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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第八章 エノリス群島
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第97話 再戦、アレク&エマVSベリウル

 

「うぅ…痛い…」

「魔力回復したら治してやるから」

「アルに治してもらう…」


 エマが立ち直ってからどれくらい経っただろうか。俺とエマは本気状態のベリウルモドキにボコボコにされている。なんとか逃げる隙は作り出せる為死ぬことはないだろうが…。まだ少し力の差を感じる。


「もう5ヶ月じゃぞ。あと1ヶ月じゃ」

「「え!?」」


 うそだろ…?もうそんな経ったのか…?だから、アルは最初に攻略できればなって言っていたのか…。


「ふむ。お主らの力は十分に成長しておる。もう一押しじゃな」

「そうなのか?あんま変わった気はしないが」

「自分の成長とは自分ではわからんもんじゃ。実際、エマとの組み手もちょくちょく勝っておろう」


 そう言えばそうだな。1ヶ月ほど前くらいからちょくちょく勝利を収めている。それでも完勝はできない。まだまだだな。


「あと1ヶ月では…無理そうかのう…」


 アルは少し残念そうな顔で俯いた。


「勝手に無理って決めんなよ。出会った時に言ったろ?時と場合によっては限界以上の力を発揮するのが俺達だ」

「そうだよ!絶対攻略するから!」


 アルは少し驚いた顔をして、微笑んだ。


「楽しみにしておるぞ」

「おう」

「任して!」


 そして、俺達はベリウルモドキに挑み続けた。


 ◇◇◇


 2週間後。タイムリミットは残り2週間だ。


「ねぇ、宝物庫にはなにがあるんだろうね」

「んー、ベイガール王の宝物庫だからな。とてつもない宝が眠ってそうだが」


 なんせ1000年前の超古代文明の遺品だ。


「アルは攻略してほしそうだね」

「なんかあるのかもな。アルとベイガール王についてのなにかが」

「アルのためにも攻略したいね」

「そうだな。アルには本当に世話になった。恩返しくらいしたい」


 俺達は今日もダンジョンに挑む。見慣れたボス部屋の扉もこれで最後にしたいな。


「お前の顔を拝むのもこれで最後にしたい」

「そうだね。もう見飽きちゃった。それに、ムカつく」


 俺とエマは全力の殺気を放つ。しかし、写し身の獣…ベリウルモドキはどこ吹く風だ。


「今回は逃げないぞ。逃げると言う選択肢があったから甘えてしまっていた。死んだらそこまでだ。いつまでも甘えられない。覚悟はできてるか?」

「当たり前でしょ、私もそのつもりで来てるから」


 今回で終わらせる。最終決戦だ。


「いくぞ」

「うん」


 俺とエマはベリウルモドキに瞬時に肉薄した。


「アアアリア、死死」

「それも聞き飽きた」

「ボキャブラリー少ないね」


 2つの拳がベリウルモドキの体を吹き飛ばす。俺達は確かに成長している。ベリウルモドキの本気状態に入るスピードが日に日に早くなっている。


「エマは聖で頼む。俺は雷だ」

「了解」


 俺は雷をエマは聖を纏い、吹き飛んだベリウルモドキに再度肉薄する。


「雷魔術『雷拳』」

「聖魔術『聖拳』」

「ギャアアアアア!!!!」


 ベリウルモドキの苦痛の叫びが響き渡る。ベリウルモドキは距離を取り力を溜める。


「くるぞ」

「うん」


 ベリウルモドキは本気状態に入った。2mあった体は1.6m程に縮んだが、内包する魔力は比べ物にならないほど強力に禍々しくなった。


「なっ…」

「はやっ…!」


 次はベリウルモドキが瞬時に俺達に肉薄し鋭い爪を振りかざした。

