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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
116/137

第110話 特別な存在

 

「なぁ、1つ気になったんだが」

「なんだ?」


 食事会も締めだ。みんな帰る準備を始めている。


「なんでギムレットは聖剣を手放したんだ?魔神と戦い続けるのなら使い慣れた聖剣の方がいいだろ」

「あー、解釈違いだ」

「解釈違い?」

「ギムの剣が魔剣に覚醒したのは魔神との戦闘の最中だ。最初から魔剣だった訳じゃない。それに、魔剣に属性付与(エンチャント)出来ると思うか?」

「なるほどな」


 魔剣士の力を最大限発揮する戦い方は属性付与(エンチャント)だ。やったことはないが魔剣に属性付与(エンチャント)は出来ないのだろう。元々属性があるからな。


「2人はこれからどうするんだ?」

「そうだなー、イグナシアに身を置く。世界を旅していたのは魔剣士と賢者を探すためだ。まさかこんなに近くにいるとは思わなかったが」

「アレイナとの新婚生活もあるもんな」

「そ、そうだな」


 照れてるー、可愛いー。


「お母さんはどうするの?」

「アイリスもいるし、私はこのまま帰るわ」

「えー、お母さんに賢者の力について教えてもらおうと思ってたのに」

「エマは近接戦闘中心でしょ?私は後方支援だったから教えられることはないのよ」


 エマも後方から支援することはあるが、基本属性武装の格闘魔術で戦うスタイルだな。

 すると、ミシアは俺とエマとソフィアを見てニッコリ笑った。


「ふふっ、3人の結婚報告楽しみにしてるわ」

「やっぱ気付いてましたか…」

「当たり前よ。ソフィアちゃん、2人共まだまだ子供っぽい所もあるし、迷惑かけちゃうだろうけどよろしくね?」

「は、はい!またご挨拶に向かいます!」


 俺にとって親はミシアとラルトになる。俺と結婚するなら2人に挨拶に行くのも当然か。

 俺もヨハネス国王に挨拶に行かないといけないのか…。なんかやだな…。


「アレク、俺達はスアレ郊外に家を建てる。何か困ったことがあればいつでも相談に来い。出来ることなら力になってやる」

「基本家にいると思うから!」

「おう、2人とも仲良くな」

「遊びに行くね!今日はありがと!シリウス!アレイナ!」

「ご馳走様でした!」


 2人は俺達に手を振りながら去っていった。


「俺達も帰るか」


 レストランと後にし、寮に戻った。


 ◇◇◇


「家か…」

「どうしたの?」


 寮に戻りくつろいでいる。いつも通り、エマとソフィアもいる。


「モルディオに行く前に土地貰っただろ?学校卒業したらすぐ家建てるのも悪くないなと思って」


 あの時はエマと2人で場所を決めたが…。


「ソフィア、ここの土地を貰ったんだ。ここで大丈夫か?」


 俺は地図を取り出し貰った土地に丸を付けた。


「はい!大丈夫ですよ!素敵な場所ですね」

「そうか、ならよかった」


 ソフィアも気に入ってくれたようだ。

 家を建てるのにどのくらい金がいるのだろうか。検討もつかないな。シリウスに色々話聞くか。まぁ、まだあと1年先の話だ。ゆっくりでいいだろう。


 ◇◇◇


 あれから4日が経った。今日は学生最強決定戦当日だ。正直あまりやることは無い。大会はエマが勝つだろうし、俺の時みたいな接戦もないだろう。

 今はソフィア、カルマとスタジアムをブラブラしている。


「あ、そういえばドルドさんにアイリスのこと話しとかないと」

「ドルドさんですか?」

「アイリス?それにミアレスの枢機卿になにかようがあるのか?」


 この2人にはまだアイリスのことを話してなかったな。


「アイリスはエマの妹だ」

「あ、もう産まれたのですね…」

「ん?ソフィアは知ってたのか?」

「い、いえ!風の噂で聞いただけです!」

「そうか?」


 ソフィアは慌てたように否定していた。風の噂か。ローガン達だろうか。


「それで、エマの妹に何かあるのか?」

「まぁな。この事は他言無用で頼む。予言の特性を持ってるんだよ」

「……」

「おぉ!そりゃすごいな」


 さっきからソフィアの反応がイマイチだ。何かあるのだろうか。


「予言の特性を持つ人間はミアレスでは王的立ち位置になる。だが、アイリスはミアレスの人間じゃない。それにまだ2歳だ。ドルドさんには釘を刺しておかないといけないと思ってな」

「なるほどな。確かに本人の意思関係なく無理矢理親元を離すのは良くないな」

「強硬手段とかにならないですよね…?」

「その為に今から話すんだよ」


 俺達はドルドの元に向かった。


 ミアレスはモルディオほどイグナシアと離れている訳じゃないので枢機卿や国のお偉いさんも最強決定戦を見に来る。開会式の時にドルドの姿は見かけていた。おそらく中央のVIP席だろう。


