第3話「薬草とスープと小さな風邪」
朝、目覚めると、ルゥの様子がいつもと違っていた。
彼は丸くなったまま動かず、時折くしゃみのような音を立てていた。
その鳴き声は弱々しく、体温も少し高いように感じた。
「ルゥ……風邪、ひいたの?」
セレナはそっと彼の額に手を当てた。
鱗の下から伝わる熱が、彼の不調を物語っていた。
辺境の村には医者はいない。
けれど、薬草に詳しい老人がいると、以前子どもたちが話していた。
セレナは急いで籠を持ち、村の奥にある小屋を訪ねた。
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第一章:薬草の知恵
「風邪か。竜でもひくんだな」
老人は驚きながらも、手際よく薬草を選び始めた。
「体を温めるにはこれ。喉にはこれ。
煎じてスープにすれば、少しは楽になるだろう」
セレナは、薬草の名前と使い方を必死にメモした。
王都では、薬草など触れたこともなかった。
けれど今は――彼のために、何かをしたかった。
「ありがとう。ルゥを、助けたいんです」
その言葉に、老人は静かに頷いた。
「誰かのために動けるようになったら、もう一人前だよ」
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第二章:スープの香り
小屋に戻ったセレナは、薬草を煎じ、スープを作り始めた。
火加減を調整しながら、何度も味見をして、ようやく納得のいく香りが立ち上った。
「ルゥ、できたよ。少しだけでも飲んでみて」
彼はゆっくりと頭を持ち上げ、スープの器に鼻を近づけた。
そして、一口。
その瞬間、彼の目が少しだけ潤んだように見えた。
「……おいしい?」
ルゥは静かに鳴いた。
それは、感謝の音だった。
セレナは、彼の背に毛布をかけ、そっと隣に座った。
「あなたが元気じゃないと、私……寂しいから」
外では風が吹いていた。
けれど、小屋の中は、スープの香りと静かな温もりに包まれていた。
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第三章:守るということ
夜になり、ルゥは少しだけ元気を取り戻していた。
彼はセレナの膝に頭を乗せ、静かに眠っていた。
セレナは、彼の呼吸に合わせてゆっくりと息を吐いた。
「守りたいって、こういうことなんだね」
王都では、誰かに守られることばかりだった。
でも今は、自分の手で誰かを支えている。
それが、こんなにも温かいとは思わなかった。
「ありがとう、ルゥ。
あなたがいてくれるから、私は変われる」
風が止み、夜が深まっていく。
その静けさの中で、セレナは初めて“守る側”として眠りについた。




