第75話 本当の気持ち
ウガガウの部屋に案内してもらった僕とカエデ。
権力争いからも、暗殺の陰謀からも守りたい。
でも、ここから連れて帰るかどうかは、ウガガウの気持ちを聞いてからだ。
部屋の中には緑色のドレスを纏ったウガガウが、ベッドに座っていた。
「ウガちゃん!」
「カエデ!」
駆け寄って、抱き合う二人。
「カエデ……、あのな……」
でも、その後ウガガウはしょげた様子でベッドの下から破れた布切れを出して来た。
「これ……、破れちまったぞ……」
カエデの故郷でもらった、民族衣装の着物だった。
と言っても、竹の柄で判別が付いただけで、衣服か雑巾か分からないほど、破れて汚れてしまっていた。
「ごめんな……」
下を向いて、スカートを強く握りしめるウガガウ。
「ウガちゃん!」
カエデはまたウガガウに飛び付いていた。
「そんなのまたわたしが作ってあげるから。
ウガちゃんが無事でよかったよ」
それから僕は、泣き出すカエデに代わって、状況を説明する事にした。
「何者かが宮殿を襲って来て、その時に君がバーサーカーになった事は分かってる」
「知ってるのか?!」
ウガガウはびっくりして目を見開いていた。
「襲撃者の正体が分からないのは、内部の人間が後始末をしたからだ」
王国の密偵は襲撃者の正体までは分からなかったが、戦闘の(おそらくは死体の)後始末の痕跡は発見していた。
「ここにいると危険だ。
原初の森に、エカテリーナさんの元に帰ろう」
「そうしよう。ね、ウガちゃん!」
ウガガウの目を見て言うカエデだが、ウガガウは目をそらしてしまう。
まず喜んでくれるだろうと思っていたので、この反応は意外だった。
「父ちゃんが元気ないんだぞ。
オレの兄ちゃんが死んだんだって。
だから同じ子供のオレが兄ちゃんの代わりになるんだぞ」
この子はそんな事まで考えていたのか。
「オレはバカだから、マナーとか分かんないけど……。
だけど、せっかく父ちゃんに会えたんだから頑張るんだぞ」
「ウガちゃん! でも……」
涙で上手く話せないカエデを、僕は制止した。
しゃがんでウガガウと目線を合わせる。
「君の、自分の役割や家族を大事にする気持ちは立派だと思う。
でも僕はウガガウの本当の気持ちが知りたいんだ」
「オレの本当の気持ち?」
眉間に皺を寄せて、考え込むウガガウ。
やがて、思いつめたような表情になる。
これまで見せた事のなかった表情だ。
「そんなのわがままだぞ」
しかし、また下を向いてしまう。
「いいんだ。わがままで。
言ってよ、本当はどうしたい?」
この時点では、父親である皇帝が反対する可能性もあった。
だけど、僕の中ではすでに結論は出ていた。
絶対にウガガウを森に帰す。
そう思っていた。
しかし、
「オレは……」
下を向いたウガガウの声は震えている。
そして、
「オレはまた……、冒険したいぞ!」
僕とカエデに抱き付いて来たウガガウ。
きょとんとしてしまう僕達。
「また、カエデとリンクスと一緒に、冒険したいぞ!」
「ウガちゃん!」
またもや、泣きながらウガガウを抱きしめるカエデ。
「本当は森に帰ったあの日、本当は母ちゃんに、しばらくカエデとリンクスと一緒にいたいって言うつもりだったぞ」
母ちゃんも好きだけどカエデとリンクスも好きだぞ……。
もっと二人と冒険したいぞ」
「ウガちゃん! ごめんね、ウガちゃん!
分かってあげられなくてごめんね!」
号泣している二人。
僕はカエデの肩と、ウガガウの背中に手を置いた。
「僕もだ。ごめんね、ウガガウ」
僕も涙ぐんでいた。
ウガガウの本当の気持ち、ちゃんと分かってなかった。
でも、僕だってウガガウと一緒にいたい。
三人でまた冒険したい。
ようやく覚悟を決めた僕は言った。
「ウガガウ、ギャオスを呼ぶんだ。
みんなで帰ろう」




