第83話 はないちもんめ魔法
魔法使い、グラム=モンテコックリとの勝負は僕の方が優勢だった。
しかし、敵に助太刀が入り、僕は取り押さえられてしまう。
僕を取り押さえたのは、救出しようとしていたはずのエーメさんだった。
そして、身動きのできない僕にグラムは、自身のユニークスキル「はないちもんめ魔法」について語り始めた。
「勝負に勝てば相手から魔法を一つ奪える。
それがわたしの『はないちもんめ魔法』だ」
そういう特性のユニークスキルなのか。
「我々は古代魔法の持ち主を探していた。
そして、ついに発見した。
そこにいるエーメ氏がね」
「エーメさん?」
取り押さえながら、何とかエーメさんの方を見ようとする。
「あなたが古代魔法の使い手である事を確認して、のちに密かにライブラリの魔法で確認させてもらった」
さっき、グラビティを使われた。
彼が魔法を行使できる事は、疑いようもない。
そう言えば、古代魔法がどうのって言ってたっけ。
「君は我々が探し求めた魔法を所持しているのだ」
確かに僕は魔法の習得数が多い。
珍しい魔法もあるのだろう。
そして、
「勝~って嬉しいはないちもんめ~。
負け~て悔しいはないちもんめ~」
グラムが突然、歌い始める。
高音のよく響く声だが、この状況ではただただ不気味だ。
「あの魔法が欲~しい。
あの魔法じゃ分~からん」
この歌がはないちもんめ魔法とかいうスキルなのか。
に、しても何の魔法を奪うって言うんだろう。
よく使うグラビティやヒーリングを奪われたら困るけど、古代魔法って言ってたっけ。
そんなことを思っていたが、答えは意外な魔法だった。
「リソグラフィーが欲~しい。
リソグラフィーが欲~しい」
「リソグラフィ……?」
使った事のない魔法の名前だった。
「ぐうぅ……」
歌の直後に何かを抜き取られるような脱力感。
「フフフ……、この魔法を使った事はないかね?」
歌い終わったグラムは言った。
「設計図さえあれば、材料を魔法で作り出し、何でも作り上げる。
それが古代魔法リソグラフィだ」
説明文の文言は確認している。
使い道がよく分からなかった魔法だ。
設計図があるなら普通に作ればいい。
しかし、グラムはこの魔法を僕から奪った。
「……なぜその魔法なんだ?」
「フフフ、この魔法の重要な特性はだね、術者がそれが何なのか知らなくても作れるところにある。
設計図の内容が理解できなくても。
そう。設計図さえあれば失われた古代の技術を再生できるのだ」
興奮した声だった。
感極まると言った感じだ。
「そう言えば、そろそろじゃないかね?」
何を言っているのか分からなかった。
しかし、その直後だった。
轟音と共に西の空が赤くそまった。
見ると、はるか西の山脈に赤い稲妻が落ちていた。
異様な光景だった。
赤い色もそうだが、雷にしても聞いた事のない大音量だ。
「なかなかのスペクタクルだろう」
両手を広げて西の空を見るグラム。
「お前はあれが何か知っているのか?」
「君こそあの方角に何があるか知っているかね、んー?」
グラムは髭を引っ張りながら、勝ち誇った顔で言った。
はるか王国の西の山岳地帯。
そこにあるのは……
「あれは魔王の城。
またの名を国際連邦センター」
国際連邦センターだって?
おとぎ話に出て来るあの?
神の怒りに触れて、古代文明滅亡の原因になったという昔話は、誰だって知っている。
そう思っていたら、空から何かがこちら目掛けて飛んで来た。
それは鳥だった。
緑色で目の周りの赤い、この辺りでは見かけない鳥だ。
まっしぐらにこっちに向かって来た。
よく見ると足に紙が結んである。
これはレンジャーの使う連絡手段だ。
レナテラスさんがやってるのを見た事がある。
「ンッフー、君に急ぎの連絡のようじゃないか。
確認したまえ」
グラムは結び目をほどき、その紙を僕の目の前に置いた。
「先に内容をあらためたりはしないから安心したまえ。
わたしは無作法な事は嫌いなのだ」
「よく言う……」
騙し討ちを仕掛けたり、魔法を奪ったりしたくせに。
書かれた文字はルナテラスさんの筆跡だった。
ともあれ、僕は手紙を読んだ。
……………
何だって? こんな時に!
帝国が大変な時に、王国でも一大事が起こってしまうなんて。
「フッフフ……!吾輩がその手紙の内容を当ててみせようじゃないか。
ふむふむ……」
口髭を引っ張りながら、芝居がかった声を出すグラム。
本当に気味が悪い。
「どれどれ……、むむむ」
腕を組んで、仰々しく勿体付けるグラム。
「ん-、『新たな魔王が現われ、かつてのティフォンの居城を占拠した』。
どうかね?」
その通りだった。
「あいや、待たれよ。
魔王の名も当ててしんぜよう
どれどれ……」
今度は顎鬚を撫でながら、わざとらしくうなっている。
本当に苛立たしい。
「ふむふむ……!
その名は堕天の魔王、イスカリオン。
最古の魔王とも呼ばれる、最強の魔王だ」
これも、その通りだった。
「そして、彼は吾輩の協力者だ」




