第95話 エクスカリスとルーンラダー
「ヴァルプルギスと、スローンラウンドナイツなら、しりとりになるじゃないですか」
みんなが僕に注目していた。
「消費MPは0なんです」
習得魔法を調べたところ、僕は聖魔の大魔法を両方共習得していた。
そして、これらがしりとりで繋がるのならば、消費MPは0だ。
「だ、大魔法の消費MPが0じゃと!?」
皇帝陛下が衝撃を受ける。
「魔素を消費しないですって?!」
神官長さんも。
「大丈夫だと思います。
それが僕のしりとり魔法です」
そう言えばこの二人は「しりとり魔法」のルールを知らないのか。
僕はしりとり魔法のレクチャーをする事にした。
「しりとりになっていたら消費MP0!?
そんなユニークスキルがあったのですか……」
「むう……、それならば、確かに大魔法も使えるのか」
条理を覆すユニークスキル、しりとり魔法の存在に二人ともショックを受けている。
「まだこの二つは使った事はありませんけど」
習得している事に気付いたの、さっきだし。
「でもこれ……」
僕の目に映っている、習得魔法一覧のステータスウィンドウ。
それらは魔法の効果説明を表示する事もできる。
その中の、スローンラウンドナイツとヴァルプルギスの説明文を見た僕は気付いた。
「注意書きがあります」
それぞれの魔法の説明文はこうだ。
「スローンラウンドナイツ:消費MP5000
聖剣の王アルツール率いる円陣騎士団の霊魂を呼び出し、大陸に害を及ぼすものを攻撃する。
※聖杯、エクスカリスが必要」
「ヴァルプルギス:消費MP5000
大魔女ユミール率いる魔女達の霊魂を呼び出し、大陸に害を及ぼすものを攻撃する。
※経典、ルーンラダーが必要」
消費MPも効果の内容も、聞いていた事と同じだ。
問題は一番下の注意書きだ。
「聖杯エクスカリスと経典ルーンラダーが必要だそうですけど」
こんな注意書きのある魔法は見た事がない。
「そうですな、儀式魔法ですから、祭具が必要です」
「うむ、大魔法と言えば祭具じゃな」
神官長さんと皇帝陛下は知ってるみたいだ。
「聖杯エクスカリスは試練の神殿にあります」
所在に関しても問題ないようだ。
「問題はルーンラダーじゃな……」
しかし、一方の皇帝陛下は歯切れが悪い。
「ルーンラダーの場所が分からないんですか?」
「帝国北部ノルド山脈のバルティナ村に安置されておる。
魔女教の聖地でもある、あの村で代々受け継がれておるのじゃ」
場所ははっきりしているようだ。
光明教の普及で、忘れられつつある魔女教だが、受け継がれているらしい。
「最近はノルド山脈の周辺も、強力な魔物が現れるのでな。バルティナ村にも黒騎士団を派遣しておったのじゃ。」
堕天の魔王の影響で、帝国でも魔界の強力な魔物が出現している。
「しかし、その黒騎士団がクーデター派だったために、帝都に向かってしまい魔物への備えが手薄になってしまった。
その結果、村と連絡が取れなくなってしまったのじゃ」
ひどい話だ。人々を守るのが騎士団だろうに。
「壊滅した可能性もある」
そうなってくると、ルーンラダーが無事かどうかも怪しくなってくる。
「それなのですが……」
帝国貴族の、クレーヴェ公爵だった。
「帝国各地の戦況の伝令をさせておりますが、バルティナ村の生き残りが帝都に帰還したそうなのです」
「おお、そうか!」
「大人たちが救援を求めて、必死に帝都までやって来たようです。
そして、一人だけクーデターに参加しなかった黒騎士が、村の子供達を守って、立て籠っているようです」
一人だけでも見上げた黒騎士がいたようだ。
子供達を守るために残っているなんて。
「救出隊を派遣する手はずになってますが、急がせましょう」
会議室を退出しようとするクレーヴェ公爵。
「それなら僕も行きます。
経典ルーンラダーも手に入れないとだし」
僕は立ち上がった。
村の子供達の救出にも役に立てるはずだ。
「僕達、ね。リンクス」
「おれも行くんだぞ!」
カエデとウガガウも立ち上がる。
「よし、リンクス。
じゃあその間にわたし達は試練の神殿に向かい、エクスカリスを預かって来る」
エレインさんだった。
試練の神殿までの道のりも長く険しいが、何しろ勇者の武具の安置されていた場所だ。
勝手知ったるという奴だ。
エレインさんなら難なく辿り着くだろう。
「ではリンクス殿はわたしがバルティナ村まで案内します。
騎士団も増員して、ノルド山脈の安全を確保しましょう」
帝国では各地で魔物と戦っている。
クレーヴェ公爵も戦線のサポートをしているようだ。
「リンクス殿はその黒騎士と合流して下さい。
ルーンラダーのありかを知っているかも知れない」
「分かりました」
子供達を守ってるそうだし、その意味でも駆け付けたい。
「黒騎士の名はベルンハルトです。
新米ながら根性があると聞いてます」
こうして僕達はそのベルンハルトという黒騎士に会うために、帝国北部ノルド山脈へ向かう事になった。