「止まれ!ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ!」


 警備をしていた騎士に止められた。ミアレスの騎士だな。


「すみません。ドルド枢機卿とお話がしたいのですが」

「見た感じ冒険者のようだが…。名は?」

「アレクサンダーです」

「アレクサンダー…?」


 俺の名を聞いて騎士は目を見開き、目に見えて慌てている。


「も、申し訳ございません!!忘却の魔剣士様でございましたか!以前お見かけした時より風体が変わられていたので!!」


 以前お見かけってことはミアレスかどっかで会っているのか。


「そんなに畏まらなくていいですよ。俺はただの一端の冒険者ですから」

「そ、そういう訳には…」

「通っても大丈夫ですか?」

「はい!どうぞ!ご案内します!」


 俺達は騎士に連れられ廊下を歩く。


「さすがミアレスの英雄だな」

「やめろやめろ。英雄なんて呼ばれたかねぇよ」

「今ではモルディオの英雄、イグナシアの英雄でもありますからね」

「英雄覇道を歩む者とはよく言ったもんだ」

「よせやい」


 英雄覇道を歩む者。モル爺が言っていたが、勇者と関係あるのだろうか。英雄覇道を歩む者そのものが勇者という意味だろうか。


「ここです」


 騎士は立ち止まり扉をノックした。


「失礼します。忘却の魔剣士アレクサンダー様、ソフィア様、カルマ様がお見えです」


 騎士の声に中ではドタドタと音が聞こえる。


「通してくれ!」


 ドルドの声だ。

 俺達は部屋の中に入った。


「失礼します。お久しぶりです。ドルド枢機卿」


 俺達3人は深々と頭を下げた。


「や、やめてくれアレク…。らしくないじゃないか…」

「そうですか?お久しぶりですね、ドルドさん」


 畏まった態度だと変な感じになるな。ラフな感じで言い直した。


 紺色の髪の毛に茶色の瞳、小太りの中年男性だが痩せたらイケメンだろうと思わせる整った顔立ちをしている。


「久しぶりだね、アレク。随分大人っぽくなった。本当に無事でよかった」

「俺達の捜索にミアレスも協力してれたとヨハネス陛下から聞いています。ありがとうございました」

「当たり前のことをしたまでだよ。君達はミアレスの英雄であり、アリアの唯一の親友だ。見捨てるなんてできるはずがない」


 ドルドは根っからの善良な人間だ。ただ、善良すぎるが為になにかに漬け込まれそうで怖い所もある。それは生前アリアが語っていた事でもある。

 だが、枢機卿として国を運営していった経験が活きているのか前ほど緩い感じがしない。いい事だ。


「挨拶する為にわざわざ来た訳じゃないだろ?」

「はい、少しお話したいことが」


 俺はチラッと室内に待機している騎士達を見た。


「そうか。すまないが、少し私達だけにしてくれるかい?」


 意図に気づいたドルドは室内にいる騎士達を退室させてくれた。


「これでいいかな?」

「はい、ありがとうございます」


 大事な話だと察したドルドの顔は真剣だった。


「それで、どんな話だい?」

「…他言無用でお願いします」

「もちろんだ」

「予言の特性を持つ人物が見つかりました」


 俺の言葉にドルドは顔を明るくさせた。


「本当かい!?その人は今どこに!?」

「…順を追って説明します」


 俺はアイリスの事をドルドに話した。


