表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話「ルゥ、村を歩く」



朝の陽射しは柔らかく、空は雲ひとつない青だった。

セレナは小屋の前で、ルゥの背にそっと手を添えていた。

「今日は、村の中を歩いてみようか」

彼は静かに鳴いて、ゆっくりと立ち上がった。


ルゥが飛べるようになるには、まだ時間がかかる。

けれど、歩くことはできる。

そして何より、彼自身が“外へ出たい”と感じているようだった。


セレナは、彼と並んで村の道を歩き始めた。

最初は、誰もが遠巻きに見ていた。

竜が村を歩く――それは、辺境でも滅多にない光景だった。


けれど、ルゥは威嚇することもなく、ただ静かに歩いていた。

その姿は、どこか誇り高く、そして穏やかだった。


---


第一章:花冠と子どもたち


広場に差しかかったとき、子どもたちが駆け寄ってきた。

「ルゥだ!」「歩いてる!」「すごい、かっこいい!」


セレナは少し緊張したが、ルゥは動じなかった。

彼は子どもたちの気配を感じながら、静かに座り込んだ。


「ルゥ、頭貸して!」

少女がそう言って、花で編んだ冠をそっと彼の頭に乗せた。


ルゥは目を細め、静かに鳴いた。

それは、照れくさそうな音だった。


子どもたちは歓声を上げ、セレナは思わず笑ってしまった。

その笑いは、王都では決して出せなかった種類のものだった。


「ありがとう、ルゥ。

あなたがいてくれるから、私は笑える」


---


第二章:村人のまなざし


広場の端では、大人たちが静かにその様子を見ていた。

パン屋のマルゴさん、薬草の老人、鍛冶屋の夫婦。

彼らは、最初こそ警戒していたが、今は違った。


「……あの竜、悪さはしないな」

「むしろ、子どもたちの方が懐いてる」


セレナは、彼らの視線が少しずつ柔らかくなっていくのを感じていた。

それは、言葉ではない“受け入れ”だった。


「セレナ嬢」

マルゴさんが声をかけてきた。

「ルゥに、パンの耳でも持っていってやってくれ。焼きたてだ」


セレナは驚きながらも、笑顔で受け取った。

「ありがとうございます。きっと喜びます」


ルゥは、パンの香りに鼻をくすぐられ、くしゃみを一つ。

その音に、広場が笑いに包まれた。


---


第三章:静かな誇り


夕方、セレナとルゥは小屋へ戻った。

空は茜色に染まり、風が静かに吹いていた。


「今日は、いい日だったね」

セレナはルゥの背に手を添えながら言った。


彼は静かに鳴いた。

それは、満足の音だった。


「あなたが歩いたことで、私たちは少しだけ“ここにいていい”って思えた。

ありがとう、ルゥ。

あなたは、私の誇りだよ」


風が吹いた。

それは、花冠と笑い声と、静かな誇りを運ぶ風だった。


そしてセレナは思った。

この村での暮らしは、もう“仮の居場所”ではない。

それは、確かに“生きる場所”になり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