日常が過ぎていきました
その日からアイラーゼが付きまとうようになった。
約束だからと渋々空き地に行くと、いつも以上にテンションの高い彼女を発見。
「き、今日もよろしく頼むわ!」
「あ、はい」
なぜか初日は緊張した様子を見せていたけど。
しかし次第にその緊張も溶けていった。
最初こそバトルパートに入っていたが、三日ほど経って方針を変えた。
だって疲れるもの。
もちろん三日とも僕が勝ったけど。
ちなみに勝った、と言っても実はそれは魔術ありの話。
正直魔術を使わずに戦闘すれば勝てる自信はない。
それだけアイラーゼの武術の力量は子供ながらに高い。
僕も子供だけれど。
「ねえ、レイ。次は何をするの?」
彼女が首を傾げてそう聞いてくる。
肩程度まで伸びた髪が垂れる。
普通にしとけば可愛いのに。そう思わずにはいられない。
「アイラーゼは何がしたいんですか?」
「……むぅ。アイラって呼びなさいよ」
名前を呼ぶと不機嫌そうな顔。
どうやら彼女は僕に愛称で呼んで欲しいらしい。
彼女は僕をレイと呼ぶ。
そして僕にはアイラと呼ぶことを強要してくる。
もっとも、一度も愛称で呼んだことはないけど。
それはともかく。
僕達は現在、空き地にてのんびりしている。
最近は戦うのではなく、稽古に付き合ってもらったり魔術を見せたりしている時間が多い。
例えば僕がウォータボールを三つほど出して宙でクルクル回していると、アイラーゼはキラキラした目で僕を見てくる。
「すごいじゃない! それ、どうやるの!?」
「ウォータボールの魔方陣に数量指定の線を加えただけですよ」
「……意味がわかんない」
まあ、簡単に言えばウォータボールの魔方陣に二本線を加えた形で魔紙に刻んだってだけ。
でも魔術師でない彼女にそれを言っても通じはしない。
そして意味がわからなければ、彼女は不機嫌になる。
それを見て違う種類の魔術を見せて興味を惹かせる。
もちろん飽きる時が来る。
その時は武術について教えてもらう。
武術の腕は正直彼女の方が上だ。
だからゴーラルム式体術に関して、コツのようなものを教えてもらおうとした。
「アイラーゼの『速撃』って僕のよりも早いですよね。何かコツのようなものを教えてください」
「コツ? そんなのグゥっと溜めてドンッて放つだけでしょ」
ごめん。
全くわからない。
彼女はどうやら感覚派と呼ばれる種族のようだ。
そして一通りして疲れたら魔術に走る。
その繰り返しだ。
ちなみに彼女の修めてる武術は二つ。
ゴーラルム式体術、五級体士。
ヴェルムズ式銃術、五級銃士。
それらを彼女は二年程度で習得したらしい。
これは一般から見れば優秀な方だ。
しかも六歳児だということを考慮すれば、天才だと言える。
さらには武装魔術を使っている様子も見せている。
どうやって覚えたのかと聞けば、昔にある人から教えてもらったとのこと。
そのある人というのはいったい何者なのだろうか、と多少興味が出てきてしまう。
なにせここまでハイスペックな六歳の少女を育てたのだ。
「ふふん。またいつでも教えてあげるわよ」
得意げな胸で、幼いぺったんこの胸を張る。未来には期待してもいいのだろうか。
そんなこんなで、一日が平和に終わっていく。
日常は緩やかに過ぎていった。
僕は毎日空き地に向かう。
アイラーゼとの約束だから。
それに、最初こそ面倒だったが、会うたびに彼女と会うことへの抵抗感も薄まってきている。
最近ではそこまで嫌でもない。
心の余裕が大きくなったってことかな。
その日もまた夕食を取り、本で知識を蓄えては寝ることにした。
その次の日。
シルーグ都市にて無残な少年の死体が発見される。
それにより謎の惨殺事件の噂がシルーグ都市中に広まることとなった。




