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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
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第106話 挨拶回り

 

 ちょっとしたハプニングはあったが、訓練場に到着した。


「やってるかー?」


 俺達は扉を開け中に入る。


「あ!やっぱりアレクだ!!あの威圧もアレクの仕業でしょ!」

「ち、チビるかとおもった…」


 そう言いながら駆け寄ってきたのはエイダとセオドアだ。訓練場には2人しかいないようだ。


「久しぶりだな、エイダ、セオドア。元気そうでなによりだ」

「元気も元気だよ!アレクとエマもおかえり!」

「ただいま!」


 エイダとエマはキャッキャしながら話している。


「2人だけか?他の奴らはどうしたんだ?イグナス先生からは昨日から特訓中だと聞いたんだが」


 俺が聞くとエイダはバツが悪そうに顔を逸らした。


「あー、それね…」

「なんだよ…」


 何かあったのか?そんな顔されると怖くなる。


「他の人達はデートだよ…」

「……は?」

「え!?みんな恋人ができたの!?」


 もうすぐ最強決定戦があるってのに色恋にうつつを抜かしてるのか。エマも出場するってのに呑気な奴らだ。


「みんな恋人ができたって言うより、みんなが恋人同士になったってのが正しいかな」

「まじかよ、すげーな」


 まぁ、こういうイベントも学生っぽくて良いな。

 話によると、ルーカス&ジェイ、テオ&ノアのカップリングらしい。


「なら、エイダとセオドアもか?」

「残念ながらー。私は魔術一筋!恋人なんて要らないから」

「あっ…そうか…頑張れよ」

「そんな哀れな目で見ないでよ!」


 エイダも綺麗な顔してるんだがな。男の1人や2人寄ってきそうだが、この男勝りな所が玉に瑕だ。そういう所も良いっていう人もいるからまだ希望はある。頑張れ、エイダ。


「セオドアはどうなんだ?」

「ん?僕は許嫁がいるから浮気はできないよ」

「え、そうなの…?」

「知らなかったのかよ」


 セオドアの発言にエイダが驚いている。独り身仲間だとでも思っていたんだろ。残念だったな。


「哀れな目で見ないでって!ソフィアだって独り身でしょ!」


 おっと、痛い所をつかれたな。このソフィアの様子を見てそこに突っ込めるエイダのメンタルを賞賛したい。


「わ、私は…アレクさんにアプローチ中です…。エイダさんとは違います」

「え…。じゃあ、本当に私だけ…?」

「まぁ、あと1年で成人だからな」

「成人…」


 まずいな、最強決定戦前にメンタルに相当なダメージを与えてしまったみたいだ。

 ショックを受けるエイダを他所にセオドアがコソコソと話しかけてきた。


「エイダはああ言ってるけど、良い感じの人はいるんだよ」

「へー、誰?」

「4年のザザ君」

「おーザザか。懐かしいな」


 昔、スタジアムで挑戦状を叩きつけてきたやつだな。あいつらも4年生か。4年の出場者のうち2人はザザとサラトガだろうな。怠慢してなければ、十分強くなってるはずだ。


「今はザザ君の片想いみたいだけど、エイダも満更じゃないみたいだし、今日の話聞いたら流石に意識するんじゃないかな?」

「なるほどなー」


 エイダもなんだかんだ大丈夫そうだな。


「じゃ、俺達は行くよ。またな、エイダ、セオドア」

「うん!またね!」

「またね…」


 挨拶を済ませ訓練場を出ようとする。するとエマが立ち止まった。


「あ、言うの忘れてた!今年の最強決定戦私も出るから!お互い頑張ろうね!!」

「え、あっ…うん…頑張ろうね…」

「あはは…」


 エイダは膝から崩れ落ちた。その様子をセオドアは苦笑いする。なんともカオスな空間だ。

 エマは狙ってこのタイミングで言ったのか?完璧な策略だ。いや、これは天然だな。


 悲壮感溢れるエイダを背に俺達は訓練場を後にした。


「ソフィア」

「は、はい…」


 ソフィアとの関係もハッキリさせないといけないな。


「そういうつもりって事でいいんだな?」

「はい」


 そういうつもり…。ソフィアは俺にアプローチ中だと言っていた。それは友人ではなく恋人でありたいと言う意思表示だろう。俺みたいな鈍感馬鹿でも流石にわかる。


「少し時間がかかるとおもう。それでも構わないか?」

「はい。いつまでもお待ちしてます」


 俺はソフィアのことが好きだ。でも、それは友人として。それが直ぐに女性としてとなると、気持ちが切り替わるのには時間がかかるだろう。それに、未成年が複数人と恋人関係になるのは世間一般的に非常識に当たる。