「エマの妹…アイリスはまだ2歳です。ミシアさんもラルトさんも手放したくないはず、アイリス本人も何が正しいのかわからないです」

「…そうか…。ふむ…」


 ドルドは腕を組み深く考え込んだ。


「話はわかった。安心してくれ、無理矢理連れ去ったり、無理な交渉を持ちかけることもない」

「そうですか…。ですが、大丈夫なのですか?長い間神子の座は空席になりますが」

「なんてことないさ。私がこうして運営していてもミアレスは変わらず平和だし、国民たちはアリアに頼りすぎていた現実を受け止め、前よりも精力的になった。大丈夫だよ」


 そうか、国と共に民も成長するのか。俺の心配は杞憂だったみたいだ。


「よろしくお願いします」

「話はそれだけかい?」

「はい、お邪魔してすみません」

「邪魔だなんて思わないよ。少しお話しないかい?」


 スタジアムでは絶賛エマが対戦相手をフルボッコにしている。わざわざ見る必要も無いか。


「はい、大丈夫ですよ」

「ミアレスにいる時にもっと話をしたかったんだけどね、回り回って3年後になってしまったね」

「そうですね。中々にあちこち飛ばされました」

「ははっ、それは君が人気者故さ」


 嫌な人気者だな、敵に狙われ、味方にはあちこち引っ張りだこか。たまにはゆっくりしたいな。


「アリアはね、自分が死ぬことを私にも教えていたんだ。そして、その後の予言もね。ただ、君達が行方不明になるのはアリアの予言に無かったから焦ったよ」

「そうなんですか」

「うん、それとソフィアさんとお付き合いしているのも予言に無かったね」

「……そうですか」


 ドルドは真顔で俺の顔を見つめている。思わず逸らしてしまう。やっぱりまずいだろうか、アリアを愛していたと言った手前気まずい…。


「ははっ!なんてね!」

「…え?」

「アレクの恋愛事情をとやかく言わないよ。それに、アリアの意志はしっかり引き継がれているようだ」


 そう言ってドルドはソフィアと目を合わせ互いにニコッと笑った。なんだなんだ?俺の知らない何かをこの2人は知ってるのか?


「私はね、アレクにこれ以上にないくらい幸せになってほしいんだ。アリアが愛した唯一の男であり、その父である私が認める男。君は特別だ。それは私だけじゃなく、この世界から見ても特別だ。辛いこともあるだろう。だけど、ミアレスは、私はいつでも君の味方でいるから。それを忘れないでくれ」


 ドルドの言葉には熱が籠っていた。口に出してこう言われるのがどれだけ心の支えになるか。本当に嬉しいし、救われる。


「はい…ありがとうございます」


 ドルドと固い握手を交わし、部屋を出た。


「初めてお会いしましたが、良い方ですね」

「ああ、良い人だ」


 もう少し痩せたらモテそうだが。今年で32歳だっけ?


「それより、アリアの意志ってなんなんだ?2人でアイコンタクトしてたが」

「それは内緒です」

「あっそー」


 俺にも言えない秘密かぁ。


「拗ねてます?」

「拗ねてない」

「拗ねてますね。ふふっ、可愛い」

「拗ねてないって!」


 3日間行われた学生最強決定戦は当然のようにエマが優勝したのだった。



第110話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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