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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
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第109話 勇者の真実

 

「確かに500年前、俺は勇者の資格を持つ者に寄り添い共に驚異に立ち向かうと宣誓した。聞くがアレク、勇者の資格とはなんだと思う」


 勇者の資格か、イグナシアに伝えられている資格と言えば、


「聖剣に選ばれた者」


 現代だとイグナスだな。だが、イグナスが勇者かと言われると怪しいところだ。


「まぁ、そう思うだろうな」

「違うのか?」

「ああ、違う」


 ハッキリ言い切ったな。


「あれも魔剣だ。周りが勝手に聖剣だなんだと騒ぎ立てているだけだ。じゃあソフィアの魔剣も聖剣か?それに選ばれたソフィアが勇者の資格を持つ者なのか?違うだろ」


 シリウスの言葉には怒りが込められているように感じた。語尾がやや強くなり、鋭い目付きになる。


「そもそも"ブレイド"は誰にも引き継がせるつもりは無かった。あの剣を持つべきはギム以外に有り得ない」

「なら、どうして引き継がれてるんだ?」

「奪われたんだよ。当時のイグナシア王に」

「そんな…」


 ソフィアが絶句している。500年前とはいえ身内の蛮行にショックを受けているようだ。


「ギムが行方を晦ましたと言うのは本当だ。だからこそ、目に見える勇者の力が必要だったんだろう。魔神は討伐され脅威は去ったと国民に知らしめるために」


 民を安心させるための苦肉の策か。だが、この感じだとまだ何かあるようだ。


「必要なら必要だと言えばよかったんだ。交渉の余地はあった。だが、あの糞王は交渉すらせず俺達を騙して奪い取った。自国の戦力にするために」

「だが、ブレイドは誰を選ぶかわからないはずだろ?もし、他国の人間だったらどうする気だったんだよ」

「その心配すらなかったんだよ。糞王は既にギムの息子であるカレドニアを抱え込んでいた」


 それでも、ブレイドがカレドニアを選ぶとは限らないと思うが。モル爺が言うには聖剣に選ばれるのに血筋は関係ないらしいし。


「カレドニアはギムによく似ていた。清く正しい心を持ち、誰しもが認める純然たる戦闘力を持っていた。ブレイドに選ばれる条件を全て満たしていた。当然、ブレイドはカレドニアを選び、代々引き継がれるようになった」


 清く正しい心…?イグナスとは程遠い精神だと思うが。


「俺は"勇者の資格"を持つ者に寄り添い共に驚異に立ち向かうと言ったんだ。聖剣保持者は対象外だ。糞王は俺も戦力として迎えるつもりだったんだろう。だから俺はグレイブの家名を捨てたんだ」


 当時のイグナシア王は戦力の増強を計画していたのか。魔神脅威は去ったのに。魔神の攻撃で打撃を受けた国を侵略するつもりだったんだろうな。平和になった世をまた戦乱にしようとしたのか、悪質だな。


「だが、まぁ俺はそういう性なんだろうな。グレイブの家名を捨てても俺は勇者の資格を持つ者に寄り添おうとしている」

「……そうか。勇者の資格ってのは」

「ああ、"魔剣士"だ」


 やっぱりそうか。


「自分で言うのもなんだが、魔剣士ってなんなんだ?」

「世界に1人しか存在しないんだ。特性(ユニーク)に決まってるだろ」

「は?…1人…?」


 ギムレットは生きているはずだろ?守護者の石版にも載っていた、しかも1位で。


「ギムレットは生きているんだろ…?」

「なんでそう思う」

「あ、いや…なんとなく…」


 守護者の石版についてはアルから口止めされている。下手に広まってベイガールの遺産が露呈しないためだ。


「生きていた。だが、死んだことが最近確信したんだ」

「なんで…?」

「魔剣士の力を持つお前が現れたからだ」

「魔剣士が特性じゃない可能性もあるだろ」

「いや、特性だ。ギムの前にも魔剣士はいた、だが同じ時代に2人存在することは有り得なかった。どこまで過去を遡ってもそうだ。これはアルテナからも聞いている」

「そ、そうか…」


 じゃあ、守護者の石版はなんなんだ?嘘なのか?