 俺はなんとか状態を反らし躱す、エマもしっかり反応出来たようで紙一重で躱していた。


「あっぶなぁ…今回は様子見なしで速攻だったね…」

「あいつも学習してんだろ」


 反応できない訳では無い。2、3ヶ月前まで反応出来ず攻撃を受けていたが、しっかり成長出来ているようだ。


「俺が前に出る。エマは様子を見てサポートを頼む」

「了解」


 俺は今耐えられる最大限の雷を纏い、ベリウルモドキに肉薄した。


「グギャァア!!」

「うるせーよ」


 俺とベリウルモドキは一進一退の攻防を繰り返す。だが、ベリウルモドキの攻撃を凌ぎきれず鳩尾に1発食らう。


「ぐあっ…」


 そして、ベリウルモドキは俺の顔面目掛けて爪攻撃を放つが、上体を反らし躱そうとするが、躱しきれず浅い切り傷を顔面に負う。


「くそっ…」


 上体を反らしたまま体を捻り両手を地面に着く。捻りの勢いそのままにベリウルモドキの顔面目掛けて強烈な蹴りを食らわす。お得意の卍蹴りだ。


「ギャッ!!」


 予想外の攻撃に対応出来ず、ベリウルモドキにクリーンヒットする。そしてそのまま足首に頭部を引っ掛け地面に叩きつけた。


「グウゥ…」

「すっきりー」


 いいストレス解消になった。ダメージもそこそこ入ってるみたいだ。

 ベリウルモドキは大きく後退する。


『ラグナロク』

「おいおい…お前本当に俺達の心読んでんのか?」

『リフレクト』

「!?」


 闇の超越級魔術はリフレクトによって跳ね返され威力が増した状態でベリウルモドキに直撃した。


「追い込まれてやけくそか?」

「グルル…」


 写し身の獣と言われるだけあって本来は獣なんだろうな。

 しかし、ベリウルモドキはニヤリと笑う。


「なにを笑って…ぐぅ…!?」


 突如身体中に激痛が走る。


「があああ!!…これは…呪術…?」


 俺の左肩に長い針が刺さっていた。ラグナロクを放った時間差で飛ばしていたのか…。


「くそっ…。これでダメージ交換のつもりか…」

「アレク!!」

「大丈夫だ…死にはしない…。ただ、この激痛を1時間味合わないといけないと考えると萎えるな…」

「一旦下がって!」


 エマの指示に従ってエマの隣まで下がった。


「待って、解呪するから」

「できるのか…?」

「うん、アルに教えてもらったの。時間はかかっちゃったけど、ちゃんと使えるようになったよ」


解呪(ディスペル)


 身体中に走っていた激痛は和らぎ治まった。


「すごいな、エマ。これで呪術も怖くない」

「結構魔力使うから極力受けないでね」

「りょーかい、んで、後ろから様子を見てどうだった?」


 俺の問いにエマは難しい顔をした。


「呪術の針は全く見えなかった。たぶんほぼノーモーションで放ったんだと思う。ダメージはベリウルモドキも相当だろうけど、まだ余裕はある証拠だね」

「わかった。なら、2人で攻めよう。ベリウルモドキ反撃の隙を与えるな。出し切るぞ」

「うん!!」

「全力だ」


 アルテナ島に来てからの特訓の成果で、俺は80%まで雷魔術を扱えるようになった。モルディオで使った時暴走した出力だ。髪の毛は逆立ち、瞳は雷光に揺れる。纏う雷電の猛々しさは空気を圧迫する。自分でもわかる。この力は超越級に匹敵する。


 エマは風を纏う。以前見た風迅だ。だが、肌で感じる、風なんて生温いものじゃない、エマの纏うそれは正に暴嵐。荒れ狂う暴風を精密な魔力コントロールで身の回りに集約している。エマのこの力もまた、超越級に匹敵する。

 エマの瞳は黄金に輝いていた。


 しかし、なんだエマのこの魔力は…。上手く言えないが、明らかに異質だ。魔力の質そのものが俺達とは違う。そしてあの瞳…まさか限界突破…?いや、違う。無理して絞り出すような状況じゃない…一体…。


