冒険者ギルドで売られた喧嘩 1
窓際に置いてある椅子に座って待っていると、少しずつギルド職員と冒険者が増え始め、空が明るくなり始めると同時に、奥で書類仕事をしていた女性の職員さんが、依頼ボードに依頼書を貼り始めた。
「お待たせしました。 お嬢さんはFランクとEランクの依頼を見ておくといいですよ。 好みに合う依頼があるといいですね!」
依頼ボードの近くに移動した私に気が付いた職員さんは、笑顔で声を掛けてくれてからカウンターの中へ戻っていった。
依頼はランク別にまとめて貼ってある。私はFとEの依頼書を見ればいいのか。ランクより1つ上の依頼も受けられるのかな?
採取は薬草が主で、討伐はゴブリンやコボルト…。人型モンスターが多いかな? まあ、問題はなさそうだ。 スライムはGランク、子供向けの魔物だったらしい。<クリーン>の魔石が出たら一攫千金だ。子供にも夢が広がるな。
上のランクの依頼内容を見てびっくりした。オークはCクラスの討伐対象だったのか…。ステータスを隠す必要がなかったらスキップ申請してもよかったな。残念!
この感じだと、依頼を受けても問題なくこなせそうだ。 ハクやライムも特に不満はなさそうなので、ここで登録しちゃおうかな♪
機嫌良く受付に向かっている時だった。
(!! ハク、隠蔽っ!!)
(にゃーっ!)
(おかわりっ!!)
(にゃーっ!!)
カウンターの奥の方から、立て続けに鑑定を仕掛けてきた人がいる! 【魔力感知】の先にはメガネを掛けた男性のギルド職員。さっきまではいなかった人だ。
私と目が合った瞬間に驚いたように目を瞠ったし、何より、いつの間にか進化していた【マップ】で、このメガネのギルド職員だけポイントの色が魔物と同じ赤色になってる! 間違いない! 犯人はこいつだっ!!
魔力感知・マップ・当人の顔色から確信すると同時に、インベントリから小型ナイフを取り出し、メガネのギルド職員の肩目がけて投げつけた。
「ギャアアッ!!」
「はっ!?」
「なんだ!?」
何が起こったのかわからない人が騒ぎ、いち早く状況を把握した人が動き出す前に、カウンター内に飛び込んで、痛みに蹲るメガネの職員に飛び蹴りを入れて倒し、後ろ手に拘束する。
「このギルドでは、職員が<冒険者>及び<冒険者志望者>の【鑑定】をすることを推奨しているの!?
戦うことを生業としている人間に断りなく鑑定を掛けるからには、殺される覚悟は出来ているってことね!?
受付さん! 今すぐこのギルドの責任者を呼んでください!」
ギルド中に聞こえるように大声で怒鳴ると、私を取り押さえようとしていた人達が動きを止めた。
「鑑定…?」
「嘘だろう?」
「わ、わたしは何もしていない! この女の言いがかりだ! 誰か助けてくれ!!」
「嘘にしては突飛すぎる…」
「強請り、か?」
「それにしては、攻撃的過ぎるだろう。ナイフが刺さっているぞ」
それぞれが好きなように言っているが、私の邪魔をする気配はなくなった。
顔を上げると、さっき声を掛けてくれた女性職員さんと目が合った。 たまたま近くにいたらしい。
女性職員さんの目には強い驚きと、ほんの少しの恐怖が浮かんでいる。
「驚かせてしまってごめんなさい」
小さい声で謝ると、女性職員さんは落ち着きを取り戻し、
「お嬢さん、鑑定を掛けられたっていうのは確かなことなの? お嬢さんの勘違いで職員に怪我をさせてしまったら、もう冒険者になれないどころか、重い罪になってしまうわよ…? 大丈夫なの…?」
仲間の職員を信じたいだろうに、私のことも心配してくれている。 優しい人なんだな…。
「間違いありません。この男は私に鑑定を掛けました」
改めて告発すると、周りが静かになった。
「おい、おまえか? うちの職員に疑惑を掛けて怪我させたのは? …見ない顔だな?」
階段を降りて来た壮年の隻腕の男の声は、静かだった空間によく響いた。
「おまえがこの男の上司なの? 了承を得ない鑑定は、冒険者活動に対する妨害行為、及び窃盗とみなす! この責任を、おまえはどうやって取るつもり!?」
「おま、え…?」
私の糾弾に強く反応したのは、上司らしい隻腕の男ではなく、女性職員さんだった。
「お、お嬢さん! この人はこのギルドの<マスター>よ。 このギルドで一番偉い人なの。これから冒険者になるつもりならおまえ呼ばわりは…」
言葉を改めろってことか。 でも、最初におまえ呼ばわりをしてきたのはこの男だし? 遠慮なく責任を追及しよう。
「そう、おまえがここの責任者なのね。 この男が登録に来た<冒険者志望者>に鑑定を掛けるのは、おまえの指示なの!?」
「俺はそんな指示はしない!! 第一その男は【鑑定】スキルを持っていない。 おまえの勘違いだ! おまえこそ、どう責任を取るつもりだ?」
ギルドマスターの一言で、ギルド内の雰囲気が私に対して突き刺さるものに変わった。
ありがとうございました!




