ラリマー最後の夜 1
旧ミネルヴァ邸の食堂があっという間に宴会場に早変わり。
突然の誘いをみなさん快く了承してくれただけでなく、総支配人さんとシルヴァーノさんは、
「「酒を仕入れて来ます!」」
と飛び出して行き、ネストレさんも、
「では、私は屋台でも」
とにこやかに笑いながら出て行った。
総料理長とディアーナが、
「では私たちは食材の仕入れに」
と言って出て行こうとするのを「食材ならあるよ!」と引き留めると、
「では、アリスさまに教えていただいたことの成果をご覧いただきましょう!」
と総料理長が張り切ってキッチンに入り、ディアーナは、
「野菜を洗ったりするくらいしかできないけど何か手伝えるかしら?」
と言いながら料理長の後を追いかける。
キッチンで総料理長に食材を渡したあと、今夜のお酒も食事も誘った私が当然用意するつもりだったのでどうしたらいいかな?と一瞬だけ考えたけど、私が皆さんの気持ちにお礼として何かしたいならやっぱり料理かな?と思い、庭にかまどを設置した。
料理はいっぱいあった方が賑やかでいいし、余ったらインベントリに入れておけば良いだけだしね。
手早くできるものは何かと思いながら食材を吟味していると、セラフィーノが、
「じゃあ、アリスの料理中は俺がみんなの相手をさせてもらおうかな」
どこから出したのかブラッシングブラシを片手にハクたちを手招くと、マリアンジェラさんは門の外をちらっと見て、
「ちょっと出て来るけどすぐに戻るわ!」
とニールとスレイに告げると、1人でフラッと出て行ってしまった。
……うん。よくわからないけど、とりあえず。ただ招かれてはくれなかった皆さんの誠意に応える為にも、今夜は目一杯楽しんでもらえるように、私も頑張ろう!
セラフィーノに丁寧にブラッシングしてもらったハクがいつも以上にもふもふの毛玉になった頃、複数の男性たちに囲まれたマリアンジェラさんが戻って来た。
見覚えのある顔に、お客さまの追加かな?と思ったらそうではなく、彼らは陽気に笑い私に手を振ると門の外で家の周りをぐるりと囲むように二人一組で等間隔並ぶと、家に背を向けて立ち止まった。
みんな私服だけど、あの顔は間違いない。
「そこの詰所の衛兵さん達よね? どうして中に入らないの?」
にっこりと笑うマリアンジェラさんに事情を聞くと、どうやらこの家の周りに不穏な輩を見つけたので、護衛として非番の衛兵さんを呼んできたらしい。
「どうせ野菜泥棒でしょうけど。ここの野菜はとっても評判だから」
とマリアンジェラさんは軽く言うけど、よく考えたら首席裁判官やこの街一番の高級宿の総支配人であるロランドさんに商業ギルドマスターはこの街のVIPなんだから、ここに引き留めるならそれなりの配慮が必要だったね。うちの従魔たちが優秀な護衛でもあるから、ついうっかりしてたよ。
感謝の視線を送ると、「突然お邪魔したのはわたしたちの方だもの! でも、みんな護衛は一応連れてきているのよ? ほら、あそことか、向こうの角とか、ね? でも、彼らは野菜泥棒の相手はしてくれないから」と笑いながら家の中に入っていく。
……あれ? もしかして、本当に野菜泥棒を警戒しているのかな?
……民家の野菜泥棒避けに連れて来られた非番の衛兵さん? なんだか申し訳なさすぎるよ!
ということで。
「【アースウォール】!」
「は? へっ? ……え?」
「な? なんだ!?」
2人の間に土魔法で簡単なテーブルを作ってから上にクロス代わりの帆布を広げ、インベントリから椅子を取り出してから、衛兵さんたちを座らせる。
「お肉と野菜と甘味。今の気分は?」
「に、肉……?」
「……肉」
一応大まかな希望だけを聞いたら後はこちらの勝手で、照り焼きチキンとチーズインハンバーグのサンドイッチとポテトサラダのサンドイッチをお皿に盛りつけてから即席のテーブルに。飲み物はお酒…、はさすがにダメだろうからフレーバーウォーターで我慢してもらおう。おしぼりの用意はしていなかったから【クリーン】魔法を掛けさせて貰って、
「せっかくの非番なのにごめんね? でもみなさんがここにいてくれるだけで犯罪の抑止力になるからとても助かります。非番だし座っていても大丈夫でしょ? 良かったら食べてね」
お詫びと感謝の気持ちを伝える。
「いや、首席裁判官の無茶ぶりはいつものことだから」
「やった!! アリスさんの飯だ! ラッキー♪」
苦笑したり無邪気に喜んでくれたり(これはフリだろうけどね。みなさん大人な対応をしてくれてありがたい)しながらも、
「今日でお別れなんだな。寂しくなるが、道中の無事を祈っている。アリスさんに女神の加護がありますように!」
「子供たちのこと、本当にありがとうな! アリスさん達なら大丈夫だろうけど、くれぐれも気を付けて旅してくれよ?」
別れの挨拶をしてくれる。
この街に来てから詰所の衛兵さん達には本当にお世話になったなぁ。とこれまでのことを振り返り、お別れに少しだけ寂しさを感じるけど、
「うん、ありがとう! また会うことがあったらその時はよろしく。元気でね!」
にっこりと微笑みながら挨拶を返す。感傷に浸るにはまだ早いよね!
家の周りを一周し終わるとほぼ同時に総支配人さんとシルヴァーノさんが戻ってきた。……大量のお酒の乗った荷台を自ら引いて。
少し離れた所にいた総支配人さんの護衛さんの、笑いを噛み殺しているような表情が印象に残ったよ。
ありがとうございました!




