第99話 始祖の龍の力
「この魔導具はなんだ?あっつ!!!」
「なにこれ…勝手にお湯が出てくる」
「それは"ケトル"と言う魔導具じゃ」
俺達はベイガール王から貰った魔導袋の中身を調べている。
何百個あるかわからん程の魔導具が入っていた。どれも、家にひとつあれば凄く便利な魔導具ばかりだ。
他にも宝石も入っている。しかし、受け取りずらい…。
なぜなら、宝石が入ってある宝箱の上にデカデカと貼り紙で【結婚資金】と書いてあるからだ。
これを受け取れって…?ベイガール王は意外と馬鹿なのか?
アルは気にせず受け取れと言うが、うーん…。
「ケトル…ストーブ…自動照明…リクライニング付きベット…焼肉網付きテーブル…こたつ…エアコン…などなど」
アルにどういう魔導具か説明してもらっている。
「なぁ、これって結婚した時の生活用品だよな?」
「ノーグはこんな物まで…照れるではないか…」
「おい」
アルは頬を赤らめながら魔導具をじっくり見ている。
「とりあえず、この便利道具は俺達は必要ない」
「そうだねー、あれば便利だけど絶対必要って物でもないし」
「でも、これはお主らの戦利品じゃ…」
「そもそも、これはベイガール王がアルに贈る予定だった物だ。ダンジョンを攻略したのは俺達だが、受け取るべきはアルだ。そっちの方がベイガール王も喜ぶだろう」
「そ、そうか…?なら…」
渋々アルは受け取ってくれた。渋ってはいたが、顔は凄く嬉しそうだ。
「じゃったら、妾は宝石はいらん。アレクとエマが持っていけ」
このデカデカと【結婚資金】と書いてあるやつをか…。
「受け取れないだろ…」
「この島で宝石なぞなんの意味もない。ただの宝の持ち腐れじゃ」
「でも、これはベイガール王が…」
俺達が渋っていると宝箱の上に貼ってあった貼り紙をアルはビリッと破り捨てた。
「アレクとエマも近いうち夫婦になろう。少し早いがこれは妾から…いや、アルテナとノーグからの祝い金じゃ。受け取ってくれるな?」
それはズルいな…。
「ありがとう、受け取るよ」
「ありがと!アル!」
アルはにっこりと笑った。
「しかし、ベイガール王はなんでこんなの発明できるんだろうな。その思考回路知りたいよ」
すると、アルは顎に手を当て考え始めた。
「んー、まぁ、本人も自分のことを喋っていいって言っておったしのう。良いか」
「「??」」
ボソボソと何かを呟いているアルに俺とエマは首を傾げた。
「ノーグはの、『異世界人』なんじゃ」
「「異世界人??」」
異世界人…初めて聞く単語だな。異世界…パラレルワールドとかか?
「異世界人とは、この世界とは違う別の世界、異世界からやって来た人間を表す言葉じゃ」
「異世界とかあるの!?」
「あるぞー、ノーグは"日本"と言う異世界からやってきたそうじゃ。本名は「野口狩米」という名前らしい」
のぐちかりま?なんか凄く発音しずらい名前だ。
「発音しずらいじゃろ?異世界の言葉は上手く発音できんからの、ノーグはこの世界に来て「ノーグ」と名乗ったそうじゃ。建国してからは「ノーグ・ベイガール」と名乗るようになったの」
「じゃ、この奇天烈な発明はその異世界の知識なのか?」
「そうじゃ。異世界には魔力がないらしくてのう、じゃが、それを取って余るほどの魔導具の技術があっそうじゃ。なんと言ったかのう…そう!「科学」じゃ!」
かがく…。まぁ、仕組みとか説明されてもよくわからんし。たぶんベイガール王じゃないとこんな発明はできないだろうな。
「日本と言う異世界から来た人間には特徴があっての、みんな『黒髪』なんじゃ」
「え!?それじゃ、アレクも異世界人なの!?」
嘘だろ。記憶を失う前は異世界に居たのか?
「いや、それな100%ないぞ」
違うんかい。
「アレクには魔族の血が流れておろう。日本には魔族もエルフもおらん。純粋な人族だけじゃ」
「へー、人族だけの世界。なんか凄いな」
「まぁ、可能性を考えるのであれば、アレクの母親か父親は異世界人の可能性があるの」
「遺伝の黒髪ってことか…」
俺の親は異世界人かもしれないのか…。
「俺がベイガール王の子孫って可能性は…」
「ない!それは断じてない!」
なんか凄い食い気味に否定されたな…。
「ノーグは妾以外のメスとは交尾しておらんぞ!龍眼で嘘をついたらすぐわかるからのう。ノーグは死ぬまで妾以外と交尾しておらん。つまり、子孫はおらん!」
「あー、はいはい、わかったから。なんかごめんな」
ヤキモチだな。想像しただけで嫌だったんだろう。てか、始祖の龍でもそういう事するんだな。45年も一緒にいれば自然と興味も湧くのか、アルは好奇心旺盛だからな。
「録画のベイガール王は凄く若かったぞ?老けないのも異世界人だからか?」
「そうじゃな、異世界から来た者の魂は特別での寿命は1000年以上あるじゃろう」
「へー、凄いな」
俺達より寿命長いじゃん。と言うことはシリウスは異世界人なのか?話によれば黒髪で色々謎に包まれているって話だ。会ったら聞いてみよう。
「さて!仕分けはこんな感じでよかろう!」
アルはパンッと手を叩き場を締めた。
「アレク、エマ、この5ヶ月と2週間良く頑張った。自身の成長についてはお互いがよくわかっておろう?」
「うん、アレクは魔術だけなのに私とほぼ変わらないレベルまで来てる。これで剣術も扱うってちょっと反則じゃない?」
「それで言ったらエマも反則だろ。全属性展開できんだから」
ここに来た時と比べ物にならないくらいレベルが上がっている。たった5ヶ月なのに。アルがなにかしたのか?