「ギムレットの行方を聞いていたな」

「ああ」


 シリウスは顔を暗くさせ、俯いた。


「この話をするのに適任者がいる」

「適任者?」


 背後に魔力を感じた。微かな魔力。幼い頃嫌ほど感じ取っていた懐かしくもあり、落ち着く魔力の気配。


「嘘だろ…」


 そこにいたのは灰色の髪を腰元まで伸ばした、水色の瞳の女性。


「お母さん…?」


 ミシアだった。


「アレクとエマが家を出たあと、シリウスから連絡があってね。少し話をしに王都に来たのだけれど、どうやらもう話しているようね」

「ああ、ブレイドの話と魔剣士の話はした。後はギムレットについてだ。それはお前の方が詳しいだろ」

「そうね」


 ミシアとシリウスは表情を変えず淡々と話している。


「ちょ、ちょっと待ってよ!なんでお母さんが?この話となんの関係があるの?詳しいってどういうこと?ねぇ、お母さん…」

「エマ、落ち着きなさい。大事な話よ」

「落ち着ける訳ないじゃん!!」


 エマは声を荒らげた、サイレントを展開していてよかった。


「エマ…話を聞かないと」

「う、うん…」


 俺が背中をさすり、落ち着かせると次第に呼吸が整い冷静になってきたようだ。


「隠してたのか?」

「話すタイミングを逃したの。まさか、家の前で倒れていた男の子が本物の魔剣士とは思わなくて」

「まぁ、幼いうちはただどっちも理解出来るだけってパターンもあるからな」


 他愛もない話をしているが、エマがずっとソワソワしている。


「何から話そうかしら。そうね、もう分かったと思うけど、私は元勇者パーティーよ」

「でしょうね」

「そうだよね…」


 という事は年齢は500歳を超え……。やめておこう。


「ギムの行方についてよね。まず、根本的な事を言うと魔神は討伐されてないわ」

「は…?」


 討伐されてない…?言っている意味がわからない。ならなぜ平和なんだ。討伐されたことになってるんだ。色んな疑問が思い浮かぶ。


「封印したの。倒しきれないから」

「なるほど…」

「ただ、普通に封印するだけじゃダメだったの。封印してもすぐに内側から封印を破られるから。だから、魔神を封印の中で抑える必要があったの」


 封印の中で抑える…。っていうことはギムレットは。


「ギムも一緒に封印したわ。私達は止めたの、だけど決心は揺るがなかった。ギムは500年間封印の中でずっと魔神と戦い続けてたの。そして、8年前アレクが現れた。それはギムの死を意味しているわ」

「封印の中で死んだって事ですか…?」

「死んだって言うより、乗っ取られたね。魔神はギムの力に固執していたの。殺すくらいなら力を奪うために体を乗っ取るはずよ。でも、結果的にギムの精神は破壊される。実質的な死になるわね」


 そんな…。だから守護者の石版にはギムレットの名前が今も書いてあるのか?だが、邪心を持つ者の名は載らない…。わからない。なんなんだ一体…。何が起きているんだ…。


「でも、お母さんの魔力でどうやって戦うの…?」

「私は元々エマ並の魔力量を持っていたのよ?でもね、魔神を封印する代償に潜在的魔力量の大半を失ったの」

「潜在的魔力量を代償に?そんなことが出来るんですか?」

「普通なら出来ないわね。でも、私は普通じゃ無かったから。私には"賢者"と言う特性があったの」


 賢者…。どこかで聞いたことがある単語だ。だが、特性図鑑では見たことがない。


「賢者は魔術に関することならなんでも出来てしまう特性なの。普通は不可能と言われることでも賢者の魔力は理論に関係なくそれを実現させることができるの」


 なんだそりゃ。なんでもありの特性じゃないか。


「例えば、属性全てを同時に展開するとかね」

「え…?」


 ミシアの言葉にエマが目を丸くする。


「心当たりがあるみたいね」

「うん…」

「やっぱり…。私の特性はエマに引き継がれたみたいね」


 エマの不思議な魔力は賢者の特性だったのか。


「パンドラの目的についても聞いていたな」

「ああ、この話の流れだとなんとなくわかる」

「思っている通りだ。あいつらの目的は魔神の復活。ミシアが施した封印を解くことだ」


 シリウスは出された料理を食べながら言っている。

 パンドラの中にも魔神は討伐されていないことがバレている訳か。どこからそんな情報が漏れるんだよ。


「アレクとエマがパンドラに狙われる理由は、封印の元となっている"魔剣士の力"と"賢者の力"を持っているからよ。2人の魔力があれば封印を解くことができるかもしれない」

「だからあんなに執拗に狙うんですね」

「これについてはソフィアちゃんも無関係じゃないわ」

「わ、私ですか?」


 突然話を振られたソフィアが困惑している。


「ソフィアちゃんの魔剣の力、それに剣の技術、それらを極めていけばいずれアレクやエマと同じ次元の強さにたどり着くことができるわ。シリウスのようにね。パンドラからしたらソフィアちゃんも狙われる対象なの。カルマ君もそうね、彼の剣術の成長も計り知れないわ。十分対象になる」

