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第72話 会議の席で

 ウガガウの顔を見に、帝都ツェンタームにやって来た僕達。

 クレーヴェ公爵とコンタクトを取ったが、何やら忙しそうだ。

 ウガガウに関する会議に参加して欲しいらしい。

 戦地から戻って来たローゼンベルク公爵や、モンテコックリ伯爵とも出会い、何やら物々しい。


 クレーヴェ公爵と共に会議室に入った僕達。


 6名ほどの老人の集団がそこにいた。

 帝国の貴族の面々なのだろう。


「お待たせしましたな、皆様」


「クレーヴェ公爵。

 陛下とお話があったのでは?」


「はい、この二人は偶然いらっしゃった、テレジア殿下の旅の仲間。

 今回の話を聞いてもらおうと思いましてな」


 公爵は僕とカエデを席に案内すると、


「わたしは陛下と話があります。

 後でわたしも参加するので、彼らの話を聞いていて下さい」


 と、言ってすぐに会議室を立ち去った。


「はじめまして。よろしくお願いします」


 僕は挨拶をしたが、特に反応はなかった。


「さて、先日陛下の御子様の存在が確認された」


 僕らの正面、部屋の一番奥の老人が話し始めた。


「交戦派の貴族達が動き出す前に、一度打ち合わせをしておかなければなりますまい」


 やはりこれは和平派の人達だけの会議なのか。

 グラム=モンテコックリとかいう人の言葉が頭をよぎる。


「先日、クレーヴェ公爵が保護されたテレジア皇女の件である」


 ウガガウが議題と言われると、残念ながら、何らかの粗相があったのではないかと、考えてしまう。

 何しろ最近まで森で動物達と暮らしていたのが、急に帝国の王宮に呼ばれたのだ。

 重大なマナー違反があってもおかしくない。


 しかし、僕の心配をよそに、議題は全く予想外の内容だった。


「重要な事は世継ぎの問題でしょう」


 参加者が一斉に頷いている。


「世継ぎ?」

「何いってるの?」


 僕とカエデを除いて。


「今回の議題はテレジア様のご結婚相手についてです」


 いきなりこんなデリケートな問題が取り上げられる事になんて。

 皇女ともなればもうそんな事を決めなければならないのか。


「皇位を継ぐのに最もふさわしい男子は誰なのか、ですな」


 セントレール王国では女性の国王もいたけど、帝国には男でなければいけないしきたりでもあるのだろうか。

 よく知らないけど。


「しかし、問題はあります。

 旧ツェンターム大公国の血を引く、ふさわしい家柄の者はそう多くない」


「戦争で亡くなられた方もおりますからな」


 議題にするだけあって、継承に関しては難しい問題があるようだ。


「それならばわたくしのせがれが第一位のはずです」


 一人の人物が名乗りを上げた。


「わたしの亡き妹は皇后でしたからな」


「ちょっと待って下さい」


 僕は思わず声を上げた。


「あなたのご子息って何歳なんですか?」


 目の前の白髪の老人に尋ねた。

 どうにも嫌な予感がする。


「45歳になります」


 ここで隣のカエデの「えっ?」と言う声が聞こえた。


 予感は的中した。

 ウガガウを45歳の貴族と結婚させるつもりらしい


「け、結婚なんて、まだ早くないですか?」


 カエデが反射的に質問した。


「もちろん、実際のご婚礼は2年後です」


 14歳までは待つようだ。


「それでも早い……」


 カエデのつぶやく声がする。


「しかし、アルトナー公爵の御子息は病弱なのが懸念されますなあ」


 別の白髪の老人がここで割って入った。


「お世継ぎを生んで頂かねば。


 その点、わしの甥ならば健康です。

 二年前にも、子供をもうけておる」


 しかし、さっきの公爵よりも、頭髪も薄くやせ衰えている。

 よっぽど嫌な予感がする。


「ですが58歳ではありませんか。

 それに順位としてもわしの息子の方が上だ」


 58歳だった。


「世継ぎがお生まれになる事が重要視されるべきでは?


 今回は偶然テレジア様が見つかったからよかったようなものだが、血筋の断絶は帝国の崩壊にも繋がり兼ねん」


 皇帝のいない所で何の会議かと思ったが、突如現れた皇女の結婚相手の話だった。

 どうやら次の権力争いが始まっていたようだ。


 僕は予想外の出来事に愕然としていたが、ふと袖を引っ張られた。


「わたし、気分が悪いです」


 下を向いているカエデだった。

 彼女もショックを受けているだろう。


「じゃあ僕達はこの辺で」


 途中退出する僕達を、彼らは気にも止めなかった。



 僕はカエデの身体を支えて、外に出ようとした。

 しかし、カエデの足取りは、意外にしっかりしていた。


 扉を閉めてほどなく、カエデは僕と距離を置いた。


「リンクス」


 下を向いたまま呼びかけるその声は、静かな冷たい声だった。


「ん?」


 まるで凍り付くような、冷たい圧力を感じる。

 これは気分が悪いとか、機嫌が悪いとか、そういうレベルの話じゃない。


 虚ろな表情のカエデは、鞘とポントーに手をかけ、上目使いに僕を見つめた。


「わたしは、今すぐウガちゃんを、連れて帰る」


 重心を低くして、いつでも踏み込める体勢を整える。


「邪魔をするなら……」


 鞘を持つ手の親指を弾く。

 刀身の放つ輝きが見えた。


「あなたを斬る……!」


「えぇ……!」

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