第65話 巨大な敵を討て
「この城は我が友が残してくれた最後のゴーレムよ」
「ゴーレム、だって!」
ヴァンパイアの城は巨大なゴーレムだった。
これである日、こつ然と現れた事も、歩く事ができるなら説明が付く。
「逃がしはしないと言っただろう!
いや、逃げても構わん。
このゴーレムで周囲の村を破壊して、うさを晴らすのみよ」
僕達が逃げない事を分かった上で言っているのだろう。
逃げたら逃げたで、宣言通りに村々を破壊して回るに違いない。
「さあ、どうする?
フハハハハハ!」
もちろん、逃げだす訳にはいかない。
しかし、巨大な城を相手にどう戦えばいいのか。
城内に侵入して、フローズンを倒す手はどうか。
「マジックバリアンロッ……」
そう思ってアンロックの魔法を使おうとしたが、よく見ると城門があったはずの位置には壁しかなかった。
「中に入ってわたしを倒そうと思ったか。
しかしお見通しよ」
どうやらそんな事は織り込み済みだったようだ。
「フハハハハ!
ワインの味を抹茶なんぞに変えられた恨み、晴らしてくれよう」
抹茶は何にでも合うが、これは大ピンチだ。
「あんな大きな敵、どうしよう」
カエデもどうにもできず、立ち尽くしている。
「やれやれ」
落ち着いた表情で、ため息をついていたのは、ガレスさんだった。
「お前らは下がってろ」
大斧を担いで前に出る。
「俺がやる」
「い、いくらガレスさんだってあんな大きな敵は……」
「なら補助魔法でもかけてろ」
目前に城が迫っても、全くひるんでいない。
つくづくも勇者一行は伊達じゃない。
もはや止める事はできない。
なら僕にできるのは、ありったけの魔法で援護する事だけだ。
「ディフェンストレングス!」
防御力を高めると共に、腕力を高める魔法だ。
「エンハンスピードアップ!」
武器の威力を高めると共に、敏捷性を高める魔法だ。
「アンチエイジングッドラック!」
幸運の女神が微笑むと共に美容効果を与える魔法だ。
さらに幸運の女神の微笑みが、美容効果でパワーアップする、しりとりブーストが発生する。
ありったけの補助魔法をかけたが、この巨大な敵を相手に、どれほどの効果が望めるのかは分からない。
いよいよガレスさんの目前に巨大ゴーレムが迫る。
「血迷ったか。貴様から踏みつぶしてくれよう!」
ゴーレムの足がガレスさんを覆っていく。
と、思った時だった。
「城の一つも止められなきゃあなあ!」
ガレスさんの大きな声が響く。
そして、
ゴーレムの巨体が転倒する。
森に轟音が響き渡り、鳥達が飛び立って行く。
「『金城鉄壁』の名がすたるんだよ!」
土煙が晴れると、斧を振り上げたガレスさんがそこにいた。
巨大ゴーレムの踏みつぶしに押し勝ったのだ。
「す……すごい!」
何があってもひるまない、という「金城鉄壁」だが、これはユニークスキルだけによるものではないだろう。
ガレスさんの日々の鍛練の賜物だ。
さらに、
「おらあああ!」
跳躍したガレスさんは、一足飛びにゴーレムの頭部に大斧を叩き付けた。
その場所は城の玉座の間でもある。
粉砕されたその場所からヴァンパイアロード、フローズンが現れる。
「ば……馬鹿な!
あの巨大なゴーレムが人間一人に……」
立ち上がる事ができない。
どうやら腰を抜かしているようだ。
「日光浴の時間だぜ」
「し…しまっ……。
ギャアアアアアアアアアアアっ!」
日の光を浴びたフローズンは灰となって消え去った。
「あんな巨大な相手を一人でやっつけるなんて」
「お前の補助魔法も当て込んでの事だ。
この強さはマリスにもひけを取らねえかもな」
僕のステータスは魔力特化型。
そして、スキルパネルはしりとり魔法以外、全て「魔力アップ」だ。
役に立てたのはうれしい。
「お疲れ様です、二人とも。
そうだ!
これをどうぞ」
カエデが僕達に差し出したのはマドレーヌだった。
抹茶味の。
「頂くか」
「頂きます」
周囲の食べ物と飲み物を抹茶味に変える、マッチャの魔法。
もちろん、マドレーヌも例外ではない。
「いけるな」
「抹茶もおいしいと思うけどな」
「抹茶は何にでも合うからね」
こうして僕達の吸血鬼討伐は終わった。
その日の夕方には港町マイリスに辿り着いた。
「お疲れ様でした! みなさん!
さすがですな! はっはっはっはっは!」
冒険者ギルドでは、イネスさんが元気に出迎えてくれた。
「そして、おめでとうございます、リンクス殿! カエデ殿!」
「ん?」
何の話だろう。
「今回の冒険でお二人はBランク冒険者に昇格ですぞ!」
冒険者ギルドの名簿は特殊な魔法によって一部のステータスウィンドウと連動している。
その機能でイネスさんは僕達のランクを把握している。
ステータスウィンドウを確認する僕達。
「Bランク
ベテラン冒険者として名を馳せる存在
人々から頼りにされ、その期待に応える」
Bランクと言えば一般冒険者としては最高とも言える。
Aランクはガレスさん、マリスさん、ルナテラスさんのような別格の存在だ。
「すごい! 夢みたい!」
カエデもビックリしている。
「実際、お二人は相応の実力があると思いますぞ。
「ヴァンパイアロードまで倒されましたからな。
今後も宜しくお願いいたしますぞ!
最近、強力な魔物が増えてますし!
はっはっはっはっは!」
相変わらず、イネスさんは元気だ。
「俺もお前らは力を付けて来てると思うぜ」
と、ガレスさん
「特にリンクス、お前はユニークスキル以上の何かを感じるな」
「そうですか?」
「お前の使う魔法の中には、他では見ない魔法がある」
そう言えば以前、外務大臣のエーメさんに、古代魔法は希少とか言われたっけ。
「強力な魔物が増えてるからな。
俺も、お前の今後に期待させてもらうぜ」
こうして僕達はガレスさんの救援依頼を成功したのだった。
夕暮れの港町を歩く僕とカエデ。
「ウガちゃん。無事に帝都に着いたかな?」
やっぱりカエデはウガガウの事が気になるようだ。
「近い内に様子を見に行こうよ」
「賛成! お土産も何か買っていきましょ。
ウガちゃん、抹茶味好きかなあ」
「そのマドレーヌは悪くならない内に、って言うか今日中に食べてね」
僕は思わず釘を刺した。
ここで少しの間、帝都に向かったウガガウの話をしようと思う。
実は皇女だったバーサーカー少女。
バーサーカー令嬢の物語を。




