三浦按針、ひと安心
木村吉清に江戸を焼かれて以来、家康は徳川軍の改革に迫られていた。
その一つが、木村家に対抗できる水軍を用意することであった。
水軍の再編は木村の切り札である水軍を封じる上で欠かせないことであり、これがなくては江戸は木村征伐時の二の舞いとなってしまう。
この役目を、異人の中でも船に詳しく、造船所を造るという大役を担った三浦按針に任せることにした。
「OK! ボスのご命令とあらば、たとえ火の中水の中! お任せくだサーイ!」
三浦按針が陽気に応えると、職人らしき男たちに指示していく。
そんな三浦按針を眺め、井伊直政が耳打ちした。
「……あの異人、信用してもよろしいのですか?」
「さてな……じゃが、木村の持つ水軍と対等に戦えなくては、徳川の天下は訪れまい。そのために南蛮人の協力が必要とあらば、それに賭けるまでじゃ」
半年後。造船所に浮かべられた南蛮船の試作機を前に、三浦按針が胸を張った。
「これがヨーロッパで使われている船と同じ、ガレオン船デース!」
「おお、素晴らしい……!」
予想以上の出来栄えに、思わず家康から笑みがこぼれた。
「お主に褒美を取らせよう。按針、そなたの俸禄を、300石から1000石に加増しようぞ」
「God and Death!」
家康は軍備の増強を進めると共に、莫大な軍事費を賄うべく税制改革に迫られていた。
これまで多額の資金を投資してきた江戸を焼き払われただけでなく、貯蔵していた資源の他、公文書、証文、西国大名たちに貸し付けた借用書まで焼かれたとあって、徳川家の財政は火の車だった。
当面は徳川領での税率を引き上げることになるが、それだけでは足りない。
そのことを世間話がてらに茶屋四郎次郎に相談すると、
「それなら、南蛮貿易をされてはいかがですか?」
「南蛮貿易?」
言葉自体は聞いたことがあったが、今さら勧められるとは思わなかった。
渋い顔が出てしまったのか、茶屋四郎次郎は慌てて付け加えた。
「かつて室町幕府の富の源泉が勘合貿易であったように、大内氏が明との交易で栄華を極めたように、大陸との貿易とは非常に儲かるものです」
「しかしの……既に南蛮貿易を始めている者はゴマンといよう。それらを差し置いて始めたとしても、儲かるものなのか?」
茶屋四郎次郎が鼻息を荒くした。
「それはもう! かつては倭寇も多く、長く険しい道のりでしたが、今では木村様が取り仕切っており、高山国やルソンを始め、安全に行き来できるところが……」
木村吉清の名を出され家康が不機嫌になったのを察すると、茶屋四郎次郎の顔が真っ青になった。
「……し、失礼しました」
そう言って無理やり話を終わらせると、足早に去っていく。
茶屋四郎次郎の背中を見送りながら、家康は先ほどの話を思い返していた。
南蛮貿易が儲かるということ。
木村吉清が取り仕切っていること。
「……いいことを思いついたわい」
木村を追い詰めつつ自分の利益を出す方法を思いつき、ニヤリと顔を歪めるのだった。




