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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第八章 エノリス群島
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閑話 トレーニング・オブ・カルマ

 

 〜カルマside〜


 アレクとエマが行方不明に半年が経った。未だに行方は掴めていない。俺達は3年生になった。


「カルマさん、今日の鍛錬はどうしますか?」


 俺はほぼ毎日ソフィアと模擬戦をしている。だが、このままじゃダメだ。ソフィアも薄々感じているようだが。


「ソフィア、俺は1度タカハシ村に戻ってじいさんに鍛え直してもらおうと思う」

「そうですか…。ですが、学校はどうされるんですか?最低限の活動をしないと留年、もしくは退学です」


 問題はそこだ。2人が戻ってきたとき俺だけ退学になっていたなんてことになったら、申し訳ないし恥ずかしい。冒険者ランクも学生の間の方が上がりやすいから、なるべく留年も退学も避けたい。


「どうしたものか…」

「なにを悩んでおるんじゃ?」

「ん?じいさん…。とうとう逝ったか?こんな所まで俺に会いに来るなんてな」

「生意気な孫じゃの」

「痛っ」


 本物?なぜここに。


「タカハシ村を空けて大丈夫なのか?じいさんが居なくなれば山賊が襲うかもしれない」

「それは大丈夫じゃ、信頼出来る者に留守を任せておる」

「信頼出来る者?」

「ああ、素性は知れんがな」


 ◇◇◇


「へっくし!!!」

「大丈夫?シリウス」

「誰かが俺を噂してるようだ」

「なにそれ」


 シリウスとアレイナはタカハシ村の警護をモルガナから引き受けていた。


 ◇◇◇


「なるほどな。あの2人なら安心だ」

「そうじゃろう」

「で?なんでじいさんがいるんだ?」


 警護を任せたは良いがじいさんがここにくる理由がわからん。


「俺が説明する」

「イグナス先生」


 じいさんの後ろからイグナスが現れた。イグナスが呼んだのか?


「お前ら、行き詰まってるだろ。だから、お前らの為に特別講師を用意したんだよ」

「ほっほっ、カルマが惨敗したと聞いての、こりゃ鍛え直しじゃとおもってな!」

「惨敗…。まぁ、そうだな。だが、ちょうど良かった。じいさんに稽古をつけてもらいたかったんだ」


 これなら学校に通いつつ、鍛錬に打ち込めそうだ。


「あの…私は…?」


 後ろで聞いていたソフィアがイグナスに聞いた。


「ソフィアは俺だ」

「イグナス先生ですか?」

「俺じゃ不満か?」


 ソフィアは慌てて首を横に振っている。


「聞いた話じゃ、そのロングソードは魔剣らしいな。俺の聖剣もいわば魔剣の一種だ。なにかしらコツや魔剣の意思に関して助言できるかもしれない」

「なるほど!よろしくお願いします!」


 イグナスはこの半年で少し窶れた気がする。2人のことを気に病んでいるんだろう。以前のように無気力な姿も見てない。本来ならいい事だろうが、調子が狂うな。


「カルマ、行くぞい」

「おう」


 俺はじいさんと訓練場に向かった。


 ◇◇◇


「カルマよ。マイズとやらは強かったか?」

「ああ」

「あの強さに追いつけると思うか?」

「もちろんだ」

「心意気や良しじゃな」


 俺はもう負ける訳にはいかない。目の前で2人が消える瞬間を今でも夢に見る。


「では、儂も本気で教えねばならんの。鷹剣流の極意を」


 じいさんは腰の剣を抜いた。


「抜くのか?」

「お前も本気なのじゃろ?」

「ああ」

「ならば、儂も本気じゃ」


 元滅級剣士の本気か。


「聞いた話じゃとマイズとやらはシリウスと殺り合って生き残ったそうじゃの」

「らしいな、俺は気絶してたから詳しくはわからん」

「シリウスと殺り合って生き残るということは、マイズとやらは超越級の中でも上位の方じゃろうな」

「そうだな。それがどうしたんだ?」


 じいさんは目を閉じた。何をする気だ?


