第85話 グラムの目的
カエデとウガガウが現われ、僕は拘束から逃れる事ができた。
しかし、エーメさんは天使に変化し、さらにリベン大司教が現われ、悪魔に変化した。
「ちょうどいいところに来た。リベン」
無表情に言うエーメさん。
「待たせたか、エーメよ」
悪魔になったリベン大司教は軽く手を振っている。
「ちょっと待って!
エーメさんは天使なのに、悪魔が仲間なんですか?」
「元々は敵だった。魔界は弱肉強食の世界。
イスカリオン様に挑むものも多かった。
だが、このリベンは敗れた後に、イスカリオン様の配下になったのだ」
「イスカリオン様こそ最強。
最強の武にこそ我は仕えるのだ!」
王国の外務大臣が天使で、帝国の大司教は悪魔だった。
まったくこの大陸はどうなってるんだ、と自分の故郷ながら思ってしまう。
「だが、我は帝国主義というものも嫌いではない!
決まり事で人間界を魔界に変えるとは、全くもって素晴らしい!」
「ふん、蛮族が」
こんな人が大司教をやっていたとは。
「何だか分からないけど、うるさいぞ!」
気が付くとウガガウの身体から赤い煙が上り、瞳が赤く染まり始めていた。
突然の悪魔の出現は、彼女の感情を昂らせたようだ。
「ウッガーーー! ガウーーーッ!」
狂戦士となったウガガウは、雄叫びを上げると大斧で、悪魔になったリベン大司教に飛びかかる。
「バーサーカーか。これは面白い」
対するリベン大司教は、動じる様子もなく、仁王立ちをしている。
そして、
「ぬおおおおおおおおおおっ!」
振り下ろされる大斧に向かって、拳を放った。
「ウガーーーッ!」
激突する両者。
そして、
「わあっ!」
大斧は弾かれ、ウガガウは吹っ飛ばされた。
リベン大司教はそのまま、拳を振り上げて立っている。
拳に大斧が負けてしまった形だ。
「グフフフ……!
子供とは思えん力だが、我には及ばぬ!」
「ガウウっ!」
よつんばいで着地したウガガウはもう一度、リベン大司教に向かって行く。が、
「チルアウトランキライザー!」
僕はウがガウに、冷静さを取り戻すと同時に、精神を安定させるしりとり魔法をかけた。
「うう?」
立ち止まり、我に返るウガガウ。
「落ち着くんだ。こっちにおいで」
カエデも武器を構えたまま、こっちに近づいて来る。
何とかここを脱出しなければ。
「逃げるつもりかね?」
監視塔の屋上からグラムの声がする。
「なぜこんな事を?
魔界のものと手を組むなんて!」
「ふむ、君には世話になった。
ならば一つ教えてしんぜよう。わたし達の目的についてな。
我々が作ろうとしているのは、ナノマシン兵器。
古代文明を滅亡に導いた、究極の兵器だ」
「そんなものがどうして必要なんです!?」
「イスカリオンはそれを作り上げ、人間界を人質にして、天界の扉を開けさせるつもりなのだ」
話のスケールが大きすぎてよく分からない。
堕天の魔王は天界の神々に復讐したいのか。
「まあ、それは堕天の魔王の目的で、吾輩には興味のない事。
吾輩は彼が天界に攻め上った暁に、人間界を頂く算段になっているのだよ」
結構な野心家だ。
「そんな簡単に行くものか」
「グッフフ、そのためのナノマシン兵器なのだ」
いいながら、口髭を引っ張っている。
「ナノマシン兵器は、衝撃を与えて使用する、一種の爆弾のようなものだ。
そして、着弾した瞬間、ナノマシンは周囲の全てを魔素に変える。
人も物も全て」
僕の父親は魔素の正体はナノマシンという機械だと言っていた。
半信半疑だったが、こうなって来ると真実味を帯びてしまう。
「ほんの一瞬で、広範囲に渡ってだ。
誰もナノマシンを持つ者には逆らえない。
戦争も起きなくなるだろう。抑止力と言う奴だ」
人間界を頂くなんて大それた話だと思ったが、それ相応の計画を立てていたようだ。
「本当は帝国軍を利用して吾輩の国家を作りたかったが、それはまた別に考えよう」
「でも、どうしてそんな計画を!
伯爵家の生まれのあなたが?」
「どうして? とな?」
グラムは急に真顔になった。
「そんな事をする必要なんてないじゃないですか?
貴族に生まれたあなたが!」
「吾輩が貴族として、何不自由なく過ごして来たから、とでも言うつもりかね?」
違うのか?
「吾輩は全てを奪い取ると決めたのだ。
このユニークスキルの運命に従って」
ユニークスキルの運命?
何を言ってるんだと、その時は思った。
「よかろう。
同じユニークスキルユーザーのよしみ、話してやろう。
吾輩の事を」
こうして、グラム=モンテコックリの昔語りが始った。




