第76話 帰還
「ウガガウ、ギャオスを呼ぶんだ。
みんなで帰ろう」
ウガガウが本当に望んでいたのは、原初の森に帰る事でも、帝都に残る事でもなかった。
彼女は、また僕とカエデと一緒に冒険したいと言った。
そう言われたら僕も覚悟を決めるしかない。
「魔物を呼んだら……、マナー違反なんだぞ」
「いいんだ。僕が許可する」
「そうか!」
パッと明るい顔になるウガガウ。
「ふーーーーーっ!」
大きく息を吸い込むウガガウ。
「ワッオオオオオオオオオオーーーーーン!」
ウガガウが今までにない大声を張り上げる。
それは溜まっていたストレスを発散するような大声だった。
ほどなく西の空から影が迫って来た。
ぐんぐん近づいて来たのは前足のない緑色のドラゴン。
もちろんワイバーンのギャオスだ。
窓の外に滞空するギャオス。
ギャオスの頭をなでるウガガウは、瞬間的にあどけない笑顔に変わっていた。
やっぱりウガガウにはこういう表情が似合う。
そうこうしてる間に辺りが騒がしくなって来た。
ウガガウの雄叫びのせいだろう。
「カエデ、僕は皇帝陛下が反対したとしても、ウガガウをここから連れ出す。
迷惑をかけたらごめん」
しかし、カエデは首を振って言った。
「わたしは初めから、そうしてって言ってるでしょ」
そして、部屋には皇帝とクレーヴェ公爵、そして、兵士達もたくさん入って来た。
「一体何事じゃ? テレジア」
「何があったのです? リンクス殿!」
皇帝と公爵も、ギャオスにまたがるウガガウを見て驚いていた。
「ウガガウは冒険者に戻りたいそうなので、連れて帰ります。
皇帝陛下、許可を出してもらっていいですか?」
「な……、何だと?」
「リンクス殿! いくら何でも不躾が過ぎますぞ」
正論ではある。返す言葉もない。
「父ちゃん!」
ここでウガガウが割って入った。
「敢えて嬉しかったぞ。
……本当は母ちゃんにも会いたかったけど。
ミリーには楽しかったって言っておいてくれ。
アルドーナ先生にも、またマナーのレッスンして欲しいぞ」
そこまで言うとウガガウはギャオスの上で立ち上がった。
そして、両手で緑色のドレスの端をつかんでお辞儀をして言った。
「ごきげんよう、だぞ」
「じゃあ、そう言う感じで!」
僕とカエデも、ギャオスに乗り込む。
「行こう、ウガガウ!」
「分かった。頼んだぞ、ギャオス!」
ギャオオオオオーーーーーン!
ギャオスは雄叫びと共に飛び立った。
宙を舞う僕達。
「うわあああ、すごい!」
そうか、カエデはこれが初めてだったか。
僕も二度目だけど、空を飛ぶ体験はやっぱりすごい。
あっと言う間に、王城を俯瞰する大きさになって行く。
「あ、そう言えば、許可もらってないんじゃ?」
「そうだった」
カエデに言われて気付く。
皇帝の返事を聞かずに出発してしまった。
けど、
ギャッオーーーーン!
「あはははは!
ギャオーーーーーン!」
ギャオスとウガガウの楽しそうな様子を見ていたら、どうでもよくなって来た。
「見て! あれ、わたし達が泊った旅館」
下に旅館、ジュークジューデンが小さく見える。
そのさらに西には国境が。
そして港町マイリスも。
さらに北には王都セントス。そのさらに北には原初の森が広がっている。
さらに西には旧魔王の城まで。
最近の事が次々思い出される。
思えば魔王が倒された後も、いろんな事があったな。
僕は殺人犯にされかかったが、何とか切り抜けた。
カエデは過去を克服し、故郷の道場の、閉鎖の危機を救った。
ウガガウは出生の秘密を知った上で、これからどう生きたいかを選んだ。
困難は多かったけど、きっと何もかもいい方向に向かっている。
僕はそう思った。




