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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第九章 冒険者学校最終年
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第103話 新しい家族

 

「ねぇ!なんでモルディオからいかないの!シャル達に挨拶しよーよー」

「ダメだ。この山道を通る」

「なんでずっと山道なのぉ…もう野宿やだー」


 アルテナ島を出て2年程が経ったか。エノリス群島からイグナシアまで2年ってのは本当だったみたいだ。


「やだやだやだ!!」

「はぁ…ほら、そこから山の麓見てみろ」

「え?」


 エマは道を外れ山の麓を覗く。


「え…ここって…」

「ああ、レディアだ」


 なぜわざわざ山道を通ったか。最短でスアレに戻れるってのもあるがなにより道中にレディアがあるからだ。俺達が消えたことを2人も知っているだろう。早く安心させたい。


 レディアはイグナシアの国だが、山に囲まれていて完全に辺境だ。むしろ、キーダ王国の方が近いかもしれないな。


「みんなに挨拶しに行こう」

「うん!レディアに向かってるなら早く言ってよー」

「サプライズだよ」


 ローガンやミーヤも元気にしているだろうか。会うのが楽しみだ。


「ん?2km先にローウルフの集団だ」

「えー、放っておこうよ」

「様子がおかしい…これは…ローウルフが人間を囲ってる」

「早く行かないと!」

「ああ」


 俺とエマは急いで現場に向かった。


 ◇◇◇


「……わんちゃん」


 幼い少女はローウルフの集団に囲まれていた。


「おにちゃとおねちゃ、まだかな」

「グルルルル…」


 少女は指を加えながらジッとなにかを待っていた。ローウルフはヨダレを垂らし今にも襲い掛かりそうだ。


「ガアア!!!」


 そして、ローウルフの集団は痺れを切らし、少女に襲いかかった。


「…」


 それでも少女は動じなかった。


『龍剣降斬』


 ローウルフの爪が少女に迫ったその瞬間、目の前のローウルフの集団は雷の轟音と共に瞬く間に消えた。


「大丈夫!?」

「肝の座った子だなぁ。ローウルフに襲われてるってのに動じてない」

「気が動転してたんじゃない?」


 目の前の少女はエマに抱きかかえられた。


「お名前は?」

「アイリス」

「アイリスちゃんかぁ、可愛いねぇ」


 エマはアイリスに頬ずりをして頭を撫でたメロメロだな。

 しかし、どことなくエマに似ている…?

 アイリスと名乗る少女は茶色の髪で前髪の一部が桜色になっている。瞳は水色だが、左目だけ桜色だ。オッドアイってやつか。


「お家はどこ?」

「あっち」

「そうなんだ!お姉ちゃん達もあっち行くから一緒に行こうね!」

「うん!」


 俺達はアイリスと共に向かった。


 しばらく歩いた、アイリスの案内の元アイリスの家に向かっているが、向かう方向がずっと同じだ。

 ここらへんにエマの実家以外家ってあったか?新しくできたのか?


