第104話 帰還報告
馬車を使わずに走った為レディアからスアレまで3日で着いた。1日短縮だ。
「ふぅ…さすがに疲れたね」
「そうだな。寮に戻ったらゆっくり休もう」
今は丁度スアレに入るための検問待ちだ。
「このロングコート意外と快適だ。素材も軽いし、丁度いい体温を保ってくれる」
「私のマントもだよ!いいもの貰ったね!」
そんな他愛もない会話をしていると俺達の番が回ってきた。
「身分を証明出来るものを提示してください」
「はい」
「はーい」
冒険者カードを提示した。すると検問の騎士の目が見開き俺達を見た。
「ア、アレクサンダー様とエマ様…お、お待ちしておりましたぁ!!」
「うぇ!?ど、どうしたの!?」
「2年前の戦いからお2人は国の英雄でございます!ヨハネス国王陛下がお待ちです!今すぐ連絡を」
英雄って、俺達は魔龍一体倒しただけだが…。英雄と呼ぶなら俺達の後、防衛に成功した人だろ。
「ま、待ってくれ。ちょっとサプライズをしたくてな。黙っててくれないか?」
「なるほど!みなさん驚くと思いますよ!」
「すまないな、ありがとう。これは口止め料だ」
そう言って200Gほど渡しておいた。
「英雄だってさ」
「大袈裟なんだよ…どの国も…」
少しため息をつきながら俺達は冒険者学校に向かった。
◇◇◇
「うわぁ、2年半ぶりだね」
「ああ、すごく懐かしく感じる」
「今はちょうど午前の授業中だね」
「教室も変わってるはずだから事務員に聞かないとな」
2年半前となにも変わらない冒険者学校を見て少し安心した。
「へぇ…これはカルマの気配だな、どうやら強くなったのは俺達だけじゃないみたいだ」
「そうだね!それにソフィアから魔力が感じるよ!」
「魔剣と無事契約できたようだな」
確実に成長してる仲間の気配を感じながら冒険者学校に入った。
「すみません。5年特待生の教室ってどこですか?」
「あ、はい。2階の1番奥の教室です。どのようなご要件で?」
「あー、俺達も生徒なので、ちょっと教室の位置忘れてしまってね、はは…」
ちょっと苦しかったか?
「はぁ、そうですか」
「では」
怪しまれながらも行かせてくれた。緩すぎないか?
みんなに会うのも2年半ぶりだ。ちょっと緊張してきたな…。
「どんな風に入る?」
「逆にいつも通りのテンションで入ってみよう」
「いいね!」
久々に悪戯心が擽られるな。さて、どんな反応してくれるかな。
「ふぅ…よし」
俺は扉に手をかけ、ゆっくり開いた。
〔ガラガラガラ〕
「おはっすー」
「おはよ〜」
気の抜けた挨拶でいつも通り入った。
「今年も学生最強決定戦が………あ?」
「え…?」
「は…?」
「「「「「え?」」」」」
え、なにこの空気。もっと「え!?帰ってきてたの!?」とか驚かないの?なんでそんな黙るんだよ。
すると、手前の席に座っていソフィアが立ち上がり俺とエマの元に走ってきた。
「うおっ」
そのまま俺達に抱きついた。
「本物…本物ですよね…?」
「ああ、本物だ」
「ただいま、ソフィア」
「おかえりなさい…ずっと、ずっと待ってました…」
ソフィアは大粒の涙を流しながら、強く抱き締めていた。ソフィアも大人っぽくなったな。身長は変わってないが、色気と言うか…少しドキッとしたのは内緒だ。
「ア、アレク…エマ…よく、戻って…来てくれた…無事で良かった…」
「カルマ…ああ、ただいま」
「ただいま!」
カルマはソフィアの後ろから俺達に言葉をかけた。あのカルマが泣くなんて…。泣いたところは初めて見たな。それ程、心配してくれていたのか…。良い仲間を持ったな。
「おい…本当にアレクとエマか…?」
イグナスは少々困惑気味だ。急に登場したから気が動転してんのか?