「つまり、私達パーティーはパンドラの標的というのとですね…」

「そうなるわね、お互いを惹き合うようにあなた達は同じパーティーになった。偶然とは思えないわ。十分に注意してね」

「はい」


 偶然か必然か、俺達は同じパーティーになった。ヨハネス国王からの勅命でもあったが、元々この4人で組む予定だった。惹き合うか…。


「私から話せるギムレットの真実はこのくらいよ」

「ありがとうございます」

「お母さんが元勇者パーティーだったなんで…。お父さんは知ってるの?」


 心配そうにエマが聞いた。


「あの人には結婚を申し込まれた時に全て話してるわ。夫婦の間で隠し事は出来ないもの」

「そうなんだ、よかった」


 真実の話は意外と重たかったな。頭がパンパンだ。だがあと1つ残っている。


「まだマレニアの事を聞いていないぞ」

「あー、その話な…」


 ただでさえ暗い雰囲気がさらに暗くなった。この質問は不味かったか。でも、気になるもんは気になるもんんだ仕方ない。


「ギムに子供がいるって言っただろ」

「ああ、カレドニアだっけか」

「そうだ、カレドニアはマレニアとギムレットの子供だ。2人は夫婦だった」


 なんとなく察した。なぜ終戦後マレニアは弱りきっていたのか。最愛の夫と実質的な永遠の別れを味わったんだ、無理もない。


「マレニアは最後までやめてくれと懇願していた。封印をした後は抜け殻のようだった。ギムとの間には2人の子供がいたんだ。カレドニアとマイルズ。カレドニアは早々にイグナシアに引き取られ離ればなれになった。マイルズはまだ幼かった。

 だが、ある日突然マレニアはやらなければいけないことがあると言ってマイルズを放ってアルテナ島に向かった」


 それが、アルへの恩返しか。自分がそんなに状態なのに律儀だな。


「まだ2歳のマイルズを家に残し、マレニアはアルテナ島に向かい、その後行方を晦ました。見つかったのは1ヶ月後、ギムが封印されている狭間の前だ。見つけた時には既に死んでいた。指先は肉が抉れボロボロに、限界突破を使い大量の魔力を消費していた。封印を破ろうとしたんだろう。だが、賢者の封印がその程度で破れるはずがない。そのまま力尽きたんだ。

 残されたマイルズを保護するために家に向かったが、マイルズも姿を消していた。これが、マレニアの話だ」

「…そうか、すまんな。辛いことを思い出させた」

「昔話だ。気にするな」


 勇者の真実は今語られている話とは全く違う内容だった。なぜシリウスとミシアは真実を告げないのか、それは今この国が平和だからだろう。ここで真実を明かしても不安を募るだけだ。


「ここまでデカい話になるならカルマも呼べばよかった」

「あー、大丈夫だ。カルマには先に全て話しておいた」


 ちゃっかりしてるな。


「勇者は500年間戦い続けたのか…。勇者は純粋な人族ではないのか?」

「ああ、アレクと同じ人間と魔族のハーフだ。だが、ミシアが封印した"次元の狭間"では時間の干渉を受けない。こっちでは500年経っているが恐らくギムと魔神は歳をとっていないはずだ」

「次元の狭間…。そんなものがあるんだな」

「別次元に渡るゲートのようなもんだ。端的に言えば日本とこの世界を繋ぐゲートでもある」


 日本にも繋がっているのか。


「じゃあ行こうと思えば日本へ行けるのか?」

「いや、無理だ。日本に入る前に次元の狭間で止められる。何の因果かはわからんが、日本からこの世界への一方通行らしい」


 こっちに来たら元の世界には戻れないのか。


「さて、長い話になったが、お前達に聞いておくことがある」


 シリウスは俺、エマ、ソフィアの目を順に見ていった。


「パンドラに狙われ続けるお前達には2つ選択肢がある」


 2つか…。


「1つはパンドラに抗い、戦うこと。それは魔神復活を阻止する意味合いも含む」


 シリウスは強い瞳で俺達を見る。


「もう1つは、戦わず平和な生活に戻ることだ」


 平和な生活。できるもんならそれが一番いい。だが、


「パンドラに狙われ続けるのに平和もくそもないだろ」

「そこは安心しろ。俺達が命を懸けて危険を排除する。お前達の元に危険は行かせない」

「……」


 くそっ。性格悪いなこいつ。わかって言ってやがる。俺とシリウスが似ているって言われるのもなんだかしっくり来てしまった。俺も似たような選択肢をエマに迫ったことがあったな。


「ふふっ、やっぱりシリウスとアレクって似てる」


 エマも同じことを思っているようだ。


「私達の選択は最初から決まっています」


 ソフィアも心は同じみたいだな。


「「「戦う」」」


「その為の力だ」


 俺達の言葉に安心したようにシリウスは笑った。


「だろうな。カルマも戦うって言ってたぞ」

「俺達が断ってたらカルマ1人で戦うことになってたな」

「それはそれで面白いね」


 その後は談笑しながら食事を楽しんだ。



第109話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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