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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第八章 エノリス群島
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第96話 トラウマ

 

「やはり、そうなったか…」


 戻って開口一番アルがそう言った。


「なぜ宝物庫の守護モンスターが上位デーモンなんだ。それに、あいつは俺達が消滅させたはずだ」

「そうか、お主らには上位デーモンに見えたのか」

「どういう事だ?」


 俺達には上位デーモンに見えた…。あれは本物のベリウルじゃないのか?


「あれは"写し身の獣。敵対した相手が最も恐れ、嫌う敵をトレースしその能力を扱うモンスターじゃ。厄介なのは相手の心を読みトラウマを正確に再現することじゃ」

「そうか…あの状況はトラウマの再現…。エマも相当ショックだったようだ」


 エマはベットで横になり、毛布にくるまり小刻みに震えている。


「アレクは大丈夫か?」

「大丈夫だ。左腕を引きちぎられた時の恐怖を思い出したが、なんとか持ち直すことはできたよ」

「それはよかった。しかし、上位デーモンか…。Sランクじゃが、腕を引きちぎられる程こっぴどくやられたのか?」


 Sランク。本当にSランクなんだろうか。本気を出す前のベリウルはSランク程だと思うが、本気になったベリウルは明らかにSSランク並だった。


「ベリウルって名前のデーモンだ。ミアレスで封印されているプライドを解放しようとしていた」

「ベリウル…プライド…」


 アルは顎に手を当て考える。


「その名、聞いたことあるのう。プライドは七つの大罪と呼ばれた7体のデーモンの中でも特に強かったらしい」

「それは聞いたことあるな」

「ベリウルは確かプライドの部下じゃったはずじゃ。"傲慢の副将"と呼ばれておってな、次期傲慢と言われる程の力を持っておった。相手が悪いのう…上位デーモンじゃが強さはSSランクじゃ」


 なるほどな。ベリウルがミアレスの封印にこだわっていたのはかつての上司を解放するためだったのか。傲慢の副将…俺達じゃ手も足も出ない訳だ…。


「エマ…?」

「ごめんなさい…戦わないといけないことはわかってるよ…でも、体が震えて思うように動けないの…」


 エマは震えている。トラウマは簡単に拭えるようなものじゃない。心の奥底まで恐怖が支配しているのだろう。


「もう戦えないか?」

「……戦いたい…アレクの隣で戦う為に強くなったんだもん…。でも…」

「そうか…」


 俺はエマの頭を優しく撫でた。


「アル、ちょっといいか?」

「うむ」


 俺とアルは家の外に出た。


「トラウマを無くすにはどうしたらいい」


 藪から棒にアルに聞いた。まぁ、そう簡単に治るものではないとわかっている。ダメ元だ。


「こればっかりは本人次第じゃな。妾はメンタルカウンセラーではないからのう」

「まぁ、そうだよな」

「トラウマの度合いによってはエマはもう戦えんかもしれんの。ほかのモンスターならまだしも、同種のデーモンと相対すれば今のままではおそらく無理じゃ」

「そうか…」


 エマが戦えない。いつも隣で戦っていたエマがもう再起不能なら、俺は"また"1人になってしまうな。ん?"また"?何言ってんだ俺は、カルマもソフィアもいるだろ。


 まとまらない思考に嫌気が差し首を振った。

 心のどこかでエマが危険な目に合わなくて済むと安心している自分もいる。だが、


「エマは立ち直るよ。大丈夫だ、俺1人で戦場に向かうことをなにより自分自身が許さないと思う」

「そうか。まぁ、簡単な話じゃ。2人でベリウルモドキをボコボコにすればトラウマも拭えよう」

「簡単に言うなよ…」


 確かに、トラウマの元凶であるベリウルモドキを倒せればエマも立ち直るか。エマは戦えなくても、俺が勝てば問題ない。SSランクを1人でか…。気が重くなってきた…。


 ◇◇◇


 あれからエマは落ち着いたようで、日課である組手はいつも通りやっていた。相変わらずボコボコにされる。

 この調子なら大丈夫だろうと思いベリウルモドキに再挑戦したが、そう上手くはいかなかった。エマはベリウルの顔を見るなり盛大に嘔吐、体をブルブルと震えさせへたりこんでしまった。戦うどころでは無いためエマを抱えて家に戻った。

 この反応にはさすがのベリウルモドキ君も傷ついちゃうな!