「本当だよ。久しぶり」
「どっからどう見ても本物でしょ」
「そうだよな…見ればわかる…」
(なんだ…?2人の気配を全く感じなかった…。俺は常に2人の気配を探っていた。2人が教室に入ってくるまでずっと…。俺が気配を察知できなかった…)
「イグナス先生は俺達の成長に驚いてるようだぞ?」
「あー、そっか、気配消してたもんね」
そう、俺達は半年間アルから気配を完全に消す術を学んでいた。しかし、半年間では会得することが出来なかったためイグナシアに戻る2年間で会得することに成功したのだ。
「流石です!アレクさんエマさん!」
「タダで戻ってくるなんて思ってなかったぞ」
カルマとソフィアは俺達の成長ぶりに納得しているようだ。
「成長したのは俺達だけじゃないだろ?カルマ、ソフィア、2人の気配が段違いだ」
カルマの纏う空気は超越級そのものだ。それに、何か他の力を感じる。おそらく、俺達が龍の力を得たようにカルマも何かしらの境地に辿り着いたのだろう。
ソフィアに至っては魔力を感じる。魔力が無い者に突如として魔力が宿ることは無い。つまり、魔剣と意思疎通が図れ、契約できた証だ。
「新たな境地に、魔剣との契約…。流石だな」
「俺はアレクとエマの気配を全く感じなかった。まるで、シリウスとアレイナのようだ。まさか、2人はもうその強さまで?」
「馬鹿言うな。流石にそこまでじゃないよ。気配を消す技術を身につけただけだ」
ん?シリウス?…カルマはシリウスに会ったのか。
「感動の再開のとこ悪いが、お前ら、陛下の所に帰還の報告に行ったのか?」
「行ってたらサプライズにならないだろ」
「一直線でここに来たよ?」
イグナスは頭を抱えていた。
「お前ら、2年前から国の英雄だぞ?みんな帰還を心待ちにしている。検問の騎士はどうした。すぐに連絡が来るようにしていたはずだが」
「だから、サプライズしたいからって言ってるじゃん」
「騎士さんには口止めしてもらったよ」
「はぁ……」
クソデカため息だ。別にいいじゃんちょっと自分勝手したって。
「早く陛下のところに行くぞ」
「へーい」
「はーい」
イグナスに連れられ教室を出る。
「アレクさん!エマさん!」
「ん?どした?」
ソフィアが呼び止めた。
「いや、あの…報告が終わったら、4人でご飯行きませんか…?」
「ああ、もちろんだ」
「いこいこ!」
「はい!」
ソフィアは嬉しそうに教室に戻っていった。わざわざそんなこと言わなくても、終わったら飯食い行こうと思ってたが。
「不安なんだろ」
「なにが?」
不安?イグナスがそう言うが何が不安なんだろうか。
「お前ら、2年半って期間は意外と長いんだぞ。生きてるか死んでるかもわからない。生きていてもいつ帰ってくるかわからない。そんな奴が突如急に帰ってきたんだ、またどこかに消えてしまいそうで不安なんだろ」
「なるほどなー」
「生きてるって伝えたかったけど、方法が無かったもんね」
確かに2年半は長いな。まぁ、こうして帰ってこれたんだから良いだろう。
「イグナス先生、ギルナンドには会えたか?」
「ちょっとアレク!」
「…」
イグナスはバツが悪そうに顔を逸らした。会えてないのはわかってる。俺達に引け目を感じてるのも目に見えてわかる。
嫌味で聞いた訳じゃない。謝りやすい空気を作っただけだ。
「すまなかった」
「いいよ、俺達が飛ばされたのは俺達が弱いからだ。先生にいつまでも頼りっきりじゃダメだからな。いい教訓になったよ」
「そうだよ!気にしなくていいよ!」
「ああ…ありがとう…」
憑き物が取れたように表情が柔らかくなった。2年半ずっと苦しんでいたのはイグナス自身だろう。
「なぁ、スアレはどうやって防衛に成功したんだ?先生は間に合わなかったんだろ?」
「あー、それな。シリウスとアレイナがお前らと入れ替わりで救援に来たんだ」
シリウス…。神出鬼没のSS級冒険者、色んな場所でシリウスの名前は聞くな。
「なるほどな。それなら納得だ」
「あいつらもお前らの事を心配していた。今はイグナシアのどこかにいるらしい。お前らが無事とわかればあいつらから会いに来るだろう」
「アレイナとも2年半ぶりだね!たのしみ!」
黒髪の冒険者。ノーグと特徴も一致する。シリウスももしかしたら。
「着いたぞ」
王城の謁見の間だ。
「謁見の予約してないだろ。ここに来ても意味ないんじゃ」
「今貴族の謁見が行われている。時期終わるから待ってろ。終わったら俺が取り次ぐから」
「りょーかい」
しばらくすると貴族が謁見の間から出てきた。
入れ替わるようにイグナスが入っていった。
◇◇◇
〜謁見の間〜
「おや?どうしたんだい?イグナス」
「アレクサンダーとエマが帰還のご報告に参られました」
それを聞いて謁見の間にいた家臣達がザワつく。
「それは本当かい…?」
「はい、検問の騎士には騒ぎにしたくないと口止めしたようです。謁見の許可を」
「もちろんだ!早く連れてきてくれ!」
「もう、扉の前にいますよ」
イグナスはクスッと笑って入るように指示を出した。
俺達は謁見の間に入った。イグナシア城の謁見の間には初めて入ったが、やっぱりどこも似たようなデザインだな。
俺はヨハネス王の前で膝をつき頭を下げた。
「アレクサンダー並びにエマ、国王陛下に帰還のご報告に参りました」
「おお…アレクサンダー君にエマ君…よく生還してくれた、頭を上げてくれ」
俺達は頭を上げた。
「帰ってくるのに随分かかってね。2年半かな?」
「はい、エノリス群島の中央まで飛ばされていましたので」
「エノリス群島まで…大陸外まで飛ばされているのは予想していたが、実際に聞くと凄いな…」
まぁ、実際転移魔法陣で大陸外まで飛ばす化け物なんてマイズぐらいだろうからな。
「すまない。急な謁見でなにも用意できてないんだ。後日個人的に会合の機会を設けるからその時で構わないかい?」
「はい、私達は大丈夫です」
「よし、とりあえず帰還の報告ありがとう。疲れただろうからゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
意外とあっさり謁見が終わった。帰ってきたよーって言うだけで別に報告することはないからな。
「寮に戻って休むか」
「そうだね、ちょっと疲れちゃった」
移動中はほぼ走りっぱなしで馬車を使わなかった。俺もさすがに限界だ。
「今は昼か…。少しだけ休んでソフィア達と飯くいに行こう」
「うん!またね!」
俺達は寮に戻り、自分の部屋に戻った。
「あーー、2年半ぶりの俺の部屋だ…。なんだかんだ落ち着くなぁ…。このふかふかのベットも特待生の特権だぁ。でも、冒険者学校もあと1年か…。ん?俺とエマってもしかして留年?2年半も冒険者学校行ってないもんな、まずいな…」
そんな事を考えながら重いまぶたが閉じていった。
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