 俺が成人して、ヨハネス国王から一夫多妻の許可を得られればソフィアを迎える事ができる。成人まで1年か…。待たせてしまうな。


「エマはそれでいいのか?」

「うん、大丈夫だよ。ソフィアとはゆっくり話したから」

「そうか」


 どうやら女性間のギスギスは無いみたいだな。むしろ、エマは嬉しそうだ。


「あ、そう言えば」


 空気も読まずカルマが何か思い出したようだ。


「明日ファナが王都に越してくる。よろしくしてやってくれ」

「また急だな」

「前から考えていたことだ。今回ちょうどいい護衛が見つかったから安全に引越しができるんだよ」

「へー、ちょうどいい護衛か、S級冒険者か?」

「シリウスとアレイナだ」


 S級どころかSS級じゃないか。


「SS級冒険者がタカハシ村にいたのか?」

「ああ、じいさんが王都で俺に稽古をつけてくれる間タカハシ村の護衛をしてもらってたんだ。じいさんはもう村に戻ったからな。2人が王都に戻るついでにファナの引越しだ」


 モル爺とシリウスに繋がりが…?となると、やっぱりそうか。まぁ、薄々そうじゃないかと思っていたが、詳細は本人から聞くとしよう。


「シリウスとアレイナも2人に会いたがっていたぞ?明日俺はファナに王都を案内するから、お前達は2人と話してきたらどうだ」

「そうだな。そうしてみるよ」


 聞きたいことは山ほどある。それに、名前を聞くばっかりで実際に会うのは初めてだ。タイミングさえ会えばもっと早く会えていただろうに。まるで出会うのを避けるかのようだ。


「まだ時間あるけどどうするの?」

「んー、そうだな。ホグマン会長の所にも挨拶に行かないといけないな。俺達の冒険者ランクってどこで止まってんだ?」

「A級上位ですよ。リオン陛下の推薦状で昇格してましたから」

「なら、次はS級下位か」


 確かS級に上がるには昇格試験があるんだっけ。


「昇格試験の話も含めて話に行こう」

「はーい」


 ◇◇◇


 〜冒険者協会〜


「こんにちは、お姉さん。お久しぶりです」


 お馴染みの受付嬢のお姉さんはいつも通り仕事をしていた。


「えっと…アレクサンダーさん?」

「はい、ホグマン会長とお話したいんですけど、アポ取れますか?」

「え、あっ、は、はい!ただいま!!」


 すごいテンパり様だな。俺達の帰還は関係者各所に連絡がいってるはずだが。


「会長室でお待ちです!アレクサンダーさん、エマさんおかえりなさい」

「ありがとうございます」

「ありがとう!」


 みんなに歓迎されるのは素直に嬉しいな。


「失礼します」

「おお、アレクサンダー君にエマ君、良く生還してくれた。カルマ君もソフィア君もいらっしゃい」


 ホグマン会長は少しやつれたか?少し覇気が弱い気がする。


「ホグマン会長はエバン元校長の後を引き継いで現在は校長も兼任してるんです」

「なるほどな、ありがとうソフィア」


 俺の心中を察してかソフィアが教えてくれた。エバン・アマリア。2年半前の事件の首謀者だ。その後は行方が知れず、恐らくパンドラの拠点のどこかにいる。マイズの転移魔法陣で飛ばしてもらったんだろう。

 ホグマン会長とは旧友だったらしい。どこで道を違えたのか、ホグマン会長も辛かっただろう。


「私の所にも挨拶に来てくれて嬉しいが、要件を聞かせてくれるか?」

「要件は昇格の件です。今俺達はA級上位ですけど、どうやったらS級に上がれるのですか?」


 早く昇格したいって訳でもないが、A級とS級じゃ差が大きい。S級になるとSSランクモンスターと出くわしても単独での討伐が許される。もちろん、自己責任だが。A級は最高でもSランクだけだ。SSになるとどれだけ狩っても俺達の特にはならない。