「なんで俺達は急激に力を付けれたんだ?」
「それは2人の努力の成果じゃろ」
「え、そんな単純なことなの?」
5戦組み手をして、ダンジョンに潜っただけだが。
「あのダンジョンは効率良くレベルアップする為の絶好の場でもあったんじゃ。Sランクの集団は魔術の規模と応用の幅を広げるため。不可視の獣は敵視に敏感になるため。ガーゴイルは強化魔術のレベルを上げるため。そして、写し身の獣は己の心を強くするため。それら全てを完了し、今の2人が完成したのじゃ」
あのダンジョン自体が俺達にピッタリの特訓場所だったのか。確かに、課題が多かったな。
「にしても、そんな都合のいいダンジョンがあったもんだ」
俺がそう言うとアルは顔を赤くしながら言った。
「あ、あれは本来、将来ノーグと妾の子供が強くなる為の特訓場所じゃったんじゃ…」
「そ、そうなんだ…」
エマが若干引いている。よくこれで「妾は愛がわからん」って言えたよな。めっちゃ大好きやん。
「始祖の龍って妊娠できるのか?」
エマが少し顔を赤くしているが素朴な疑問だ。
「本当はできんが、自分の体を作り替えるなど造作もないことよ。ノーグと初めて交尾した時から体は妊娠できる体に作り替えておる。アレク、子作りしてみるか?」
なんでもありだな、始祖の龍。てか、何言ってんだこの人…。
「ダ、ダメ!!アレクの子供を最初に授かるのは…その…私…」
エマは全力で止めたが、ごにょごにょと段々声が小さくなっていった。自分が言っていることが恥ずかしくなったのだろう。可愛い。
「はっは!エマも可愛いのう。っと話はそれたが、よく聞け」
アルは真剣な顔に戻った。
「アレクは妾に戦いを教えてくれと言ったな。妾は戦闘の知識はない、戦うことがほぼないからのう。じゃが、力を与えることはできる」
「力を与える?」
「そう、文字通り妾の力の1部を2人に与えるのじゃ」
それって、眷属になるってことだよな?
始祖の龍から直接力を与えられたモンスターは与えられた属性の龍に変化する。それって人間でもできるのか?
「人間でも眷属になれるのか?」
「ん?眷属とは少し違うのう。眷属の龍とは言うなれば力の譲渡に失敗した姿なのじゃ」
「失敗した姿…まさか、元は違う生物なのか?」
「その通りじゃ」
マジかよ…。力の譲渡に失敗すれば龍になっちまうのか…?
「失敗の理由は大体、力を与えすぎてしまうからじゃ、龍の力に体が耐えられず、龍に変貌する。力は絶大じゃが、知能が低下してしまう。2人が戦った魔龍も魔神龍ギルナンドがデーモンに大量の力を送った成れの果てじゃ」
「まじかよ…」
俺達も制御出来なければ…。
「恐れるな。2人にハードな特訓を課したのは龍の力に耐えられる体を作るためじゃ。ダンジョン攻略を達成した時点でもう体は完成しておる。妾を信じろ」
「アルのことは信じてるよ。私は大丈夫。やるよ」
「…アルの力を与えられても、他の属性は扱えるよな?」
「当たり前じゃろ?確かに妾は聖属性の始祖の龍じゃが、他の属性も全然扱える。受けるか?」
断る理由がないな。耐えられなかったら、俺は結局そこまでの男だったってことだ。
「やるよ」
「よし」
出した魔導具を全て仕舞うと、アルは俺達をベットが2つ用意された寝室に呼んだ。
「なんで寝室なんだ?」
アルは少し心苦しそうな顔をしていた。
「2人はこれから1週間地獄を見る。耐え難い苦痛じゃ。じゃが、アレクとエマなら必ず乗り越えられる。妾は2人を信じておる」
すると、アルは両の人差し指を俺とエマの額に当てた。
「我が始祖の龍の力。「最愛」の者に与える」
後で聞いた話だが、譲渡する時の言葉はなんでもいいらしい。だが、龍においてはその言葉を重んじる場合がある。龍が「最愛」と言う時、それは家族の絆を表し、与えられる最大の力を譲渡する意味がある。
アルの両人差し指は光を放ち、俺とエマの中に流れ込んでいく。
「があっ…!?ぐっ…ああああ!!!!」
ドクンと心臓が波打つ感覚が俺を襲う。そして、強烈な痛みが体全身を襲う。瞳孔は縦に割れ、龍のような瞳になる。
「ぐっ…これが…1週間も…?」
「耐えてくれ…大丈夫じゃ…2人ならできる…」
「…アレク…アル…苦しい…」
「大丈夫じゃエマ…妾がついておる…」
アルは苦しむ俺とエマを抱きしめ、ベットに寝かせた。
俺の右半身とエマの左半身には唐草模様の黒い痣が浮かび上がっている。その痣は顔の半分も覆っている。
苦しい…痛い…辛い…。耐え難い苦痛は思考を限定させる。拷問とも思える程の苦痛だった。
「大丈夫じゃ…大丈夫…」
苦しむ俺とエマの手を握り、アルは1週間付きっきり俺達の傍に居てくれた。これが、どれだけ心強かったか。
俺とエマは地獄の1週間を味わった。
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