 なんて思っていたが現実は厳しい。次の日は俺1人で戦う覚悟を決め、こっそりベリウルモドキに挑んだ。

 結果は惨敗。剣術を封印している俺に勝ち目は無かった。通常状態のベリウルモドキは圧倒することができたが問題はその後だ、本気状態のベリウルモドキには手も足も出ずボコされた。

 命からがら逃げ出しボロボロの状態で帰るとエマが顔を青くして治癒魔術をかけてくれた。余計トラウマに拍車をかけてしまっただろうか…。


「やっぱり、エマの力は必要だ」


 1週間様子を見て出した結果はこれだ。

 どっちにしろなぜか俺とエマはパンドラに狙われ続けている。俺達が戦いたくないと思っても、結果的に戦うことを強要される。俺1人が戦いエマを守る事も考えた。だが、それをエマに言ってしまうと俺に負担を掛けていると自分を責めるだろう。


「自分を責める…そうか……ちょっと荒療治にはなってしまうが…どっちにしろ、どうするかはエマ次第だ」


 俺は自室を飛び出しエマの部屋に向かった。


「エマ?いいか?」

「いいよ」


 声に元気がない。やっぱり俺1人が戦い続けてることに引け目を感じてるんだ。


 俺はベットに座っているエマの横に座った。


「ん」


 ぽんぽんと自分の太ももを叩く。膝枕してやるの合図だ。いつもなら無遠慮に俺の膝に頭を乗せてくるのだが最近は落ち込み気味で乗せてくることも無かった。俺的にはちょっと寂しい。

 エマは俺の顔をチラッと見て、コテンと頭を膝に乗せた。俺は優しくエマの頭を撫でる。


「……ぐすっ…」


 エマがポロポロと泣き始めた。


「ごめんね…いつもアレクに守られてばかり…大怪我をするのはいつもアレク…私を庇うから…。私はアレクの隣で戦う資格無いよ…」


 エマが涙ながらに語っているのを見ると俺まで泣きそうになる。エマはあまり人前で泣かない、俺もエマが泣いたところを見るのは久しぶりだ。特にこんな風に弱音を吐きながら泣くなんて初めてだ。


「そう思うか?俺はいつもエマに助けられてばかりだけど」

「嘘だよ…慰めようと言ってるだけ…」


 本当のことなんだが…。

 前も言ったがエマがいなければ俺はとっくの昔に死んでる。それだけ俺はエマを守り、エマは俺を支えてくれたんだ。


「そうか…なら、エマはもう戦うのはやめよう」

「え…?」


 思わぬ言葉にエマは唖然としている。


「無理して戦わなくてもいい、俺はエマにそばにいて欲しい、共に笑って、泣いて、怒って…人生の全てをエマと共に過ごしたいんだ。それは冒険者じゃなくてもいい。将来俺の妻になってくれるなら家で帰りを待ってくれるのも良いな」