 そして、エマの実家が見えてきた。庭ではミシアが洗濯物を干している。

 思わず笑みが零れる。


「わっ…アイリスちゃん!?」


 アイリスがエマの腕から飛び降り、ミシアの元に走っていった。


「ママー!!!!」

「「ママ!?」」


 アイリスの衝撃的な言葉に俺とエマは固まっていた。


「アイリス!どこ行ってたの!?」

「お山」

「お山って、モンスターもいるのに…」

「おねちゃとおにちゃ連れてきたよ」

「え?」


 ミシアの視線は俺達の方を向く。


「…エマ…?アレク…?」

「お母さん…」


 思わずミシアは手に持つ洗濯物を落とした。


「エマ!アレク!」


 ミシアは洗濯物をほったらかし、俺達の元に駆け寄り抱きついた。


「無事だったのね…よかった…!2年半もいったいどこに…」

「ただいま、お母さん…」

「俺達もその…色々聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「そ、そうね…中で話しましょう」


 ミシアはアイリスを抱え俺達は家に入った。


「まずは、おかえりなさい。エマ、アレク」

「「ただいま」」


 ミシアは瞳を潤ませながら迎えてくれた。


「2人はどこまで飛ばされていたの?」

「エノリス群島です」

「エノリス!?そう…それなら戻るのに2年以上かかるのは納得ね…」

「本当は2年で帰ってこれたんですけど、半年程特訓の期間を設けまして」

「なるほどね…」


 ミシアはまじまじと俺とエマを見る。


「もう14歳…。すっかり大人ね」

「アレクばっかり大きくなるの」

「エマも大人っぽくなったわよ?」

「ほんとに!?」


 エマは嬉しそうに瞳をキラキラさせているが、そういう所が子供っぽくて可愛いんだよな。


「アレクの髪は伸ばしてるの?」

「いや、そういう訳じゃないんですけど、切るのが面倒で」


 俺の今の髪型は伸びた髪をハーフアップで後ろに纏めている。


「今の髪型もカッコイイから私はそのままでいいよ」

「そうか?」

「ええ、よく似合ってるわ」


 似合ってるなら、まぁいいか…。


「ママおなかすいたー」

「ちょっと待ってね」

「あの、ミシアさん…。その子は?」

「あ、そうよね!初めましてだったわね」


 ミシアなアイリスの頭を撫でた。


「この子はアイリス、エマの妹よ」

「やっぱり、どことなくエマに似ていますね」

「そうでしょ?髪の色はラルトと同じ、目の色は私と同じよ」

「妹かぁ…可愛いねぇ…何歳?前にレディアに来た時はまだ産まれてなかったってことは2歳くらい?」

「そうよ、丁度あなた達が帰った時に妊娠がわかってね」


 まぁ、真昼間からやることやってたらいくらエルフでも妊娠するわな。


「ただ、この子ちょっと不思議ちゃんなの。時々変なことを言うのよ」

「変なこと?」

「ええ、今日の朝も「おねちゃとおにちゃつれてくる」って言って山に行ったの」


 俺達が来るのをわかっていたのか…?


