盗賊団の襲撃
「「アリス?」」
スープの為に野菜を煮込んでいたかまどと、ボア肉のスタミナ炒めを炒めている途中のかまどを、そのままインベントリに収納したのを見て、アルバロとマルタが声を上げた。
「そろそろ準備を始めましょうか? 南1kmと北1.2kmくらい先ですね」
「!!」
「エミル! イザック! 敵襲よ!」
煮オークの鍋など、出しているものを収納しながら簡単に報告すると、アルバロは焚き火の火を小さくしてから、アイテムボックスから人形のようなものを出して座った形に置き、マルタは遅番の2人を起こすといった素早い動きを見せる。
私の言うことを疑わないんだな~と少しびっくりしていると、ハクがライムを銜えて私の肩に飛び乗った。
「ハク、ありがとう! ライム、ハウスにいてね?」
(とーぞくたべるから、よんでね?)
(盗賊は出来るだけ生け捕りにして、お風呂代の足しにするんだよ~。殺さないようにって祈っててね?)
(わかったー。けがしないでね?)
(うん!)
ライムをハウスに入れて、ハクと鼻を合わせて頷きあったら準備完了! ……いつでも来い!
「アリス、身を屈めろ。 少し西に移動するぞ」
「はい」
エミルが声を小さくして指示をくれる。 馬やテントはそのままだ。
「焚き火とテントはこのままにしておく。 気が付いた事を向こうに感付かれるのを遅らせるためだ。 馬は騒ぎになったら勝手に走り出すから心配するな。 そういう訓練を積んでいる馬だ」
「……………わかりました」
ささやき返して、しゃがんだまま町の方角へ移動する。
(馬はちゃんとわかってるにゃ! 大丈夫にゃ!)
エミルの言葉を疑うわけじゃないけど、それでも馬が心配だった。 でも、ハクの太鼓判があれば、安心だ♪
マップにはゆっくり、ゆっくりと近づいてくる、盗賊団らしき赤ポイントがたくさん付いている。 向こうもしゃがむか匍匐しているのかな?
焚き火から50mほど離れたところで止まり、身を屈めながら最終確認だ。
「南に25人、北に20人ほどですね」
「マルタとアリスは攻撃魔法の準備をしておいてくれ。マルタは南、アリスは北を。エミルは取りこぼしを頼む。向こうの攻撃が始まったら即、反撃だ。
今回は100mをきるまではこちらからの攻撃はしない。あくまでも、『襲われての反撃』だ。情報を取る必要があるから、皆殺しだけは避けるようにな」
「100mを越えても攻撃して来なかったら?」
「俺が大声で誰何する。向こうは大人数で有利だと思っているだろうからな。きっと攻撃をしかけてくるだろう」
向こうからの攻撃待ちかぁ。ストレスが溜まりそう…。 その上取り逃がしたりしたら、ストレスでハゲるかも。
(ハクは、内側に閉じ込めるタイプの結界を張れる?)
(張れるにゃよ?)
(焚き火を中心に200m四方の大きさは?)
(余裕にゃ~♪)
(じゃあ、全ての敵が焚き火から200m以内に入って攻撃を仕掛けてきたら、発動してね? あ、私たちが逃げる時には解除してね!)
(任せるにゃ!!)
ハクと頷き合った時だ。
「「「「!!」」」」
焚き火の側に置いてあった人形もどきに矢が撃ち込まれた。同時に北と南に松明が灯る。 マルタの馬とイザックの鳥が無事に町に向かっているのを確認してから魔法を放った。
「【ファイヤーアロー】!」
「【ウインドカッター・ダブル】!」
致命傷を避けるために、膝の高さでウインドカッターを撃ち放つ。続けて何発か打ち込むと北の赤ポイントの2/3ほどがその場から動かなくなった。
マルタも魔法を連射しているが、もともと南の方が襲撃者が多かったので、ついでに南にもウインドカッターを打ち込んでおく。 後でマルタに怒られませんように…!!
「【ライト】!」
私が南にも攻撃魔法を放ったことに気が付いたマルタは、攻撃から灯かりの魔法に切り替えた。
明るくなると同時に走り寄って来ていた盗賊にエミルが矢を放ち、アルバロとイザックが飛び出していった。 援護の為に、弓を持っている人間の腕を狙ってウインドカッターを放つ。
怒号飛び交う乱戦の中、アルバロとイザックは危なげなく盗賊を倒し、マルタの魔法とエミルの矢が、ハクの結界に引っ掛かって逃げ惑うヤツ等を戦闘不能にしていく。私もウインドカッターで応戦していたが、敵の数が減り味方への被弾が怖くなったので、<鴉>を抜いて飛び込んだ。
「!? 女!! こいつだっ! こいつをぶっ殺せ!!」
盗賊団の首領らしき大柄な男が叫ぶと、残りの盗賊が一斉に私に飛び掛かってくる。 囲まれるかと警戒したがアルバロとイザックが後ろを庇ってくれた。
腕や肩を狙っても、たまに狙いが逸れて胴を切りつけてしまうが、殺してはいない。 順調に動ける敵を減らしている。
「ッグ…!」
「イザック!!」
首領と交戦していたイザックが急に体勢を崩したが、すかさずアルバロがフォローに入った。 首領が嫌な笑みを浮かべている…。
アルバロが首領の両腕をバトルアックスの一振りで切り飛ばすと、残りわずかな盗賊たちの戦意は喪失し、戦闘は終了した。
「イザック!?」
「毒だ! 毒消しを!!」
「何の毒なんだ!? わたしの解毒薬では効かないっ……」
首領の剣には強力な毒が塗ってあったようだ。 切られた傷は浅いのに、イザックは嘔吐し苦しんでいる。 エミルが首領に何の毒かを聞いているが、首領は両腕を飛ばされた痛みにのたうっていて、まともに答えない。
「【診断】っ」
名前:イザック
性別:男
年齢:28歳
状態:重態
備考:切り傷からローリエの精製毒が侵入
:キュア3回・ヒール
「【クリーン】、【キュア・トリプル】!! ついでに【ヒール】」
幸いなことに、イザックの毒は【キュア】で対処可能だった。
切り口から入った毒はしっかりと解毒され、傷も初めから切れていなかったように綺麗にふさがる。
「…あ?」
「イザック! 大丈夫?」
「アリス? ああ、そうか。 リカバーが使えるんだ、キュアも使えるよな…!」
「ええ、ついでに」
アルバロにもクリーンとヒールを、私を含めた皆にはクリーンを掛けると、
「ああ、すまないな」
「ありがとう!」
皆はお礼を口にしたり手を上げたりして、感謝の気持ちを伝えてくれた。
皆の無事を確認し、ひと仕事を終えて清清しい気分だ。
…………盗賊たちの呻き声や泣き声が聞こえてこなければ。
ありがとうございました!




