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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第八章 エノリス群島
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第95話 ベイガール王とアルテナ

 

 王城の門を潜り、城を探索中だ。門前での戦いが嘘のように城内は静まり返っている。

 サーチにも引っかからない。どうやら城内にはモンスターは居ないようだ。1部屋を除いて。

 その1部屋からは強力な気配を感じる。門番のガーゴイル以上だ。おそらくSS級だろう。覚悟を決めないとな。


「ボス戦の前に城内をもっと探索しよう」


 俺はそう言ったがエマは聞いてない。目をキラキラさせながら色んな所を散策している。


「すごいね!アレク!キラキラしてる!」

「王城ならイグナシアとかモルディオ見てるだろ」


 するとエマは食ってかかるように言ってきた。


「規模が違うじゃん!!規模が!!」

「まぁ、確かに5倍はあるな」


 ベイガール城の規模はさすが大陸を手中に収めた大国だと言わんばかりの大きさだ。庭を含めたら下手したらレディアの街丸々収まるくらいだ。


「大体3分の1くらいは探索したか?」

「そうだね!」

「なぁ、気になったことがあるんだが」

「奇遇だね、私も気になったことあるの」


 俺とエマは目を合わせ、目の前にある肖像画を見た。


「「これって、アルだよな(ね)?」」


 その肖像画は長い金髪で黄金の瞳をした女性が描かれていた。凛とした顔立ちで大人な魅力を感じさせる女性だ。アルそっくりって言うかアルだな。


「アルってベイガールに詳しいから、深い繋がりがあるのかもね」

「かもな」


 その後も探索するが、あらゆる場所にこれみよがしにアルの肖像画が飾ってあった。1枚1枚ポーズや表情が違う。


「うわぁ…このアル、すごく綺麗…」


 目の前の肖像画を見てエマは思わず感嘆の声を漏らした。


「ああ、すごく綺麗だ」


 その絵は砂浜で海をバックに純白のドレスを身にまとったアルがこちらを見て満面の笑みを浮かべている。

 この絵が飾られていたのは天蓋付きの大きなベッドが置かれている、ベイガール王の寝室だろうか。


「色んな所にアルの絵が飾ってあったね」

「そうだな」

「ねぇ、ベイガール王とアルって…」


 どうなんだろうか。ベイガール王は人間でアルは始祖の龍だ。始祖の龍は一説によれば世界が誕生した時に最初に現れた知的生命体と言われている。誰かと愛し合うことなんてあるのか?


