォレストとはやっぱり作りも違うのだろうか。


 俺達は魔龍連山:最深部に向かった。


 ◇◇◇


 〜魔龍連山:最深部〜


「急で悪いが、カルマ、お前1人で戦え」


 最深部に着くとシリウスが急にそう言った。


「これはパーティーの試験だろ?」

「馬鹿言うな、お前ら4人でかかったらオーバーキルだ」

「でも、なんでカルマだけなの?」


 俺とエマはシリウスに指示の理由を聞く。


「ソフィアの実力は知っている。SS級を単独で撃破可能だ。アレクとエマは言わずもがなだ。カルマ、特に心配はしていないが、実力を示せ」

「…なるほどな、これは俺の試験ってことか」

「まぁ、そういう事だ」

「わかった、任せろ」


 カルマは頷き、特異点が見える広場に向かった。

 ここは魔龍連山の最深部、連山の山頂に位置し木々の1本もなく岩肌が向き出された平地だ。特異点は小さな洞穴の中に薄ら鈍く輝いている。


「きたか」


 突然俺達のいる場所が陰る。大きな何かが飛来してきた。


「うわぁ…ドラゴンだ」

「さすが、魔龍連山だな」

「このモンスターは…?」


 紺色の龍皮、大きな翼を広げてカルマの正面に着地した。その龍は首が2つある。


「ティアマットだ」


 〔グルァアアアアアア!!!!〕


 シリウスが名を呼ぶと同時に、ティアマットは威圧を込めた咆哮を放つ。


「ティアマットか。確か、ワイバーンの様な無垢の龍に龍の力を与えた時極稀に突然変異する希少種だったな」

「その通りだ。こいつはギルナンドの実験で突然変異した元ワイバーンだ」

「ギルナンドって中々にタチが悪いな。こんなもんばっか生み出しやがって」

「始祖の龍の中でも特に邪悪だからな」


 強さは2年半前ソフィアとカルマが戦っていた龍達と同等くらいだな。

 あの時はカルマもサポートなしでは戦えなかった。どのくらい成長したのか楽しみだ。


「でかいトカゲだ」

「グルル…」


 カルマとティアマットの睨み合いが続く。


「ふぅ…」

「……!?グルアアアア!!!!!」

 カルマはひとつ息を吐き集中力を高める。すると、カルマの雰囲気がガラッと変わった。

 体に纏う鬼纏は深紅に染まり、まるで揺らめく炎が周囲に燃え広がるように辺り一帯にカルマの圧倒的なオーラが広がっていく。

 そのオーラに触発されティアマットはカルマに肉薄し噛み付こうとする。激しい戦闘が開始された。


「へー…これが、カルマの修行の成果か」

「『無情の境地』だ」

「無情?」

「その名の通りあらゆる感情を生体エネルギーへと変換し、更なる力を得る技だ」

「カルマのあれはそれだけに見えないが…」


 明らかに特異だ。あれはただエネルギーに変換しているだけじゃない、力の底上げ、鬼纏その物がワンランクもツーランクも上の代物になっている。ソフィアといい勝負の気配の強さを感じる。


