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第86話 習得魔法0の魔法使い

「よかろう。

 同じユニークスキルユーザーのよしみ、話してやろう。

 吾輩の事を」


 堕天の魔王が天界を攻める手助けをして、人間界を自分のものにしようとするグラム=モンテコックリ。

 なぜ彼はそのような野心を持ったのか。


「我が伯爵家は代々優秀な魔道士を輩出する事で知られておる。

 そして、吾輩が成人した時は、帝国が東の大陸への侵略を始めた時期だった」


 僕が幼い頃、僕の父親が侵略戦争に反対して皇帝イサキオスから追放された頃だ。


「そうなれば嫡男たる吾輩に掛かる期待は絶大だった。分かるね」


 戦争を名を上げるチャンスと考える貴族も多いだろう。

 代々、優秀な魔道士の家ならばなおさらだ。


「我輩は生まれつきMPが多かった。

 スキルもMPアップばかり59個習得している


 吾輩のMPは早々に999に達した」


 999は人間の目指せるMPの最大値と言われている。

 しかし、実際は500もあれば多い方だ。


 MP999は相当に特異と言っていい。

 さすがは魔道士の家系だ。


「しかし、魔法を 一つも覚えなかった。一つもだ。

 魔力も高かったのに、習得魔法は一つもなかった」


 魔法使い向けのステータスなのに、取得魔法なし。

 これも相当に特異だ。


「親も吾輩が魔法を習得する方法を見つけようとした。

 一方で吾輩が表に出る事がないように、病弱として、外に出る事を禁じた。

 伯爵家の沽券にかかわる事だったからだ。


 しかし、いよいよ大々的な徴兵が始まると吾輩も表に出るしかなくなった。

 その時に吾輩が魔法を一つも使えない事が白日の下に晒された。

 欠陥魔法使いと呼ばれ、伯爵家の面子が立たなくなると、吾輩は勘当された」


 代々が優秀な魔道士の伯爵家。

 彼の両親はどうしても、息子が優秀な魔法使いでなければならなかったのだろう。

 だから息子を人目に触れないようにした。

 いよいよ戦争になって、隠し通せなくなったので捨てられたという事のようだ。



「路頭に迷った吾輩はやむを得ず、冒険者になった。

 冒険者を続ける事で、魔法を習得する事に期待した。


 しかし、それでも吾輩が魔法を習得する事はなかった。

 10年間、Fランク冒険者だった!

 ここでも蔑まれ、のけものにされ過ごした!」


 僕は、習得魔法は多彩で魔力アップのスキルばかり59個も覚えていたが、MPが0だった。

 ずっとFランク冒険者だった。

 僕と彼は似ている。

 しかし、僕が不遇の時代を過ごしたのは4年だったが、彼は10年だ。


「しかし、10年経って、最後にユニークスキルを覚えた。

 花いちもんめ魔法をだ!

 これが吾輩に与えられた運命だと悟った。

 奪う事にこそ吾輩の生きる意味はあると。


 それから吾輩は、魔法使い達にたくさんの勝負をしかけ、魔法を奪った」


 僕と彼は似ている。

 しかし、彼が手に入れたユニークスキルは人から魔法を奪うスキルだった。


 僕が彼の立場だったらどうしただろう。

 僕だってしりとり魔法のおかげで、Fランクを脱したのだ。


「偶然、回復魔法を奪うために大聖堂に行った時に、リベン殿にスカウトされたのだ」


「うむ!

 お前のユニークスキルこそまさにイスカリオン様の求めていたものだった!」


 全てはこの二人の出会いから始まった事だったのか。


「それに、人間界を滅ぼせる兵器を作ろうとしている、という提案を二つ返事で引き受けるような人間はそういまい」


 これはエーメさん。


「この奪い取る能力で、世界まで奪えるならばためらう理由などない。

 吾輩はそう思うのだよ」


「ところでお前の無意味な身の上話はまだ続くのか?」


「いや、これにて終了ですぞ」


 意外と毒舌なエーメさんだったが、グラムがそれを気にする様子はなかった。


「それに待ち時間の使い方としてはなかなかに有意義だったとおもいますなあ」


 気にしていないどころか、満足そうな笑みを浮かべている。

 待ち時間って何の事だ?


「見たまえ。西の空を」


「何だ、あれは!?」


 西の空から何者かが迫ってくる。

 話に聞き入っている間に、近寄っていたようだ。

 さっきの鳥なんか比べ物にならない大きな姿。

 羽が生えているが、人の形にように見える。


 それはこちらのどんどん近づいて来て、そして、見張り台の上に着地した。

 それは人型ではあるが、人間では断じてなかった。


 背中には六枚の白い翼。それはまるで天使のようだった。

 しかし、頭にはカールした山羊の角。それは悪魔のようでもある。


 髪は茶色で、その顔立ちは、くっきりとした目鼻立ちと、丸みを帯びたフォルムの同居した、中性的な美しさを持っていた。

 背は高く、白い長衣を纏っている。

 紫色の衣帯が首に掛かっていて、司祭のようにも見える。


「古代魔法は入手できたのか?」


 落ち着いた低い声。

 この声で恐らく男性なのだろうと、判別できた。


「リソグラフィは入手できましたぞ」


 恭しく、頭を下げるグラム。


「これでわたしは主に示す事ができる」


 その人物は天を仰いで言った。


「このイスカリオンの愛の力を!」


 この人物が、堕天の魔王、イスカリオンだった。

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