 そんな暖かい未来を想像して思わず頬が緩む。


「エマは…安心して毎日を過ごして欲しい」

「私だけ…?」


 俺の言葉にエマは首を傾げる。


「俺は戦わないといけないから、パンドラは俺とエマを狙い続けてる。このまま何もなしだなんていかない…」


 俺の言葉を聞いてエマの顔が暗くなっていく。


「エマは安心してほしい。エマの元には敵なんて行かせないから。カルマやソフィアもいる。だから、エマは安心して……過して…ほしい…」


 思わず言葉が詰まる。嫌な言い方だ、エマが1番嫌がる言い方をした。わかってる、エマがどう思うかなんて。嫌われるかもしれない、でも、俺はエマと共に戦いたい。


 俺の言葉にエマは驚いて固まっていた。そして、俺の顔を見上げ、静かに笑った。


「情けない顔…」


 そう言い俺の頬を撫でた。

 情けない顔か…。俺はどんな顔をしているんだろうか。冷酷な無表情?バカにしたようなニヤケ顔?いや、違う。次第に視界がぼやけてくる。


「泣かないで…。ごめんね、そんな言い方させてしまって…」


 自分が情けなかった。エマが苦しい時こんな言葉しかかけられなかった自分が、情けなくて仕方なかった。自分でハッキリ言葉に出してみて、すごく苦しかった。もっと気の利く男だったら良い言葉が思いつくのだろうか…。


「私が戦えるように、わざと嫌がる言葉を言ったんでしょ?わかってるよ…。アレクはすぐに顔に出るから…。大丈夫…気持ちは伝わったよ」

「気の利かない男でごめんな…」

「謝らないで。どんなアレクでも私は大好きだから」


 エマは起き上がり、俺を抱きしめた。ゆっくり背中をさすり、落ち着かせてくれた。


「私も、戦うよ…」

「うん…」

「泣き虫…」

「うるせ…」


 戦う決意を胸に、俺とエマははそのまま部屋で眠りについた。


「アレク?エマ?おるか?」


 アルは扉を開ける。


「ふっ…仲が良いのう…。どうやら心配なさそうじゃ」


 2人の寝顔を見てアルは笑い、眠る2人に毛布をかけた。


「辛い試練じゃ…ノーグ…なぜお前はこんな試練を用意したのじゃ…」


 ブツブツと呟きながらアルは部屋から出ていった。


 ◇◇◇


 朝起きて、エマと組み手の為に準備をしている。昨日のことがあり何となく気まずいが、そう思っているのは俺だけのようだ。エマはいつも通りに戻り、組み手の準備をしている。


「準備いいよー!!」

「おう、俺もいいぞ」


 エマの顔には笑顔が見える。どうやら吹っ切れたみたいだな。

 俺の泣き崩し作戦が上手くいったようだ。まぁ、作戦ではなくただの事故だが。我慢できずに俺が泣いてしまったのだが。色んな意味で情けない。


 組み手が始まり、俺は相変わらず5連敗した。


 次はダンジョンだ。エマは少し緊張してるみたいだが、まだ拒絶反応は出てないようだ。

 いつも通り、ベイガール王の寝室に着いた。


「その絵見てると落ち着くのか?」


 エマは相変わらず、アルの肖像画を見てうっとりしている。


「うん、この絵すごく好き。その瞬間を切り取ってるんでしょ?すごく幸せそうな笑顔…。今でも愛してるのかな…?」

「さあな、アルはイマイチ何考えてるのかわからん」

「ふふっ、そうだね!さっ、いこ!」


 エマは俺の腕をひっぱってボス部屋に向かおうとする。俺はその手を引き寄せて抱きしめた。


「アレク…?」

「俺は大丈夫だ。やられたりしない。約束する。信じてくれるか?」

「うん…信じてるよ、約束ね?」


 エマはぎゅーっと強くハグして離れた。俺とエマは奥の扉を開ける。


「ベリウル…」

「モドキな、所詮偽物だ」

「ボコられてるくせに…」

「なっ…!」


 調子が戻ったと思えばすぐ毒吐いてくるな…。


「ま、まぁ…本気状態は俺1人じゃ勝てない。息を合わせよう。大丈夫か?」


 エマを見ると少し震えている。怖いもんは怖いそんなもんだ。


「ふぅ…ふぅ…。大丈夫…戦えるよ!」

「よし!やるぞ!!」

「うん!!」


 俺とエマVSベリウルモドキの長い戦いが始まる。


第96話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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