「このくらいかの?」

「なっ…!?」


 じいさんの気配が強くなった。超越級並に。


「なに呆けておる」

「うわっ…っぶねぇ…」

「ほれ、反撃は?」

「がっ…」


 避けたと思ったらもうすでに次の攻撃が…。


「倒れてる暇はないぞ」

「なっ…まて…」

「敵が待つはずないじゃろ」

「ぐぅ…」


 剣が肩に貫通する。


「殺す気か…?」

「殺す気じゃ」

「マジかよ…」


 迫る剣を弾いていくが捌ききれない斬撃が俺の身体を傷つける。


「くそっ!!」

「ヤケクソになるな。常に心は冷静であるんじゃ、でないと有効な一手も見逃すぞ」

「くっ…」

「そうじゃ、しっかり見極めろ」


 じいさんの斬撃が速すぎる。その斬撃全てが俺の命を取りにきている。マジだ。


「死んだらお前はそこまでの人間じゃったと言うことじゃ。孫であろうと関係ない。更に上を目指すのであれば相応の覚悟を示せ」


 相応の覚悟か。そんなもの…


「そんなものとっくにできている。俺はもう二度と誰も失わない為に、最強の剣士になる。滅級の剣士に」

「よし」


 アレクとエマがミアレスから生還した時、すごい気迫で鍛錬していた。もう誰も死んで欲しくないと。その気持ちが今ならよくわかるよ。

 ただ漠然と滅級剣士になりたいと思っていたが、今でははっきりとした目的がある。いつか、じいさんも超える剣士に。


「負けて悔しいか?」

「悔しいに決まってる」

「目の前で仲間を失った時どんな気分じゃった?」

「……なんでそんなことを聞く…」


 どんな気分だった…?後悔、悲痛、喪失感、そして…怒り。


「激情というものは基本マイナスでしかない。冷静さを失い動きが単調になる。じゃか、人によってはその感情を力に変える者もおる」

「なら、俺は無理だな。感情を出すのは苦手だ」


 アレクはよく真顔で「お前何考えてるかわからん」って言ってたしな。表情に出すのも苦手だ。


「わざわざ表に出す必要は無い。静かに燃ゆる感情の炎は時として限界以上の力を出す」

「感情の炎?」

「儂はカルマなら出来ると思っておる。いや、寧ろカルマだからこそじゃな」

「俺が…?」

「思い出せ。荒れ狂う感情を。後悔、悲痛、憎悪、その全てを力に変えろ」


 俺の頭の中ではアレクとエマが消えた瞬間を何度も思い出す。タカハシ村でファナが狙われていた時、最強決定戦後アレクが死んだ時…。

 俺の中であらゆる感情が交差する。頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。


「その感情を己が力へ変えろ」


 全ての感情を力へ…。


「ほう…」


 カルマの纏う空気が揺らぐ。纏っていた鬼纏はまるで炎の様に揺らぎ始め、やがて深紅に染まった。

 これが、カルマの感情。喜怒哀楽を捧げた力の結晶。


「過信はするんじゃないぞ?完全に使いこなせる様になるまで実践では使うな。激情に飲まれれば力は出せなくなる」

「ああ、感覚でわかる。今はまだ諸刃の剣だ」

「そうじゃな。じゃが、ものに出来れば以前のお前とは比べ物にならない程の力となろう」


 数時間打ち合った後、鍛錬は終わった。


「はぁ…はぁ…キツイな…」

「なんとか生き残ったようじゃの、これからは毎日殺り合うぞ。挫けたならそこがお前の終わりじゃ」

「望むところだ」


 俺は意外と感情に動かされやすいのだろうか。確かに、マイズに斬りかかった時は怒りに支配されていたな。あれが悪い例だろう。

 アレクとエマが戻ってくるまでに力を付けないとな。あいつらがタダで戻ってくる訳が無い。楽しみだ。


 それから2年間、毎日モルガナと命をかけた鍛錬を行った。


 〜2年後〜


「じいさん、剣速遅くなったか?」

「生意気じゃの、調子に乗るでない」


 俺はいつも通りじいさんと鍛錬をしている。本当に変わった事をしていない。毎日紙一重の命のやり取りだ。

 最初の1年は死にかけるばっかりだった。腕を切り落とされたこともあった。ただ綺麗に切り落とすから超級の治癒魔術でなんとかなるが。


「もう2年か。結局じいさんから1本も取れなかったな」

「そりゃそうじゃ、儂から1本取るなぞ100年早いわ」


 100年後はじいさん死んでるだろうがな。


「…あいつら、いつまで待たせる気だ…もう2年だぞ…」

「カルマ…」


 アレク、エマ。お前らは今どこでなにをしている?冒険者学校もあと1年で卒業だ。あんまり遅かったら置いていっちまうぞ…。


「早く…帰ってこいよ…」


 俺はいつも通り冒険者学校に向かった。


閑話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回はソフィアのお話です!お楽しみに!

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