「…あれは、カルマの特性(ユニーク)だな」

「特性…。特性持ちってこんなホイホイいるものなのか?」

「特性は力ある者に宿りやすい。特性ってのは自然と近くに集まる物なんだよ。アレクとエマの魔剣士と賢者のようにな」


 引き寄せ合うのか。


「カルマの特性(ユニーク)は『狂戦士(バーサーカー)』感情の起伏によって大きく戦闘力を強化することが出来る特性だ」

「狂戦士?狂ってるようには見えないぞ。それに感情の起伏って、今のカルマは冷静沈着どころか感情のひとつも感じないぞ?」

「荒れ狂う感情を全て力に変えてるんだよ。今のカルマに残るのは無だ。喜怒哀楽を感じることは無い」

「それって大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。戦闘が終われば元に戻る」

「ならいいが」


 なんて言うか、今ティアマットと激しい戦いを繰り広げているカルマの瞳に光がない。どことなく心配になってくるが、それがカルマの力なのだろう。


「無情の境地のもう1段階上に狂戦士の本領を発揮する技があるが、それはまだカルマには扱えないだろう」

「そんな凄い技なのか?」

「ああ、まさに狂戦士だ。今は感情を抑え込み力に変えているが、それを逆に全解放するんだ。その力はおそらく天滅級のモンスターを相手にできるだろう」

「そりゃ凄いな。だが、デメリットがあるんだろ?」

「その通りだ。まだ感情のコントロールが未熟な状態で使うと狂戦士状態から戻れなくなる」


 つまり、ただ暴れ狂うだけの化け物になるのか。普段からクールであまり感情を見せないカルマが感情剥き出しに暴れ狂うって中々凄いことだな。

 逆に狂戦士の特性があるからこそ、本能的に感情を抑えていたのか。


「………」

「ガアアアア!!!!」


 カルマはティアマットの猛攻を掻い潜りながら確実にダメージを与えていく。

 感情が無な為、なにも喋ることはない。傷を負おうとも表情も変わらない。ただ、目の前のモンスターを倒すだけために動いている。


「鷹剣流『疾風』」

「ガアアッ!!!」


 技名はしっかり言うんだな。

 カルマの斬撃はティアマットの片方の頭を切り落とす。

 しかし、ティアマットは再生能力を持っている。切り口からモコモコと頭が再生されていく。


「……」

「グルル…」


 カルマとティアマットは再び距離を取り睨み合う。すると、すぐにカルマの姿が消えた。


「はやっ!!」

「ギリギリ反応はできたが…。確かに速すぎる」

「反応できませんでした…」


 反応できなくても仕方ないレベルの速さだ。龍の力を得た俺達でもギリギリだ。これは、うかうかしてられない。


「鷹剣流『鷹登剣嵐』」


 無情の境地によって強化され拡張された深紅の太刀筋が天へと登る。その斬撃はティアマットの双頭を同時に切り落とした。


「鷹剣流:奥義『鷹神剣舞』」


 ティアマットの首から尻尾まで深紅の斬撃が閃き、ティアマットの首前にいたカルマはいつの間にか背後まで来ていた。

 ゆっくりと刀を鞘に収める。すると、深紅の一閃は無数に割れ、無数の斬撃がティアマットを切り刻んだ。

 ティアマットは倒れ込み、沈黙した。


「ふぅ…討伐完了だ」


 カルマは振り返り、俺達の元に歩いてきた。


「合格か?」

「文句なしだ」


 シリウスは感心したように笑う。

 見事だった。俺達もそれなりに強くなったと思っていたがカルマも相当鍛えたようだ。


「シリウス、今の俺とアレクだったらどっちが強い」


 急にカルマが聞いた。客観的な意見が欲しいのだろう。俺と肩を並べて戦うのがカルマの目標でもあるから。


「正直に言っていいのか?」

「当たり前だ」


 シリウスは少し考えて言った。


「アレクだな」

「やっぱりそうか」


 やっぱりって、もっと自分に自信もっても良いと思うけど。それに、なぜかカルマは嬉しそうだ。


「俺も腕を上げたつもりでいたが、帰ってきたアレクとエマを見て慢心していたことに気づいた。俺もまだまだ強くなるぞ」

「ああ、がんばろうぜ」

「がんばろー!」

「頑張りましょう!」


 すると、シリウスがパンッと手を叩いた。


「よし、お前ら全員合格だ。S級昇格おめでとう」

「どーも」

「晴れて公式にSSランクを討伐できるぞー。ちなみに天滅級が出現した時にお前らがS級上位ならSS級昇格のチャンスになる、覚えておけ」

「天滅級かぁ。そんなホイホイ出てこないだろ?」

「だからSS級冒険者は8人しかいないんだよ」


 なるほどな。天滅級は世界に大きな影響を及ぼす程のモンスターを指す。そんなんが頻繁に出てきたらたまったもんじゃないな。


「なぁ、ティアマットがこの魔龍連山のボスなのか?」


 俺達は魔龍連山から出るために移動中だ。

 SSランクのモンスターならボスである可能性も高い。


「いや、違うぞ」

「まだ強いのがいるのか?」

「ああ、この特異エリアのボスはヒュドラだ」


 まじかよ。ヒュドラなんているのかよ。


「天滅級じゃねぇか…」

「まぁ、そうだな。だがヒュドラはあまり表に出てこないし、無害だ。暴れだしたは討伐対象になるが人を襲ったって情報もない。今はスルーだな」

「人を襲わないか…」

「ヒュドラは眷属である龍種の中でも特にお前ら加護持ちに近い存在だ。知能もある程度高く意思疎通が取れる。だが、肉体が龍の力に耐えきれず変異した。知性はあるが理性はない。襲われれば戦闘は必至だ」


 知性がある分厄介な存在ではあるな。


「ほら、着いたぞ。手続きしてこい」

「ありがとな、シリウス」

「おう。飯でも食いに来いよ」


 シリウスは手を振りながら郊外へ去っていった。

 飯でも食いに来いか。この1ヶ月で何度かシリウスの家に行ったが、アレイナの料理は絶望的だ。正直もう二度と食べたくない。


 俺達は手続きを済まし、晴れてS級下位に昇格した。


第111話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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