「きーにーなーるー!!!」

「あまり触れちゃいけない話なのかも知れないぞ?」

「でもぉ…」

「まぁ、殺されるってことはないだろ。帰って聞いてみよう」


 エマはうっとりと寝室の絵に見蕩れている。


「こんなにアルの絵が飾ってあるのってアルは知ってるのかな?」

「知らないだろ。情報を聞いてるだけで実際にダンジョンには入ってないようだ」

「そっかー、この絵見せたいな。持って帰れないかな?」


 そう言いエマは絵に手をかけた。


 〔バチィ!!〕

「痛ったぁ!!」


 絵に手をかけた瞬間、電撃のようなものがエマの手を襲った。


「どうやら、ベイガール王もアルの絵は譲れないようだな」

「アルにも見してあげたいなぁ」


 治癒魔術で手を治しながらエマが呟いた。


「今日はもう帰ろう。明日、ここのボスに挑むぞ」

「うん!」


 俺とエマはダンジョンを後にした。


 ◇◇◇


「おかえりー、ガーゴイルは倒せたようじゃな」


 いつもの様にアルは料理をしながら話しかけてきた。


「ああ、槍ぶん投げてやった」

「ははっ!敵の得物を奪って戦うのもまた戦略ぞ」


 アルは笑いながら俺の話を聞いていた。その間もエマはソワソワしている。ベイガール王との関係が気になるのだろう。


「エマどうしたんじゃ?ソワソワして」

「え!?あ、いやぁ後で話すよ」

「そうか?」


 アルは首を傾げ料理に戻った。しばらくして、テーブルに料理が並べられ、俺達はあっという間に平らげた。


「お主らの食いっぷりはすごいのう。作るこっちも嬉しくなるの」

「アルの料理は美味いからな。エマほどじゃないが」

「ほう?」


 アルが目を細めエマの方を見た。


「こ、こっち見ないでよ…」

「気になるのう、エマの料理の腕。明日はエマに頼もうかの」


 そんな他愛もない話をしながら団欒の時間をすごした。その間もエマはずっとうずうずしていた。

 そして、もう我慢とばかりにエマが口を開く。


「ア、アルとベイガール王って恋人同士だったの…?」

「…ん?」


 アルは一瞬の間を置き、再度エマに聞き直した。なんとなく空気がピリついたような…。言わんこっちゃない。


「い、いや…やっぱりなんでもない…」


 エマがおろおろして俯いた。その様子を見てアルはため息をついて目を閉じた。


「恋人…になるのかのう…?仲は良かった、共に出かけたりもした。今思えばあやつとの時間は楽しかったと思うぞ…」


 アルはしんみりした顔でポツポツと話し始めた。俺とエマは黙って話を聞く。


「妾は始祖の龍じゃ、人間との交流はあれどそれは龍と人間と言う種族の壁を超えることはない。人間は妾を神のように崇めるだけ、妾も人間に対してさほど興味はなかったのう。基本的に孤独じゃ、世界に干渉することはなく山奥にひっそりと過ごす。それが龍じゃ」


 神のように崇める…エノリス大陸ではアルは守り神のような存在だったのだろう。


「じゃが、ノーグ…ベイガール王は妾が始祖の龍と知りながら1人の女性として扱った唯一の人間じゃ。妾もあやつの奇天烈な発想が面白くての、よく話を聞かせてもらったものじゃ。料理の腕もベイガール王から紹介してもらった料理人から教わったんじゃ」


 アルは薄く笑みを浮かべ遠い目をした。


「妾は始祖の龍じゃ、殺されない限り死ぬことはない。寿命がないと子孫を残すと言う思想もない、故に妾は愛がわからぬ。あやつを愛していたか…わからんのじゃ…遠い昔の話じゃが、あやつの快活な笑い声は今でも耳に残っておる。まぁ、そんな感じじゃ。聞きたいことは聞けたかの?」


 愛がわからない…。だが、語るアルの表情を見れば愛を知る者なら誰でもわかる。それは愛だと言っても、アルはもうベイガール王には会えない。愛を知るが故の苦しみもある。知らない方がいい事もある。


「無神経に聞いちゃってごめんね…」

「何を謝るか、昔話をしただけじゃ。しかし、なぜ急にこんなことを聞いたんじゃ?」

「え?それはね」


 エマは王城にあるアルの肖像画について話した。


「はぁぁぁ…あのバカ王…やめろと言っておったのに…」

「本物の王城もアルの絵が飾ってあるのか?」

「なわけなかろう!!それは完全にあやつの趣味じゃな…」

「趣味…」


 すごいな…。それほどまでにアルを愛していたのか。確かに、俺も部屋一面にエマの絵を飾りたい。


「ア、アレクはやめてね…」

「しないよ…」


 エマがニヤニヤしていた俺の顔を見て言った。


「ちなみに、それは肖像画ではなく"カメラ"と言う魔導具で撮った"写真"という物らしいぞ。なんでもその場その瞬間を記録し、正確に残すことができるとか」


 そんな技術まであるのか。本当にすごいな。どんな仕組みだ?次元を切り取っているのか?それとも空間?


「妾も詳しくはわからんがの」


 そう言うとアルはカチャカチャと皿を片付け始めた。


「明日、ダンジョンの宝物庫を目指す」

「…そうか、わかっておると思うが宝物庫の守護モンスターはSSランクじゃ、くれぐれも気をつけるんじゃぞ」

「ああ、任せとけ」


 俺とエマは自室に戻り明日に備え眠りについた。


 ◇◇◇


「おーい、エマ。いつまでもアルの絵見てんじゃねーよ」

「だってー、本当に綺麗なんだもん」


 エマは寝室の絵がよほど気に入ったようだ。宝物庫は寝室のさらに奥の部屋。なぜか寝室にいる時は強力な気配が漂ってこない。まぁ、強力な気配を感じながら寝れるわけないから何かしら対策をしているのだろう。


