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ラリマー出発の朝 4

 ディアーナの形の良い唇が柔らかな曲線を描いている。……いわゆる❝笑顔❞なんだけど。


「私が紹介させていただいた冒険者に不満があるご様子ですので声をおかけしたのですが。今でしたらこの依頼をキャンセルすることが可能です。他の冒険者を探されますか? 今回は特別に無料でキャンセルを受付ますが」


 言っている内容も相手に寄り添った優しいもののようなんだけど……。実際にはなかなかに意地悪な内容だ。


 だって、この依頼人夫妻の提示する額は、護衛依頼としては安すぎるから。いわゆる不人気な依頼なんだもん。次の護衛候補が簡単に見つかるとは思えない。


 そんなことを知らないだろう依頼人夫妻のお友達は、


「出発直前の今になってそんなことを言われても、なあ? もっと早くに言ってくれれば……」

「ああ。女1人なんて護衛として不安はあるけど、こいつらをちゃんと守ってくれるなら多少は我慢も、なぁ?」

「道楽で冒険者をしているんだとしてもプロ意識くらいあるだろうし? 途中で依頼を放棄するようなことさえなければ、いいんじゃないの?」


 やんわりと不満を交えながら、私に釘を刺してくる。


 それを聞いて顔色を変えた依頼人夫妻が何かを言うよりも早く、


「冒険者と依頼人は対等な関係。ですので冒険者側からキャンセルすることも可能だとご存じですか? もちろんペナルティは発生しますが、今回のケースなら罰金程度で済みますね。自分に不満を持たれていることが判明したので、仕方なく身を引くケースですから」


 笑みを深くしたディアーナが言葉を告ぐ方が速かった。


 彼女の言葉に棘を感じ取った依頼人のお友達が、


「なんでもう決まっている話にギルド職員のあんたが嘴を突っ込んでくるんだよ? あんたには関係ないだろう!?」


 不愉快そうに顔を歪めるけど、ディアーナは表情を変えない。


「私はこの依頼を受けた冒険者を担当している職員ですので。彼女に対する不当な評価を往来で垂れ流しているのを聞いて、黙ってはいられません。

 あなた方は自分のしていることを自覚していますか? 依頼人と護衛の信頼関係に亀裂を入れることの意味を理解していますか? ……もしもあなた方が護衛依頼を受けた冒険者だとして、自分に対する不当な評価を往来で大きな声で話しているのを聞いた時、心から相手を守ろうと思えますか?」


 ……いや、表情を真顔に変えて言葉を続けた。


 私はこれくらいのことで依頼に手を抜いたりしないけどね? 依頼人夫妻は私を悪く言ってはいなかったし。でも、ディアーナが私の為に抗議してくれているのはちょっと嬉しい。


 ディアーナの言葉を聞いたお友達たちは、気まずそうに口を閉じたり顔をしかめたりしながら私の様子をチラ見してくる。


 依頼人夫妻を思っての発言だったと思うから、怒ってはいないけどね? 確かに不愉快ではあった。ほんの少しだけだけどね。だから特にリアクションを取らずにいると、


「これくらいのことで、依頼に手を抜くなんてしないだろうな!? 命が掛かっている依頼なんだぞ!」


 それが気に入らなかったらしい、お友達が私に対して威圧するように言った。


 ……全然怖くはないけど、何か言った方が良いかなぁ? と思ったその時、


「もう、止めてくれ。皆の心配してくれる気持ちが嬉しかったし、あまり心配を掛けたくなかったから何も言えなかったけど、今回私たちが用意できた依頼料はとても少ないんだ。本来なら、Cランクの中でも腕利きだと評判のアリスさんが受けてくれるような額にはとても足りない」

「それだけじゃなくて、アリスは他にも色々と便宜を図ってくれているの。こんな所で大きな声で言うと、アリスの今後の仕事に差し支えると思うから言えないくらいの便宜よ」


 依頼人夫妻が先に口を開いた。……なんだか衆目を集めている今、オデッタのセリフはセーフなのか悩むけどね。


 でも、それでお友達が黙ってくれたから助かった。後は、依頼人夫妻とお友達との間に変なしこりが残らないようにしたいんだけど……。


 私が悩んでいる間に気を取り直したディアーナは、


「こう見えて、って言うか、きっとそうは見えないだろうけど。

 アリスは本当に優秀だから、非常時にはアリスの指示を信じて行動して。何も疑わずに即、指示を守る! それが五体満足で被害なく生き残る為の道よ」


 依頼人夫妻に非常時に取る行動をレクチャーしている。 


 ギルマス(オズヴァルド)は今回の件をどう思っているのかとこっそり振り返ってみると、面白そうな表情でディアーナを見ているから、今回の彼女の行動は問題ないのだろう。多分。


 だったら後は、依頼人とお友達がぎくしゃくしないように願うばかりなんだけど……。


 ❝くいっ、くいっ❞

 ❝つんつん❞


 複雑そうな表情を浮かべているお友達たちを見ながら、どうしたものかと思案していると、ハクとライムが私の注意を引いた。


(アレの出番にゃ!)

(アレをだそう!)


 ……どうやら早速、アレの出番が来たようです。


 インベントリの片隅で放置するはずだったのに、おかしいな?


ありがとうございました!


街を出る出る詐欺を働いてしまいました……。すみません。

次回こそは、きっと、必ず……!

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