「それにこの髪と瞳。どっちの遺伝でもないのよ…」


 前髪の一部が桜色に、瞳は左目だけ桜色だ。


 俺達が来るのをわかっていた。そして、この色の髪と瞳…。まさか。


「アイリス、俺の名前わかるか?」

「あれく!!」

「じゃ、アレクじゃない名前は?」

「んー、あっ!あれくさんだー!!」

「え!?なんでわかったの…?」


 アイリスと出会ってから俺はアレクとしか呼ばれてない。それがわかるってことは。


「アリアって名前わかるか?」

「しってる!ありあおねちゃ!」

「うそでしょ…?もしかして、アリアの生まれ変わりなの…?」


 俺とエマはアリアの遺言を思い出していた。


「また出会うってこの事だったのか…」

「まさか、妹に生まれ変わるなんて」

「あのね、ありあおねちゃがね「私をよろしくね」っていってたよ」


 私をよろしくねって。どういう意味で言ってんだよ。


「なんの話をしているの?」

「前に話したミアレスの女の子の話です。その子は自分の生まれ変わりまで予言していたみたいです」

「そうなの?この桜色の髪と瞳はその子譲りってことね」

「どういう原理でその色になったのかはよくわかりませんけど」


 予言の特性も引き継いでいるとなると色々面倒事に巻き込まれそうだ。


「ミアレスは予言の特性を持っている人を探してる。今も光の神子の座は空席だからな」

「え、じゃアイリスはミアレスに行くの…?」


 それを聞いてミシアとエマの表情が曇る。


「大丈夫だ。ドルドさんには俺から話しておく。無理矢理連れ去るなんてことはないだろ」

「そ、そうだよね」


 あまり予言のことは広めない方が良さそうだな。


「ラルトさんは仕事ですか?」

「ええ、子供も1人増えて仕事の量を増やしたのよ。もうすぐ帰ってくると思うわ」

「がんばるねぇ」


 ラルトの稼ぎはあまり良くないよなぁ…。かと言って俺達がでかい額出したら父親としてのメンツも丸潰れだし、ここはスルーで行こう。


 しばらくしてラルトが帰ってきた。


「お父さんおかえりー」

「やあ、エマにアレク帰ってきてた………え!?」

「ついさっき生還しました」

「そ、そうか…そうかそうか…ちゃんと生きて戻ってきてくれたのか…うぅ…」

「お父さん泣かないでよぉ」

「パパどこかいたいの?」


 心配するアイリスの頭を撫でながらラルトは号泣していた。それに苦笑いしながらミシアは昼飯の準備を進めていた。


「へぇ、エノリス群島までねぇ」


 これまでの話をラルトにも聞かせた。ミシアが用意してくれた昼飯を食べながら寛いでいる。


「ローガンさんとミーヤさんは騎士団にいますか?」

「いや、ここ2年間留守だよ」

「え?まさか、俺達の捜索に?」

「そうだよ。あの戦いの時にすぐに駆けつけられなかったことをすごく気にしていたから、何かしないと落ち着かないんだろうね」

「そうですか…」


 2人が引け目を感じる必要はないのに。あれは俺とエマのミスだ。いや、ミスと言うよりそうせざるを得ない状況だったんだ。


「大丈夫よ。通信手段はないけど、このリングであなた達の安否を知らせることはできるわ」

「なるほど、対の指輪ですか」


 魔力を流すと対になっている指輪の色が変わる魔導具だ。ノーグの魔導袋の中に5セットくらい入ってたな。


 ミシアは指輪に魔力を流した。青色の魔力石が赤色に変わった。これで連絡はいっただろう。迷惑をかけてしまった…。次会った時はお礼をしなきゃな。


「今日は泊まっていくのか?」


 泊まりたい所ではあるが…。


「いえ、もう少しゆっくりしたらすぐに発ちます。早くスアレに戻って帰還の報告をしなければいけません」

「そうか…」

「また来るから、その時はもっとゆっくりして行くよ」


 ラルトは寂しそうにしているが、仕方ないことだ。


「おねちゃとおにちゃもういっちゃうの?」

「ん゛っ…!!」

「エマ、可愛いのはよくわかるが我慢しろ」

「わ、わかってるよ」


 破壊力のあるアイリスの困り顔にエマがやられかけたがなんとか持ちこたえたようだ。


「アイリス、また遊びに来るからな」

「うん…」

「ママのお手伝いするんだよ?」

「うん…」

「ん゛っ…!!」

「エマ…」


 アイリスの泣きそうな顔にエマがやられそうだ。これは早く出発しないとエマがここに残るとか言いかねない。

 家族団欒の時間を過ごしたあと、出発の準備を始めた。


 ◇◇◇


「2人の帰りをみんな心待ちにしてるわ」


 街門まで3人が見送りに来てくれた。


「早くみんなに会いたいなぁ」

「元気にしてるだろうか」

「馬車はいいのか?」

「はい、少し走るので」


 馬車でゆったり行くのもいいが、今はいち早くスアレに戻りたい。帰ってすぐ戦闘なんてことはないだろうから、少しくらい体力を使っても問題ない。


「ほら、アイリス、バイバイは?」

「……ん」


 アイリスは走って俺に抱きついてきた。


「どうした?」

「アイリスね…アレクおにちゃとけっこんする…」

「へ?」


 この子は急に何を言い出すんだ?けっこん?ラルトとエマが固まってしまっている。ミシアはくすくすと笑っていた。

 なんだか複雑な心境だ…。今日初めて会った相手になんでアイリスは結婚なんて言ったのか…。これはアリアの想いだろう。俺が好きだっていう意識の残穢だ。


「アイリス。それはアリアの気持ちだろ?」

「わかんない…でも、アイリスもアレクすき」

「そっか…。なら、もう少し大きくなっても俺のことが好きだって思ったなら、また聞かせてくれ」

「わかった…バイバイ…」


 アイリスはミシアの足元に走っていった。


「エマもバイバイ…エマのことも大好きだよ」

「ん゛…!!」

「おい」

「ノリじゃん」


 アイリス自身も俺が好きか…。いや、まだ幼いから自分の気持ちがわからないだけだ。深く考えるのはやめておこう。


「それじゃ、いってきます」

「いってらっしゃい、いつでも帰ってきなさい」

「いってきます!!またね!お父さん!お母さん!」

「き、気をつけるんだぞ…いってらっしゃい…」


 どうやらラルトのダメージが相当なようだ。そりゃエマに続きアイリスまで俺ととなると気が気じゃないだろうな。

 俺とエマは3人に手を振って駆け出した。


「きゃっ!!」

「うわっ!!」


 俺達が駆け出した勢いにミシアとラルトは驚いていた。


「あっという間に見えなくなったわね…」

「そうだな…」

「まだ子供の言うことでしょ?あんまり気にしないの」

「わ、わかってる…」


 哀愁漂うラルトの肩を叩きながら3人は家に戻っていった。


第103話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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