「なんか、いつもより力が溢れてくる気がする」


 自分の変化にエマ自身も驚いているようだ。


「今ならなんでもできる気がする!」

「さぁ、因縁終わらせようぜ」


 俺とエマは構え、ベリウルモドキに相対する。ベリウルモドキもまた自身の力を限界まで解放する。


「グオオオオオオオ!!!!」


 ベリウルモドキの雄叫びと共にお互いが衝突する。


「くっ…」

「おもっ…」


 ベリウルモドキの攻撃は比べ物にならないほど強力になっていた。


「エマ、風くれ!」


 俺の指示を聞きエマは目の前に竜巻を発生させた。俺は大量の雷電を放出し竜巻に雷電を混じえる。


「「混合魔術『暴雷』」」

「グウゥ…!」


 ベリウルモドキは両手で暴雷を押さえ込もうとするが、思わぬ威力に苦戦している。俺達はその隙を逃さない。


「雷魔術『雷拳』」

「風魔術『風拳』」


 俺達の拳に晒され、ベリウルモドキの両腕が吹き飛ぶ、暴雷を抑えきれなくなり、多段攻撃で暴雷が襲う。


「グギャァアアアア!!!」


「ぐっ…」

「アレク!!血が…」

「少しキャパ超えた…力みすぎたか…暴走はしない」


 目と鼻から血が流れる。いつもこうだ。これがエマに魔術じゃ敵わない所以だろうな。力むとコントロールがブレて思うように力を出せなくなる。


「ギギギヤァァア!!」

「くっ…!」

「うっ…」


 半狂乱しながらベリウルモドキが肉薄してきた。吹き飛ばした両腕は既に再生しており爪攻撃を仕掛けてきた。なんとか爪攻撃を弾くが、エマは脇腹に爪が突き刺さっている。エマが怯んだその隙を突き、ベリウルモドキの強烈な蹴りがエマに炸裂する。


「ぐあっ!!」


 エマは吹き飛ばされ後ろの壁に激突する。


「くそっ…こいつの体力どうなってんだよ…!!ダメージは相当蓄積してるはずだろ…」

「ギギギヤァァア!!」

「くっ…」


 ベリウルモドキの怒涛のラッシュに圧倒される。手負いの獣ほど恐ろしいものは無いとは正にこのことだな。


「うそだろ…!さらに早く…!!」


 爪攻撃の速度が上がり捌ききれなくなる。


「がっ…!!…くそっ…」


 俺の左腹にベリウルモドキの爪が貫通した。倒れる俺の頭をベリウルモドキは鷲掴みにした。


「ギヒヒヒヒヒ!!!」

「ぐあああああ!!!!!」


 俺の頭蓋骨がミシミシと音を立てていく。ベリウルモドキの口角は釣り上がり、俺を痛めつけるのを楽しんでいる。こんな所も真似するんだな。胸糞悪い。

 本来なら必死にもがき、場を脱しようとするだろう。だが、負ける気がしない。俺の後ろには俺が1番信頼する魔術師がいる。


「ハ、ハハッ…おい、クソデーモン…前にも言っただろ…?」

「…?」


 ベリウルモドキは首を傾げる。


「俺ばかり見てていいのか…?」

「…?」

「おまえ、エマを甘く見すぎだ」

「…!?」


 俺の背後からエマの大量の魔力が溢れ出していた。ベリウルモドキは俺をいたぶるのに夢中で気付かなかったようだ。


 エマの身体中から黄金の魔力が溢れ出し、周囲には6つのそれぞれ違う色を放つ球体が浮かんでいた。

 それは、火、水、風、岩、光、闇の無属性を覗く各属性の球体だった。

 無属性の強化魔術を含めるとエマは今全ての属性を展開している。そんな話聞いたことがない、おそらく、アレイナでもできないだろう。

 俺に魔剣士と言う唯一無二の力があるように、エマにもなにかしら唯一無二の力があるのだろう。


「終わりだ、写し身の獣。お前がどれだけ俺達のトラウマを引き出そうが、俺達はそれを越えていく。じゃあな、過去の強者。俺達はお前を恐れない」


 エマは左手を写し身の獣に向けた。周囲に浮かぶ各属性の球体は回り始め、エマの手のひらの前で1つのエネルギーとして集約された。


破壊光線(デストラクション・レイ)


 写し身の獣に向けて放たれた一筋の光は、いとも容易くその鳩尾を貫いた。

 貫かれた鳩尾からボロボロと崩壊し始める。エマが放った光線『破壊光線(デストラクション・レイ)』はその光線が貫いた対象を防御力に関係なく身体そのものを破壊し尽くす、一撃必殺技だ。もちろん、1週間で1回しか使えないエマの超とっておきだ。


「ギャアアアァァ………」


 そして、写し身の獣の体は崩れ落ち、その場には砂山ができた。

 俺達の勝ちだ。


「ふぅ……疲れたぁ…」

「おつかれ…。エマ、こっち来てくれ」

『エリア・ハイヒール』


 エマごと治癒魔術をかけ、戦闘の傷を癒した。お互い少なくない量の血を流しているため少しふらつく。


「ちょっと休もうか」

「もうへとへとだよ…」

「勝てたな」

「うん!」


 エマの元気な笑顔を見て、俺は力が抜けその場に寝転んだ。


 ベリウルとの再戦、俺達の勝利だ。もう、ミアレスの時みたいに誰も失わない為に俺達はもっともっと強くならなければいけない。だが、今この瞬間は勝利の余韻に浸ったったて良いだろう。


第97話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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