「いくぞ」

「はーい」


 さて、宝物庫を守護するSSランクのモンスターってのはどんなやつだろうか。古代のモンスター…まさかキメラじゃないよな?そんな嫌な予感を感じつつ恐る恐る扉を開けた。

 瞬間、強烈な威圧と邪悪な気配が俺達を襲った。そして、俺達は固まり目の前にいるモンスターから目が離せなくなった。


「な、なんで…?死んだはずじゃ…ベリ…」

「ベリウル!!!」


 俺は瞬時に肉薄し拳を放った。いとも容易く躱されるが想定内、切り返し取っ組み合いになる。


「なぜお前がここにいる!?俺達が魂ごと消滅させたはずだ!!」

「……」


 ベリウルは何も喋らない。ただ、顔は口角を大きく釣り上げ俺達を嘲笑うように見ている。


「そのうすら笑みやめろよ…!!!」


 脳裏ではミアレスでの決戦が思い出される。そして、ベリウルは俺の瞳をジッと見た。


「……ヒヒッ…ミア…ミアミアレス…ア、ア、アリア…死死死死!!光…の神子…死…!!ギャハハハハハハ!!!!」


 ベリウルは拙い言葉を発し、大いに笑った。拙い言葉だが、俺の耳にはハッキリ聞こえている。


「殺す…!!」


 怒りは限界を超え、頭の中は目の前の異物を排除することしかなかった。


「ギャハハハハハハ!!!」

「笑ってんじゃねぇ!!!」


 俺はベリウルと一進一退の攻防を繰り返す。


「サ、サポートしなきゃ…」


 エマは魔術を発動しようと両手を前に出すが、思うように体が動かない。


「か、体が…震えて…うそ…なんで…?」


 エマは震える体を必死に抑え、アレクのサポートをしようとする。


「ぐあっ!!」

「ギャハハハハハハ!!!」


 やはり、剣術なしじゃ、ベリウルには…。くそっ。

 俺はベリウルの一撃をもろにくらい、地面に押さえつけられた。

 そして、ベリウルは魔術を発動しようとするエマの瞳をジッと見た。

 そして、ベリウルの口角は釣り上がり不敵な笑みを浮かべた。


「なっ…てめぇ…」


 ベリウルはエマに見せつけるように押さえつけた俺の左腕を持ち上げた。これは、あの時と同じ状況だ。


「や、やめて…」

「やややややめませせせん」


 そして、ベリウルの手にグッと力が入る。


「やめて!!!!!」


 エマが放った光線は直撃せず、ベリウルの頬を掠めた。震える体で上手くコントロールできなかったのだろう。


「そそそ、そこで、ジッとと…ここ壊れてていく様を…を、を、見てなささい。ギャハハ!!」


 地面から現れた鎖でエマの動きが封じられた。あの時と違って満身創痍じゃない。躱せたはずだ。エマの精神状態がまともじゃないことがわかる。


「ぃ…ぃや…やだ…やめて…もうやめて…アリア…助けて…ソフィア…カルマ…先生…助けて…」


 エマは顔を伏せ涙を流しながらブツブツと言っていた。まずいな。


「おい、いい加減手を離しやがれ」

「!?」


 俺の体からバチバチと雷電が迸る。


「おらぁ!!!」

「ギャッ!!」


 ベリウルは飛び退き俺と距離をとった。


「昔の俺とは違うんだよ。エマ、立てるか?」

「……ア、アレク…う、腕が…」

「腕は大丈夫だ。怪我は特にしてない…エマ…?」

「う、腕が…早く…ルイーダ先生に…ア、アリアは…?アリアはどこ…?」


 エマの目の焦点が合ってない。完全に飲まれてる、エマにとってはこれ程までにトラウマだったのか…。


「しっかりしろ!!俺は大丈夫だ!!」

「え?あっ…。アレク…ご、ごめんなさい…。直ぐにサポートするから…あれ…?」


 どうやらいつものエマに戻ったようだがエマは腰が抜けて立つことができないようだ。これじゃ、戦えない。


「今日は逃げるぞ。また挑戦しよう」

「ごめんなさい…」


 俺はエマをお姫様抱っこして、その場を後にし、家に戻った。


第94話ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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