「そうだな、君達は既にS級上位並の力を有している。S級に上がるのに昇格試験があるのは知っているな?」

「はい」

「今すぐにでも執り行いたい所ではあるが、なんせ今は忙しい」

「学生最強決定戦ですか」


 俺が優勝した時もホグマンが中心になって開催されていた。今回もホグマンに一任されているのだろう。大変だな。


「それもあるが、後続を育てるのが大変でな…」

「後続ですか?」


 どうやら、日々激務に追われ日に日にやつれていくホグマンを見かねて冒険者達が冒険者協会に転職したようだ。

 2年半前のスアレ防衛戦で心を折られた冒険者は少なくないらしい。そんな人達が手助けになればと転職してきたは良いものの、元は戦うことが全ての脳筋冒険者、書類整理や事務仕事が出来るはずもなく結局てんやわんやしているようだ。


「俺達の事は後回しで構いませんよ。優先すべきことをしてください」

「すまないな。助かる」


 その後は飛ばされてからの2年半の話をしたり、ホグマンの愚痴を聞いたりして、雑談をした。

 ホグマンも仕事が貯まっているようだったので、キリのいい所で挨拶を終わらした。


「ふぅ…急ぎで挨拶しないといけないのはこんくらいか?」

「そうだね、思い当たる所は」

「今日はもう解散にしますか?」

「俺もファナの住む部屋の手続きをしないといけない」

「なら、今日は解散だな」


 もう特にすることはない。寮でゆっくりしよう。挨拶に回るのも疲れるな。


「あ、そうだ。カルマ、明日ファナは何時に到着するんだ?」

「昼過ぎだと思うぞ」

「そうか、ならシリウスとアレイナに夕方王城前のレストランで待っていると伝えてくれ」

「ああ、了解だ」


 神出鬼没のシリウスと連絡が取れるんだ。今会っておかないと次はいつになるかわからないからな。


 解散したあと、カルマはファナの入居手続きに俺とエマとソフィアはそのまま寮に向かった。


 ◇◇◇


 いつもなら俺の自室で休むのは俺とエマだけなのだが、今日はソフィアもいる。表立って恋人のようにはできない、待たせてしまっている分このくらいは良いだろう。


「何も無いけどくつろいでくれ」

「は、はい…。アレクさんのお部屋は久しぶりです」

「なにもないがな」


 俺がベットに座ると当然のようにエマが俺の太ももの上に頭を乗せて寝転がった。

 その様子をソフィアは顔を赤くしながら見ていた。


「ほら、ソフィアもいいぞ」

「よ、よろしいのですか?」

「遠慮は無用だ」


 俺は空いている左の太ももをポンポンと叩いた。ソフィアは恥ずかしがりながらも寝転がり、頭を置いた。


「これは、心地良いですね…。なんだか落ち着きます…」

「でしょ?アレクの膝枕は極上なんだよ」


 エマが自慢げに言っているが、逆に俺が膝枕して欲しいくらいなんだがな。


「あの、アレクさん」

「ん?」

「ご迷惑ではありませんか…?」

「なんで?」

「私はアレクさんと友人であることを選びました…。それが帰ってきて急に恋人になりたいなんて…」


 確かに驚いたな。最強決定戦の時、ソフィアの表情はスッキリしていた。この関係で納得しているように。あの表情に偽りはないだろう。

 この2年半の間でどんな心境の変化があったかは分からないが、ソフィアが本気で俺の事を愛してくれているのはよく伝わってくる。エマが認めているのが何よりの証拠だ。


「迷惑な訳ないだろ?俺もソフィアとそういう関係になるのは吝かではないさ。ソフィアも素敵な女性だ、俺には勿体ないくらい。まだ友人という感覚は抜けないだろうが、大丈夫。俺はソフィアも愛せると思う」

「アレクさん…」


 なんだろうか。ソフィアと再開してからはどことなくアリアと接しているような感覚に似ている。

 俺の言葉に嘘はない。本当の気持ちだ。好きと言われて好きになるのは不誠実だろうか。誰でも好意を伝えられたら気にしてしまうものだろう。

 俺がエマとアリア以外を愛せるなんてな…。人生どうなるかわからんもんだ。


「なにかして欲しい事あるか?」

「え?で、では…」


 ソフィアは顔を真っ赤にした。


「キ……頭を撫でてください…」

「ああ、いいぞ」


 キってなんだったんだろう?


「アレク私もー」

「ああ」


 左手でソフィアの頭を、右手でエマの頭を撫でた。こうして、俺の両手両足は独占されたのであった。


第106話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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