表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

第5話「月と焚き火と誓いの夜」



辺境の村に、満月の夜が訪れた。

空は雲ひとつなく澄み渡り、月の光が静かに地面を照らしていた。

セレナは小屋の前に焚き火を起こし、ルゥと並んで座っていた。


火はぱちぱちと音を立て、炎がゆらゆらと揺れていた。

その光が、セレナの横顔を柔らかく照らしていた。


「静かね」

彼女はぽつりと呟いた。


ルゥは丸くなり、炎を見つめていた。

彼の瞳には、月の光が映っていた。


---


第一章:過去の影


「王都では、こんな夜を過ごすことなんてなかった」

セレナは、焚き火を見つめながら言った。


「いつも誰かの視線を気にして、誰かの期待に応えようとして……

でも、誰も私のことなんて見ていなかった」


炎が揺れ、過去の記憶が浮かび上がる。

婚約破棄された夜。

家族に見放された日。

誰にも必要とされなかった時間。


「私は、ずっと“価値”を証明しようとしてた。

魔力がないなら、礼儀で。

知識で。

努力で。

でも、結局は捨てられた」


ルゥは静かに鳴いた。

それは、慰めでも同情でもない。

ただ、寄り添う音だった。


セレナは、彼の背に手を添えた。

「でも、あなたは違った。

何も求めず、ただ隣にいてくれた。

それだけで、私は救われたの」


---


第二章:誓いの夜


焚き火の炎が少しずつ小さくなっていく。

月は高く昇り、夜は深まっていた。


セレナは立ち上がり、空を見上げた。

「私は、もう誰かに認められるために生きるのはやめる。

この命は、私自身のもの。

そして、あなたと共に――誰かを守るために使いたい」


ルゥが翼を広げ、月に向かって一声鳴いた。

それは、誓いの音だった。


「ありがとう、ルゥ。

あなたがいてくれるから、私は前に進める」


風が吹いた。

それは、焚き火の煙と誓いの言葉を運ぶ風だった。


---


第三章:夜明けの予感


夜が明ける少し前、セレナは毛布を肩にかけて、ルゥの隣で眠っていた。

焚き火は消えかけていたが、空には淡い光が差し始めていた。


「この村で過ごした日々は、私にとって宝物だった」

彼女は目を閉じたまま、そう呟いた。


「でも、そろそろ旅に出る時かもしれない。

この空の先に、まだ知らない世界がある気がする」


ルゥは静かに鳴いた。

それは、同意の音だった。


そして、朝日が昇る。

空が金色に染まり、風が新しい一日を告げる。


セレナは目を開け、微笑んだ。

「行こう、ルゥ。

この空の先へ。

私たちの旅は、まだ終わっていない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